![]() | 反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書) 1,404円 Amazon |
1年ぐらい前ぐらいに話題になっていた森本あんり(ICU副学長の)本。「反知性主義」というのは、知性への反発だとか理性の軽視などと誤解ないし曲解されるが、この言葉はR.ホフスタッターの著書に由来し、もともとの”Anti-intellectualism”は異なった概念だという。反知性主義というのは知性が権力と結びつくことへの反発なのだ。正直、そこまで期待して読んだわけではないが、反知性主義の概略や、アメリカのキリスト教の発展を垣間見ることができて、非常に勉強になった。面白いエピソードや映画の話も交えた文章は非常に面白く読み物としてもよくできている。アメリカに興味があるのであれば、強くお勧めする一冊だ。
◆反知性主義の端緒とは?
もともと米国に入植したピューリタンは知性レベルが高く、早々に高等教育機関であるハーバード大が牧師養成のために創立されたのも、知性レベルの高さゆえだという。ハーバードは教理的に退廃したとして、イェールが創立され、イェール大も英国国教会に毒されたとして反発してプリンストン大が創立される。その後、人口は増えていくが、当時の米国ではクリスチャンでなければ投票権がなく、半人前の扱いだった。多くの人は教会に行ったが、エリートの牧師の話は小難しくて、おまけに説教は長く、最長で9時間だったという悲惨な記録も残っているという。成人後に回心し洗礼を受ける人ならいいが、生まれながらにクリスチャンの人は、とりあえず教会にいって理解不能な牧師の話を聞くものの、回心の経験がない。そこで、回心し真のクリスチャンとして一人前になることへの欲求が蓄積していく。これが内的な要因である。外的な要因としては印刷技術の発達があげられる。メディアが確立しつつあったのだ。そうした状況の中で、ホイットフィールドは分かりやすい言葉で、メディアを駆使し、神の言葉を市民に教授したのだ。多くの人々の求めていた説教をする彼が人気が出ないわけがない。彼のような平坦な言葉で無学な者にも分かる説教をして歩く、巡回説教師が当時活躍し始める。多くの人々にとって、彼らの話は、ハーバードやイェールを卒業した牧師の小難しくて無意味に長い話に比較して、抜群に面白い。高慢な知性よりも謙虚な無知を尊ぶキリスト教の感覚からすれば、神の真理がインテリにしかわからないようでは困るわけで、そこで人工的に構築された神学ではなく聖書の言葉に帰ろうという運動が起きるのだ。これこそが反知性主義の端緒である。反知性主義とは、知性の否定ではなく、知性というヘゲモニーに対する霊性の異議申し立てなのだ。
◆19世紀の反知性主義
19世紀になると米国は国土を拡張していくことになる。ここで活躍するのがメソジスト派である。メソジスト派は中央集権的な組織を持ち、牧師を各地に派遣した。嵐の中外にいるのはカラスかメソジストの牧師ぐらいだ、などといわれるほど巡回して歩いたそうだ。バプテスト派も開拓民の中で支持を集めていく。こうした反知性主義の運動は、政治への影響も出てくる。荒くれ者のジャクソンと、名門出身のアダムスの政争では結局、荒くれ者のジャクソンが勝ち大統領となった。この構図は2016年の暴言のトランプと、インテリのヒラリーの対立まで引き継がれている。おバカな息子ブッシュが大統領になれたのも反知性主義の根深さを物語る。その頃、教会はというと、成功したビジネスマンが牧師になり、ビジネス性とも結びつき、ドタバタ劇や音楽も加えて世俗化・大衆化し、大規模化していく;これが米国のメガチャーチの起源だ。
◆20世紀、反知性主義の完成
20世紀初頭に反知性主義を完成させたのは野球選手でもあったビリーである。彼は出自も貧しく、学もなかった。しかし、彼は圧倒的な人気を得て、ついには牧師の資格も取得する。長老派の牧師の口頭試問では、彼は何も答えられないが、多くの者を回心に導いたと試験官が折れて、彼に牧師の資格を与えたのだ。彼の説教は大人気だったが、莫大な献金を得て豪奢な暮らしをする彼は、牧師というよりもはやショービジネスマンの様相を呈していたらしい。下層階級の出自ながら、ウィルソン大統領とホワイトハウス写真で撮るまで出世した彼は、アメリカンドリームを体現する牧師となるのだ。彼をもって反知性主義は完成するのだという。
正直、アメリカの植民地から反知性主義の完成までを著した本としては名著に違いない。ただ、本はあくまで反知性主義の完成までしか描いておらず、その後の米国のキリスト教の歴史も読んでみたい。ぜひとも続編を出してほしいものだ。










