• ルーシー・ダイヤモンド魔法師団長の肩書きに関する一考察


 一部で相応に有名である「片田舎のおっさん、剣聖になる」は、所謂「ライトノベル(*1)」が原作に在り、漫画化もされ、何れも相応に売れた様で、今度はアニメ化されて、2025.1から放映されるそうだ。

 その登場人物の一人が、ルーシー・ダイヤモンド魔法師団長(兼 魔術師学院長)。見た目は10歳ぐらいの、それはもう絵に描いた様な美少女兼こまっしゃくれたガキなのだが、「大陸随一の大魔術師」で在り、その魔術でこの見た目になっているのであり、実年齢は「誰も知らない」って・・・まあ、一言で言えば「化け物」だな。

 それだけの大人物というか重要人物というか危険人物であるから、作中の主な舞台たるレベリス王国でも国家的重要人物で在り、レベリス王国内で魔術師の育成強化に努める魔術師学院と、その魔術師で編成され、レベリオ騎士団と双璧を為す「レベリス王国の大兵力」たる魔法師団の、両方を統括する地位にある。

 よって、ルーシー・ダイヤモンド・・・「嬢」というと怒られそうだから「女史」としておこう・・・の肩書きは、「魔法師団長」兼「魔術学院長」である。

 さて、この肩書きを見て、こんな疑問は沸かないだろうか.「魔法師団長」とは、「団長」なのか?「師団長」なのか?と。

 実は原作の小説では、しばしば「団長」表記/呼ばわりされており、「団長」が正しい、様にも思えるのだが・・・私(ZERO)はこれに異を唱えたい。
 
 即ち、ルーシー・ダイヤモンド師団長と呼ぶのが、正しい、と。
 

<注記>

(*1) と書いたが、何を持って「ライトノベル」というのか、私(ZERO)は良く判っていない。「小説家になろう」ってHPをプラットフォームに公開された作品だから、「ライトノベル」に分類される、様ではあるが・・・「公開のされ方で、小説を分類する」ってのが、私(ZERO)には全くピンと来ない。電子書籍専用だろうが、ウェブで無料公開だろうが、立派な全集としてハードカバーの大判本として発刊されようが、小説は、小説。見た目や値段が変わろうが、その価値・本質は、作品その物で在り、テキストベースである。

 従って、小説とライトノベルの間に「本質的な差違」は、無い、としか思えん。

 出版社の推敲選別を経ていないから、「ライトノベルの方が、出版社が書籍として刊行する小説よりも、品質的なバラツキが大きい」って可能性は、一応考えられるが・・・「出版社の推敲選別」で「作品のレベルが上がる」可能性こそ認めるモノの、「そんなの、誤差の範囲なんじゃ無いの?」と、出版にも推敲にも「素人」である私(ZERO)は思ってしまうぞ。 


 

  • (1)魔法と魔術の関係

 「団長か?師団長か?」との議論の前提として、この世界に於ける「魔法」と「魔術」の関係を抑えねばなるまい.これは、小説でも漫画版でもルーシー「師団長」が自ら「講義」している。

 ルーシー「師団長」に依れば、この世界には広く遍く「魔法」が存在している。自然現象の様なモノもあれば、魔物でも魔法を使うモノはあるという。原作で言うと、ネームドモンスター・ゼノグレイブルの「熱の鎧」なんてのが、それだろう。何しろ、迫り来る刀剣を体表を覆う灼熱の壁で溶断・融解させてしい、その身に傷を付けさせないというのだから、その熱源=エネルギー供給源(*1)共々「魔法」でないと説明がつかない。
 その、世界中に遍くある「魔法」のウチ、人間がその理論・術理を(ある程度)解明し、「人が使える様になった(ある意味「飼い慣らした」)魔法」が「魔術」。故に、この世界、少なくともレベリス王国では「魔法を使える人間」を「魔術師」と呼び「魔法使い」とは呼ばない。


 「魔術」は「魔法」の一部で在り、人間が扱える部分のみを指す。

 故に「魔法」には「魔術としては未知の領域で在り、開拓領域・フロンティアである」部分も含むし、中には「遂に魔術として解明されず、未知の魔法のまま終わる」部分も、あるだろう。

<注記>

(*1) 普通の動物の様に、草や肉喰って、呼吸して「燃焼させる」ぐらいじゃぁ、熱量的にとても追いつかない。原子炉か核融合炉か正反物質による対消滅ぐらいは、必要になりそうだ。 


 

  • (2)「魔法師」という言葉は、在りそうに無い。

 であるならば、少なくともレベリス王国では、「魔法師」という言葉は使われ無さそうだし、「魔法師」と呼ばれる人も居そうに無い。従って、「魔法師の集団」という意味での「魔法師・団」=「魔法師団」と言う言葉も、一寸在りそうに無い。

 無論、言語というモノは、数学ほどには厳密ではない。「魔法師」と言う言葉が無い、乃至使われなくなった後も、「魔法師の集団」という「原義」を持つ「魔法師団」という呼称・名称が残る、事はあり得る。
 軍隊が馬に騎乗しなくなって久しいのに、「騎兵」乃至「軽騎兵」を名乗る部隊は現代にもある。ドイツに於ける「擲弾兵」やソ連・ロシアに於ける「狙撃兵」も「原義」とはかけ離れても慣用的に用いられている。

 とは言え、普通に考えれば、現代(*1)レベリス王国」に於いて、「魔法師」なる言葉が奇異であることには変わりは無く、そうであれば、やはり「魔法師団」は「師団」であり、「魔法師団長」たるルーシー・ダイヤモンド「女史」の肩書きは「師団長」であろう、と考えるのが、「妥当な推論」であろう。

 故に、前掲の小説「片田舎の衛兵隊長、剣術道場師範となる」に於いても私(ZERO)は、ルーシー・ダイヤモンド「女史」を「師団長」と呼称・表記し、「師団長閣下」とも呼称・表記した。

 

 

 

 原作の小説では「団長」と表記されているにも関わらず、だ。

 まあ、「団長」よりも「師団長」の方が、一般的に「強い」ってイメージを、私(ZERO)が抱いている、ってのも、背景にはあるけどね。

 無論、ルーシー・ダイヤモンド魔法師団長を、「師団長」であると断定断言すると、生起する問題も、ある。

 一つには「師団」ってのが、少なくともとこちらの世界では「最小限の戦略的単位」とも定義され、一声「一万人の人員を有する」のが通り相場であることだ。「あっちの世界」のレベリス王国の人口がどの程度かは不明であるが、ザッと見たところ中世程度の技術レベル(*2)であるのに、「人間として魔術が使える魔術師」ばかり集めて「師団」を編成できるかには、大いに疑義の余地が在る。
 そりゃぁ「魔術師の顕現率」にも依る、だろうが・・・仮に探知率も含めて全人口の1%が「魔術師として見出される」としても、全人口が百万人居ないと「一個師団の定数1万人の魔術師」は集められない。

 「全人口の1%を”魔術師である”と言うだけで"魔法師団"に動員できるか」ってのも、結構な問題で、こっちの「動員できるか」問題は(探知率を含めた)「魔術師の顕現率」が低いほど緩和される。

 「魔術師の数が多過ぎて、魔術師学院や魔法師団への編入者が多く、国の財政も経済も火の車」って状態では無い様なので(*3)「魔術師の顕現率」は1%よりは相当に低そうではある。

 「将来は規模を拡大し、立派な師団にするぜぇ!」って意図と意気を込めての「師団」って線も、考えられなくは無いが。

 或いは、「武田騎馬軍団」の様な、掛け声というか、キャッチフレーズというか、宣伝・喧伝の意味を込めての「師団」という可能性もあるか。 
 

<注記>

(*1) 本作品の主な舞台となっている時代、という意味での「現代」。 

 

(*2) ファンタジー世界」の定番ではあるが。移動手段は通常は馬と馬車で、自動車や鉄道や航空機は無さそうだ。

 但し、「魔法・魔術」という「超技術」があることには、留意が必要。 

 

(*3) 少なくとも、首都バルトレーン近辺は相当に繁栄している様だし、片田舎にある主人公の故郷の村も「重税に喘いでいる」訳では無さそうだ。

 あ、片田舎の村から首都まで馬車で一日って記述があった気がするから、国の大きさ(乃至「小ささ」)は、ある程度読める、かなぁ。 


 

  • (3)「魔法師団」の持つ意味

 一方で、こうは思わない/思わなかっただろうか。「魔法と魔術を厳密に区別しているらしいレベリス王国に於いて、”魔法師団”であって、”魔術師団”でないのは、可笑しいのではないか?」。

 先述の通り「魔法のウチ、人が使える範囲を魔術」と定義するならば、人の集団である筈の「師団」は「魔術師団」になりそう、である。

 まあ、幾つか「言い訳」は考えられる。例えば「魔術師団」だと「魔術師の集団」と言うイメージというかニュアンスが先行してしまい、「師団」と命名した意味・意義が薄れるから、敢えて「魔法師団」である、とか。実寸口径105mmの砲なのに、先行する105mm砲と区別識別するために「106mm砲」と呼称する実例が「こっちの世界」にもあるから、似た様な「配慮」が働いた可能性も、排除は出来まい。

 或いは、「魔法師団」は「魔術ならざる魔法をも使う」から「魔法師団」である、とか。
 例えば、人間が魔術として扱えない魔法を使える魔物を飼い慣らして使役している、と考えれば、この「魔法師団」なる呼称・名称にも納得がいこう。この場合、魔法師団に所属するのは、当該魔物を飼い慣らして扱える「魔物使い」たる人間で在り、「魔法を使う魔物」は、師団所有の馬匹乃至装備品、ってことになろう。
 またこれは、「魔術師ではないが魔法師団の構成員」という存在を肯定するモノであり、「魔法師団」を「師団」たらしめる可能性を高めるモノでもあろう・・・・「魔術を使う」のと、「魔物を飼い慣らし使役する」のと、どっちが希少で大変かは不明だが。

 火を吐くドラゴンとか使役して、火炎放射器として使うとか考えると、大陸戦史・戦術を一変させる「ゲームチェンジャー」となる可能性が、「魔法師団」という名前及びその「推定される組織・装備」には、ありそうである。

 「剣術道場?」
 明日はいよいよ故国、レベリス王国へ入るって日の宿で、アリューシャと二人だけで明日からは別行動を取って一寸寄る所があり、2,3日逗留するかも知れない、と聞かされた。アリューシャの「予定変更」ってのはかなり珍しい。大抵のことは用意周到準備万端、一分の隙も無い計画を、寸分の狂いも無くやってのける、って性分で、実に頼もしい限りなのがアリューシャ騎士団長だが、それだけに、当人もかなり困惑している様だ。
 「はい。ルーシー師団長のご依頼で・・・まあ、あの人のことですから、実質”命令”ですけどね。」
 何でも、昔魔術師学院で剣魔法の剣術部分だけ教えていた旦那と、学生だった嫁さんの二人でやっている小さな村の剣術道場、だそうだ。
 アリューシャは一寸・・・かなりイヤそうな顔しているけど、「村の剣術道場」って聞いただけで、おじさんは無茶苦茶親近感を感じちゃうね。俺自身、ついこの間まで片田舎で剣術道場の師範だったのだし。
 今でこそ、レベリス王国の首都バルトレーンで、王国最強のレベリオ騎士団の指南役、なんてモノになっているけれど、俺の本質・本分は、故郷の、片田舎の剣術道場で、親父の後継いで、通ってくる子供達に「剣の楽しさ」を教える、「剣術道場主」、だと思う・・・いや、確信している。絶対にそうだ。そうに違いない。そうに決まっている。

 等と、内心勝手に盛り上がっているおじさんを尻目に、アリューシャは補足説明を続けている。何でも、魔術師学院で初めて結婚式を挙げたカップルで、結婚式の「神父役」をルーシー師団長が務めた、とか。
 「魔術師学院で結婚式」なんて出来ることも知らなかったが、ルーシーが、「神父役」だって?まあ、本物の「神父」では無く(それは多分、正式正当な資格が必要だろう。)「神父役」だから、「誰でも出来る」のかも知れないが・・・それだけそのカップル、もとい、夫婦を、ルーシーが高く評価したってこと、だろう。

 なんか、凄い夫婦なんじゃぁなかろうか。
 まあ、旦那さんの方は、「魔術師学院の剣術の先生」って意味では、俺の先輩って事になるし、フィスには剣術を教えている可能性もあり、もしそうならば、その点では俺の方が先輩か。
 
 あ、でも向こうは結婚しているんだな。その点では、こっちが圧倒的に不利、だよなぁ。

 等と考えて居たら、続けているアリューシャの説明に、一寸看過できない単語があって、思わず突っ込んでしまった。
 「スフェン教徒?スフェン教徒が、魔術師学院の生徒になれるのか?」
 正直、スフェン教についてはここのところイヤな話ばかりで、印象は相当に悪い・・・と言うより、最悪に近い。
 まあ、それは兎も角、スフェン教徒は魔術を「神のみ技=奇蹟」として、人の扱う学問としての魔術を拒否してた、筈だ。
 アリューシャは珍しいぐらいに困惑した顔で、すまなそうに答える。
 「詳しくは判らないのですが、何でも、”異端者”として故国・スフェンドヤードバーニアを追われた、とか言う噂もあり、その辺りが関係あるか、と。」
 どちらが因で、どちらが果かは判らないし、噂の域を出ないそうだが、何か「訳あり」ってこと、らしい。
 「時間が無くて、この程度のことしか判りませんでした。申し訳ありません。
 それと、ルーシー師団長からは、その剣術師範と試合をしろ、との伝言です。”胸を貸してやれ”だ、そうです。」
 全く、徒手空拳の格闘技じゃないんだから、と、アリューシャは、今度こそ本当に済まなさそうに続けた。
 いや、魔術師学院の剣術の先生の先輩ならば、こちらから一手ご指南お願いしたいぐらいだから、それは良いんだけど・・・

 「”時間が無くて”って、この話、何時ルーシーから聞いたんだい?」
 「昨日です。鳥がメッセージを運んで来ました。」

 いやいや、「鳥がメッセージを運ぶ」ぐらいは、魔法師団長なら朝飯前だろうけれど、昨日の今日で、この情報量って何?
 
 アリューシャも、ひょっとして魔法を、それもかなり特殊な奴を、使えるんじゃ無いかと、おじさんは疑っちゃうよ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「バルトレーンからの、来客?」
 子供達との稽古が一段落して、一息ついているところに、ラフィが嬉しそうに駆けてきた(こういうときのラフィは、今でも子供の様だ・・・イヤ、子犬かな。当人は怒るだろうけれど。)と思ったら、意外な事を告げたので、思わず聞き返した。
 「そう。正確には、バルトレーンへ帰る途中に寄るのだから、”バルトレーンから”ではないけどね。ルーシー師団長の紹介よ。断る理由も無いでしょ?」
 いや、俺たちの大恩人であるルーシー師団長を徒や疎かにするつもりは無いが、珍しいことなんで一寸驚いた。
 「メンバーも一寸したモノよ。一人はね、レベリオ騎士団の団長さん。”神速”って二つ名持ちの。ねぇ、興味あるでしょ?」
 ラフィの剣術好きは、相変わらずだ。魔術師学院に通っていた頃も変わらなかった。新しい流派だの、旅の剣豪だのの話を聞き、「自分の目で確かめる!」と言い出して聞かなかったことも、何度もあった。
 時々思うのだが、このウチの嫁さんの汲めども尽きぬ好奇心と探究心こそが、ラフィが魔術師学院で「ほぼ人知の及ぶ限りを極めた」と賞賛された治癒魔術なんかよりも、余程「大奇蹟」なんじゃぁなかろうか。
 「しかも、銀髪長髪三つ編みの美人だって。ウリウリ、興味出てきたでしょ。」
 だから、そう言う「大人の冗句」は、子供達の前では止めろって・・・まあ、子供達ももう、馴れたモンだが。
 「でねでね。こっちが本命。何ともう一人は、”片田舎の剣聖”だって。噂は聞いてるでしょ。」
 「そりゃ、聞いた噂もあるが、”実在しない”説が有力じゃぁなかったか?」
 俺としては、スフェン神並みに「実在すると思っている」レベルだったのだが。つまり、「居たら良いなぁ」に近い。
 「どうも、実在したらしいわよ。ルーシー師団長のお墨付き。」
 まあ、師団長閣下がそう言うなら、其奴が・・・男とは限らないな・・・「片田舎の剣聖」なのだろう。多分。
 
 すると何か、ウチのアイレンテール道場に、「神速のレベリオ騎士団長」と「片田舎の剣聖」が来る、ってのか。
 そりゃ大事(おおごと)だな。村を挙げての大騒ぎになるかも知れないな。
 そんな呑気なことを考えて居たら、ラフィの奴はトドメの一撃とばかりに、目を輝かせて宣言した。

 「でねでねでね。こっちこそが大本命。その”片田舎の剣聖”にルーシー師団長が伝言したそうよ。貴方と、試合をしろ、と。」

 まあ、待て、落ち着け、ラフィ。その剣聖と師団長がどう言う関係か知らないが、幾ら魔法師団長の伝言でも、「片田舎の剣聖」が、こんな田舎の剣術師範を相手にするとは限らないだろう。寧ろ「相手にしない」公算が・・・
 
 「どうする、シュプール。この試合、勝ったら、私たちが、”片田舎の剣聖”よ!」
 そんな道場破りみたいなことが、あるかよ。
 「そうだとすると・・・負けたら道場の看板、持ってかれるんじゃないか?」
 冗談交じりに混ぜっ返した心算だったが、ラフィの奴、途端に表情を変えて口を閉じ、黙り込み、何やら思案顔になった。
 あっ。マズい。こう言うラフィは真剣にマズい。恐らく、イヤ確実に「片田舎の剣聖を打ち負かす方法」を考えて居る。
 それも尋常一様じゃぁ無い。試合前日に売春婦集めた色仕掛けで足腰立たなくするとか、食事や飲み物に何やら混ぜ込むとか、その他俺では全然想像できない様なことも含めて。凡そこの世の森羅万象ありとあらゆる事を総動員して、「片田舎の剣聖に対する必勝法」を考えて居る。非常にマズい。
 何より恐ろしいのは、そう言う思考思案の相当部分を、普通なら、「考えついただけ」で終わってしまう様なことを、ラフィなら実行実践してしまうこと、だ。
 「ま、待て。待てラフィ。
 頼むからっ。頼むから、何もするな。しないでくれ。
 勝っても負けても、何事も無い様にするから。必ずするから。な。なっ。」
 ラフィの奴、今度は美事なまでのふくれっ面になって答えた。
 「わたしィ、何も言ってませんけどぉ。」
 いや、言わずとも判る。判っちまうんだよ。
 
 夫婦だから、な。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 その剣術道場に着いたのは、昼過ぎの午後の早い時間だった。どこからか、子供達の掛け声が聞こえてくる、と思ったら、外観は畜舎その物の建屋からだ。畜舎を改造して稽古場にしているらしい。
 成る程「片田舎らしい」なぁ。ウチの道場の方が「立派な稽古場」と言えば言えるけれど、あれは親父の代に建てたんだよなぁ。
 俺も「独立して、道場も自分で持て」とか言われたら、畜舎を改造ってのは考えたろうなぁ。ああ、今でも「独立しろ」と言われている様なモノだけれど。嫁さん見付けないと、あの道場へは帰れないんだよなぁ。
 と、一寸センチな気分になっていたら、そんな気分を吹き飛ばす様な元気な声が聞こえた・・・イヤ、轟いた。
 「バルトレーンからのお客様ですねぇっ!ようこそ、アイレンテール道場へ!!当道場主の妻、ラフィ・アイレンテールですっ!!!!!」
 稽古場の隣に建つ母屋から駆けだしてきた小柄な女性が、走りながら叫んでいた。長い髪を頭頂部で「お団子」にまとめて、その下にキラッキラに輝いた大きな目と、大声を発するに適してそうな大きな口があり、全身で歓迎の意を表している。
 その女性が、俺たちの馬の前で立ち止まると、姿勢を正し、一つ深呼吸した。すると、心機一転。不思議なぐらいに落ち着きと気品を見せて、恭しく正式な礼を送って来た。
 慌てて答礼した俺なんかより、よっぽど板についている。こりゃ、相当良いところのお嬢さんだったに違いない。
 「失礼致しました。レベリオ騎士団長、神速のアリューシャ・シトラス様と、片田舎の剣聖・ベリル・ガーデナント氏とお見受け致します。アイレンテール道場を代表し、道場主が妻・ラフィ・アイレンテールが歓迎の意を表します。」
 口上も美事に礼式に叶っている・・・多分。イヤ、おじさんはその方面、疎いんだけど。この圧倒的な気品は、きっとそうに違いない。
 「ご丁寧なご挨拶、痛み入ります。仰せの通り、アリューシャです。こちらが、レベリオ騎士団特別指南役・ベリル・ガーデナント氏。しばらくの間、ご厄介になります。」
 アリューシャが馬から下りたので、慌てて俺も後に続く。イヤ、本当は俺も何か言うべきなのかも知れないが、変な事言って格式礼式を壊すよりは、と、黙っている。欠礼は、無礼よりマシ、に違いない。これも多分、だけど。
 「馬はお預かりします。主人は稽古場の方ですので、勝手に入ってって下さい。」
 じゃ、後ほど、と言いながら、女性は・・・ラフィさん、って呼べば良いのかな?・・・二頭の手綱を取って馬を厩舎の方へ引っ張っていった。
 いや、「引き摺って行った」という方が正しいかな。凄まじい勢いで馬を引いて居て、ひょっとすると馬引き摺って馬よりも速く走り出すんじゃ無かろうかって勢い。馬二頭を相手に、あの小さな身体で。何とも、パワフルな人だ。
 やっぱ「凄い夫婦」なんじゃ、なかろうか。

 「先生、参りましょう。」
 ラフィさんの勢いに気圧されて、一寸茫然自失としていた俺は、アリューシャに急かされて我に返り、稽古場の方へ向かった。先ほどからの子供達の声を揃えた掛け声が変わって、先ほどの素振りから、剣戟の稽古へと変わった、らしい。

 でも、なんか、音が軽いな。打撃の音が。

 稽古場へ足を踏み入れると、案の定剣戟の稽古をしていた・・・のは良いが、俺は一寸唖然としていた。
 稽古に来ているのは子供ばかりの様だが、皆が皆、甲冑を着けている、様に見えた。
 騎士が、特に儀式の際に身につける完全装備の甲冑は、相当に値が張る、ばかりではなく、相当に重い。身につけて馬上にある分には良いけれど、馬から下りたら、立って歩くのがやっとで、走るなんて余程の怪力で無いと、無理だ。
 だというのに、目の前の子供達は、「甲冑」を付けたまま元気に走って、打ち合っている。「見慣れない」と言うよりは「異様な」光景に、俺が呆気にとられていると、子供達に混じって唯一人の大人、自動的に当道場主のシュプール氏が気づいて、近づいて来た。
 「ああ、バルトレーンからのお客様ですね。アイレンテール道場へようこそ。道場主の、シュプールです。師範って事になってますが。何、年を経てるだけでね。今でも子供達に、教えられてばかり・・・ああ、これですか?」
 シュプール氏は、自分も付けている甲冑・・・と言うには、一寸簡略すぎる気がするが、その胴体の辺りを拳で叩いて見せた。明らかに金属ではない音・・・ってぇか、木製か?
 「木ですよ。頭に被っているのも、面の格子を除いたら厚い布。見た目ほど、重くないんです。」
 それから、一寸自慢げににやり、と笑って見せた。一寸茶目っ気の多い人、らしい。
 「完全武装の甲冑みたいに見えるでしょ。夏は一寸、暑いですけどね。」
 「剣の方も、工夫がおありのようですね。」
 アリューシャが尋ねる。そう、音が違うのは、「木の鎧」だけでは、説明がつかない。剣も、唯の木剣では無い・・・筈だ。
 シュプール氏は自分の使っていた稽古用の刀・・・「木剣?」を、礼に従って柄の方を先にして、アリューシャに渡す様に差し出した。アリューシャがそれを受けとり、間近にじっくり見てから、同じように俺の方に差し出した。
 遠目では判らなかったが、近くで見ると、単なる木剣では無い事が判る。何本もの細い板を束ねた様な見た目だ。
 「薄く切った細長い板を、中空の円筒になる様に束ねたモノです。この独特の木剣と、木製の鎧などの防具のお陰で、本当に打ち合っても、まあ、打撲以上の怪我には先ずなりません。
 子供達に、”寸止め”とか、一寸無理ですからね。
 ラフィによると、”東洋の島国”での稽古の工夫だ、とか。この工夫のお陰で、その島国の大人は皆、とんでもない剣士ばかりなんだとか。」
 まあ、伝説とは言わぬまでも、噂に尾鰭の類い、でしょうけどね。と言ってシュプール氏は笑っているけれど・・・
 「アリューシャ、これって・・・」
 ”結構凄いことなんじゃ無いか?”って意味を込めて、アリューシャに振る。
 「ええ。大人の騎士団には無用な工夫、かも知れませんが。子供や、素人にならば、かなり有効・有用かと。」
 うん、流石はレベリオ騎士団団長様だ。騎士団でもよくやる寸止め稽古じゃぁ、「間一髪で躱す」ってのは判定が難しい。それこそ、相当に手練れの審判が相対する二人につきっきりで、判定できるかどうか。それでも、揉めるときには、揉める。
 だけど、このアイレンテール道場の方法なら、当たったか、躱せたかは、少なくとも自分自身には良く判る。試合している二人に、審判がつききりでついている必要が無い。今シュプール氏自身がやって見せている様に、子供達同士で試合することで、どんどん「実戦経験」が溜まって行く。
 「先生ぇ~、ケントの奴が、一本を認めませぇ~ん。」
 「一本じゃねぇし!入ってねぇし!!」
 ウン、そう。中にはズルする子も居るよね。
 シュプール氏は訴えた子とその相手の子の方に向き直り、数歩近づいた・・・と思ったら、持っていたあの独特の稽古用木剣で相手の子の右脇腹を小突いた。音はしなかったから「打った」訳では無いだろうが、素早い、良い動きだった。
 「見てたぞ、ケント。右脇腹への一撃、躱そうとして、躱し損ねたろう?」
 「うっ・・・」 
 相手の子はうつむいて黙り込んだ。そう、打たれたか、躱せたかは、他でも無い、打たれた自分自身が一番良く判る。この稽古の、真骨頂、と言うべきだろうな。
 「なあ、ケント。此処は道場で、稽古場だから、認めなければ”一本”が無くなる、って事も、そりゃぁあるかも知れないさ。
 だけど実際の剣戟、実際の戦場で、そんな誤魔化しは効かない。下手な一撃を食らえば、お前は死んじまう。幾ら認めなくても。な。
 判るよな。」
 シュプール氏、子供相手にそれは一寸・・・イヤ、冷厳なる事実、ではあるのだけれど、未だ年端のいかぬ子供に「戦場の現実」は、一寸キツいンじゃぁ・・・
 「負け続けで、悔しかったか?」
 「ウン。一昨日から二十連敗中。ナントカ、ここらで一勝ぐらいしないと・・・」
 「その悔しさは、判るぞ。俺の記録はな、十日間負け続けってのがある。」
 「先生がぁ?!!」
 「ラフィには内緒な。あいつに出会う前の話だ。
  だから、二十連敗ぐらいで、凹むな。」
 「はい!!」
 子供は切り替えが早い。もう気を取り直して、さっきの子へリターンマッチを挑もうとしている。そんなケント少年にシュプール氏は声援を送る。
 「ああ、今日中に勝てない様なら、明日は一番にラフィに剣を見てもらえ。何かヒントになる、かも知れん。」
 途端に、ケント少年の元気が一寸無くなるのは、何故だろう。
 「えーっ、女先生の"ヒント”って、キツいんだよなぁ。」
 「気持ちは判るが、前から言っているだろう。当アイレンテール道場は、・・・」
 「"俺とラフィで、一人の師匠だ。"ね。もう、耳タコだぜ。」
 「そう言うこった。イヤなら勝て。」
 今度こそリターンマッチに臨むケント少年を尻目に、シュプール氏はこちらに再び向き直リ、近づく。
 「いや、お見苦しい所をお見せしました。何しろ、子供相手の剣術道場なのでね。」
 シュプール氏は謙遜してるが、俺もアリューシャも、感心していた。感銘を受けた、と言っても良い。特に、魔術師学院でも剣を教えている俺は、背筋の伸びる思いだった。流石先輩、と言うところかな。
 「いえ、真摯な稽古と美事なご指導。感服致しました。
 良い道場と、良い子供達ですね。」
 アリューシャの言葉に、お世辞はない。実際の所、大したモンだと思う。
 そうこうする内に、道場の入口にラフィさんがひょっこり現れた。何やら、シュプール氏に合図を送っている、様だ。
 「ああ、判ってる。今日は稽古は早仕舞いにして、会場設営を手伝え、だろ。」
 頷くラフィさん。更に何やらハンドサインめいたモノを送る・・・
 「ああ、それも判ってる。シュプール氏との手合わせは、明日、な。」
 ウンウンと大きく頷いたラフィさんは、大声で続けた・・・さっきまでの無言劇は、何だったんだろう。
 「今、村中に伝令走らせてるから。
 久々の”興業”よ。村人全員参加は、先ず間違いないわよねぇ。」
 「そりゃ良いが、この前みたいに”賭場”なんか開くなよ。この道場は、子供達の"学校"でもあるんだぞ。」
 「えーっ、私、シュプールに賭けて大儲け、する予定だったのにぃ。」
 「だから、ヤメロって!」
 一喝するシュプール氏に、何やらふくれっ面のラフィさん、何かブツブツ言っている。「前売り券」とか「返金」とか言って居る様な気もするが・・・
 「あの、”興業”とは?」
 アリューシャが不審感丸出しで尋ねる。答えによっては抜刀しかねない勢いだ。俺とシュプール氏の試合を、「見世物」にされるらしいのが、余程カンに障る、らしい。
 「いや、田舎なんでね。屋根も床もあって、村の大人全員が入れる様な建物は、この稽古場ぐらいしかないんですよ。
 で、偶に来る旅芸人なんかは此処で芝居する、って訳で・・・”興業”ってのは、"言葉の綾"ですよ。都仕込みの剣技、レベリオ騎士団の実力、田舎者の村人に、見せてやってはくれませんか。」
 シュプール氏も、なかなか上手いなぁ。
 「先生の剣は、見世物ではありませんわ・・・」
 と、矛先を鈍らせたアリューシャに、ラフィさんが追い打ちをかける。
 「でも、見物ではあるでしょ!!!
  私は見たいなぁ。村の人達も、屹度。」
 大きな目をキラキラさせながら、そう出られると、アリューシャも怒りづらいだろう。ラフィさん、なかなかの策士だ。
 「ああ、それで、会場設営。」
 一寸困ったアリューシャを助ける心算で、俺が助け船を出すが・・・一寸違った様だ。
 「それもありますが・・・此処は、村で一番デッカい宴会場でもあるんで・・・」
 言いよどむシュプール氏に、ラフィさんが突っ込む。本当に、良いコンビネーション、良い夫婦だなぁ、この二人は。
 「お二人を主賓としての”歓迎会”ですぅ!都の話とか、聞かせて下さいっ!!!」
 「前夜祭、だろうが!」
 さしものアリューシャも、すっかり毒気を抜かれて形無し、って感じだ。小さく首を振って一寸肩をすくめて、俺の方に微笑んで見せたから、とうとう、諦めた、らしい。
 天下のレベリオ騎士団長を、全面降伏させるとは・・・恐るべき策士だな。ラフィさん。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 歓迎会だか前夜祭だかは、本当に盛大に開かれた。夕方前に稽古に来ていた子供達を返すと、ラフィさんとシュプール氏、それに集まった村人が食卓やらイスやらを稽古場に運び込み、忽ち出来上がった「宴会場」に、待つほども無く三々五々村人が集まり。「主賓」となる俺とアリューシャは上座の真ん中に二人並んで座らされた。俺の右隣が、シュプール氏とラフィさんの席だ。尤もラフィさんは、宴会開始早々、あちこちの席にお酌と盛り上げと酒と食事の差配に飛び回って、殆ど席には居ない。
 で、3人並んだ俺たちの前に、村人が次々と来ては、酌をしたり、一頻り盛り上がったりしている。
 こう言う形の「歓迎会」は、アリューシャは苦手だろうと思ったんだが、途中やってきたラフィさんが、アリューシャにお酌しながら、
「ナンダか、結婚式みたいですねぇ。」
と言ったら、それで機嫌が直ったのか、妙に大人しく、しおらしい。
 勢い、村人の「標的」は俺になる訳で、今も「村一番の大工(他に何人居るかは、知らない。)」が俺の前に陣取り、隣のシュプール氏を肴に、盛り上がっている。

 「なぁにしろ、この先生が村に来て開口一番言われたのが、”豚小屋に床を作れ”だからねぇ。驚いたのなんの。」

 この稽古場が元畜舎とは言え、「豚小屋」は一寸酷い気もするが、その前は「牛小屋」だったそうだから、広さの点では、稽古場に持って来いなんだろう。

 「剣術なんてのは、こう、屋外で棒きれ振ってりゃ良い、ぐらいにこっちは思ってたッてぇのに・・・」
 「だぁかぁらぁ、ゲンさん、それ最初に説明したろう?土砂や石ころで怪我するのを防ぐためだ、って。」 

 シュプール氏の所にも酌に来る村人は多く、こっちも相当に「出来上がって」居る。まあ、それだけこの道場主夫婦が村に溶け込んでるって事だ。
 そうでなきゃ、自分とこの子供を、剣術道場に通わせたりしないだろう。

 「んぁっ?判ってるよ。あの"木の鎧"共々、怪我を減らす工夫だってのは。何だっけ、”東洋のナントカ”とか、カントカとか・・・」
 「おう、”木の鎧”がどうしたってぇ?ゲンさん、俺の仕事にケチつけんのかぁ?」

 いや、「村一番の大工」よりも出来上がっていそうなのも来た。こっちは「村一番の木工職人」か何か、なのだろう。
 勝手に盛り上がり始めた二人を尻目に、シュプール氏が横で一寸小声で言う。

 「申し訳ありません。何しろ田舎者なので、”レベリオ騎士団団長”とか言われても、その偉さが理解できないんですよ。」

 まあ、バルドレーンは此処から遠いからねぇ。騎士団の栄光も、此処までは及ばず、か。

 「私は別に構いません。が、先生は?」

 反対側からアリューシャが、これも一寸小声。

 「俺?俺なんか、アリューシャの”レベリオ騎士団・団長”に比べたら、ものの数じゃぁないよ。」
 村人の評価なんか、気にする訳が無い、と言おうとしたんだが、アリューシャは何か不服そうだ。

 「先生は、そのレベリオ騎士団の、特別指南役ですよ。」

 団長なんかより、余程偉いんです、とかナントカ、アリューシャは言うけれど、イヤイヤ、そんなこと、在るはず無いでしょう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「明日がある」って事で、比較的早めに「歓迎会」がお開きになったのは有り難かった。下手すると、二日酔いのフラフラ状態で、明日の「模範試合」を迎えることに、なりかねなかった。
 就寝前の一時を、母屋の食堂で、ラフィさんが用意してくれたお茶を喫しながら、俺とアリューシャは暫く寛いでいた。

 「良い、道場。良い生徒達、ですね。」
 道場に通う子供達を、「生徒」と呼ぶのも変ですけど、とアリューシャは笑うが、気持ちは判る。子供達相手に教えるとなると、「剣術道場」と言うより「剣術学校」って言う方が相応しいことは、ままある。
 俺の道場も、そういう所あったからねぇ。
 「休日だけ通ってくる、村の大人もいるそうだから、その人達の稽古も見ていきたかったけどねぇ。」
 2,3日の逗留では、休日までは居られない。明日の試合を終えて、明後日には出発する、って予定だから、尚更だ。
 アリューシャは手にしていたカップをそっと卓上に置くと、一寸真剣な表情で聞いてくる。

 「先生は、どう見ます?」
 「ウン、シュプール氏のこと、だよね。」
 俺は一寸言葉を切って、思案する。
 「相当に、強いね。でないと、あんな指導は出来ない。」
 今日見せて貰ったのは子供達も稽古の指導だけだが、ケント少年を指導した「一撃」は、思い返しても惚れ惚れする様な動きだった。相当に鍛錬していないと、あんな動きは出来ない。 
 「そうですね。私もそう見ました。
  ・・・でも、勝つのは、先生ですわ。」
 何故か得意げに断言するアリューシャ。
 そうだと良いんだけどねぇ。まあ、みっともない負けだけは避けよう。そう思うのも、いつものことだが。

 「道場も”生徒”も良いけど、良い夫婦、だよねぇ。一寸羨ましいかな。」
 俺、嫁さん見付けないと、帰れないし、なぁ。 
 ン、アリューシャ、どうした?様子がおかしいぞ。
 
「せ、せ、せ、せ、先生はっ、ああいう女性がっ、タイプですかぁ?
 レベリオで言えば、クルニが近いかとっ、思いますががががががっ!!」
 クルニ?そうか、似ていると言えば似てるかな。思わず笑ってしまう。
 あれ、アリューシャ、更に様子がおかしいぞ。声も一寸裏返ってたし。

 「いや、タイプとか、じゃなくて・・・シュプール氏とのコンビネーションが、ね。”最強のコンビ”って言ったら良いかな。
 互いに長所を活かして、支え合って、って形がさ。」
 アリューシャは一寸落ち着いた様だ。何かあったのかな。

 「ああ、そうですね。」
 でも、それを言うなら自分だって、先生の支えにはなりますよ、とか言って、一寸むくれている様にも見えるが・・・

 気のせいかな。
 
 気のせいだろ。

 気のせいに、決めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「イヤァ、流石は王国の首都・バルトレーンのレベリオ騎士団長。噂以上の美人で、洗練されてたわよねぇ。
 目の保養だわぁ。」
 とても妙齢の女性の科白とは思えんな。お前は、おっさんか。

 「明日があるから」って「歓迎会」は早仕舞いしたってのに、ラフィの奴ぁ寝所に入ってもまぁだ興奮冷めやらぬ様子で大はしゃぎだ。
 そりゃ、久々に見る、しかも初めて見る「剣豪」と言ったら語弊がありそうだが「剣の達者」だから、興奮するのも無理は無いが。

 「はしゃぎ過ぎだぞ、ラフィ。一寸落ち着けよ。」
 こういう時、いつも俺が宥め役、冷まし役だ。まあ、馴れたけどな。

 「で、実際の所、どう?勝算は??」

 まぁだ興奮してやぁがる。遠足前の子供かよ。

 「ベリル氏のこと、だろ。ま、お前にゃ釈迦に説法だろうが、強いな。間違いない。」
 流石は「レベリオ騎士団の特別指南役」で、聞けば騎士団長の師匠にも当たる、とか。そりゃ、強い訳だ。
 暫く思案顔で黙っていたラフィは、これで漸く静かになった、と思ったが・・・
 「でも、勝つのは、シュプールよ。」
 断定断言してくれる。キッパリと。
 「お前のその自信は、一体どこから来るんだよ・・・・」
 俺は毎度の事ながら、ラフィの凄まじいまでの自信に、最早「呆れ」を通り越して、感動すら覚えている。
 「誰も、”明日勝つ”とは言ってませんよぉっだ。」
 ラフィは一転してふくれっ面になる。全く、忙しいことだ・・・いつものこと、だが。

 「明日試合するでしょ。手の内が幾らかでも判るでしょ。
 そうなれば、もうこっちのモノじゃ無い?私が絶対に、”必勝法”の”必殺技”を、考え出してあげるから。
 明日は無理でも、いつか、必ず勝つわよ。」

 ラフィは、もう夜も遅いってのに、且つ、一つ屋根の下に当人がいるってのに、結構な大声で宣言する。

 「あの、"片田舎の剣聖"に!!」

 イヤ、その考え出した”必勝の必殺技”を実現実践するのは、この俺なんだけどな。
 ラフィの捻り出す”必殺技”は、完成し実現すれば、( 更には「図に当たれば」、 )凄い威力を発揮する、んだが・・・「人間じゃ、無理だろ。」ってのも、ままあるからなぁ。

 「ああ、判った。だから、明日は、なるたけ粘って、”負けない”立ち合いを、だろ。」

 再三打ち合わせた「キャッチフレーズ」を確認する。これこそ正に「耳タコ」だな。もう、何十回確認したやら。

 「そう。判ってるじゃ無い。」

 そりゃ、もう、付き合い長いし、夫婦だから、な。
 だけど、その自信の程、その揺らぎの無い確信が、また魅力であり、可愛さ、なんだけど、な。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 シュプール氏との「模範試合」は、「無制限一本勝負」ってことになった。「実戦さながら」と言えなくもないが、「試合が長引きすぎると、観客が暴動を起こしかねないから。」なんじゃ無いかと、おじさんは一寸疑っちゃうよ。
 何しろ、平日の昼間だってのに、村人でここに来てない者は居ないんじゃないかってぐらいの大盛況。後で一寸聞いたが、この時間は村中の店が店仕舞いしていて、試合の後に営業再開した、とか。「村を挙げてのお祭り騒ぎ」って訳だ。ラフィさんの予言通り、とも言えるな。

 昨晩は宴会場に使った稽古場を、今日はその真ん中部分だけ稽古場に戻し、昨晩はあった長机なんかは片付けて長椅子だけにしている。が、椅子には何段階かに段差を付けて、後列でも或程度「試合が見える」様にしてあるから、一寸した「闘技場」だよな。

 審判として、主審は、アリューシャが勤める。で、副審としてラフィさんがついているから、公平は期せるだろう・・・と言うか、この二人以上の審判の適任者なんて、この村には居ないだろう。レベリオ騎士団でも、果たして、何人居るか。
 つまり、此処の道場主夫人たるラフィさんは、剣術理論と評価に関する限りは、レベリオ騎士団長・アリューシャに比肩しうる、って事で・・・これがルーシーの言う「逸材」の一環って事、らしい。

 アリューシャの合図で、シュプール氏と、互いに一礼・・・したと思った、シュプール氏、糸の切れた人形みたいにだらりと前屈みになった。
 病気の発作でも起こした、かの様に見えるが、剣気・闘気は全く衰えない・・・と思う間もなく、強烈な突きが飛んで来た。
 辛うじて躱したモノの、ギリギリで間に合った、だけ。全身を脱力させた状態からの、全身の筋肉を使って一気に爆ぜさせる、渾身の突き。
 いや、速度と言い威力と言い「射程距離」と言い。凄まじい。と言うか、見たことも聞いたことも無いぐらいだ。

 凄いな。
 「凄い」としか、言い様も表現も何も無い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『初見で、これを躱すかぁ?!』
 ラフィの編み出した「必殺技」の中でも、特別に完成度が高く、俺も気に入っている「ダランからのドバッ(*1)」を躱されて、俺は内心舌を巻いていた。『流石、剣聖。』と。
 これが実戦ならば、サッサと尻尾巻いて退散して居たろう。模擬試合で、互いに防具「木の鎧(*2)」を付け、剣も練習用の「細く薄く切った木を中空の円柱に束ねた」剣(*3)だから、「試合続行」しているが、これが実戦だったら、こんなの相手にしたら、いくつ命があっても足らない。「三十六計、逃げるに如かず」とか、言うらしいじゃぁ無いか。
 
 言い替えれば、この初手の一撃を躱された時点で、俺は「片田舎の剣聖」ベリル・ガーデナント氏に敗れていた、訳だ。
 
 だが、今は実戦じゃない。試合は続行している。
 
 ならば、これは、どうだ?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「全身脱力からの全力刺突」は、謂わば奇襲戦法だ。詭道とも言えるだろう。
 だが、シュプール氏は、そんな詭道・奇襲だけの剣士では無い。それは、何合か斬り合うだけで、イヤと言うほど感じられた。

 突きの正確さ。斬撃の早さ。どちらも相当なモノだ。ナントカ躱し、逸らし、受けては居るが、反撃の機会を掴むのさえ難しい。

 偶に繰り出す反撃も、尽く躱される。
 それだけじゃない。躱して、大きく体勢を崩しても、その体勢から、今まで見たことも無い様な反撃が来る。驚異的な体幹、というべきだろう。

 いや、やっぱり凄いや。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 喉・・・肩・・・これもダメか。
 右腕・・・と見せて頸!!!・・・もやっぱりダメだ。

 一体どんな目ぇしてやがるんだ、この「剣聖」は。こっちの攻撃は尽く読まれ、対応され、反撃されている。色々手を尽くすが、全然通用しない。
 
 ここまで通用しないと、返って清々しいな。何というか、人では無くて、水の流れか、流れ落ちる滝を相手に剣振るっている様な、妙な感覚だ。そう気づくと、妙なことだが笑いがこみあげて・・・
 
 おや。ベリル氏も笑っている、様だ。

 この防具「木の鎧」で被る「兜」は、基本的に厚い布製で、顔面を金属の格子で守っている。格子は剣が突き入らない様、結構細かく、対戦する相手の表情を見るのは難しいのだが、馴れてくると、案外判るモノだ。カンみたいなモンだな。 
 その俺のカンが、ベリル氏の「微笑み」を感じ取って、いや、「見て」いる。

 そうだな、楽しいや。

 こんな感覚は久しぶりだ。互いに振るい、躱し、逸らす剣が、丁々発止と息の合った掛け合いの様に思えて来る。
 
 何時までも、続けていたい、位だが・・・

 『だが、これなら、どうだ!!!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 一際大きな剣戟の音が響いた。
 ベリル・ガーデナントの斬撃は、シュプール・アイレンテールの踏み込んだ片足を捉えていた。
 シュプール・アイレンテールの突きは、ベリル・ガーデナントの「木の鎧」胸部を突いていた。

 「それまで!
  両者、引き分け!」

 主審を務めるアリューシャ・シトラスの判定に、副審を務めるラフィ・アイレンテールが同意の首肯を返す。

 稽古場内の客席を埋める村人達は、喝采の声を上げ、拍手を送る。

 「イヤァ、凄かった。もっと見てたかったなぁ。その剣。」
 ベリル・ガーデナントが頭部を保護する防具を外し、シュプール・アイレンテールに歩み寄り、右手を差し出す。練習用の剣は、アイレンテール流に従い、左手で防具と共に左腰の辺りに持ち、携えている。

 「ご指南ありがとうございます・・・感服しました。」
 シュプール・アイレンテールも同様に防具を外し、剣と共に持ち、右手を握り返す。

 二人の握手に、場内の歓声と拍手は一層大きくなった。

 「イヤァ、凄かったねぇ。おらぁ、剣術のこたぁナンも知らねぇが、今の試合が凄い、ってのは、判るべや。」 
 「私も、当道場で剣術を初めて学ぶ程度の若輩ですが、今日は今まで見たことの無い先生の技を幾つも拝見しました。
 それを全て躱された、”片田舎の剣聖”殿も、凄まじい、かと。」
 見るからに農夫然とした老人と、中年の男性も、興奮冷めやらぬ様子。
 「すると何か。おらが村の先生は、”片田舎の剣聖”様と引き分けるぐらい、スゲぇ、っちゅうことかいな。
 オラ、ぶっ魂消たなぁ。」
 賛嘆を重ねる「見るからに農夫」に、背後から小さな影が忍び寄る・・・いや、急速に接近する。
 「何々?入門をご希望ですかぁ?運が良いですよ。今なら入門料無料で、三ヶ月は月謝無料の特別コースがありますぅ。」
 営業を始めるラフィ・アイレンテールに茶々を入れるのは、「村一番の大工」ゲンさんだ。
 「その”無料の三ヶ月”だけで止めよう、って思ってんなら、ハナっから始めない方が良いぞ。
 俺なんざ、その”三ヶ月”の後、止めるに止められずに、ズルズルと・・・」
 愚痴る大工のゲンさんに、ラフィ・アイレンテールは容赦が無い。
 「えーっ、ゲンさんの入門した頃は、無料期間は1カ月でしたよぉ。
 それにゲンさん、今じゃ道場の古株じゃぁ無いですか。稽古も毎週の様に来てるし。」
 「そりゃ、お前ぇ、俺が止めようかと思う頃に、決まって女先生が誉めるモンだから・・・」
 言いよどむ大工のゲンさんに、ラフィ・アイレンテールトドメの一撃。
 「それだけ当アイレンテール道場が、稽古が、居心地の良い場所、楽しい時間、ってこと、でしょ?」

 ゲンさん、渋々頷くしか無い。
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「先生のお言いつけ通り、”勝敗が誰の目にも明らかで無い限り、引き分けに”、と言うことで、”引き分け”にはしましたが・・・」

 昨日と同様、就寝前にラフィさんが淹れてくれたお茶を喫しながらも、アリューシャは不満タラタラ、って感じだ。

 「これが実戦なら、先生は勝ってました。」

 まあ、試合会場から今まで、それを口に出さずにいただけに、不満も溜まった居たのだろう。気持ちは判るよ。けどねぇ。
 
 「それが判らないシュプール氏、だと思うかい?」
 そう問われると、何とも返しようが無い、らしい。「それが判る」のは、あの場では当のシュプール氏と・・・ラフィさんぐらいだろう。

 「逆に考えて御覧よ。判定が微妙な所なのに、アリューシャが俺の勝ちを宣言しても・・・見ている村人達は、納得しないよ。判らないから、ね。」
 流石にアリューシャは事態を察した、らしい。

 「そうなると、主審たる私が、”先生を贔屓した”ことになる。
 レベリオ騎士団にも、先生にも、不名誉なことになる、訳ですね。」

 小さく吐息。一寸可愛い、アリューシャ。

 「そこまでは思い及びませんでした。
 未だ未だですね、私は。」

 でも、シュプール氏やラフィさんは、一寸判りませんよ、と、まぁだアリューシャは拗ねている様子。

 いやぁ、そりゃぁない。そりゃぁないよ。
 だって、あ・の・シュプール氏だよ。
 
 おじさんはその点、大安心してるんだけどね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 「シュプール・・・・」
 明日は出発するベリル氏とアリューシャ騎士団長を送る「送別会」も切り回して大忙しだったラフィが、寝所に入ったらかなり静かだったから、流石に寝たかと思っていたのだが、そうでは無かった様だ。囁く様に小声で、済まなそうに、言って来た。
 
 「ああ、判っている。実戦なら、俺の負けだ。」
 ベリル氏の俺の脚への斬撃の方が、俺の突きが届く一瞬前だった。あの一瞬で、脚を切られては、バランスが崩れて、俺の突きは、当たらない。
 イヤ、今日は防具を着けていたから、胸回りも生身より幾らか太くなっている。ベリル氏ならばあの一撃、喩え俺が脚を斬られていなくても、躱したんじゃ無いか、と思える。

 つまりあの時ベリル氏は、俺の脚へのベリル氏の斬撃が入るのを確信して、俺の刺突を敢えて防具の胸部に受けた。躱さなかった、訳では無いが、ワザと躱し損ねた、疑惑は大いにある・・・・と言うより、「ワザと躱し損ねた」と、確信できる。

 恐るべし、「片田舎の剣聖」。

 そう言えば、ベリル氏は今や王国の首都バルトレーンで、王国一のレベリオ騎士団の特別指南役だ。いつまで「片田舎の」なんて変な修飾語がついているんだろうな。
 いや、どこに居ようと、田舎で剣術教えていようと、あれこそ正に、「剣聖」と呼ぶに相応しい人、じゃぁなかろうか。

 そう思えるって事は、俺の完敗って事だ。ラフィがあの後妙に陽気にふるまっていたのは、この事態を糊塗するため、だったのだな。妙に納得すると共に、やたらに愛おしい。本当、ウチの嫁さんは、可愛いよな。
 
 「シュプール・・・」
 「それも判ってる。明日から特訓だろ。
 で、今度は何をどうすりゃ良いんだ?」
 尋ねるが、ラフィの奴、珍しいぐらいに元気が無い。歯切れが悪い。それだけ、「片田舎の剣聖」が、凄い、って事だけどな。
 「未だ、判らない・・・・未だ。」
 ホントに珍しいな。これだけしおらしいラフィは。
 こんなラフィを久々に鑑賞できるのも、ベリル・ガーデナント氏のおかげ、だな。
 「でも、なんか考えるわ。
 待ってなさいよ、"片田舎の剣聖"。次に勝つのは、ウチの旦那、なんだからぁ。」
 あ、割り切りやがった。切り替えやがった、ラフィの奴。
 こうなりゃ、もう心配は要らない・・・ラフィは、だが。
 今度は一体どんな無理難題を言い出すか、それは一寸心配、ではあるが・・・
 
 「まあ、俺としても、ベリル氏との再戦は、楽しみだな。あれだけ楽しい試合は久しぶりだった。
 だが、バルドレーンへ行くとなると・・・スフェン教会が、厄介だな。」

 元々、俺たちが田舎暮らしを始めたのは、スフェン教会の影響力が首都バルトレーンよりも大分小さいから、だった。
 それなのに、こちらからバルトレーンに出掛けていったのでは、田舎暮らしを始めた意味が、「無い」とは言わないが、薄く、小さくなる。
 まあ、此処の暮らしの方が、俺には性に合ってるけどな。
 
 「ウーン、スフェン教会の方は、打つ手はあるんだけどねぇ。その手を今打つかは、一寸疑問なのよねぇ・・・」

 いや、「打つ手」が「ある」のかよ。あの、スフェン教会相手に。
 イヤイヤ、訂正。ラフィが「打つ手がある」と言ったら、絶対確実に「ある」のだろうが・・・とぉんでも無い「打つ手」である可能性は、否定出来ない。
 じゃないな。とぉんでも無い「打つ手」に違いないんだな、これが。
 一寸、勘弁して欲しい。無茶な特訓の方が、まぁだマシだ。

 「オイ、ラフィ。大事(おおごと)も、暴力沙汰も、刃傷沙汰もゴメンだぞ。
 俺は此処の暮らし、結構気に入ってるんだから、な。」

 ラフィの奴も此処の暮らしは、相応に気に入っているから、流石に反応は鈍い。

 「そうねぇ・・・"大事"は避けられそうに無い、かなぁ。
 じゃぁ、この手は”無し”ね。」

 どんな「手」か知らないし、知ろうとも思わないが、是非、そうしてくれ、頼む。

 って、俺の心中の声が聞こえたかの様に、ラフィの奴、ニヤリと笑いやぁがった。

 「そう。今は、ね。」
 
 あ、こりゃダメだ。
 スフェンドヤードバーニア国内では国教として絶大な権威を誇り、レベリス王国内にも相当な影響力を誇るスフェン教会も、こりゃ、長いこと無さそうだな。
 
 全く、ウチの嫁さんは、おっかないや。

 「シュプール・・・」
 三度呼びかけてくるラフィだが、流石に俺ももう思い当たることが無い。 
 「今度は何だ?」
 仕方なく問い返した。明日からの特訓メニューでも思い付いたかな。

 「・・・・大好きっ!」
 ・・・そう来たか。
 『おっかないや』なんて思ったのが、顔にでも出たかな。イヤ、カミさんなんて、男ならば誰でも、おっかないモンだろう。
 その「おっかない」と、カミさんが愛おしいってのは、別に矛盾もしなければ、相反的ですらない。否、寧ろ、相補的でさえ、ありそうだ。
 
 だから、言ってやったんだ。柄にも無く、な。

 「・・・俺もだよ。」

 途端にラフィの奴、電撃でも喰らったみたいに急に起き上がった、かと思ったら、次の瞬間寝具の奥深くに沈み込んじまいやぁがった。何だ、その反応は。
 で、その寝具奥深いところから、分厚い寝具を貫通する様な大声で、続けた。
 「な、なな、ななななななな、なぁんてこと言うのよ、いい年したおっさんがっ!ああ、恥ずかしぃっ!!!」

 いや、寝具を貫通するどころじゃないな。こりゃ屋敷中に聞こえてるな。当然、「片田舎の剣聖」氏にも。寝てるとこ起こしてなきゃ良いけれど。
 
 「いや、お前もそろそろ、良い年したおばさんだって、自覚した方が良いぞ、ラフィ。」
 そのお前が、言い出したことでもあるし、な。

 「”トモシラガ”ってんだろ。お前の好きな、東洋の島国では。」
 男女が一緒に白髪になるまでと、末永い愛を誓う、とか言う。
 「永遠の愛」とか言う、明らかな絵空事より、余程現実的で、だからこそ、俺たちの「異端的スフェン教式結婚式」にも「誓いの言葉」に取り入れたフレーズ。
 ルーシー師団長も酷く感心していたっけ。何とも不思議な表情を浮かべながら、それでも面白がって。一寸懐かしい。
 そんな、ちょとセンチな記憶を、ラフィも思い出していたらしい。寝具の底から再浮上したラフィが、顔を寝具から出して続ける。

 「”お前百まで。わしゃ九十九まで”ね。私たちの結婚の誓いにも使ったわ・・・
 でも、そんなんじゃダメ!!」
 ラフィの奴は身を起こした。今度は、寝具の上に立ちあがらんばかりの勢い。

 「それじゃ、シュプールが私より先に死んじゃうじゃ無い。
 そんなの絶対、許さないんだから!」

 その大声じゃ、村中が目を覚ましそうだな。「死者が目覚める」までも、もう一歩、でしか無さそうだ。

 「ああ、長生きする様、気をつけるよ。」
 俺がウッカリ死んじまったら、この嫁さんは、禁忌とされる「死者蘇生魔術」に手を出す・・・どころか、没頭しかねない。
 更にウッカリすると・・・いや、多分、確実に、其奴を実現しかねない。

 いや、責任重大だな。俺。

 『こうして二人は、末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。』

 

  • <注記>
  • (*1) このネーミングばかりは、気に入っているとは言い難い。「ネーミングで、正体がばれる」って点も含めて。
  •  だが、ラフィの奴、頑として「改名・改称」を許さない。こういう時、あいつは全く頑固だ。 
  •  
  • (*2) 他に名前が無いのか、とこれも思うが、皆そう呼ぶんでね。 
  •  
  • (*3) 東洋の島国では「シナイ」とか呼ぶそうだ。これも何か、良いネーミングが欲しいのだが。 


 

  • . ラフィ様。大きく、お強くなられて・・・爺は、嬉しゅう御座います(*1)。

 元々、ラフィ・アイレンテール嬢が生き延びて、「末永く幸せに暮らしました。」と結論づけたいために書き始めた小説である。そのために、アイレンテール卿には若い頃に放浪の旅をしてもらったし、剣の腕も相当に立つ、事にした。魔法師団も見学して貰った。
 章題にした通り、ラフィ・アイレンテール嬢も、特に(本小説上は明記していないが)バルトレーンは魔術師学院にて、「治癒魔法の極意を極める」ぐらいの才を発揮した上、「旅の治癒師」にこそなれなかったモノの、「正体不明の仮面治癒師」として、レベリス王国内外を含めて神出鬼没の活躍をしている(*2)・・・ってしょうもない裏設定まで作った。
 ラフィがシュプールに出会ってから15年後の設定(*3)だから、ラフィ様も30代に手が届こうって所。ではあるモノの、そのバイタリティと好奇心は益々磨きがかかり、「仮面治癒師」、「アイレンテール道場の女先生 兼 女経営者」、果ては「スフェン教会に対する宗教改革者(の卵)」って盛りだくさんの設定も付けた。
 
 正直、ラフィ様がここまで強く、たくましく、強かになるとは、書き手である私自身が予想していなかった。
 
 だが、これならば・・・スフェン教会相手でも、充分勝算が成り立つだろう。
 
 やっぱり、ラフィ様、凄ぇ。


<注記>

(*1) 
「誰が、”爺"じゃぁ!」って、突っ込み希望 

(*2) で、治癒魔術を使ってぶっ倒れるラフィを担いで逃げおおせるのが、「従者」シュプールの役目、って裏設定も。 

(*3) 漫画版で、シュプールとベリル氏が直接対決する時点。 
 

片田舎の衛兵隊長、剣術師範になる。
 

 偶に居るのである。「死んで欲しくない、幸せに長生きして欲しいが、死んでしまう、ヒロイン」ってのが。

 一例を挙げるならば、シェークスピアの「オセロ」のヒロイン、オセロ夫人たるデスモテーナだな。あれだけ立派な貞婦を、オセロの馬鹿野郎は部下の口車にまんまと乗せられて、あろうことか妻・デスモテーナの不貞・不義を疑い、確信し、その勢いで手にかけて殺しちまうんだから、オセロの罪は万死に価する。自刃なんか許すべきではなかった。

 

 まあ、思い起こせば、私(ZERO)が「死んで欲しくない、長生きして欲しい」と願うのはヒロイン=女性ばかりで、余り野郎=男性に「死んで欲しくない、長生きして欲しい」と思うことは無いようだ。ある種の「性差別主義」かも知れないが、「だから、何?」である。

 

 さはさりながら、「死んで欲しくない、幸せに長生きして欲しいヒロインが、死んでしまう」からこそ悲劇であり、ドラマである、ってのはある種の真実だ。シェイクスピアに限らず「悲劇」とは古今東西そう言うモノであり、「末永く幸せに暮らしましたとさ。目出度し、目出度し。」って話ばかりではない、のも事実だ。

 

 だが、逆に、「末永く幸せに暮らしましたとさ。目出度し、目出度し。」が「昔話の定番のエンディング」であると言う事実は、「ハッピーエンドが、エンターテイメントの基本」という説を裏付けるモノである。悲劇は悲劇で、相応の需要も在るのであろう(*1)が、「登場人物達は、皆幸せになりました。」と断定断言したのは「るろ剣」こと「るろうに剣心」の和月和弘だし、島崎和彦も似たようなエンディングを描いている。

 

 であるならば、「片田舎のおっさん、剣聖になる」の漫画版6巻の「メインヒロイン(*2)である、ラフィ・アイレンテール嬢の死」を受け入れ難い私(ZERO)が、斯様な「ハッピーエンド」を小説として描き出すことは、許容されるべきであろう。

 

 否、許容しろ。

 

 否々、許容されずとも構わない。断行するのみだ。

 

 こういう時、テキストオンリーベースの小説って媒体は、便利だよな。漫画描くには画力も器材も要りそうだし、アニメや映画やドラマとなると途轍もなく手間も金もかかる。最近はCG動画って手もあろうが、これも相当な器材が要りそうだし、それ以上に、私(ZERO)自身に才能も訓練も無い。

 

 だが、小説ならば・・・私(ZERO)の土俵、私(ZERO)の主戦場だ。

 

 Now We START.

 

<注記>

 

(*1) ホラーモノとか、怪獣モノとかでは、斯様な「バッドエンディング」と言うか「これで最後じゃ無いぞエンド」が定番であるらしい。 

 

(*2) サブヒロインとしては、フィッセルとクルニが居る。が、メインはどう考えても、ラフィ様だろ。 


 

  • 小説「片田舎の衛兵隊長、剣術道場師範になる」

  • (1)察知(シュプール)

 危ないところだった.間一髪ってヤツだ。

 一寸前から妙な連中がウロチョロしていたことは知っていた.どうも、アイレンテール邸への侵入を狙った偵察・下見らしいことも、見て取れた。
 何故「見て取れた」かというと、似たような仕事を俺自身、嘗て経験したから、だ。
 一般的に盗賊とか強盗とかやる奴らは、世間一般が思う以上に組織化され、分業化されている。一件の「ヤマを終える」=「強盗なり窃盗なりの犯罪を完了して、分け前を分配して、解散・逃散する」までには、相当な準備と手間と時間をかけており、「対象とした家屋の下見・偵察」ってのはその一環だ。
 ウロチョロしているのを知りながら、それを放置して泳がせたのは、そいつらをふん捕まえても黒幕は割れない、と考えたから。こんなことが「判る」のも、嘗てこんなことをやったことがあるから。全く、世の中、何が役に立つか判らんよな。
 まあ、それだけ屋敷の警備にも、自分自身の腕にも、相応に自信があったから、でも在る・・・後から考えると、随分な慢心で、冷や汗ものだけどな。
 賊の目的は金品か、「何処の馬の骨とも知れず、当然平民出でしかないクセに衛兵隊長になり、今度は騎士の身分になって、領主令嬢の婿になる。ゆくゆくは、アイレンテール領主にさえなりかねない」俺自身だろう、と当りを付けていた。だが、こちらに向かってくるなら望む処では在るが、金品となると、ラフィやアイレンテール卿・・・「お義父さん」と呼ぶべきかも知れないが、まぁだ馴れない。「親父さん」の方が、しっくり来る・・・の身に危険が迫る事も、考えられた。

 ラフィに心配かけるのは心外だったので、「親父さん」には一言言うことにした。思えば、その「一言」が俺たちの運命を分けた、ことになるかな。
 屋敷へ侵入を企む輩が居るようなので、警戒し、万一の場合は即座に逃亡するなり隠れるなりするように言うと、「親父さん」は珍しいぐらいに険しい表情となり、ラフィも含めて「家族会議」を開く、と宣言した。
 その晩、夕食後の「家族水入らずの団欒」って事にして、徹底した人払いと厳重な警戒下で実施された「家族会議」で、「親父さん」は、「屋敷への侵入を狙う(らしい)連中」が、「実はスフェン教会の手先」である可能性を明言した・・・
 国教であるスフェン教の教会を、「危険視」どころか「敵視」していると解釈されかねないこの発言は、「スフェンドヤードバーニアの一地方領主の発言」としては、「不穏当」どころではない。然るべき所に漏れたら、それだけで宗教裁判沙汰になって、十中八九火あぶりだ。
 宗教裁判、特に異端宗教裁判は、「火あぶり」以外の判決を出すことは、滅多に無い。
 アイレンテール卿として、「模範的な領主」と言って良い親父さんは、スフェン教の熱心な信者としても知られている。無論、アイレンテールの領主としては、それも「模範的」の一環なんだが、それ故にこそ、親父さんの「反スフェン教会的発言」は、俺を驚かせた。

 だが、俺をもっと驚かせたのは、ラフィだ。このお嬢さん、教会が屋敷を狙っているらしい、と聞いた途端、アッサリと言ってのけたんだ。
 
 「じゃぁ、逃げちゃいましょ。」

 「どうせ大した財産は無い。」とか、「シュプールとなら、何処でも生きていける。」とか、甘い考えと甘ったるい科白に、俺が何も言えないで居る間に、ラフィの奴、すっかりこの「領外逃亡」論で盛り上がってしまい、遂には「旅の治癒士として国中を廻る」とまで言い出した。
 唖然、呆然。半ば以上途方に暮れる俺を尻目に、親父さんは何処か寂しげな微笑みを浮かべて、語り出す・・・親父さん、今日のこんな事態を予想し、覚悟していたのか。

 「ああ、ラフィ。よくお聞き。確かにこの屋敷も領地も大したモノでは無いよ。
 だが、このアイレンテール領に暮らす領民は、確かな宝だ。我がアイレンテール家が、代々守り通してきた、財産だよ。
 だから私は、此処を離れない。此処に暮らす領民を、守らねばならないのだよ。
 そう、時として、教会からも、ね。」
 そう語る親父さんの表情は、今まで見たこと無いようなモノで・・・俺は、親父さんの領主としての苦悩を垣間見た思いだった。

 今更ながら、ではあるが。
 そりゃ、単に「娘(ラフィ)に甘いだけの、育ちの良いボンボン」で無いことぐらいは、俺だって承知していた、のだが。
 
 「シュプール。ゆくゆくはお前にこの領地も領民も任せる心算だったが、どうやらそれは適わないようだ。」
 親父さん、俺の方に向き直ると、今度はヒドく厳めしい顔つきで語り始める。相変わらず俺は、返事すらロクに出来ない。そりゃ、ラフィと結婚する、それも「嫁に取る」では無く「婿になる」だし、アイレンテールの名を継ぐことも「次代の領主」と目されることも、想定はしていたが・・・正直、全然実感が無かった。
 それを言うなら、あのラフィが、俺の結婚相手となり、ラフィと晴れて夫婦になるって事自体が、未だに「実感が湧かない」ところなんだが。
 「だから、と言う訳では無いが・・・ラフィを、頼む。」
 「・・・拝命致します。領主様。」
 辛うじて出てきた俺の科白は、我ながらぎこちなく、しゃちほこばっていたが、これがその時点での俺の精一杯だった。
 そんな俺に、思い切り気合いを入れてくれたのは、親父さんだった。一寸近づいてきた、と思ったら、目にも止まらぬ早業で、俺の背中を一はたき、返す刀で胸ぐらを拳で小突いた。今思い出しても、あの時の親父さんの動きは、尋常ではない。
 或いは、それほどに俺が動揺していた、ってことか。
 「違うだろう。シュプール。お前の言いたいことは、そんなこと、そんな科白じゃぁ、無いはずだ。」
 イタズラっぽく、と言うよりは、悪賢く見えるような盛大な笑みは
、これも俺が初めて見る親父さんの表情だが・・・そう、この人は、ラフィの父親なんだよな。

 「・・・判ったよ。親父・・・・任せてくれ。」

 漸く出てきた俺の科白に、今度こそ親父さん、破顔一笑してみせた。
 ああ、俺は衛兵として、衛兵隊長として、この人に仕えながら、この人から学んでいなかったことの、何と多かったことか。「人を見る目」には、相当に自信があったんだが、一寸自信喪失だ。
 
 一頻り笑い終えた親父さん、今度はラフィの方に向き直って、また別種の笑みを浮かべながら、語りかけた。

 「ラフィ。お前の言う、"旅の治癒師として国中を廻る”と言うのは、危険すぎて非現実的だ。
 スフェン教を国教とするこの国で、教会の魔手を逃れることは、先ず無理だ。旅の先々で"治癒師"として活動するなら、尚更だ。」
 親父さんの笑顔に、悲しみ、寂しさの色が濃くなる。
 「・・・国外逃亡、しかない。レベリス王国へ行くが良い。」
 国外ってのは、流石のラフィにも想定外だったらしい。
 「お父様!」
 悲鳴にも似たラフィの叫びにも動じず、親父さんは静かに言葉を紡ぐ・・・多分、これも、昨日今日考えついたことじゃぁ無いはずだ。
 「かの国では、スフェン教会の言う”奇蹟”を、”神のみ技”では無く、自然現象として、学問の対象にし、研究している。
 そのため、魔術="奇蹟"を使う者は、国として手厚く厚遇されている。
 その首都バルトレーンで、魔法師団のルーシー師団長を訪ねると良い。ラフィほどの治癒師=治癒魔術の使い手ならば、徒や疎かにはしない、筈だ。」

 「連絡はしておく。一度お会いしたきりだから、少なからず心許ないが・・・最良の方法だと思う。
 どうかな。」
 ラフィの奴は、不満タラタラどころでは無い、爆発寸前のふくれっ面だが・・・暫くその爆発寸前を維持したまま、口を閉じて黙っていた。目には一杯に涙をたたえているが、あの可愛いお団子頭の下で、小さな灰色の脳細胞がフル回転していることは、付き合いの長い、もとい、深い、俺には判った。

 「・・・ルーシー師団長も、魔法師団も、少しは知っています。確かに、お父様の言う通り、最良の方法かも知れません。」
 呟くように返したラフィは、此処で一息入れると、声を張り上げた。
 「でも、お父様だけ置いて、シュプールと二人で国外逃亡とは!」 そう言いつつも、言葉を途切らせたのは、ラフィ自身が「最良の方法」と認めたって、ことだ。それぐらいは、俺でも判るんだ。親父さんなら尚更だろう。
 「効果十分」と認めのだろう。再び親父さんは俺の方に語りかける。今夜は、親父さんの独壇場だな。

 「シュプール、お前には悪いが、悪役になって貰うぞ。
 領主の娘を誑かし、金銀財宝、あわよくば領主の地位さえも狙い、殺そうとした、悪役だ。
 その陰謀が発覚して、娘だけ攫って逃走する、って役柄だ。当然、お尋ね者になるし、国内で捕縛されたら、死刑は免れないだろう。」

 ヒドい言われようだが、不思議なぐらいに腹は立たない。親父さんの言葉に、親父さんの覚悟が、感じられたから、かも知れない。
 
 「我がアイレンテール領の領地領民と、ラフィを守るため、だ。
 この筋書きなら、国外逃亡しおおせる以前に捕縛されても、ラフィだけは、助かる。当面は、だが。
 酷く損な、分の悪い役割だが・・・頼まれてくれないか。」

 「おーとーさーまー!」
 ラフィの科白は妙に陰に籠もっている。つい先刻までの「爆発寸前のふくれっ面」から切り替えて、「邪悪な怒り」を露わにしている。いつもながら、このラフィの表情の豊かさと瞬時の切り替わりは、見ていて惚れ惚れする。
 「シュプールが死んだら、わ・た・し・は・・・・」
 その先は想像が付くが、絶対に止めてくれ。俺は悲鳴を上げそうになった。
 が、親父さんの方が早かった。
 「無論、そうならないように全力を尽くすのが、私の役割だよ、ラフィ。
 私は、”娘を攫われ、命まで狙われた”領主として、その下手人たるシュプールを持てる限りの全戦力で追わせる。
 明後日の方向に、な。
 ああ、教会にも至急応援を依頼しよう。」
 この策には、さしものラフィも呆気にとられたらしい。驚愕の表情で固まっている。「呆気にとられたラフィ」ってのも、相当に貴重なシロモノだ。
 今夜は、驚かされることばかりだな。
 「さて、目的地は決まった。捜索・追撃は早い段階に始まる。誤誘導はするが、それを含めて、脱出路は慎重に選ぶべきだろう。
 地図が要るな。バルドレーンまでの。・・・ああ、これだ。」
 親父さん、壁際の書棚を引っかき回す、程もなく、必要な地図を広げ、並べて見せた。アイレンテール領ばかりでは無く、スフェンドヤードバーニア国にも止まらず、レベリス王国首都・バルトレーンに至る地図を。
 「万全を期するためには、な。”三重化”するそうだ。つまり、脱出路も三系統用意するのが望ましい。
 私の考えでは、その三系統とは・・・」
 親父さんの新たな面を目の当たりにしながら、俺は、「領主ってのは、とんでもない仕事だな。」と、妙なことに感心していた。

 いや、そりゃ領主に依るし、領地経営にも依るのだろうけれど。
 

  • (2)計画(アイレンテール卿)

  「屋敷を狙っている者があるようだ。」と、シュプールから聞いたとき、「来るべきモノ」とは言わないが、「想定された事態」が現実化した、と考えた。ラフィが、スフェン教会の誘いを断り、「奇蹟の対象」を自分で選ぶと宣言したときから、こうなることは、「ありうる事態」だった。
 スフェン教会が「奇蹟」と呼び、「神のみ技」とするラフィの才能は、スフェン教の支配及ばぬ異国の地では、「魔法」とか「魔術」とか呼ばれて、場所によっては学問・研究の対象になっている。
 斯様に公言するだけで、スフェン教会からは「異端」とされ、火炙りにされかねないのだが、「学問・研究の対象」となり、研究されているのは、紛れもない事実だ。また、その成果として、「魔術師」を集め、教育育成し、その魔力・魔術を強化して居る国もある。
 いや”魔術師を集め、教育育成強化している”と言う点では、スフェン教会も遜色ないが・・・異国で言う「魔術」を、スフェン教では「奇蹟」と言い替え、「スフェン神への信仰」と結び付け、それ故に「”魔術師”を集める」のも「”魔術師”を教育育成強化する」のも、スフェン教会が一手専売・独占している。

 そして、「”奇蹟”を一手専売・独占しているスフェン教会」としては、教会とは独立した「奇蹟」と言うのは、甚だ都合が悪い。

 ラフィの「旅の治癒師」構想も、「奇蹟の対象は自分で選ぶ」宣言も、教会からすれば「異端」って事になる。スフェン教が国教で、民も貴族も王も敬虔なスフェン教徒ばかりのこの国では、「異端」も滅多に無いし、「異教徒」はもっと珍しいから、無理もないのだが、異端・異教徒に対する教会の仕打ち・仕業と来たら・・・「筆舌に尽くし難い」とは正にこの事だ。

 そんな「教会の仕打ち・仕業」を、私が知っているのは、若い頃に国の内外を問わぬ、我ながら長い放浪の旅を許してくれた、前領主たる父のお陰だ。スフェン教会の支配及ばぬ異国や、比較的新しく我が国に併合された「元異教の地」を旅することで、「筆舌に尽くしがたい教会の仕打ち・仕業」も、数多の出会いや経験と共に、学ぶことが出来た。
 
 そのお陰で、ラフィの身に教会の魔手が伸びるであろうことも予測出来た。シュプールの報告は、その予測と、他の幾つかの情報を裏付けるモノで、決定打と言えた。
 その日の夜、夕食の後、厳重に人払いした「家族会議」の席で、スフェン教会が「賊」として我が屋敷を狙っている可能性を告げた。
 シュプールは、少なからず驚いているようだった。
 ラフィが驚かなかったのは、一寸した驚きだが、アッサリと「領外逃亡」を言い出してくれたことは、助かった。我が娘ながら頑固だから、「教会との全面対決」とか、「アイレンテール領全土全領民を挙げての蜂起」とか言い出さないかと、一寸、イヤかなり、心配していたのだ。
 ラフィが言い出せば、きっとそれは、実現してしまうから、でもある。
 以前から語っていた「夢」、「旅の治癒師」構想を語ってくれたのも、実に好都合だった。私としても少なからず言い出し難かった「国外亡命」構想を、かなりスムーズに切り出せた。
 その後のラフィの反発は、予想の範囲に止まった。何しろ頭の良い子だ。順に理を説いて聞かせれば、判らない筈は無い、とは確信していたが。
 その後の計画、特に逃走経路の三重化と精緻化には、ラフィの知識が大いに役立った。我が領地内なら未だしも、外国であるレベリス王国の内情まで、何処でどう知ったのやら。
 
 思わないではなかった。ラフィが教会の誘いを無碍に断らず、「教会の推奨する”奇蹟”対象に対する拒否権」程度で妥協して教会と折り合いを付けてくれていたら・・・領主夫人にして「大奇蹟の具現者」となり、シュプールと二人でアイレンテール領と領民の安寧をはかってくれたら、我が領地は、アイレンテール家始まって以来の繁栄を極めた、のではないか、と。
 「アイレンテールの聖女」なんて二つ名が、頭をかすめたことも、一度や二度ではない。
 
 だが、ラフィは、その技「奇蹟」の対象を、自らの意志で選ぶと
宣言し、教会の介入を拒否した。その「自由」の意味も意義も、私には理解できた・・・これも、再三の長旅を許してくれた父=先代領主のお陰、でもある。
 
 その「自由」は、スフェン教会との全面的対決を惹起し、国外亡命を余儀なくさせる。
 だが、ラフィの技、「大奇蹟」、異国で言う「治癒魔術」は、その国外亡命では大いに役立つ、可能性がある。
 そこから捻り出したのが、「レベリス王国への亡命」であり、「ルーシー魔法師団長を頼ること」である。
 前者は兎も角、後者は随分と無理のある、無茶な計画だ。何しろ魔法師団長とは「面識がある」という程の縁は無い。あちこちほっつき歩く旅の途中で、偶々魔法師団を見学し、その際「多くの見学者の一人」として、お目にかかったきり、なのだ。 
 ああ、「スフェンドヤードバーニアからも、見学者が来ております。」って案内役の言葉に、「ほう。此処で教えているのは、”神のみ技”ではなく、”人の知恵”としての魔術、なのじゃがのう。
 スフェン教会から”異端”扱いされぬよう、見学も、報告も、慎重に、な。」そう言って、高笑いされていたのは覚えている。
 見た目はどう見ても10才かそこらの、少女と言うより幼女なのだが、その迫力、貫禄。オーラとも魔力とも言い難いモノを、かなりの距離を隔てていても感じたこと、も。
 「あのお方が、ラフィとシュプールに助力して頂ければ・・・」言葉にするそばから、儚い望みだと思う。向こうはこちらの顔も名前も、覚えて居るどころか、ハナから知りさえしないだろう。
 だが、ラフィの「大奇蹟」とも言い得る強力な「治癒魔術」ならば・・・少なくとも「路頭に迷う」様なことはあるまい。

 決行は、シュプールの叙任式当夜、とした。アイレンテール領あげての大宴会、になる筈だ。領主たる私は、そこでしこたま酔っ払い寝入りばなを「賊」に襲われる。「賊」がシュプールだと気付いた私は、娘のラフィも居ないことを知って、怒り心頭。支離滅裂な指示を出し、「結果として」ラフィとシュプールの逃亡を助ける。そう言う筋書きだ。
 
.

  • (3)逃亡(シュプール)

 叙任式は無事に済んだ。やれやれだ。諸々の計画をこの日に合わせていたから、一晩延びても都合が悪かったし、それ以前に「賊」=スフェン教会の襲撃を受けてもマズかった。
 叙任式当夜、次々に差し出される祝杯、返杯をナントカ誤魔化してなるたけ飲まないようにして、打ち合わせ通りの時間にラフィの寝所へと走った。
「時間」は親父さんが渡してくれた機械仕掛けの時計であわせた。日の出と日の入りを基準にして、教会の鐘が知らせてくれる日常的な時間と、機械仕掛けで一定間隔(多分)の時計とは、「しょっちゅう調整しないといけない」のが常識だが、俺たちの間でタイミングを計るのには持って来いだった。
 行きがけに物陰から飛び出してくる奴があった。不意の殺気にとっさに放った一撃で、其奴は声もなく絶命した。が・・・いつぞや屋敷を探っていた「賊」の一人だった。
 それに気づいた俺は、少なからず慌てた。実際の襲撃と「計画実行」が重なったらしい。先ずはラフィの安全を確保して、その上で、親父さん、だ。
 ラフィの寝所に音を立てないように忍び込むと、俺は囁き声でラフィを探した。「ラフィ。起きろ。奴らの襲撃と重なった。先ずは逃げろ。次に親父さ・・・」
 俺の言葉は止まり、口は開けっぱなしになった。窓からさし込む月明かり星明かりから、ラフィが計画通りに闇夜に溶け込む暗色の衣服なのは知れた。が、問題は、その上、小さく乗った頭の、上だ。未だフードを被って居らず顔も頭もうなじも剥き出しのラフィの頭頂部に、「
お団子」が、無い。

 「大丈夫。襲撃が重なるのは想定内よ。父はああ見えて、若い頃結構なやんちゃしてたそうだし、起きて待ち構えていれば、そんじょそこらの夜盗ぐらいじゃ・・・ああっ、これ?」
 ラフィの言葉も耳に入らぬまま、バカみたいに口開けて固まっている俺の表情に、ラフィは自分の頭頂部に手を当てて、続けた。
 「逃げるのに、邪魔でしょ。
  それに、髪を切っていれば、”男”って言い張ることも出来るし。男女二人連れよりも、男同士二人の方が、旅では目立たないでしょ。」
 いや、それは、髪型だけの問題じゃないから、無理があるだろう。
 「”髪は女の命”って言葉もあるんだぞ・・・」俺の口から悲鳴のような科白が漏れたが、どうも今の状況には似つかわしくない。
 「何よ。髪なんて、放っときゃ伸びるわよ。伸びてから式挙げれば良いでしょ。 
 私の命は、そんなに安くありませんよぉっだ。」
 ベッと舌を出して見せるラフィも、やっぱり今の状況には似つかわしくないが。
 「さっ、当面生き延びないと、髪伸ばした私は拝めないわよ。サッサと逃げて、生き延びるわよ。」
 全く、このお姫様と来たら・・・・いや、このバイタリティ。この活気。このエネルギー。これでこそ、俺の嫁さんか。

 「よぉし。走るぞ、ラフィ。」
 俺は俺自身に気合いをかけるようにして小声ながらも檄を飛ばす。

 「了解、シュプール。」
 だが、ラフィはそれだけでは済ませなかった。

 「だ・ん・な・さ・ま・?」

 いや、一寸、今は止めてくれ、流石に。
 

  • (4)「発覚」(アイレンテール卿)

 「瓢箪から駒」とか「嘘から出た真実(まこと)」とか、東洋の島国では言うそうだ。何とも奇妙な言い回しだが、真実を言い当てているのかも知れない。
 二人の「逃亡発覚」のタイミングを計っていた私の寝所に、闖入者があった。無論、シュプールではない。それも、二人も、だ。
 私も寝入っていたら、到底ダメだったろう。だが、今夜はあいにく私は起きて居り、しかも随分と神経を高ぶらせ、張り詰めていた。「寝ている」事になっていたから寝所はろくに灯りも無く、第一私は寝台に横になってなど居なかった。「寝ている」かの如く見える様になっていたのは、半ば偶然、半ば用心だった。
 だから、闖入者達が放った「必殺」の一撃は、モノの美事に空振りで、高価な寝具を切り裂いただけに終わった上、一人は私にその首を差し伸べる形になった。
 無論、そんな首を落とすのに、躊躇も情けもない。何時聞いてもイヤな音を立て、その首は床に転がった。
 もう片方の闖入者は小さく悲鳴を上げ、逃げようとした、が・・・この場に「シュプールが居ない」ことを証言する口は、封じなければならない。背後からの突きは心臓を貫き、こちらももう一つ小さく悲鳴を放っただけで、絶命した。
 機械式時計を見ると、頃合だ。実に良いタイミング。襲撃してくれたスフェン教会に、感謝したいぐらいだ。
 いや、未だ賊や、賊のシンパが屋敷内にいる可能性はある。ちゃんと、仕上げはしないと、な。
 「誰や、ある!賊じゃ!!侵入者じゃ!!!」。
 大声を上げ、灯りを大きくする。闖入者共の流す血が、寝具も寝所も台無しにしてくれているが、仕方が無い。
 更に一段と大きく、私は声を張り上げる
 「シュプールが!!シュプールが!!!
  はっ、ラフィは何処じゃ、無事かぁぁぁ!!!」

 さて、これで騒ぎが大きくなる。我が衛兵隊の中に潜んでいる可能性が高いスフェン教会の手先も、そうおいそれとは手を出せなくなる。衛兵隊がスフェン教会に未だ完全掌握されていなければ、だが・・・そこは「賭け」だ。が、分の悪い「賭け」ではない、と思っている。
 第一、私は今や、起きて武装ししかも激昂している。そこらの剣士風情ならば、目に物見せてくれるぞ。
 

  • (5)逃亡2(シュプール)

 「シュプールが!!シュプールが!!!
  はっ、ラフィは何処じゃ、無事かぁぁぁ!!!」

 遠くに聞こえる親父さんの「悲鳴」に、俺は少なからず安堵していた。「兎も角逃げる。」「想定内だから、大丈夫。」とラフィに促され、半ば以上強制されるようにして早馬に跨がり、計画していた逃走路(正確には、逃走計画140A4。(*1) )に届いた親父さんの怒声は、親父さんの無事と健在を、何よりも明白に証拠付けていた。

 早馬で駆けながら、ラフィの馬に寄せて、可能な限り小声で俺は声をかけた・・・と言っても、走る馬上からだから、結構な音量だが。

 「襲撃が重なったこと以外は、今の所順調だな。」

 ラフィを元気づける、心算だった。親父さんは無事だし、此処までは順調。元気を出し、勇気を出さねば、この先やっていけない。
 装備も補給も万全なまま、士気崩壊して壊滅潰走する奴らを、俺は目の当たりに見てきたんだ。空元気も元気のウチ。空でも兵を元気にするのが、指揮官ってもんだ。
 俺みたいな「人の上に立つ」なんて柄じゃないのが、曲がりなりにも衛兵隊長様なんて勤められたのは、人より「元気にする」才が在ったから、或いはそう言う方向に努力を向けたからだと、俺は思っている。

 だが、ラフィは、ウチの嫁さんは、ハナっから「人の上に立つ」べく生まれ、育てられ、生きている、って事を、俺はちょっとの間忘れていたようだ。

 「今の所は、ね。
  でも勝負はこれからよ。油断しないで。
  行くわよ。バルトレーンへ。」
 そう言うとラフィは、こっちが心配になるぐらいの大声張り上げて、高らかに宣言して見せた。

 「なるわよ。"旅の治癒師"!!!」

 いや、だから、声、デカいって。
 全く、ウチの嫁さんと来たら。
 もとい、ウチの嫁さんだから、か。

  • <注記>
  • (*1) 他に幾つ逃走計画があったかは、聞かないでくれ。俺も覚えていない。 

 

  • (6)「棄教」/結婚(ラフィ様)

 逃亡生活は、苦難の連続だったわ。一晩中、馬を飛ばしたこともあったし。替えの馬が買えずに、盗み取ったことも。貧乏暮らしは覚悟していたけれど、盗人にまでなるとは、流石に想定外だったわ。
 それでも、その後襲撃を受けることも無く、誰かを殺す羽目にも陥らず、着の身着のままながらもレベリス王国首都・バルトレーンに到着できたのだから、かなりの幸運だった、と言えそうね。終盤の数日間は、路銀も使い果たして、野宿の連続。バルトレーン到着時には、二人とも餓死寸前って体だったわ。

 ルーシー師団長私邸は、すぐに見つかったわ。首都でも屈指の豪邸で、半ば観光名所になっていたから、即座に見つかったわ。
 到着したのは夕刻だったわね。当人が在宅かは不明だったけど、ダメ元よ。こっちは、「では改めて」なんて呑気なこと言ってられる立場じゃ無い。此処バルトレーンにもスフェン教会がある以上、一刻の猶予も無かったわ。下手すると、レベリス王国入国以来、後ろに手が回るようなことは控えて来た努力が水の泡となり、殺人だか傷害だかでこの国でもお尋ね者になりかねないのよ。それも、自分たちが死体になるって事を免れる幸運があったとして、よ。
 だから、私は真剣で大真面目だった。喩え傍から見たら、ざんばら髪の男か女かも判らない乞食が、豪邸の門前でイチャモン付けておこぼれを貰おうとして居る、としか見えなくても、ね。
 「スフェンドヤードバーニア国・アイレンテール卿が娘・ラフィ・アイレンテール。ルーシー師団長にお目通りの栄を賜りたい。取り継がれよ。」
 我が声ながら、空きっ腹に響いたけど、耐えたわ。
 逃走開始前に断髪して、お団子を切り落として仕舞ったことを、この時初めて悔いたわよ。あのお団子は、私の勇気と活力の貯蔵槽見たいなモノで、あれさえあれば、ネイムドモンスターとだって対峙出来る、と、今更ながら悔いたわ。

 当然の如く、何の反応も無い・・・どころか、門衛や守衛の姿さえ見えないのだから、「誰も聞いていない」と考えて、私は一段と声を張り上げ・・・様として、耳元で囁かれたわ。
 
 「大声出すでない。近所迷惑じゃ。
  話は聞いて居る。門は開いている。入るが良い。」
 思わず辺りをキョロキョロ見回したわ。シュプールも同じようなことをしていて、二人で顔を見合わせた、所へ、また声が囁いた。

 「声を飛ばす魔法じゃ。使いように依っては、便利じゃろ。」

 かなりイタズラっぽい笑いを含んだ声。声音は、幼女のモノ。だけど、科白はかなり傲岸不遜というか何というか・・・まあ、情報通りで、父の話通り、なのだけど。
 でも、父がお会いしたのは20年も前の話。「魔法で容姿を若く保っている」って話だけど、限度ってモノが・・・無いのかも知れないわねぇ。魔法師団長ぐらいになると。
 シュプールと互いにうなずき合って、門扉に手をかけたわ。勝手に動いたんじゃ無いかと言うぐらいに軽く・・・いや、実際勝手に動いたんだと思うわ。兎も角、扉は開いたわ。「魔法師団長」って肩書きは、伊達ではない、ってことね。
 「屋敷の入口に、案内の者を送る。先ずは風呂じゃな。それから食事。
 話は、その後で聞こうぞ。」
 同じ囁き声(三度目は、流石に馴れたわ。)の「食事」って単語を聞いて、お腹が鳴ったのは、かなり恥ずかしかったわ。それをシュプールと、それに多分、ルーシー師団長に聞かれたってのも。
 とは言え、取り敢えず「第一関門」突破ね。ルーシー魔法師団長。相手にとって不足無し、よ。

 ああ、でもやっぱりお団子、欲しかったなぁ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 屋敷に迎え入れられてからは主導権は握られっぱなしだったわ。
 
 最初は、風呂。屋内に風呂桶を設える王宮があることは知っているし、国や地域では毎日風呂に入る習慣があるところもある、とも知っているわ。
 でも、スフェンドヤードバーニアはそんな地域ではないし、風呂=入浴は、日常と言うより「イベント」に近いモノよ。風呂桶はあっても、そこにお湯を張るのは、並大抵のことではないわ。事情、習慣、気候は、レベリス王国でも、大差は無い、筈よ。
 で、あると言うのに、案内された地下にあったのは、浸かるどころか泳げそうな、最早「風呂桶」などでは無く、「池」と言って良い広さの所に、満々とたたえられた湯だったの。しかも、何処かからその湯が絶え間なく供給されているらしく、「池」のお湯は常に溢れ続けているのだから、驚異よねぇ。
 後に知ったのだけど、転移魔法で火山地帯の地熱で熱せられた地下水を「取り寄せて」居るそうよ。魔法を止めれば、お湯も止まる、のだそうね。だけど・・・理屈は判っても、未だにこの現象は馴染めないわ。
 風呂上がりには、用意された衣服に着替えたわ。今まで着て、馴染んでも居たボロ着は取り上げら得てしまったので、仕方なく着たけど、アイレンテール領では見たことも無い様な豪華絢爛たる衣装で、しかも誂えた様に私の身体にフィットしたわ。多分、これも魔法が絡んでいるのだろう、とは思ったけれど、どんな魔法がどう絡んでいるかは、当時の私には想像することさえ出来なかったわ。
 着替えの後は、食事よ。此処でやっとシュプールと再会出来たわ。風呂がシュプールと別だったのは、正直有り難かったけれど(未だ、「結婚前の乙女」、だったからねぇ。)、シュプールの方は「湯の溢れる池」では無く、蒸し風呂だったそうよ。
 って事は、この屋敷、若しくはこの屋敷から通じている場所には、あの「湯の溢れる池」以外に「蒸し風呂」もある、と言うことね。
 ここまで驚かされっぱなしだったから、食事の方は意外なくらいに普通、と言ったら怒られそうだけど、常識と知見の範囲に止まっていたわ。まあ、二人とも餓死寸前の空きっ腹だったから、スープやお粥程度の消化の良い食事から始めないと、トンデモナイコトになり得る、と知識としては知っていたから、出された料理は慎重に口に運び、じっくり噛み、シュプールにもそうする様に注意したけどね。
 食事が一段落し、二人とも食後のお茶・・・これも、アイレンテールでは余り飲んだことの無いシロモノだったけど・・・を喫していると、不意に、囁き声ではない、でも同じ声が聞こえたわ。
 
 「どうじゃ、人心地ついたかの?」

 食堂の入口から入ってきたルーシー師団長を、起立して拝礼して迎えながら、私は今度も驚かされ、主導権を握られていたわ。話にも聞いていたし、情報通りだし、声もその通りだから十分予想していたのだけれど・・・本当に十歳かそこらの幼女の姿なのよ。

 「お目通りの栄を賜り、ありがとうございます。スフェンドヤードバーニア国はアイレンテール卿が娘、ラフィにございます。
 これなるは、アイレンテールが騎士・シュプール。我が、近い将来の夫にございます。」
 口上は、入念に練り上げていたから、淀みなく口を突いて出てきたわ。シュプールの方もそれに合わせて、騎士としての礼を返す。コチラの方は、かなり付け焼き刃だけど、シュプールとしては良くやっていたわ。
 ま、情報によれば、ルーシー師団長は格式礼式にこだわる方では無く・・・
 「ああ、堅い挨拶は良い。そう言うのは、もっと上の方の王侯貴族用に取っておけ。」
 手をひらひらと振って、追い払う様な仕草をしながら、ルーシー師団長は、二人が食事を取っていた長大な食卓の一角に座ったわ。座るときに、勝手にイスが下がって座りやすくしていた様だけれど、もう驚かないわよ。
 「で、事情は聞いて居るが、直接当人の口から聞きたい。聞かせて貰おうか。ここに来た訳を。」
 私は、話し始めたわ。スフェンドヤードバーニアで「奇蹟」に目覚めたこと。教会の誘いを断ったこと。教会の手の者の襲撃が予想されたこと。国外逃亡計画。その実施の際に実際に襲撃されたこと。ルーシー師団長に会うためにバルトレーンまで来たこと。
 道中のいざこざは省略したわ。馬泥棒を数件重ねたことも。まあ、どちらもこの人の魔術にかかったら、隠しおおせるモノでは無さそうだ、と思いながら。
 「フム。遠路はるばる、ご苦労且つ難儀なことであったのう。」
 取り敢えず、合格点は貰えそう、と思ったけれど、未だ油断は出来ないわ。身構えて次の言葉を私は待ったけれど、ルーシー師団長の矛先は変わったわ。
 「所でそちらの、”将来の夫”シュプール氏は、先ほどから一言も発して居らぬが、何か言うことは無いのかえ?」
 シュプール、一寸マズいわよ。慎重に答えて。私は視線でシュプールに合図を送った・・・心算だったけど、そこまで細かく打ち合わせては居なかったわ。
 「俺は、口も悪ければ、育ちも悪くてね。偉いさんとの会話は、ラフィの方が絶対間違いな・・・あ、"俺"は訂正。”私”だ。」
 シュプールぅぅぅッ。「俺」を訂正したのは、シュプールにしては上出来だけど。こんな事態を余り想定せずに来た、我が不明が悔やまれるっ!
 「フム。一理、じゃがの。
  斯様な事態に、"未来の夫"君から一言も無いのは、チト、無責任では無いかえ?」
 ルーシー師団長の科白も口調も、悪意なんか欠片も感じられないけれど、私の方は自分が受け答えしていたときより数倍も緊張していたわ。なにしろシュプールは、自分でも言っていた通り、「お偉いさんとの会話」なんて殆どやってない・・・ああ、お父様は別だけど。
 でも、お父様は、私のお父様で、シュプールにとっても義父なのだから、(イヤ、正確には未だ義父でもないんだけれど。)、「お偉いさん」度が違うわ。
 相手は、魔法師団長。レベリス王国きっての「お偉いさん」。その容姿が「せいぜい10才ぐらいの幼女」だからって、油断はしない・・・だろうけれど、心配のタネは尽きなかったわ。

 「其れもそうだ。じゃぁ、お・・私の方から、補足説明させてもらおう。
 そもそも、今度の一件、今回の逃走劇は、皆、俺、もとい、私のせい、なんだ。」

 "何言っているのよ、シュプール!!!!"と内心絶叫している私を尻目に、シュプールは話し始めたわ。私が最初の「奇蹟」=治癒魔術を使った、あの日のことを。
 魔物討伐に出動したこと。想定外の被害に被害極限を優先したこと。部下の配置と作戦と命令。その際に、一番危険な部署は自ら引き受けたけれど、それでも相当な損害を覚悟しないといけない配置を決断したこと。
 実際には、想定ほどの損害は無かったモノの、それでも瀕死の重傷者を出してしまったこと。
 魔物を掃討して、急いで負傷者を救助し、運搬したけれど、最重症の一人は「死に臨んで、家族に遺言を伝えるため」と考えて連れ帰ったこと。

 「お・・・私が今少し有能な隊長だったら、あいつはあんな重傷を負わず、ラフィに奇蹟=治癒魔術を発動・覚醒させることも無かったろう。
 逆にもっと無能だったら、あいつは死体になって帰って来たろうから、やっぱりラフィは覚醒しなかったろう。」

 言葉を切ったシュプールは、一寸苦笑いの様な笑みを浮かべて、続けたわ。

 「だから、今度の件は、ぜーんぶ、俺のせいなんだ。
 だから、この身はどうなっても良い。お尋ね者としてスフェンドヤードバーニアに引き渡しても良いし、処刑して首だけ送り返してくれても良い。
 だがラフィは、ラフィだけは、ナントカ保護して貰えないか。コイツの奇蹟=治癒魔術は、誰にとっても絶対に役に立つ。
 それに・・・」

 シュプールの笑い顔が、一寸変わった。苦笑いから、晴れやかな笑みに。

 「・・・奇蹟や魔法なんぞ関係なく、コイツは、長く生きなきゃいけない。生きて、この世を、照らさなきゃいけない。
 そう言う、スゲぇ奴、なんだよ。
 アンタなら、判ると思うんだが。」

 「シュプールぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
 もう我慢の限界だった。内心続いていた絶叫が、とうとう口から零れ出た。と同時に、今回の旅が始まって以来肌身離さず付けていた袖口のバネ仕掛けを作動させて、右手の中に抜き身の短刀を滑り込ませた。
 散々練習したのは、此処から腕を振り抜いての一撃だけど、今回は目的が違う。手首を返して、左の頸動脈に刃を当てる。首筋に伝わる鋼の冷たさが、私の頭の芯まで冷やしてくれる。
 そう、私は冷静だ。刃を己が頸動脈に擬して、ホンの一動作で己が命を断てる(筈)って状態で。否、そんな状態なれば、こそ。

 「取り消して、今の言葉。強制送還とか、処刑とか。そんなこと、私は認めない。そんなことになるぐらいなら、その前に、死んでやる。」

 何のためにここまで来たのよ。とっ捕まったら死刑確実の冤罪まで背負って。獣道とも呼べそうに無い様な間道を突っ走って。スフェン教会なんて大権力に楯突いて、目を盗んで。
 「旅の治癒師」なんて、手段よ。目的は、本質は、二人で生きていく事、でしょうが。

 それが何?一人だけ強制送還?処刑?ふざけるのも大概にしてよ!!

 「ラフィ。まあ、落ち着け。
 俺がスフェンドヤードバーニアじゃ、死刑確実なお尋ね者なのは事実だ。だから、それを利用した方が、ラフィの安全を高めるのなら、これを利用するのも手だって話で・・・」

 「貴男が死んで、私が生きているって状態が、どれ程残酷だと思っているの?!」
 私の絶叫は、最早悲鳴に近かった。頭は芯まで冷え切って、冷静そのものなのに、言葉は熱を帯び、涙声になってきた。そう言えば、さっきから妙に視界がぼやけるのは、涙が溢れているから、らしい。

 「地獄よ。想像すらしたくない。」

 頭が冷静で、身体が感情的、なんてことがあるらしいわね。私の頭は心底まで凍り付きそうなぐらいに冷静なのに、涙は溢れ、手は激情のままに震えて来た。お陰で、首筋を一寸切った見たい。血の流れが一筋、短剣から、手首に流れて、垂れ落ち・・・る途中で、空中で静止したわ。

 序でに手の震えも止まったわ。

 何か異変が起きている、とは悟ったけれど、悟っただけ。指先どころか、眉一つ、動かせないで居る自分に気づいたわ。

 「止めよ。そこまでにしておけ。
 イチャつくのも大概にせいよ。長年の独り身には、目の毒じゃ。全く。」
 ルーシー師団長の声は聞こえる。でも私は、そちらの方に視線を向けることさえ出来ない。声を発することも。彫像の様に凝り固まって、序でに血の一筋さえ、垂れては居るが、落ちない。何らかの魔法・・・「時を止める魔法」かしら?でも、それなら、なんで私には意識も自覚もあるのかしら。ウーン、謎。でも人が使える以上、何らかの理屈がある、筈。一体どんな理屈か、その時の私には判らなかったけれど。

 「先ず、ラフィ。シュプールの言うとおり、落ち着け。
 アイレンテール卿からは、シュプールのことも頼まれて居る。御主の”未来の夫”を害する様なことはせん。」
 小さく溜息も聞こえる。余程呆れさせた、らしい。
 「全く、アイレンテール卿からの警告が無かったら、事故になったかも知れぬわ。
 今、術は解いてやる故、先ず短刀を仕舞え。良いな。」

 "良いな"と言われても、こっちは頷き様も返事のしようも無い。
 が、不意に首筋からの血はこぼれ落ちて、テーブルクロスに一寸した染みを作ったわ。手の震えは納まっていたのを幸い、首筋から刃を外し、手首の装置を操作すると、短刀は元通り、袖口の中に収まったわ。
 シュプールさえ生きていれば、他のことは大抵どうにかなるわ。極端な話、ルーシー師団長を介してレベリス王国上層部に食い込み、スフェンドヤードバーニア国内に巣くうスフェン教会を直接ぶっ潰すのだって、何らかの方策・方法はありそうに思えて来たわ。
 
 「ラフィ・アイレンテール。御主は、実に面白いのう。シュプールの言う通り、治癒魔術以外にも色々才はありそうだが、先ずは、その魔術、じゃな。
 我がレベリス王国では、魔術を使える魔術師はいつでも大歓迎じゃ。御主は暫く、魔術師学院の学生となるが良い。その治癒魔術に更に磨きをかけるが、良かろう。」
 やっと動かせる様になった視界に捉えたルーシー師団長は、心底楽しそうだった。なんだか、新しいオモチャを見付けた子供みたい、ッて感想・感慨は、あながちその外見のため、だけじゃ無さそうね。

 「それと、先ほど見せてくれた袖口の仕掛け。あれは一度ゆっくり見せてくれ。」
 「ありがとうございます。師団長閣下。魔術の研鑽に勤めます。」
 と言うより、魔術というか、魔術理論・魔術学ってものに、俄然興味が湧いてきたのよね。此処へ来て以来の、幾つかの魔術の実践・実演・実体験で。
 「この仕掛けは、予備がありますので、一つ差し上げます。が、ご利用の際は、くれぐれも慎重に。」
 かなり強いバネを使って居て、素早く動くから、変なところに指があると、スパッと切り落としかねないのが、欠点なのよね、この装置。

 「次に、シュプール。御主は残念ながら、魔術の才は無い様だ。剣魔法とか始められたら、結構面白そうだったのにな。
 だが、他の才はある様じゃな。それに御主自身が言うほどには、悪人でも悪党でも無いぞ。」
 シュプール、なんだかふて腐れてる。可愛い。
 ま、あの人が悪人でも悪党でも無いのは、私がこの世で一番良く知ってるんだけどね。
 「まあ、何か考えよう。剣術師範とか、良いかも知れぬ。どうじゃ。」
 「生きてられるなら何でもする・・・何でもします。師団長閣下。」
 シュプールは一寸改まって、神妙に答える。神妙なシュプールってのも、結構「見物」なのよねぇ。
 「実際、大抵のことはやってきましたし。」
 ほぅら、またそうやって、悪人ぶる。可愛い。
 「所で二人とも。魔術師学院の学生寮は、男女別と、家族の寮がある。所帯持ちの学生も居る故、な。
 じゃが、家族寮には家族でなければ入れぬし、男女の学生寮には学生自身しか入れぬ。」
 ルーシー師団長の笑みが更に盛大になる。「邪悪」と言っても良いぐらい。こう言う表情は、一寸10才の幼女のものじゃぁないわね。
 一体幾つなんだろう。師団長。
 「と言う訳でな、御主達は祝言を挙げぬと、住む場所にすら事欠く、と言う訳じゃ。特に、シュプールは、な。」
 事態の深刻さよりも、「祝言」なんて古い言い回しで表現された「結婚」という事態に、私は半ばパニックに陥っていた。そりゃ、私から言い出したことだし、そのための今回の国外亡命・逃避行、って部分もあるのだけれど、いざとなると、心の準備が・・・

 「しっ、師団長閣下ッかっ、ちょ、一寸お待ち下さい。
  私、今回の逃走に当たって髪を切ってしまいまして、その、髪が伸びるまでは・・・」
 言いよどむ私を尻目に、ルーシー師団長は心底楽しそうで・・・なんでシュプールまで笑ってんのよ!腹立つわぁ。
 「御主の目の前に居るのは、大陸随一とも言われる魔術師ぞ。
 髪の毛如き、ほれ。」
 師団長が指を一つ鳴らすと・・・草木の成長が著しいことを、「伸びる音が聞こえる」って表現することがあるわよね。そんな音、私は聞いたこと無いのだけれど、私はこの時、「自分の髪が伸びる音」を初めて聞いたわ。わさわさというか、もさもさというか、見る見るうちに髪の毛が伸びて、馴染みの長さに至るのを、半ば以上呆然としながら、唯、見ていた。口もあんぐり開けていたのに違いないわ。
 「先ほどの魔術の応用じゃよ。判るかな。」
 ルーシー師団長の心底嬉しそうな科白を聞きながら、殆ど思考停止状態の私は、思っていることがそのまま口を突いて出していたわ。
 「時を操る、魔法?・・・・」
 私の呟きに、師団長は破顔一笑と言った体。
 「その通りじゃよ。やはり、御主は、面白いのぉ。
 シュプール。御主の花嫁は、相当な逸材じゃ。良く儂の前に連れてきてくれたのぉ。礼を言うぞ。」
 シュプール、照れてる照れてる。可愛い。
 何はともあれ、これで私のお団子は復活出来る。

 お団子さえあれば、私はほぼ無敵だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 私たちの結婚式は、魔術師学院で行われたわ。入学して早々の結婚も異例ならば、魔術師学院で挙式ってのは「前代未聞」らしいのだけど、師団長が強引に押し切ったのよ。「学院婚」等と言われ、私たちの後に続くカップルが、今も数年に一組ぐらい居るとか、居ないとか。
 式では、ルーシー師団長が司祭というか神父というか、式の司会進行役を務めたわ。これは、異例中の異例で、その後に続く「学院婚式」でも、師団長が司会進行役を勤めることは一度も無い、らしいわね。
 式自体は、スフェン教式で執り行われ、私たちはスフェン神に対して結婚の誓いを立てたわ。私たちが自分で考え、選んだ誓いの言葉とともに、ね。
 スフェン神に誓った結婚式だけど、スフェン教会はこの式に一切関わらせていないわ。これは、私たちと、スフェン神との間の誓いであって、スフェン教会は関係ないわ。形式的なしゃちほこばった「結婚の誓い」では無く、私たち独自の誓いにしたのも、その現れよね。
 謂わば、スフェン教会からの「独立宣言」よ。「宣戦布告」ではない、心算だけど、向こうはどう考えているやら。
 今でも、少なくとも私は、スフェン神を信仰しているわ。シュプールの方は一寸怪しいけれど、私の主神は今でもスフェン神よ。
 でもスフェン教会は、関係ないわ。言ってみれば「無教会派」とも言うべき「スフェン教の新たな宗派」を創立した様なモノだし、ある意味「棄教」とも言えそうだけれど、後悔どころか、逡巡さえした覚えが無いわ。
 あの後魔術を学び、私の治癒魔術はスフェン神とは無関係に使える、って理論も学んだけれど、今でもスフェン神に祈ることで、私の治癒魔術は発動するわ。
 だから、私は今でもスフェン教徒よ。但し、スフェン教会とは一切関係ない、ね。「スフェン教無教会派」と言う新しい宗派の、「信徒第1号」だと思っているわ。(因みに、「第2号」は、我が夫・シュプールよ。)

 「スフェン教無教会派」の「創始者」を名乗る、心算は無いし、名乗ったことも無いわ。本来、スフェン神とスフェン教徒との関係は、「対等」と言ったら極端だけど、「1対1のモノ」、と考えての「無教会派」だし、「1対1のモノ」と考え、教会の中継・仲介(と言うより、「介入」よねぇ。)は「必要ない」って考えて居るスフェン教徒は、「実は相当に、相応に、居る」ンじゃ無いかと、私は考え、期待している、からよ。

 私は、唯、公式に、公的に、「無教会派」と(事実上)名乗り、公言している、だけ。「隠れ無教会派」は今言ったとおり、「実は相当に、相応に、居る」。これはスフェン教会に対する、かなり強力な「武器」になるわね。
 まあ、未だ戦端を開いた訳では無く、「開戦した」訳じゃ無いけれど。「戦う」となれば。
 
 そう、「未だ」、ね。

 「無教会派」なぁんて事を公言した時点で、私も(シュプールも、)晴れて(スフェン教会の言う通り、)「異端者」に成れた訳よね。
 「教会の意に沿わぬ”奇蹟”を実施実現した」なんて姑息な理由よりは、余程正当で、堂々としているわよ。

 そんな訳で、私たち二人の結婚式は「異端のスフェン教」の儀式として執り行われたの。親類縁者を呼ぶ訳には行かなかったし、何よりお父様の出席が叶わなかったのは残念だけど。ルーシー師団長と魔術師学院の先生方と生徒(私の新たなクラスメイト含む)の列席を得て、意外なくらいに盛大なお式となったのは、ひとえにルーシー師団長のお陰よね。
 
 でも、結構な数の参列者や、学院付属合唱隊歌う聖歌や、巨大な吹奏楽器の演奏よりも何よりも凄かったのは、騎士として正装した「旦那」シュプールの勇姿よ。
 アイレンテールの騎士とは、一寸違ったけれど、騎士正装に颯爽と身を包んだシュプールの花嫁となった私は、この時、正真正銘掛け値無し、スフェンドヤードバーニアとレベリオを含む三国一の幸せ者だったわ。

 まあ、その「三国一」は、今も未だ続いている、と思っているけどね。
 

 
  • 「一票の格差」は「常に在る」モノで、何時如何なるも、攻撃材料。ー【朝日社説】一票の不平等 国会の正統性の問題だ


 先の衆院選が終わり、「一票の格差」を非難する社説を、朝日が掲げている。まあ、「朝日の逆が、大抵正解」なのだが。

 

  • (1)【朝日社説】一票の不平等 国会の正統性の問題だ

 

一票の不平等 国会の正統性の問題だ

社説

 

2024年10月30日 5時00分

list

写真・図版

27日にあった衆院選の「一票の格差」をめぐる裁判について記者会見する升永英俊弁護士(中央)ら=2024年10月28日午後、東京・霞が関、米田優人撮影

 

[PR]

 国民の代表といえるのか、早々に疑義が上がっている。

 

 選挙区ごとの「一票の格差」が最大2・06倍だった衆院選は憲法の平等原則などに違反するとして、無効を求める裁判が、各地の高裁・支部で起こされた。

 

 憲法前文は「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」という言葉で始まる。選挙制度の欠陥のために、個々の国会議員が代表する国民の数が大きく違えば、国会の多数決と国民の意思に見過ごせないずれが生じる。議員は自らの存在の正統性の問題ととらえて臨むべき問題のはずだ。

 

 ところが14日現在、有権者数が最も多い北海道3区(札幌市の一部)在住の人の一票の重みは、最も少ない鳥取1区(鳥取市など)の人の半分にも満たない。

 

 衆院選の格差は、21年2・08倍、17年1・98倍と2倍前後に貼りついてきた。

 

 深刻なのは、今回が、都道府県への定数配分に人口比を反映させやすい「アダムズ方式」を導入し、過去最多の140選挙区で区割りを変えて臨んだ初の選挙だった点だ。

 

 従来の、都道府県に定数1をまず割り振る「1人別枠方式」が格差の原因と最高裁に指摘され、10年以上かかった見直しだが効果は薄かった。

 

 今回の区割りは、22年6月の衆院議員選挙区画定審議会の勧告をふまえた同年11月の公選法改正で決まった。施行時、20年の人口をベースに格差は1・999倍に縮小すると説明していたが、都市部への人口流入が進むなか、漫然と招いた2倍超えと映る。

 

 区画審設置法は、格差が2倍以上にならないよう求めているが、国会は自ら決めたそのルールさえ守れていない。

 

 そもそも憲法が求める投票価値の平等からすれば、2倍未満ならいいわけではない。アダムズ方式でも都市部の有権者の不利益には対応できなくなる可能性はかねて指摘されており、「一人一票」に近づく抜本的な是正に着手しなければならない。

 

 裁判所も、今回こそは厳格な審査を求められる。過去2回の衆院選をめぐる同種の訴訟で最高裁は、その時点でアダムズ方式導入を決めていた国会の姿勢などを評価し、「合憲」と判断した。結果的にそれが、国会がそれ以上の是正を進めなかった要因となっていた。

 

 自分が選ばれた選挙制度を変えることに、国会議員は消極的になりがちだ。議員と国民の利益に対立をみるテーマである。司法による国会へのチェック機能が、ひときわ問われている。

 

  • (2)「一票の格差」無くすは、簡単だ。全国区比例代表のみにする。

 章題にした通り、「一票の格差を無くす」には、「全国区の比例代表選挙」で全議員を選べば良い。投票用紙には、党名だけ書いて投票し、全国で投票数を集計して、比例代表で議席を各党に割り振る。各党は、当然予め提出したリストに従い、リスト上位から順に議員にする。これで、「一票の格差」は、無くなる。

 であるから・・・なのだろうなぁ。所謂「一票の格差」を計算するには「全国区比例代表制」は除いている、と、何処かで読んだ記憶がある。左様な計算法であるならば、「一票の格差がある」のは、至極当然であろう。
 

 現状は、「一票の格差を(普通は)生じる選挙方法」と「一票の格差を生じさせない全国区比例代表制」とが混在しているから、それらをひっくるめて「総合的な一票の格差」を計算するのは難しかろう(*1)が、この計算方法では「全国区比例代表制の議席数を幾ら増やそうとも、”一票の格差”とは、関係ない」事になる。

 どうも「一票の格差」の評価方法として、不当な気がして仕方ないんだが。

 更に言えば、「完全全国区比例代表制」にも、当然ながら欠陥はある。大凡人間のやること為す事で「欠陥が無い」モノなんざぁ、無い。「完全全国区比例代表制の欠陥」として即座に思い付くのは、「政党を為せないような個人や、弱小政党からの立候補・当選が、難しい乃至不可能なこと」が挙げられよう。既存の政党で言うと、社民党なんざぁ、消滅しそうだ。別に惜しいとも残念とも思わないが。

 「一票の格差を無くす」事だって、当然欠点・欠陥は、在る。如何なる方策をとろうとも、「一票の格差を無くす」と言うことは、「有権者数と正比例的に影響力がある」と言うことであり、必然的に有権者数の多い都市部や首都・東京の影響力が大きくなり、農村部・地方の影響力は小さくなる。それは、首都や都市部に有利・優位な政策や法制や予算となることは、必然だろう。
 
 それよりもなによりも、私(ZERO)の知る限り、「完全比例代表制」以外の如何なる選挙法にも、必ず何らかの「一票の格差は、在る」モノであり、「一票の格差を付ける選挙法」である。左様な「一票の格差を付ける選挙法」が、現行選挙法を含めて採用されるのは、「都市部や首都の政治的影響力の過大化を防ぐため」でもある。「地方区の小選挙区」ってのは、正に左様な効果効能を持つモノだろう。

 であるならば、「都市部や首都の政治的影響力の過大化」を問題視する限り、「一票の格差」は「在って当然」である。
 「一票の格差を無くす」ならば、「都市部や首都の政治的影響力の過増大」は、甘受・看過しなければならない。

 上掲朝日社説は、「一票の格差を無くせ」と主張し、「国会の正統性の問題」とすら主張している訳だが・・・私(ZERO)の見るところ、それは、「”一票の格差”問題ならば、常に政府と選挙制度を非難できるから」だと思われる。つまりは、非難するための非難であり、平たく言えば、イチャモンだ。
 
 「私の一票と、他誰かの一票で、重みが違う!!」と言うのは、俗耳には入りやすかろう「政府/現状批判材料」ではあるが、「一票の格差が無い状態」とて別に理想郷ではないし、相応に欠点も欠陥もある。

 要は、「一票の格差」とて、他の多くの問題と同様に、「バランスの問題」と言うことだ。

 これは、「今の選挙制度、及び現状の"一票の格差"」を肯定するモノでは無い。だが、単純に、何の前提条件も付けない「一票の格差を無くせ!」って主張は、先ず愚論暴論の類いである、と意識・認識すべきであろう。

 ま、私(ZERO)なんざぁ、「朝日の社説」ってだけで、「愚論暴論の公算大」と、考えるけどね。

 

  • <追伸> そう言えば、先頃投票され、トランプ氏が次期大統領に選出された合衆国大統領選挙ってのは、「各州に割り当てら得た選挙人を、その州に住む米国人が投票して決める」制度で、投票先が共和党と民主党の二つしか無いし、「一票の格差が大きそうな選挙制度」だよな。
  •  まあ、「他国の一票の格差」なぞ、下手に非難するのは「内政干渉」だけどな。

 

  • <注記>
  • (*1) それでも、それぞれの選出議席数で重み付けするとかして、計算出来そうだが。 
  • 憲法は、「同性婚」なぞ認めてない。「両性」表記を、無視するんじゃ無い。-【朝日社説】同性婚訴訟 違憲是正へ議論始めよ +1

 以前から何度か記載しているが、私(ZERO)は、「日本の憲法学者は、半分(以上)気違いだ。ぐらいに思っている。「憲法学者の半数(以上)が気違いで、正気なのが半数(以下)」なのか、一人の憲法学者が一日の内で正気を保っているのが半日(以下)で、残り半日(以上)は気が違っている」のか、或いはその中間の何処かか、には議論の余地があるモノの、日本の憲法学者は、半分(以上)気違いだ。」という仮説・仮定には「殆ど疑義の余地が無い」ぐらいに思っている。

 分けても、「コイツ、気違いだな。」と思えるのが、木村草太って沖縄タイムスに「憲法の新手」とか言う連載記事(コラム、だな。)を持つ憲法学者様。何しろ、日本国憲法には「両性間の合意に基づく婚姻」を明記明文化していると言うのに、同時に日本国憲法は「男女間の平等」を定めているのだから、「同性婚を認めないのは、憲法違反だ。」と主張するのである。端的に言って、「訳が判らない(*1)」

 「男女平等」と、「男女両性間の通常の婚姻と、同性間の”同性婚”は、平等で差違は無い」との間には、随分とデカいギャップ・乖離・論理の飛躍・短絡思考がある、と思うのが、普通だろう。
 「男女平等」は、基本的に法的な立場としての平等にしか過ぎない。男性でも妊娠出産出来る」と主張している訳でも無ければ、それを理想としている(*2)訳でも無い。

 だが、まあ、世の中には、そんなギャップ・乖離・論理の飛躍・短絡思考をモノともしない「気違い」が、相当数居る、らしい。

  •  
  • <注記>
  • (*1) 大凡80年前に制定して以来、唯の一文字も変更=改憲されていない日本国憲法に、「同性婚」なんて「流行の思想」が、盛り込まれ反映されている、訳が無い。
  •  盛り込まれ反映されていたら、「古代エジプトのピラミッドから発見された超音速ジェット戦闘機」並みとは言わずとも、相当な「オーパーツ」だろう。 
  •  
  • (*2) 中には「男も妊娠出産するのが理想だ!」と考えて居る奴も、居そうだが・・・それは普通、気違いだろう。
  •  ああ、「女は、妊娠出産なんかするな!!」ってのは、居そうだなぁ。これもある種の、気違いだろうな。 


 

  • (1)【朝日社説】同性婚訴訟 違憲是正へ議論始めよ

同性婚訴訟 違憲是正へ議論始めよ

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S16072721.html?iref=pc_rensai_long_16_article

社説

 

2024年10月31日 5時00分

list

写真・図版

同性婚を認めない民法などの規定は違憲とする東京高裁判決を受け、会見する原告、代理人弁護士ら=2024年10月30日、東京都千代田区、井田香奈子撮影

 

[PR]

 司法による「違憲」「立法不作為」の指摘が続いている。国会は真摯(しんし)に受け止め、是正に動くときだ。

 

 同性婚を認めていない民法などの規定が憲法にかなうかが問われた裁判で、東京高裁はきのう、法の下の平等を定める憲法14条などに違反すると述べた。

 

 大阪、名古屋、福岡も含め同種裁判が計6件起こされ、高裁段階では3月の札幌高裁に続く違憲判決だ。地裁では5判決が、家族の法が個人の尊厳に立脚するよう求める憲法24条2項や憲法14条に照らして「違憲」「違憲状態」としており、「合憲」の大阪地裁ですら、将来的な違憲の可能性に言及していた。

 

 同性カップルが置かれた差別的な状況の放置はもはや許されないとの司法判断は、定着したといえる。

 

 きのうの判決は、婚姻がもたらす「配偶者としての法的身分関係」の形成は、安定・充実した社会生活の基盤をなす重要な法的利益だと位置づけた。その上で、それが同性カップルには与えられないという区別は重大なもので、合理的根拠があるとはいえないと判断した。

 

 注目すべきなのは、是正の道筋について、具体的に言及した点だ。結婚を男女間に限っている民法などを改正して同性間にも認める、同性カップルについて別制度を新設する、という二つの選択肢を示し、それらの構築は国会に委ねられるとした。ただしその裁量は、個人の尊重や法の下の平等に立脚した制度にすべきだという憲法の要請から、限界があるとも述べた。

 

 同性カップルに特化した制度を設けても、現行の婚姻と異なることで憲法の平等原則違反になることもあるとの指摘であり、あるべき法制化の手がかりになる。

 

 原告の中には、提訴後、亡くなった人もいる。同性カップルの不便・不利益は日々、続く。国会はこの先にある最高裁判決を待つのではなく、率先して議論し、救済を急がなければならない。原告の実質的な勝訴判決が続いても、実際の結婚に道を開くことは、国会にしかできない。

 

 海外では同性婚の法制化が広がり、国連人権機関は日本政府に対して同性婚の導入を勧告したり、現状への懸念を表明したりしている。

 

 判決は昨年施行のLGBT理解増進法も挙げ、性的指向による差別は国として取り組むべき人権課題だとした。

 

 同性婚の法制化に自民党は消極的だが、主要野党は賛成か前向きだ。

 

 次の国会で、ただちに議論を始める必要がある。

 

  • (2)【東京社説】同性婚高裁判決 国会主導で法制化急げ

同性婚高裁判決 国会主導で法制化急げ

 

 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/363628?rct=editorial

 

2024年10月31日 07時07分

 同性婚を認めない民法などの規定は憲法違反との判断を東京高裁が下した。「違憲」「違憲状態」の判決は7件目。性的少数者(LGBTQ)の人権を守るため、同性婚を法律で認めるよう、国会が一刻も早く動き出すべきだ。

 30日の東京高裁判決は、同性同士の結婚の規定がないことは「性的指向による差別」と断じた。

 憲法14条1項が定める「法の下の平等」、24条2項の「個人の尊厳に立脚した立法」に反するという明快な判断だ。勇気付けられるLGBTQ当事者は多いだろう。

 同性婚訴訟は2019年以降、全国5地裁に計6件が起こされている。地裁と高裁でこれまでに出された計7件の判決のうち、1高裁4地裁の計6件が「違憲」「違憲状態」と判断している。

 24条1項が定める「婚姻の自由」を違憲の根拠とする判断もあったが、一連の判決は「憲法は同性婚を禁じておらず、結婚の本質は同性カップルにも当てはまる」との考えで一致している。

 違憲の流れが明確である以上、最高裁による司法判断の確定を待つのは政治の怠慢ではないか。

 LGBTQのカップルには、男女の夫婦に認められる相続や社会保障、税などの法的権利がなく、社会的にも永続的な関係を誓った2人だと認められにくい。同性婚の導入が遅れるほど、重大な不利益が積み重なっていく。

 同性婚は01年のオランダを皮切りに35を超える国・地域で実現し、アジアでは今年、タイが法制化した。国内でも自治体の同性パートナーシップ制度が普及しつつあり、意識調査では同性婚を認める層が多数を占める。日本政府と国民、国際社会との意識の隔たりは広がるばかりだ。

 今回の高裁判決は相続などの財産的権利について、同性カップルと男女の夫婦との間で異なる制度とした場合には違憲になり得るとくぎを刺した。「婚姻の平等」実現に向け、踏み込んだメッセージを政治に送ったとも言える。

 同性婚を巡り、立憲民主党、日本維新の会、れいわ新選組、共産党は賛成し、国民民主党と公明党も検討する立場。衆院選で得た各党議席を見ると、同性婚の賛成・検討が半数を大幅に上回る。

 同性婚に後ろ向きな自民党が少数与党に転落した今こそ、国会が主導して同性婚への扉を開けるよう望みたい。

 

  • (3)>同性婚の法制化に自民党は消極的だが、主要野党は賛成か前向きだ。  だから、野党は、ダメなんだろうが。朝日も、な。


 改めて主張しよう。同性婚なぞ、言語矛盾だ。

 同性のカップルが互いに愛し合い、同居し、生計を一にしていたとしても、それを「結婚」とも「婚姻」とも呼ばない。それはせいぜい、「同棲」であり、法的に政府として特段の優遇特典を与える理由は、無い。

 そんな「同性間の同棲状態」を、「婚姻」と認める「同性婚」は、法律上の家族制度の一大変革である。何度も主張している通り、法律上の家族制度は、最も保守的で、最も固定的であるべきだ。そうで無ければ、社会は安定しない。

 単純な話、世の「同棲しているカップル」の半数程度が同性同士のカップルになるまで、「同性婚」なぞ、認めるべきではない。

 左様な「同性カップルが半数程度になる」状態に至る前に「同性婚」を法律上定めた国がある、と言うのは事実だろう。だからと言って、我が国がそれに追随追従するする、謂われは無い。

 死刑制度の際にも論じたが、死刑制度の存否は、「死刑制度のある現在の日本」と「死刑制度を無くした仮想上の日本」とを比較して決めるべきで、諸外国とか世界の動向・事例は、参考にはなるかも知れないが、参考程度でしか無い。で、私(ZERO)は、「死刑制度を無くした仮想上の日本」が「死刑制度のある現在の日本」より、マシとも良いとも思わない/思えない。

 同様に、「同性婚」の可否も、「同性婚制度の無い現在の日本」と「同性婚制度を法律上定めた仮想の日本」の比較で決めるべきである。

 而して、私(ZERO)には「同性婚制度を法律上定めた仮想の日本」が「同性婚制度の無い現在の日本」よりも、マシとも、良いとも、思わない/思えない。
 「カッコ良い」「見栄えがする」という考え方はありそうだ。ある種の外国や、一部の「国連」やらには、「受けが良い」かも知れない。

 だが、それだけだ。

 見栄えや、見栄や、受けや、他国の評判如きで、我が国の家族制度を弄るなぞ、言語道断である。

  • ようやくの、事故で、負傷者すら無いが。「危険な欠陥機」は、どうしたよ。 ー陸自オスプレイ「事故」に対する沖縄二紙社説

 オスプレイとは、人類史上初の実用ティルトローター機であり、「回転翼機の垂直離着陸性能」と「固定翼機の高速・航続距離性能」とを併せ持とうという、画期的な航空機である。

 ティルトローター機の構想は、存外なくらいに古く、殆ど回転翼機=ヘリコプターの黎明期(*1)まで遡れるのだが、コンセプトや、試験機・実験機としては種々作られたモノの、実用的な輸送機として具現化・具体化したのはオスプレイが人類初の史上初だ。
 
 それだけ「無理のある設計」とは評せそうだが、無理をするから突破もある。無理をしない無難な事だけやっていたら、零戦の偉業も無かったろうし、単葉機も全金属製航空機もジェット機も、実用化は相当遅れたろう(*2)

 画期的にして人類初の部分もある輸送機たるオスプレイは、再三報じられる通り開発中にも死亡事故を起こしているし、輸送機の中でも人員輸送を主な任務とする機体だけに、死亡事故を起こすと死亡者数が多い傾向にもある。
 
 オスプレイは「人員輸送を主たる任務とする輸送機」として量産・配備されているので、「一度死亡事故が起きれば、死亡者数が多い傾向にある」事は、今も変わりは無いし、その任にある限り、変わりようも無いだろう。
 だが、米軍はその所属機の機種毎の「事故率=一定飛行時間当たりの事故件数」を統計とって公表公開しており、オスプレイの事故率は他機種と比べて特に高い訳ではない、事も公開・公示している。従って、既に配備され、沖縄駐留米軍にも陸上自衛隊にも装備されているオスプレイの飛行安全実績が、正に「危険な欠陥機」などと貼られたレッテルを打破し、「未亡人製造機」なる俗称をも、粉砕している。

 だが、飛行機は、飛行機だ。空を飛んでいる以上は「落ちる可能性がある」。これは何も、オスプレイにも軍用機にも限った話では無い。民間機だって、旅客機だって、報道ヘリだって、空を飛んでいれば「落ちる可能性は、ある」。

 で、だ、今回陸自配備のオスプレイが「事故を起こした」。負傷者すら出て居らず、被害額によっては「軽微な事故」に当たるかも怪しい(*3)が、沖縄二紙の社説と来たら、こうである。

  • <注記>
  • (*1) レオナルド・ダヴィンチには「人力ヘリコプター」らしきコンセプトが見られる。「回転翼機の黎明期」をルネサンス時代まで遡られると、流石にティルトローター機は適わない。
  •  此処で言う「回転翼機の黎明期」は、実用ヘリコプターが登場する第2次大戦直後頃と、想定されたい。 
  •  
  • (*2) これらは全て、戦闘機として初実用化された。何れも、当時としてはかなり革新的・画期的な「無理をした技術」だ。 
  •  
  • (*3) 「事故以前/事故未満の事象」たる「インシデント」である、可能性も、ある。 


 

  • (1)【沖縄タイムス社説】陸自オスプレイ事故

 

沖縄タイムスプラス

2024年10月30日(水)04:00

 与那国町の陸上自衛隊与那国駐屯地で、陸自の輸送機V22オスプレイが離陸直後にバランスを崩して機体の一部を損傷した。

 陸自のオスプレイが事故を起こすのは初めてだ。

 

 

搭乗していた日米の隊員計16人にけがはなかった。

 同じ構造の米軍オスプレイで重大事故が相次いでいることを考えれば、陸上幕僚監部の事故調査委員会は速やかに事故原因を究明し、公表すべきだ。

 事故機は23日から始まった日米共同統合演習「キーン・ソード25」の一環で、災害の被災者を輸送する訓練中だった。

 目撃者が撮影した映像を見ると、事故機は離陸後にバランスを崩し、機体を左右に揺らしながらゆっくりと降下。着陸前に大きく機体を左に傾かせ、左翼を地面に接触させた。

 一歩間違えれば重大事故につながりかねない事態である。

 事故を受け、防衛省は陸自オスプレイの飛行を見合わせた。安全対策が取られるまで、任務飛行を除き、飛行は再開しない方針という。

 今回の事故は、鹿児島県屋久島沖での米空軍オスプレイの墜落事故を受け、予防点検を講じた中で発生している。

 演習中には、別の陸自オスプレイが海自の鹿屋航空基地に緊急着陸する事態も起きている。

 今回の事故を軽視すべきではない。

 原因究明と抜本的な安全対策が講じられるまで全ての飛行を停止すべきだ。

 

 

 

■    ■

 陸自は事故前日、与那国町の町議や公民館長らをオスプレイに搭乗させて、島の周辺を周遊する計画を立てていた。

 天候不良で取りやめになったが、事故機に住民が乗り合わせた可能性もあり、軽率な計画だったと言わざるを得ない。

 屋久島沖での墜落事故では、乗組員8人が死亡した。事故後の調査で変速機の内部で歯車が破断していたことが判明したものの、破断そのものの原因は特定されないままとなっている。

 また今回は、事故の公表も遅かった。事故が起きたのは衆院選投票日の午前11時38分ごろだが、事故が公表されたのはそれから9時間近くたった午後8時半だった。

 意図的な情報隠しはなかったのか。公表が遅れた経緯についても説明が求められる。

■    ■

 オスプレイを巡っては、開発段階から墜落などの重大事故が相次ぎ、機体の構造的な欠陥が指摘されてきた。米国外からの調達数が伸びず、唯一調達を決めたのが日本だった。

 そうした中、生産ラインの閉鎖も取り沙汰される。米国防総省が製造元と契約を結んだことで少なくとも2027年6月までは生産を維持するとされるが、先行きは不透明だ。

 

 

仮に生産終了となれば整備などへの影響は避けられない。 オスプレイの陸自配備を進めた日本政府の判断は妥当だったのか。その検証も求められる。

  • (2)【琉球新報社説】陸自オスプレイ事故 共同統合演習を中止せよ

  • 【琉球新報社説】陸自オスプレイ事故 共同統合演習を中止せよ

陸自オスプレイ事故 共同統合演習を中止せよ

 

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-3598513.html

 

 

公開日時

2024年10月30日 04:00

 

#社説

<社説>陸自オスプレイ事故 共同統合演習を中止せよ

この記事を書いた人

Avatar photo琉球新報社

 自衛隊と米軍による最大規模の実動演習となる共同統合演習「キーン・ソード25」に参加するために与那国島に飛来した陸上自衛隊の輸送機オスプレイが機体を地面に接触させた。機体の損傷を伴う事故だ(*1) 。構造上の欠陥が指摘され、事故が相次ぐオスプレイの運用自体が県民の不安を増幅させている。米軍のオスプレイも参加している統合演習を直ちに中止するべきだ。

 

 オスプレイはその構造上、離着陸時に強い吹き下ろしの風が生じ、機体が不安定になりやすいことが指摘されている(*2)。今回の事故は27日に陸自与那国駐屯地内で離陸する際に起きた。飛び立つ機体が左右に揺れて左翼下部が地面に接触した。事故調査を待つことになる(*3)が、専門家らの指摘通りの現象による事故であることが想定できる。

 

 普天間飛行場に配備されている米海兵隊のオスプレイに加えて、陸自のオスプレイが演習参加のため県内に飛来すること自体が負担の増加である。県は統合演習に当たって自衛隊、米軍のいずれのオスプレイも使用を自粛するよう求めていた (*4)。

 

 そこに今回の事故が発生した。防衛省は11月1日までの統合演習にオスプレイを使用しないことを決めた。当然だ。ただ、米軍のオスプレイは引き続き演習に加わっている。県民の不安が理解されていないと言わざるを得ない。

 

 林芳正官房長官は与那国での事故を受けて「地元の不安や懸念を払拭するため、引き続き関係自治体へ丁寧に説明していく」と述べた。決まり文句を繰り返しているようにしか聞こえない。

 

 そのように考えているのであれば、不安や懸念を払拭する一番の対処法はオスプレイを飛ばさないことだ。陸自オスプレイの訓練参加をやめても、米軍所属機は運用を続けるというならば、閣僚らが来県して、その理由を明確に説明してもらいたい(*5)。

 

 共同統合演習は全国各地で行われるが、鹿児島から沖縄での訓練が計画の中心だ。

 

 日米で約4万5千人が参加し、那覇、新石垣、与那国の3空港と中城湾、那覇など五つの民間港を使用。加えて人員輸送で宮古空港も使う。

 

 防衛省は特定の国を対象にしたものではないと説明するが、制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長は「力による現状変更をインド太平洋では決して認めないという強い意志を示す」と述べている。狙いは中国をけん制することにあるのが明白だ(*6)。

 

 加えて民間空港・港湾使用の実績を積み重ねる狙いがある。参加人員は2年前の3万6千人から大幅に増えた。南西諸島を日米軍事一体化の拠点とすることは、中国のけん制という思惑を含め、地域の緊張を高めることにつながる。民間インフラの使用による住民生活への影響も避けられない。林官房長官が言う「不安の払拭」の最善策は、訓練の全面中止である(*7)。

 

 

  • <注記>
  • (*1) オスプレイ自衛隊配備以来初の事故ではないかな?「危険な欠陥機」が、だぞ。 
  •  
  • (*2) 左様な条件下で「機体が不安定になりやすい」のは、オスプレイに限った話では無いだろうに。 
  •  
  • (*3) って事は、目立った損傷も無く、検査しないと「壊れたかどうかも判らない程度」ってことじゃぁ、ないのかね。 
  •  
  • (*4) 飛行機が飛ばなきゃ、訓練にならんだろうが。訓練妨害のテロリストめ。 
  •  
  • (*5) 今回「事故」を起こしたのは、陸自機です。機体も運用組織も異なる米軍機は、直接関係はありません。QED。で、沢山だ。 
  •  
  • (*6) それ即ち、「沖縄は、守る」という意思の表れであり、「沖縄は、本土の捨て石ではない」ということだろうに。 
  •  
  • (*7) 全く、絵に描いたような「中共の手先」だな。 

 

 

 

  • (3)「落ちない飛行機」は、「飛ばない飛行機」ぐらいだぞ。

 今回初めて知ったのだが、ティルトローター機ってコンセプトは、第2次大戦は疎か、第一次大戦以前まで遡れる、そうだ。スイスの「デュフォー三葉機」ってのがそれで、実機を作ったは良いが、全く飛行しなかった/出来なかった、らしいが・・・それでも、新たなコンセプトを実際に試そうって、その心意気は、買えるじゃぁ無いか。

 

 それに引き換え、上掲社説に見る沖縄二紙と来たら、どうであろう。オスプレイに対する実にヒドい評価・論調。更には琉球新報の言いがかりは凄まじい。「沖縄は強請の名人だ。」と発言した米高官だが米軍人だかが物議を醸し、謝罪に追い込まれた事件があったが、上掲沖縄二紙社説なんざぁ「強請の名人ぶり」を、美事に発揮していよう。

 陸自オスプレイ機の「事故」にかこつけて、米軍を含めたオスプレイ全機の飛行停止、更には今正に始まろうとしている日米共同統合演習の中止まで「強請り取ろう」ってんだから、呆れる。

 

 まあ、上掲沖縄二紙社説にも見られる「反オスプレイキャンペーン」に、「如何にオスプレイ配備が中共にとって不都合か。」を、見るべきなのだろうな。

 

 想起すべきだ。オスプレイ沖縄配備前の沖縄二紙はじめとする「反基地団体」の「オスプレイ沖縄配備(だけ)反対キャンペーン」を。

 「沖縄県民大会決議」なるモノを出して、その中にはっきりとオスプレイは危険な欠陥機だから、沖縄配備(だけ)反対と、文言で明記明文化した。ああ、「(だけ)」と言うのは、私(ZERO)が補足追記したモノだが、危険な欠陥機オスプレイに対し、飛行停止も運用停止も求めずに「沖縄配備反対」だけしているのだから、「(だけ)」と言う補足追記は、至当というモノだ。

 端的に言って、「沖縄県民大会決議」なるモノは、「危険な欠陥機オスプレイが沖縄以外の何処に落ちて何人死のうが知ったことではない。」と言う、非人道的なレベルでの利己主義の公言である。「恥を知れ。」と言いたいね。

 

 平安名純代記者の短期集中連載署名記事「崩れた安全神話」も凄まじかったな。弊ブログでも記事にしたが、オスプレイの安全神話を崩す」どころか、かすり傷一つ付けたかどうかに終わった(*1)上に、「沖縄二紙が引用する”専門家”が、リボロ氏はじめとして、如何にインチキでまがい物であるか」を明々白々にしてくれた。まあ、その点では、「良い記事」とも言えるのだが。

 

 で、だ。今回の「陸自オスプレイ事故」に対して、上掲沖縄二紙は随分と否定的なニュアンスでオスプレイを表記描写しながら、オスプレイは危険な欠陥機だ」って明記・明言すらないのだが、一体どう言う訳かね。

 或いは、「オスプレイは危険な欠陥機」と明記・明言した「沖縄県民大会決議」を、少なくとも一時期沖縄二紙は絶賛礼賛していたのだが、その絶賛礼賛は誤りとして撤回する/した、のかね?

 

 或いは、今般の様な「事故」こそ、「オスプレイに6つの構造的欠陥」を主張した「リボロ氏」の出番、では無いのかね?今度はどんな「欠陥」を言い出すか、少なからず楽しみなんだが。

 

 ああ、「崩れた安全神話」でオスプレイにホバリング高度制限があるのは、輸送機として致命的な欠陥だ(*2)。」と断言した「専門家(リボロ氏では、無かったと思う。)」も、忘れるなよ。

 

<注記>

(*1) そう言えば、「オスプレイの調達(予定)数と配備数の差分は、オスプレイの大量墜落を隠蔽している可能性があるぅぅぅ!」って話は、どうなったんだぁ? 

 

(*2) これが「専門家の発言として記事にされ、デスクも通って、紙面に掲載されたんだから、凄いよなぁ。

 

(1) 先ず、世の輸送機の大半は固定翼機で、ホバリングなんてできない。ホバリングできないことを、「ホバリング高度制限が無い」と呼ぶのは、殆ど詐欺・詐称である。

 

(2) 次いで、輸送ヘリは、当然ホバリング能力があるが、ホバリング高度制限も、ある。「ホバリング高度制限の無い輸送ヘリ」などと言うモノは、無い。

 従って「ホバリング高度制限があることは、輸送機として致命的な欠陥」という主張は、一体何を言っているのか、サッパリ判らない。

 

(3) 大体、「ホバリング高度制限が無い」且つ「ホバリング能力がある」ならば、「ホバリングは高度にかかわらず可能」な筈であり、「ホバリングで大気圏脱出(少なくともその寸前まで)できる」筈である。

 

(4) 更に考察を進め、「ホバリング高度上限が無い」のは「ホバリング高度上限」と「実用上昇限度」が合致一致している、の意味と解釈とした、としても・・・・

  •  ① ホバリングとは、本機の場合(確か)プロップローターと呼ばれる「プロペラ兼ローター」の発生する推力と自重が均衡した状態である。「ホバリング高度上限」では、その高度で発生する最大推力と自重が均衡している。
  •  
  •  ② 固定翼機の水平飛行の場合は、主翼の発生する揚力と自重が均衡している。この時の推力は、その時の速度を維持するための「抵抗を打ち消す力」であり、大凡「自重の10分の1程度」である。
  •  
  •  ③ 「実用上昇限度」とは「水平飛行を維持できるギリギリの高度」である。
  •  
  •  ④ ホバリング高度上限でホバリングしているオスプレイが、固定翼機モードとなって水平飛行に遷移したとする。この時オスプレイのプロップロータは最大で「自重に釣り合うほどの推力」を発生する筈であり(だからこそ、ホバリングも出来た。)、これは「水平飛行に必要な推力=抵抗に釣り合うほどの推力」よりも遙かに大きい(約10倍)。これは「余剰推力がある」と言うことであり、「更なる上昇が可能」であるし「更なる加速が可能である」と言うことである。
  •  
  •  ⑤ 従って、「ホバリング高度上限」と「実用上昇限度」が「合致する」と言うことは、あり得ない。「実用上昇限度の方が、高い。」

 

 

 

 (1)は殆ど常識論。(2)も、一寸した「航空ファン」ならば気づくだろう。(4)は「かなりのマニア」で無ければ気づかないかも知れないが、「専門家には、当然要求されるレベル」である。

 

 ああ、(3)こそ、常識論、なんだがなぁ。コイツに気づかないとは、「相当な間抜け」だ。

 

 つまり、平安名純代記者にも、デスクにも、驚くべき事にその引用して見せた「専門家」にも、「航空ファン程度の知識」も無ければ、常識も無かった、と言うことだ。

 

 知識は兎も角、「常識が無い」のは、報道機関として、そもそも失格だろうが。 

  • 改憲を、「急いでない」のは大間抜け。或いはハナから、侵略の手先。ー【琉球新報社説】’24衆院選 憲法 国民は改憲急いでいない

 日本の憲法学者は、半分(以上)気違いだ。と、私(ZERO)が考えて居ることは、何度も弊ブログの記事にしている。曲がりなりにも知性を備えている(であろう)相手を「気違い」呼ばわりするのは、相当に無礼で失礼な事であるが、敢えてそうしている。

 左様な無礼失礼過激な酷評を公言するに至った理由の一つは、「日本の憲法学者の大半が、掲げ、信奉し、信仰するばかりで、全く考察も議論も考証も検証も議論も審議もしようとしない(としか思われない)、日本国憲法擁護論にある。

 日本国憲法を変えるな!守れ!!」と言う「日本国憲法擁護論」を主張する者は数多あり、その主張者は憲法学者(の大半)に限らず、マスコミ、「有識者」、政治家、著名人、「文化人」と多岐にわたる。
 だが、「日本国憲法には自衛隊についての記載が一切無いのだから、”日本国憲法を守れ!変えるな!!”という主張は、”日本国憲法の条文そのままで、即ち自衛隊抜き/無しで、と言うことは(現時点では)必然的に日米安保条約体制も抜き/無しで、我が国の主権/領土領空領海/我が国民の生命財産を、守り、保全し、安全たらしめる方法論/構想/コンセプト"と、表裏一対・一体不可分の筈だ。」と考える私(ZERO)の疑義・疑問に対し、”日本国憲法の条文そのままで、即ち自衛隊抜き/無しで、と言うことは(現時点では)必然的に日米安保条約体制も抜き/無しで、我が国の主権/領土領空領海/我が国民の生命財産を、守り、保全し、安全たらしめる方法論/構想/コンセプト"(余りに長いので、以下「日本国憲法条文下の我が国・国民の安全保障構想」としよう。これでも、長いが。)なるモノは、「影も形も無い状態」と言って良さそうな惨状である。そんな惨状を、ほぼ「私(ZERO)の記憶・物覚えのある限り、ずっと続けている。」のである。

 で、左様な惨状にあることの責任の相当部分は、「日本の憲法学者にある」と、私(ZERO)は考えて居る。

 マスコミや有名人は、かっこつけやパフォーマンスとして「日本国憲法擁護論」を主張し、「日本国憲法条文下の我が国・国民の安全保障構想」についてはガン無視して一切言及しない、と言うのは、あり得ることだろう。政治家がそれをやるのは相当に無責任だが、政権を担う責任も気概も能力も無い無能万年野党なら、それもあり得よう。

 だが、憲法学者は、「憲法を研究し、学問する職業」なのだから、他の職業にある者よりも日本国憲法に詳しく、日本国憲法の短所欠陥にも通じている、筈だ。

 言い替えれば、日本の憲法学者は、特に日本国憲法擁護論を主張する日本の憲法学者は、誰よりも早く、「日本国憲法条文下の我が国・国民の安全保障構想」を議論し、考証考察し、提案出来る、筈である。

 だが、日本国憲法発布以来、と言って悪ければチョイとオマケして(*1)自衛隊発足以来としても、実に70年。一世紀近い程の長きにわたり、日本の憲法学者は、日本の憲法学会は、「日本国憲法条文下の我が国・国民の安全保障構想」を、議論したり提案したりした形跡が、全くと言って良いほどに見当たらない。

 これは、「日本の憲法学者が、学者としては致命的なほどに知的怠惰で堕落している(無論、その可能性は否定出来ない。)」と考えるか・・・単純に「気違いだから」とでも、考えるほか無い。
 
 そんな「気違い日本憲法学者」ばかりの「気違い日本憲法学会」の結果が、こんな琉球新報社説、とも、一応考え得る。

  • <注記>
  • (*1) だが、日本国憲法発布時点で、そこに軍隊に関する記載がほぼ無いことは明白だった、筈だ。 


 

  • (1)【琉球新報社説】’24衆院選 憲法 国民は改憲急いでいない

’24衆院選 憲法 国民は改憲急いでいない

 

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-3586082.html

 

 

公開日時

2024年10月26日 04:00

 

#社説

<社説>’24衆院選 憲法 国民は改憲急いでいない

この記事を書いた人

Avatar photo琉球新報社

 憲法改正、とりわけ9条改正は長年の政治課題である。今回の衆院選でも憲法を巡る論戦が交わされている。しかし、国民は改憲を急いではいない。世論を無視した改憲論議であってはならない。

 

 改憲に積極的な自民や日本維新の会、「加憲」を主張する公明などの改憲勢力は、改選前の時点で改憲発議に必要な310議席を超えていた。今選挙では改憲勢力がどれほどの議席を確保できるかが、注目点の一つとなっている。

 

 今回の衆院選で各党が掲げた政権公約は9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設に言及している。

 

 明確に自衛隊の明記を目指す立場にあるのは自民と維新である。それに対し、立憲民主、公明、共産、れいわ、社民は自衛隊明記に反対もしくは慎重な姿勢を保っている。国民民主はこれまで9条が果たした役割に配慮し「具体的論議を進める」、参政は「創憲」を唱えている。

 

 石破茂首相は総裁選で改憲への意欲を表明し、所信表明演説でも自身が在任している間に改憲発議が実現するよう憲法審査会の議論進展を期待した。岸田文雄前首相も在任中の改憲議論の進展にこだわった。しかし、国民世論は別のところにある。

 

 共同通信社が今年5月にまとめた憲法に関する世論調査によると、当時の岸田首相が党総裁任期中に意欲を示した憲法改正に向けた国会議論に関し「急ぐ必要がある」は33%にとどまり、「急ぐ必要はない」は65%に上った。9条改正の必要性については「ある」が51%、「ない」が46%と賛否が拮抗(きっこう)している。

 

 9条改正を支持する世論は存在するものの、改憲の優先順位は高くはない。そもそも1人の首相・党総裁の任期で区切って改憲を論じることに国民は違和感を抱いていよう。憲法は日本の敗戦体験と平和志向に根ざしている。その後の国内政治の中でさまざまな経緯をたどりながら、結果として国民は改憲を選択しなかったのである。

 

 自主憲法制定を目指す自民党と護憲を掲げる社会党の対立を基軸とした「55年体制」が1993年に終焉(しゅうえん)し、既に31年が経過した。この間、2014年には集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の変更が閣議決定された。国民を埒外(らちがい)に置き、国会審議を無視するなし崩し的な解釈改憲は国のかたちを危うくする。国民は厳しく監視しなければならない。

 

 戦後沖縄の歩みも憲法との関わりを持ってきた。敗戦から27年間、県民は基本的人権や平和主義を掲げる憲法の恩恵を受けられなかった。施政権返還後も憲法が規定する「法の下の平等」に反する実態が沖縄に横たわっている。

 

 米統治下で「憲法への復帰」を願った沖縄は今も「憲法の完全適用」を求めている段階にある。その立場からも各党の憲法に関する政策を見極める必要がある。

 

  • (2)バカを言え。自衛隊発足以来の宿題だ。もう70年も放置だろうが。

 恥ずべき知的怠慢を、少なくとも自衛隊発足以来の70年間も続けてきて、世論調査を縦に「国民は改憲を急いでいない、と来たモンだ。

 本稿冒頭で私(ZERO)は、「日本国憲法擁護論」を主張しながら「日本国憲法条文下の我が国・国民の安全保障構想」を議論も考察もしてこなかった惨状について、その責で日本の憲法学者タチを責め他のだが、かかる惨状の責任の一端は、琉球新報はじめとするマスコミにもあるのだぞ。
 
 その責任に頬被りで、改めて”日本国憲法の条文そのままで、即ち自衛隊抜き/無しで、と言うことは(現時点では)必然的に日米安保条約体制も抜き/無しで、我が国の主権/領土領空領海/我が国民の生命財産を、守り、保全し、安全たらしめる方法論/構想/コンセプト"を論考・論証・考察・議論・提案するでも無く、世論調査結果を盾に「国民は改憲を急いでいない」だぁ?

 バカも休み休み言えや。章題にもした通り、改憲は、少なくとも自衛隊発足以来の実に70年にもなる「宿題」だぞ。 
 それを、「改憲するな」と主張するならば、せめて”日本国憲法の条文そのままで、即ち自衛隊抜き/無しで、と言うことは(現時点では)必然的に日米安保条約体制も抜き/無しで、我が国の主権/領土領空領海/我が国民の生命財産を、守り、保全し、安全たらしめる方法論/構想/コンセプト"を示しやぁがれ。

 所で、琉球新報は「大間抜け」かね?「侵略の手先」かね??
 まあ、「聞くだけ野暮」ってヤツだな。

  • アカなんざぁ、不寛容の権化だぞ。-【東京社説】欧州の極右台頭 不寛容の広がりを憂う


 何度か繰り返す通り、私(ZERO)は、「殆ど生まれながらの右翼」である。戦争気違い(*1)とあだ名されたのは小学生の頃で、中学生の頃にははっきりと「右翼」呼ばわりされていた。故に、「殆ど生まれながらの右翼」と言うのは、些か誇張気味ではあるが、然程現実から乖離はしていない(と、思う)。
 
 更に言えば、私(ZERO)は相応に「古手の日本人」なので、「右翼」呼ばわりされ初めて頃には、スマホも無ければ、ネットも普及していなかった。従って、所謂「ネトウヨ」には当たらない。当たりようが無い。アリバイが成立している。

 私(ZERO)は、ネットがこの世に普及し始める以前から「右翼」なのだから、「ネトウヨ」なんぞに、なりようが無い。

 

  • <注記>
  • (*1) チョイと不思議、且つ大いに不当な事に、我が国では軍事知識とか戦史的教養とか言ったモノは、「右翼的」と見なされている。
  •  軍事知識も戦史的教養も、「知識」や「教養」は直接的には思想とは無関係であり、「左翼思想の権化」たるソ連共産党やソ連赤軍も軍事知識や戦史的教養の蓄積研鑽に余念が無い/無かった事に、疑義の余地は無いのだが、「軍事」とか「戦史」に関わる物事は須く「右翼的なモノ」とされ、十中八九非難批判嘲笑別紙の対象とされている/されて来た。
  •  平たく言って、ある種の「差別」なんだが、「差別」を言い立て騒ぐ者ほど「別種の差別」には鈍感乃至許容どころか「意識すらしない」事があるのも、良くある話だ。
  •  ある意味、「日本人の平和ボケの現れ」とも言えそうだし、恐らくは「左翼=平和勢力 なる左翼プロパガンダの成功事例」でもあるのだろう。 


 

  • (1)【東京社説】欧州の極右台頭 不寛容の広がりを憂

https://www.tokyo-np.co.jp/article/359323?rct=editorial

 

 

2024年10月9日 07時57分

 9月に行われたオーストリア下院選とドイツ州議会選挙で極右政党が大幅に議席を増やした。いずれも反移民政策を掲げ、国際協調に目を背ける自国優先主義の政党だ。欧州社会が変質し、不寛容が拡大する兆しでもあり、深く憂慮する。

 

 オーストリア下院選ではキクル党首率いる極右・自由党が得票率で約3割を占め初めて第1党となった。

 

 自由党は1956年、元ナチス将校が創立し、99年の総選挙で躍進し、初めて政権入りした。当時のハイダー党首(故人)は親ナチス的発言が目立ち、政権入りに欧州各国から批判が相次いだ。

 

 キクル氏はハイダー氏の側近の一人。選挙戦では移民や難民の受け入れ抑制を最優先に掲げ、反欧州連合(EU)姿勢も目立つ。

 

 第2党に転落した保守・国民党を率いるネハンマー首相は、キクル氏率いる政権への参加を拒否しており、連立協議が難航するのは避けられまい。

 

 ドイツでも極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」がテューリンゲン州で初めて第1党となり、ほかの2州では第2党になった。3州はいずれも経済状況が厳しい旧東ドイツ地域だ。

 

 中東やアフリカからの移民が多いドイツやオーストリアでは雇用問題を中心に摩擦が常態化している。しかし、両国の政権を担う既成政党は、移民問題を巡る一部国民の不満に十分対処できず、極右の台頭を許してきた。

 

 欧州ではフランス、イタリア、オランダ、ハンガリーでも極右政党の伸長が著しい。極右は現状に不満を抱く層に巧妙に訴えかけ支持を伸ばすすべにたけており、もはや軽視することは許されない。

 

 極右を除く欧州各国の政党は、国民の声にこれまで以上に幅広く耳を傾け、融和を進めることで排外主義の根絶に努めるべきだ。

 

 日本は、同じ自由や民主主義の価値観を共有する欧州各国とは良好な関係を築いてきた。国際協調を基盤とするEUとの連携をより深め、あらゆる外交交渉の場で、多様性の意義を粘り強く訴え続ける必要がある。

 

  • (2)左翼は「移民に寛容」かも知れないが、そりゃ「革命の火種として歓迎している」のだろうさ。思想的不寛容と言う点で、「左翼の実績」には、目を見張るモノがあるぞ。

 スターリンの粛正。毛沢東の文化大革命。ポルポトの虐殺と、この三つの「不寛容」だけでも、相当なモノだ。相応な流血も人死にも含まれている。

 左翼思想の華」とも言えそうなロシア革命/十月革命に於ける、ロシア皇帝一族郎党に対する「不寛容も凄まじい。何しろ、「原則皆殺し」だ。それがある意味「革命の常道であり、常套手段である。」のは事実だが。「憎むべき前権力者/元支配階級」に対して「”正義の鉄槌”を振り回す」事で、現権力者/新支配階級たる共産党の威光・偉業を示すのは、「革命では良くある、ある種のデモンストレーション&パフォーマンス」である。とは言え、「左翼思想の不寛容性を、如実に表している」事に、一寸疑義の余地は無さそうだ。

 大体、冷戦華やかなりし頃や、それよりも遙か以前の19世紀末から20世紀初頭の「共産主義黎明期」には、空想から科学へ」とか「科学的社会主義」とかのキャッチフレーズが「真に受けられた」時代もあった。その頃、少なくともソ連共産党支配下のソ連(って事は、"社会主義の祖国"であり、本家本元お家元、って事だ。)では、人文科学は疎か自然科学まで「社会主義思想」が要求され、「社会主義的な自然科学こそ、正しい」とさえされたのだから、「不寛容」レベルでは済まない独善性の発露であり、端的に言えば「気違い」だ。
 
 そんな「気違いじみた不寛容を、実践・実施・実行した史実・実績」に事欠かないのが、左翼思想である。昨今の「フェミ(*1)」だとか「LGBTQナントカ(*2)」だとかにも、同様な傾向があるようだな。少し前からの脱原発」とか、沖縄に多い「オスプレイ沖縄配備(だけ)反対論」も、「同じ穴の狢」だろう。

 まあ、左翼思想に限らず、「ある思想に凝り固まる」ってのは、大なり小なり似たような傾向にはあるのだが。シベリア送りとかギロチン刑とか銃殺刑とか再教育キャンプ送りとか、手を変え、品を変え、思想を変えても、大差ないこともあるから、気をつけないといけない、のだが。


 さはさりながら、上記の通りの左翼思想と「同じ穴の狢」である東京新聞が、「欧州の極右台頭」に対して「不寛容の広がりを憂うッてんだから、まあ、「人の振り見て我が振り直せ」と言うべきか、「自分の背中は、自分では見えない」と言うべきか・・・

 左様なように「現状認識を致命的なまでに欠いている」からこその、「今時の左翼」なのだろうけどな。

 自衛隊発足以来70年以上にわたって、真面に「日本国憲法を現状のまま維持し、自衛隊も日米安保条約も無い状態(*3)での、我が国の主権保護と安全保障(*4)って根源的な問題を、全く議論も思考も討論もしてこなかったから、思考停止だかボケだか痴呆化だかしているんじゃ無いか、と、最近は思えてきた。

 もし、左様であるならば、それは、「現代の左翼」って思想集団が、「影響力を及ぼす程の新人も居なければ、新思考も無い」ってことだ。
 
 そりゃ、少なくとも「思想集団」としては、御前は既に、死んでいる。ってこと、じゃぁなかろうか。

 まあ、同情もしなければ、情状酌量の余地も無いけどね。自業自得だ。
 


  • <注記>
  • (*1) 本来の意味は「女性の権利を主張する思想」の筈、なのだが、単なる「我が儘」通り越して「優越思想と差別主義の塊」と化しているようだ。 
  •  
  • (*2) この後にもう4から5文字もアルファベットだか数にだかが続くらしい。要は「性的マイノリティ」って事、らしい、のだが・・・「多様性」と称して「LGBTQナントカの性的マイノリティを全部決定に参加させろ」と言う「一様性」を強制するものだから、性的マイノリティが、少数派であるにも関わらずやたらに発言力や影響力を多く大きくしてしまう。
  •  そうなれば、ロクな事にはならない。実際、なっていない事例は枚挙に暇が無さそうだ。 
  •  
  • (*3) 日本国憲法には自衛隊についての記載は無いのだから、日本国憲法上「自衛隊は、存在しない」。更には、その自衛隊の存在を前提に成立している日米安保体制も、「自衛隊状は、存在し得ない」条約であり、体制である。
  •  従って、そんな日本国憲法を「守れ、変えるな!」って主張は、自衛隊も日米安保も「無い状態」を、前提しなければ、成立しない、筈である。 
  •  
  • (*4) 我が国が主権国家である限り、如何なる憲法を持とうが、成文憲法を持たなかろうが、その主権、領土領空領海、国民の生命財産を、保全し守護し維持する、義務と権利がある、筈だ。