国立新美術館の安藤忠雄展に行ってきた。実のところ、私は建築家になりたかったので(理系が苦手で文系に進んだが)、安藤忠雄さんの展示会ということで楽しみにしていた。安藤忠雄さんはコンクリート打ちっぱなしの斬新な建築、従来の建築概念にとらわれない建築で注目されてきた。彼が稀有なのは、専門的な建築の教育を受けていない点である。工業高校卒で、プロボクサーライセンスを取得し、世界を放浪していたという異色の経歴である -- だからこそ、彼は既成概念に束縛されず自由なセンスで設計してこれたのだ。独学で建築士の免許を取得したのである。ちなみに、彼は高卒として史上初の東大教授・同大名誉教授になっている。
展示会で最初に展示されているのは彼の世界放浪のマップである。建築とは実際に観て、感じてみないと分からないだろうと思い彼は旅立ったという。それは彼の建築に活かされていると思う。彼の建築は一見するとコンクリートで出来ており、単純な構成である。しかし、そこに踏み入れた瞬間の静謐な雰囲気というのは実際に行ってみないと分からない。こうした建築体験を重視する彼の建築は、実体験によるものだろう。
次の写真は今回の展示会にあわせて実寸大で再現された「光の教会」のレプリカである(本物は「茨木春日丘教会」である)。写真でみるとなんとことなく、綺麗だなという感じかもしれないが、実際にこの建築に入った瞬間に飛び込んでくる大きな光の十字架には、みな思わず感嘆の声が漏れる。また打ちっぱなしのコンクリートがプロテスタント的な禁欲性とも相性が良い。実際の教会では十字架にガラスがはめこまれているが、こちらのレプリカでははめ込まれていない。しかし、安藤はガラスははめこむのには反対だったという。半屋外の教会なんて珍しいからいいじゃないかと思ったらしいが、教会側が夏は暑いし冬は寒いのでやめてくれというのでガラスを埋め込んだという。無機質なコンクリートと、自然光から醸し出される神秘的な空間表現はさすがである。
彼のコンクリート打ちっぱなしの建築には正直批判がないわけではない。遮熱性には乏しいし、コンクリートのひび割れの問題もあるし、彼の建築は生活導線が良くない。しかし、彼はそんなことは百も承知のようである。展示会で最初に展示されている「住吉の長屋」は、中庭が野外になっており、二階に行くには一度、外に出ないといけない。雨の日は傘をささないと上下階への移動が出来ないという不便なものである。しかし、機能性や室内の連続性はそこまで重要なのか?というのが彼の疑問である。不便ではあるが、その家の主はもう40年住み続けているという。部屋の移動に中庭を通らなければならないが、だからこそ四季の移ろいや天候を感じ取ることができるというものである。不便だからこそ「生」を感じるということもあるのではないか。利便性の喪失と引き換えに得られるものもあるのである。
これは直島のインスタレーションである。直島は瀬戸内海に浮かぶ香川県の島である。本当にただの田舎の島であるが、今では35万人が訪れている。安藤忠雄建築だけではなく、草間弥生などのアートも堪能できる。
安藤忠雄は、日本はもとより海外での評価が高い。海外で手掛ける建築も多く、最近は中国からの依頼が多いという。日本を代表する世界的な建築家の安藤忠雄氏の展示会、教養としても訪問をおすすめする。ちなみに、開催されている国立新美術館は黒川記章の設計であるが、こちらも必見。
※写真は全て撮影許可あり。