さて、プログラムは次の通りだ。
(前半)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2「月光」
(後半)
グリーグ :抒情小品集 より
「祖国の歌」 Op.12-8
「子守歌」Op.38-1
「蝶々」 Op.43-1
「エレジー」 Op.38-6
「メロディー」Op.38-3
「小鳥」 Op.43-4
「小川」 Op.62-4
「郷愁」 Op.57-6
「即興的ワルツ」 Op.47-1
「おばあさんのメヌエット」 Op.68-2
「過ぎ去った日々」 Op.57-1
「夏の夕べ」 Op.71-2
「スケルツォ」 Op.54-5
「孤独なさすらい人」 Op.43-2
「ノクターン」 Op.54-4
「小妖精」 Op.71-3
(アンコール)
グリーグ:民俗生活の情景-ピアノのためのユモレスク 謝肉祭より Op.19-3
モシュコフスキ :名人芸の練習曲(15の練習曲) 第6番 Op.72-6 ヘ長調
ショパン:ノクターン 第20番 遺作
本当に素晴らしかった。ベートーヴェンはスケールの大きな演奏というより、優しい音色でピアノソナタの深遠な世界をそっと描いていく。悲愴ソナタは、湖畔に立つ貴族の館の図書室で、古い哀愁ある物語にふけるような情感。その館から出て、湖へと出ると月が照らしている。小舟で湖を揺蕩うと、月光が湖面に煌めき(月光ソナタ第1楽章)、ふと過去の楽しい思い出を思い出す(月光ソナタ第2楽章)。そうしたらざっと夜雨が降ってきた(月光ソナタ第3楽章)。そんなストーリーを(勝手に)想起した。
そして、後半のグリーグがとにかく絶品。こんな美しいピアニッシモがあるのだろうか。曲想の異なる様々なテイストの小曲を奏で、聴衆を抒情的で幻想的な世界へといざなう。「小川」では思わず、「わぉ」と声が出そうになった。とにかく、レガートが極上。シルクの上を真珠が転がるような美しさ。もはや鍵盤楽器ではなく弦楽器のようになめらか。それがアンコールのモシュコフスキのエチュードでも存分に活かされていた。とにかく、言葉を失うほど美しい。ラストはショパンのノクターン20番だが、こちらも儚い弱音の美と、トリルの妙技が凄い。ピアノの音色の魔術師であり、紡がれる音色の音響世界へいざなう魔導士だ。
これがプレトニョフが到達したピアニズムの高みなのか。恐れ入る。







