『PERFECT DAYS』『さよなら渓谷』『歓待』他、5月の映画鑑賞記録2024 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

5月に観た映画の簡単な感想です。作品から連想された言葉

印象に残った台詞などを備忘録として書き記しています。

作品評価に明確な基準はなく、皆様の評価と違う際はご容赦下さい。5つが満点 ☆は0.5点

 

 

『昭和侠客伝』1963年

監督 石井輝男

 

昭和初期の浅草を舞台にした石井輝男の任侠映画。

石井監督はあまり乗り気ではなかったようだが、会社の上層部に押し切られた模様。新東宝時代に作られた『女王蜂と大学の竜』(1960年)や日活(ダイニチ配給)で撮った『怪談昇り竜』(1970年)を連想させるような奇妙な味わいを持つ『任侠映画』。組長(嵐寛寿郎)の名前が『女王蜂と大学の竜』と同じ

桜千之助(この時もアラカンさんが組長を演じている)

音楽は菊池俊輔だが、『怪談昇り竜』(音楽・鏑木創)と同じようなメロディーと演奏楽器が使われている。アラカンさんの組の代貸が関山耕司、叔父貴が三井弘次というのも珍しい組み合わせ。序盤の遊郭シーンの木村俊恵(『仁義なき戦い』シリーズで金子信雄の女房役)や終盤の梅宮辰夫の姉(丘さとみ)との鶴田浩二のやり取りに石井監督らしさがにじみ出ていた。★★★★☆

 

 

 

『聖獣学園』1974年

監督 鈴木則文

 

修道院の副修道士だった母の不可解な死の真相を探るため『セントクルス修道院』に入った多岐川魔矢(多岐川裕美)。

そこは院長の小笠原綾(森秋子)副院長・松村貞子(三原葉子)の手先となって奉仕する修道女たちによって支配されていた。

魔矢は副院長に反抗的な石田松子(山内えみこ)に助けられ、

真相解明に乗り出すが・・・

 

多岐川裕美のデビュー作で、彼女の誕生日である2月16日に公開されたが記録的な不入りだったようだ。(併映 『学生(セイガク)やくざ』(渡瀬恒彦主演)。その後、多岐川裕美の大河ドラマ出演などによる人気、知名度アップによりこの作品が注目をあび、欧米ではカルト的な人気を呼んでいる(Wikipedia)。

 

長崎で被爆した過去を持つ柿沼司祭(渡辺文雄)が神の不在を呪詛する。

「愛か、そんなものは幻想だ」

「ではあなたは何を支えに今日まで」

「神を、神を待っているのだ。あの地獄の中でも私は現れることなき神を待ち続けた。あのアウシュビッツでも神はお救いにならなかった。ひたすら救いを求める人間の前に神は一度でも姿を現したことがあるか」

 

センセーショナルなキワモノ映画のようにとらえる向きもあるが、その中に鈴木則文監督らしさを強く感じる作品だった

★★★★★

 

 

 

『ドグラ・マグラ』1988年

監督 松本俊夫

原作 夢野久作

 

殺人を犯し記憶喪失におちいった青年・呉一郎(松田洋治)は、精神科医・若林(室田日出男)のもとで治療を受けていた。

若林の言によると正木敬之(桂枝雀)という博士が呉の担当だったが、治療の途中死亡したという。呉は正木の残した論文に目を通すが、気がついたとき、死んだはずの正木博士が現れる・・・

(allcinema)

 

ドグラ・マグラとは、切支丹バテレンの呪術をさす長崎地方の方言「戸惑う、面食らう、堂々巡り、目くらみ」がなまったものと言われている。魔術、幻術。

 

原作は未読も夢野久作の作品は過去に何作かは読んでいてとても面白かった。脚本を書いている大和屋竺も松本俊夫も好きな監督(脚本家)だが、この作品に関してはキャスティング(特に呉一郎を演じた松田洋治)を含めやや期待外れだった。

 

勝手な想像だが、脚本・田中陽造、監督・田中登で映画化されていたならもっと魅力的な作品が出来上がっていたように思えた★★★★

 

 

 

『修羅の伝説』1992年

監督 和泉聖治

原作 勝目梓(『掟の伝説』(徳間書店刊)

 

とある地方都市(新潟らしい)・砂泊に小さなシマ(縄張り)を持つ笠部組若頭・大滝(小林旭)はある日、正体不明の鉄砲玉(本田博太郎)に組長(三木のり平)を襲われる。そんな情況を陰で見守るマル暴刑事・桐野(平幹二朗)。桐野の情報で襲撃を仕掛けたのが関西系の小田一家(室田日出男)だと知る。その裏には政界がらみの巨大な陰謀が・・・(Wikipedia)

 

小林旭の組の組長が三木のり平というのには戸惑った。その妻が香山美子、配下の組員に鹿内孝、内藤剛志、清水健太郎、白竜、坂上忍、対立する組の背後にいるのが内田朝雄、その妻に奈美悦子。ほかに陣内孝則、ジョニー大倉、綿引勝彦、岩尾正隆、西岡徳馬、夏八木勲、秋野暢子、ルビー・モレノ、ビートたけしなどそうそうたる面々が出演している。製作俊藤浩滋、脚本黒田義之(大映で特撮監督多数)

 

暴力系・実録系映画のあらゆる要素をつめこみ、小林旭をいかにカッコ良く魅力的に見せるかを作品のモチーフ(テーマ)にして作られたような作品でその意味では成功していると言えそうだ。★★★★

 

 

 

『ひみつの花園』1997年

監督 矢口史靖

 

鈴木咲子(西田尚美)は子供の頃からお金が大好きで、短大を卒業後地元の銀行に就職。ある日銀行強盗に襲撃され咲子は襲撃犯の車に乗せられたまま車は青木ヶ原付近の崖から転落炎上、

スーツケースに入った5億円は渓流付近の水の底に沈んだ。

一命をとりとめた咲子はケガから回復すると5億円を手に入れるためあらゆる手段を講じることを決意、大学に入り地質学を学び、運転免許を取得、ランジェリーパブで稼ぎ、ロッククライミング、スキューバダイビングでも才能発揮、いよいよ5億円が眠る青木ヶ原樹海の谷底に向かうが・・・

 

深津絵里と久本雅美を足して2で割ったような主人公が最後まで誰だか分からず、エンディングのキャストタイトルでようやく西田尚美と判明した。ジェットコースター的な話の流れは矢口史靖得意の手法で、前作の『裸足のピクニック』も同じような印象だった。映画を娯楽と割り切って観客をいかに楽しませるかを重視するこの監督の映画観は見事にふっ切れている。

★★★★★

 

 

 

『冷たい熱帯魚』2010年

監督 園子温

 

静岡県のある町で小さな熱帯魚店を経営する社本信行(吹越満)は、娘の美津子(梶原ひかり)が万引きで捕まったという知らせを受け、妻の妙子(神楽坂恵)と一緒にスーパーへ向かった。

店長(芦原誠)は怒りをあらわにしていたが、たまたま居合わせた店長の知り合い村田幸雄(でんでん)の取りなしで、その場は何とか収めることが出来、村田の誘いで村田が経営している熱帯魚店に向かう。村田の店は水族館のような巨大なものだった。

 

娘の美津子が村田の熱帯魚店に住み込みで働くことになり、何かと村田の世話になる事になった社本は<高級熱帯魚の繁殖>に投資した吉田(諏訪太朗)の毒殺現場に居合わせ、後戻りできない状況に追い込まれる。

 

1983年に起きた『埼玉愛犬家殺人事件』が作品のベースにな

っている。村田幸雄を演じているでんでんの、親切で人のいい、朗らかなオジサンから、有無を言わせぬ暴力的な人物への豹変ぶりは今観ても強烈な印象だ。終始村田の言いなりだった社本の、或るきっかけからの逆襲はやや唐突にも感じられるが、『自殺サークル』『紀子の食卓』『愛のむきだし』等々の作品を観ている映画ファンにはこれが園子温と感じられたかもしれない。

 

のちのインタビューで園子温は次のように語っている。

「もし再編集することが可能なら、でんでん演じる男が吹越満演じる男に刺し殺され、黒沢あすかが笑っているくだりでエンドロールという形にしたい」(Wikipedia)

 

「人間をどうやって透明にするのか、それさえ押さえておけば

最強になれるんだよ」(村田)

★★★★

 

 

 

『歓待』2010年

監督 深田晃司

 

下町(墨田区)で小さな印刷業を営む小林幹夫(山内健司)は、ある日、旧知の加川花太郎(古舘寛治)の訪問を受ける。

小林の家で飼っていたコザクラインコが逃げ出し、娘のエリコ(オノエリコ)と離婚で出戻った姉の清子(兵藤公美)が町内の掲示板に貼った「インコ探しています」の張り紙を見て来たという。その時、職工で雇っていた山口(永井秀樹)が急に倒れ、

花太郎は小林にあれこれと指示を出した。

 

検査入院した山口の具合が思わしくなく、花太郎は小林に自分を住み込みで雇って貰えないかと頼み込む。妻の夏希(杉野希妃)に相談し、山口がいないこともあり花太郎を雇うことに決める。

それから数日、家に見知らぬ外人の女性が上がり込み、花太郎は一週間の休暇を小林に願い出る・・・

 

旧知の侵入者によってそれまでの平和な家族生活が徐々に崩壊していくというモチーフはその後の『淵に立つ』にも通じるテーマのように感じる。『歓待』は『淵に立つ』のような深刻な出来事が起きるわけではなく、どちらかと言えばコメディにゆるいサスペンスが混在したような作品になっていて、話が進むに連れそれぞれの嘘や隠し事が露わにされていく面白さがある。家族の問題と共に不法残留者の存在にも問題意識が向けられている点も<現代社会>に起きている様々な事象に目を向ける深田晃司らしい視点が感じられた。独特の演技理論を持つ古舘寛治の唯一無二の演技や初めて見る山内健司、谷村美月を彷彿とさせる杉野希妃(『ほとりの朔子』でファンになった)もこの作品の魅力。

★★★★★

 

 

 

『さよなら渓谷』2013年

監督 大森立嗣

原作 吉田修一

 

尾崎俊介(大西信満)はかつて和東大学のエースとして将来を嘱望される選手だったが、夏休みのある夜、仲間四人と一人の女子高校生を集団レイプし大学を中退した。大学の先輩の紹介で証券会社に入社し、仕事も順調にこなし先輩の妹と婚約も決まっていたある日、尾崎は突然失踪し行方不明になった。

 

尾崎は今、かなこ(真木よう子)という女と渓流が流れる田舎町で暮らしていた。そんなある日、隣家に住む女が幼い息子殺しの容疑者として逮捕される。この事件を取材に来ていた週刊誌記者渡辺一彦(大森南朋)はたまたま通りかかった尾崎の挙動に不審なものを感じ、部下の小林(鈴木杏)と尾崎の過去を調べることにするが・・・

 

重いテーマの作品で再見するのを躊躇したが、真木よう子に再会したい気持ちがまさって鑑賞することに。この作品に限らず男女間の心理や心理の変化は深い闇のようで測りがたい。(最近も世間に警鐘となる事件が発生した)

 

大森監督が導き出した結論も余人にはまた測りがたく、

若気の過ちでは済まされない与えてしまった心の傷の深さ。

 

「私たちみたいなスポーツだけしかやってこなかった人間は

やめると何にもなくなっちゃいますよね」(渡辺)

★★★★★

 

 

 

『わたしは光をにぎっている』2019年

監督 中川龍太郎

 

幼い頃に両親を亡くし、長野県の野尻湖湖畔で祖母(樫山文江)が営む民宿の手伝いをしていたニ十歳の宮川澪(松本穂香)は、祖母の体調が悪くなり病院に入院したことをきっかけに父の知り合いで東京の立石で銭湯を経営する三沢(光石研)のもとで当面の仕事が決まるまで厄介になることになった。

 

スーパーのアルバイトの面接に行き、2週間は見習い待遇で採用されることに決まった。人とコミュニケーションを取ることが苦手の澪はお客の質問にも上手く答えることが出来ずオロオロするばかり。高校生の女子アルバイト・上野に助けてもらい何とか乗り切るが、帰りの道で感謝の言葉を伝えても冷たく突き放されてしまう。

 

スーパーの仕事が自分には向かないと感じた澪はすぐに辞め

一人で銭湯の仕事をこなしている三沢を見よう見まねで手伝い始めるが・・・

 

~ 未来の象徴になる再開発へ~ TOKYO FUTURE!!

のポスターが貼られ、再開発が進む立石の街を舞台に、田舎から東京へ出てきた若い娘の戸惑い、悩み、都会人への違和感、出会い、異民族人たち(エチオピア人コミュニティ)との触れ合い等々が中川龍太郎監督らしい説明を極力排した映像の力で観るものを引き込んでゆく。

銭湯のおやじに扮した光石研の深みのある演技も見どころ。

 

『自分は光をにぎっている』山村暮鳥詩集『梢の巣にて』収録

 

 自分は光をにぎっている

 いまもいまとてにぎっている

 ̪而(しか)もおりおりは考える

 此の掌をあけてみたら

 からっぽではあるまいか

 からっぽであったらどうしよう

 けれど自分はにぎっている

 いよいよしっかり握るのだ

 あんな烈しい暴風(あらし)の中で

 掴んだひかりだ

 はなすものか

 どんなことがあっても

 おゝ石になれ、拳

 此の生きるくるしみ

 くるしければくるしいほど

 自分は光をにぎりしめる

 

「やりたいことをやるんじゃなくて やれることをやるもんなの

 仕事って」(三沢)

★★★★★

 

 

 

 

 

『PERFECT DAYS』2023年

監督 ヴィム・ヴェンダース

 

東京渋谷区にある公園の公衆トイレの清掃員をしている平山(役所広司)はスカイツリーが見える押上の古いアパートに住み、毎朝、道路を掃く老婦人の竹箒の音で目覚める。歯を磨き、植物に水をやり、アパートの横にある自動販売機で缶コーヒーを買い、清掃用具が積み込まれた車に乗りこむ。現場に向かうまで車の中でカセットテープのお気に入りの曲をその日の気分で聴いている。

 

夕方前には仕事が終わり、近所の銭湯で一番風呂に入りなじみの常連さんと無言の挨拶を交わし、自転車で浅草の地下にある飲み屋でいつもの酒と肴で腹と心を満たす。アパートに帰り眠くなるまでスタンドの灯で読書をする。眠くなったところで眠り、また次の朝がやって来る。休日はコインランドリーでまとめて洗濯し、写真屋に行って仕事の休憩時間に撮った公園の木を現像に出し、ついでに古本屋に寄って興味がわいた本を一冊買う。

休日の締めに行く場所は数年前から通っている歌の上手い素敵なママさん(石川さゆり)がいるスナック。

 

平山の一週間はこんな風に過ぎ、また次の一週間がやって来る。そんな休日のある夜、鎌倉に住んでいる妹・ケイコ(麻生祐未)の娘・ニコ(中野有紗)がアパートの階段に腰かけて平山を待っていた・・・

 

「もともと、国際的に著名な建築家やクリエーターが渋谷区の公共トイレを誰もが快適に使用できるかたちでリデザインするというプロジェクト「THE TOKYO TOILET」をきっかけとして始まった企画で、役所(広司)はトイレを清掃する男という設定だけで出演を引き受けたが、後にヴェンダース監督が決まり、当初短編の予定だったが、企画が長編へと発展」したそうだ。(キネマ旬報参照)

 

「この世界は本当にたくさんの世界がある。つながっているように見えても、つながっていない世界がある。僕のいる世界はニコのママのいる世界とは違う」(平山)

 

「幸田文はもっと評価されなくちゃだめよねぇ』(古本屋店主)

 

「分からないことだらけだなぁ。結局、何も分からないまま終わっちゃうんだなあ」(スナックのママの元亭主・友山)

 

 

ヴェンダースが撮った『東京物語』はシンプルで温かくラストは希望に溢れているように見える。(現実はともかくとして)

 

この十年で観た新作映画の中で一番面白かった。

 

平山のように生きれたらいい。

 

本と音楽と木と最小限の人間関係があれば人は生きて行けそうだ。

★★★★★

 

 

ニーナ・シモン 『Feeling Good』(ラストに流れる曲)