『純喫茶 磯辺』 (2008年 監督吉田恵輔)       仲里依紗×宮迫博之×麻生久美子 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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 『純喫茶 磯辺』(2008年 原作・監督・脚本・編集吉田恵輔)   

出演・仲里依紗、宮迫博之、麻生久美子、濱田マリ、近藤春菜、ミッキー・カーチス、斎藤洋介、和田聰宏、悠木碧、田島ゆみか、堀越のり、三島ゆたか他。

 

俳優が演技していると言うより日常の会話をそのまま撮影しているような臨場感を味わえるのが吉田恵輔作品の面白さで、生身の麻生久美子が「ヤリマンなんで」と平然と言ってしまうドッキリ感、そんなナマな感覚を味わえるのが吉田作品の魅力。オープニングのリアル過ぎる建築現場の朝礼。配管の仕事をしている磯辺裕次郎(宮迫博之)は父の急死で巨額の遺産(金額は不明)をもらい受け、女にモテたい一心で喫茶店を開業する。前妻・麦子(濱田マリ)とは8年前に別れ、今は公団で高校生の娘・咲子(仲里依紗)と父娘の二人暮らし。焼香にやって来た麦子と3人で店で食事をしようとするが、そこでも些細な事で言い諍いになってしまう。女にモテたいという下心が見え見えで、飲食の経験もない父に咲子は「お父さんには絶対無理」とやめさせようとするが、裕次郎は聞く耳を持たない。ある日咲子が学校から帰ると店の名前は<純喫茶 磯辺>に決まり内装工事も始まっていた。レジにはチンチラがかけられ、スタンドはヒョウ柄、ゲーム機が置かれミラーボールがキラキラ輝く、咲子にとって信じられないダサイ内装。開店しても店は開店休業状態。アルバイトで使っていた江頭(えがしら)(近藤春菜)を首にして美人の素子(もっこ)(麻生久美子)をアルバイトで雇いミニスカートの制服を着せると、もっこ目当ての客で店は大賑わい。<純喫茶 磯辺>には得体の知れないさまざまな客が出入りするようになって・・・。内心では父と母の再婚を願う咲子と、もっこにぞっこんで周りが見えなくなっている父。自分のことは棚に上げ、咲子と仲良くなった客・安田(和田聰宏)をこき下ろす。「あの野郎は一日何回水をお代わりすれば気が済むんだ」「別にいいじゃん。たとえコーヒー一杯でもお客様は大事にしないと」「そりゃそうなんだけどさ。何だかな生理的にだめなんだよ」「何言ってんの。あの人凄いんだよ。小説家の先生なんだって」「小説家?ほんとかよ。お前気をつけろよ。あいつ絶対ロリコンだぞ」「ハ。頭おかしいんじゃないの」「あいつは絶対にロリコンのクソ野郎だよ」「何言ってんの。死んでよ」「やだ」。仕事が終わり居酒屋で飲んでいる裕次郎ともっこ。「私の事知ったら絶対引きますよ。私ってマスターが思っているほどいい女じゃないですから」「もっこはいい女だと思うよ」。トイレに行く裕次郎。パジャマ姿の咲子が店に入って来て、もっこに「あのさ」「え、何」「あ、お父さんとさ何んかあんまりいい関係にならないで欲しいんだ」「え、いい関係って。別に何もないよ。私なんてお父さんからしたら全然子供だし」「うっせえよ。彼が殴る気持ちよく分かる。もっこさんて人の気持ち全然分かんないでしょ」。トイレから戻ってくる裕次郎。「あのさ、もっこはやっぱりいい女だと思うよ」「「私なんか最低ですよ」「え。え。何が最低か教えて」「お客で小沢さんているじゃないですか」「ああ、セクハラばかり仕掛けてくる変態オヤジ」「あの人とやっちゃいました。やっちゃったんです」「え」「やっぱ引いてますね」「いや、そんな深い関係とは知らなかったから」「ヤリマンなんで。誘われると何となく断れないと言うか、ダメだと思ってるんだけど。え、だから聞いたら引くって言ったじゃないですか」「いや、引いてはいないよ」。もっこから衝撃の告白を聞いて蒼褪める裕次郎。数日後、店にやって来た小沢(ダンカン)と大喧嘩になり警察のパトカーで連行される父。店をやめ故郷の北海道に帰るというもっこから父あての手紙を受け取る咲子。一年後、パチンコ屋から出てくるもっこを見かけ、今は廃業した<純喫茶 磯辺>の前を通りかかり、あの頃の思い出に涙ぐむ咲子。年頃の娘と父の微妙な関係、店に来た小説家へのほのかな憧れ。母との会話で知るちょっぴり複雑な大人の世界。溝口や小津の深さはないが心にキュンとくる吉田恵輔のハートフルコメディの傑作。(☆☆☆☆☆)(☆5が満点)                                 開店記念写真をパシャリ   こんなとこで何やってんの    母の勤めるスナックで   もっこはいい女だと思うよ   クラスメートが店にやって来た       うっせえよ