• ルーシー・ダイヤモンド魔法師団長の肩書きに関する一考察


 一部で相応に有名である「片田舎のおっさん、剣聖になる」は、所謂「ライトノベル(*1)」が原作に在り、漫画化もされ、何れも相応に売れた様で、今度はアニメ化されて、2025.1から放映されるそうだ。

 その登場人物の一人が、ルーシー・ダイヤモンド魔法師団長(兼 魔術師学院長)。見た目は10歳ぐらいの、それはもう絵に描いた様な美少女兼こまっしゃくれたガキなのだが、「大陸随一の大魔術師」で在り、その魔術でこの見た目になっているのであり、実年齢は「誰も知らない」って・・・まあ、一言で言えば「化け物」だな。

 それだけの大人物というか重要人物というか危険人物であるから、作中の主な舞台たるレベリス王国でも国家的重要人物で在り、レベリス王国内で魔術師の育成強化に努める魔術師学院と、その魔術師で編成され、レベリオ騎士団と双璧を為す「レベリス王国の大兵力」たる魔法師団の、両方を統括する地位にある。

 よって、ルーシー・ダイヤモンド・・・「嬢」というと怒られそうだから「女史」としておこう・・・の肩書きは、「魔法師団長」兼「魔術学院長」である。

 さて、この肩書きを見て、こんな疑問は沸かないだろうか.「魔法師団長」とは、「団長」なのか?「師団長」なのか?と。

 実は原作の小説では、しばしば「団長」表記/呼ばわりされており、「団長」が正しい、様にも思えるのだが・・・私(ZERO)はこれに異を唱えたい。
 
 即ち、ルーシー・ダイヤモンド師団長と呼ぶのが、正しい、と。
 

<注記>

(*1) と書いたが、何を持って「ライトノベル」というのか、私(ZERO)は良く判っていない。「小説家になろう」ってHPをプラットフォームに公開された作品だから、「ライトノベル」に分類される、様ではあるが・・・「公開のされ方で、小説を分類する」ってのが、私(ZERO)には全くピンと来ない。電子書籍専用だろうが、ウェブで無料公開だろうが、立派な全集としてハードカバーの大判本として発刊されようが、小説は、小説。見た目や値段が変わろうが、その価値・本質は、作品その物で在り、テキストベースである。

 従って、小説とライトノベルの間に「本質的な差違」は、無い、としか思えん。

 出版社の推敲選別を経ていないから、「ライトノベルの方が、出版社が書籍として刊行する小説よりも、品質的なバラツキが大きい」って可能性は、一応考えられるが・・・「出版社の推敲選別」で「作品のレベルが上がる」可能性こそ認めるモノの、「そんなの、誤差の範囲なんじゃ無いの?」と、出版にも推敲にも「素人」である私(ZERO)は思ってしまうぞ。 


 

  • (1)魔法と魔術の関係

 「団長か?師団長か?」との議論の前提として、この世界に於ける「魔法」と「魔術」の関係を抑えねばなるまい.これは、小説でも漫画版でもルーシー「師団長」が自ら「講義」している。

 ルーシー「師団長」に依れば、この世界には広く遍く「魔法」が存在している。自然現象の様なモノもあれば、魔物でも魔法を使うモノはあるという。原作で言うと、ネームドモンスター・ゼノグレイブルの「熱の鎧」なんてのが、それだろう。何しろ、迫り来る刀剣を体表を覆う灼熱の壁で溶断・融解させてしい、その身に傷を付けさせないというのだから、その熱源=エネルギー供給源(*1)共々「魔法」でないと説明がつかない。
 その、世界中に遍くある「魔法」のウチ、人間がその理論・術理を(ある程度)解明し、「人が使える様になった(ある意味「飼い慣らした」)魔法」が「魔術」。故に、この世界、少なくともレベリス王国では「魔法を使える人間」を「魔術師」と呼び「魔法使い」とは呼ばない。


 「魔術」は「魔法」の一部で在り、人間が扱える部分のみを指す。

 故に「魔法」には「魔術としては未知の領域で在り、開拓領域・フロンティアである」部分も含むし、中には「遂に魔術として解明されず、未知の魔法のまま終わる」部分も、あるだろう。

<注記>

(*1) 普通の動物の様に、草や肉喰って、呼吸して「燃焼させる」ぐらいじゃぁ、熱量的にとても追いつかない。原子炉か核融合炉か正反物質による対消滅ぐらいは、必要になりそうだ。 


 

  • (2)「魔法師」という言葉は、在りそうに無い。

 であるならば、少なくともレベリス王国では、「魔法師」という言葉は使われ無さそうだし、「魔法師」と呼ばれる人も居そうに無い。従って、「魔法師の集団」という意味での「魔法師・団」=「魔法師団」と言う言葉も、一寸在りそうに無い。

 無論、言語というモノは、数学ほどには厳密ではない。「魔法師」と言う言葉が無い、乃至使われなくなった後も、「魔法師の集団」という「原義」を持つ「魔法師団」という呼称・名称が残る、事はあり得る。
 軍隊が馬に騎乗しなくなって久しいのに、「騎兵」乃至「軽騎兵」を名乗る部隊は現代にもある。ドイツに於ける「擲弾兵」やソ連・ロシアに於ける「狙撃兵」も「原義」とはかけ離れても慣用的に用いられている。

 とは言え、普通に考えれば、現代(*1)レベリス王国」に於いて、「魔法師」なる言葉が奇異であることには変わりは無く、そうであれば、やはり「魔法師団」は「師団」であり、「魔法師団長」たるルーシー・ダイヤモンド「女史」の肩書きは「師団長」であろう、と考えるのが、「妥当な推論」であろう。

 故に、前掲の小説「片田舎の衛兵隊長、剣術道場師範となる」に於いても私(ZERO)は、ルーシー・ダイヤモンド「女史」を「師団長」と呼称・表記し、「師団長閣下」とも呼称・表記した。

 

 

 

 原作の小説では「団長」と表記されているにも関わらず、だ。

 まあ、「団長」よりも「師団長」の方が、一般的に「強い」ってイメージを、私(ZERO)が抱いている、ってのも、背景にはあるけどね。

 無論、ルーシー・ダイヤモンド魔法師団長を、「師団長」であると断定断言すると、生起する問題も、ある。

 一つには「師団」ってのが、少なくともとこちらの世界では「最小限の戦略的単位」とも定義され、一声「一万人の人員を有する」のが通り相場であることだ。「あっちの世界」のレベリス王国の人口がどの程度かは不明であるが、ザッと見たところ中世程度の技術レベル(*2)であるのに、「人間として魔術が使える魔術師」ばかり集めて「師団」を編成できるかには、大いに疑義の余地が在る。
 そりゃぁ「魔術師の顕現率」にも依る、だろうが・・・仮に探知率も含めて全人口の1%が「魔術師として見出される」としても、全人口が百万人居ないと「一個師団の定数1万人の魔術師」は集められない。

 「全人口の1%を”魔術師である”と言うだけで"魔法師団"に動員できるか」ってのも、結構な問題で、こっちの「動員できるか」問題は(探知率を含めた)「魔術師の顕現率」が低いほど緩和される。

 「魔術師の数が多過ぎて、魔術師学院や魔法師団への編入者が多く、国の財政も経済も火の車」って状態では無い様なので(*3)「魔術師の顕現率」は1%よりは相当に低そうではある。

 「将来は規模を拡大し、立派な師団にするぜぇ!」って意図と意気を込めての「師団」って線も、考えられなくは無いが。

 或いは、「武田騎馬軍団」の様な、掛け声というか、キャッチフレーズというか、宣伝・喧伝の意味を込めての「師団」という可能性もあるか。 
 

<注記>

(*1) 本作品の主な舞台となっている時代、という意味での「現代」。 

 

(*2) ファンタジー世界」の定番ではあるが。移動手段は通常は馬と馬車で、自動車や鉄道や航空機は無さそうだ。

 但し、「魔法・魔術」という「超技術」があることには、留意が必要。 

 

(*3) 少なくとも、首都バルトレーン近辺は相当に繁栄している様だし、片田舎にある主人公の故郷の村も「重税に喘いでいる」訳では無さそうだ。

 あ、片田舎の村から首都まで馬車で一日って記述があった気がするから、国の大きさ(乃至「小ささ」)は、ある程度読める、かなぁ。 


 

  • (3)「魔法師団」の持つ意味

 一方で、こうは思わない/思わなかっただろうか。「魔法と魔術を厳密に区別しているらしいレベリス王国に於いて、”魔法師団”であって、”魔術師団”でないのは、可笑しいのではないか?」。

 先述の通り「魔法のウチ、人が使える範囲を魔術」と定義するならば、人の集団である筈の「師団」は「魔術師団」になりそう、である。

 まあ、幾つか「言い訳」は考えられる。例えば「魔術師団」だと「魔術師の集団」と言うイメージというかニュアンスが先行してしまい、「師団」と命名した意味・意義が薄れるから、敢えて「魔法師団」である、とか。実寸口径105mmの砲なのに、先行する105mm砲と区別識別するために「106mm砲」と呼称する実例が「こっちの世界」にもあるから、似た様な「配慮」が働いた可能性も、排除は出来まい。

 或いは、「魔法師団」は「魔術ならざる魔法をも使う」から「魔法師団」である、とか。
 例えば、人間が魔術として扱えない魔法を使える魔物を飼い慣らして使役している、と考えれば、この「魔法師団」なる呼称・名称にも納得がいこう。この場合、魔法師団に所属するのは、当該魔物を飼い慣らして扱える「魔物使い」たる人間で在り、「魔法を使う魔物」は、師団所有の馬匹乃至装備品、ってことになろう。
 またこれは、「魔術師ではないが魔法師団の構成員」という存在を肯定するモノであり、「魔法師団」を「師団」たらしめる可能性を高めるモノでもあろう・・・・「魔術を使う」のと、「魔物を飼い慣らし使役する」のと、どっちが希少で大変かは不明だが。

 火を吐くドラゴンとか使役して、火炎放射器として使うとか考えると、大陸戦史・戦術を一変させる「ゲームチェンジャー」となる可能性が、「魔法師団」という名前及びその「推定される組織・装備」には、ありそうである。