はいどうも。
今回は恒例のディズニー・トゥーン・スタジオ回です。トゥーン・スタジオについてはこちらの記事を参照。
いっとき巷に溢れた所謂「ディズニーヒット作のひどい続編」の主犯格としても名高いこのスタジオですが、これまでも語ってきたように実はとても素敵な作品もいくつも世に送り出しています。
といつも前置きで書いてはいますが、実際はやはり低予算低クオリティーの取るに足らない続編作品も多くあるのが正直なところでございます。
まぁある意味仕方ないんですけども。
今回はそんなトゥーン・スタジオ史上ぶっちぎりのNo.1映画との呼び声も高い、正真正銘掛け値なしのこちらの傑作映画について語っていきたいと思います。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
ティガームービー プーさんの贈り物
(原題:The Tigger Movie)
2000年
監督
ジュン・ファルケンシュタイン
データ
1977年の「くまのプーさん 完全保存版」以来となる、約20年以上ぶりに劇場公開されたくまのプーさん史上2番目の劇場用長編作品。
ディズニー・トゥーンスタジオとウォルトディズニー・アニメーション・ジャパンが中心となり制作され、多数の日本人スタッフが携わった作品としても有名です。
※厳密に言うと今作はトゥーン・スタジオ名義の作品ではありませんが、この時期のトゥーンとテレビジョンアニメーションは密接な関係でありクリエイター等も含めて垣根が曖昧な状況だった為【トゥーン・スタジオ】と一纏めで紹介させて頂いています。
監督は1998年のTVスペシャル「くまのプーさん みんなの感謝祭」でプー作品との相性の良さを証明したジュン・ファルケンシュタイン。
脚本もジュン・ファルケンシュタインが監督と兼務で執筆しています。
音楽には「くまのプーさん 完全保存版」をはじめ「メリー・ポピンズ」や「ジャングル・ブック」等の他「イッツ・ア・スモールワールド」「魅惑のチキルーム」等アトラクション楽曲でも知られるディズニーミュージックレジェンド・シャーマン兄弟がほとんど引退状態だったにも関わらずまさかのカムバックを果たし大きな話題となりました。
元々はビデオ用作品として企画が始まった今作ですが、このシャーマン兄弟のカムバックを契機に劇場作品としての制作に切り替わったと言われています。
クリストファー・ロビンの空想の世界100エーカーの森を舞台に、自分の家族を探すトラのぬいぐるみティガーとその仲間達の奮闘を描いたハートフルファンタジー。
原作本には無いディズニーのオリジナルストーリーとなっています。
お馴染みのキャラクター達が軒並み出演している今作ですが「完全保存版」や「新くまのプーさん」等に登場したディズニーオリジナルキャラクターのゴーファーは今作では登場しません。
プーさんのジム・カミングス。
日本語版は八代駿さん。
ピグレット役のジョン・フィドラー。
日本語版は小宮山清さん。
ティガー役には初代のポール・ウィンチェル引退に伴い2代目のジム・カミングスが初めて全編担当した長編作品となりました。
日本語版は玄田哲章さん。
ラビットにケン・サンソム。
日本語版・龍田直樹さん。
イーヨーはピーター・カレン。
日本語版・石田太郎さん。
オウル役にアンドレ・ストイカ。
日本語版は上田敏也さん。歌・福沢良一さん。
ルー役にニキータ・ホプキンス。
7年に渡りルー役を務め、最もポピュラーなルーボイスとして知られています。
日本語版は小倉裕大さん。
日米ともに最も長くキャラクターを演じた所謂定番のキャスト陣が揃い踏みとなっています。
低予算での制作にも関わらず非常に好調な興行収入を記録し、2018年に「プーと大人になった僕」に抜かれるまでは「完全保存版」や2011年版を抑えディズニープー史上最も収益をあげた作品として知られていました。
低予算作品であることを全く感じさせない拘り抜かれた作画・アニメーション・音楽、そして【家族とは?】という普遍的なテーマを主題とした子供にも大人にも刺さる秀逸なストーリーは非常に多くの共感と好評価を呼び、特に日本では東京ディズニーランド【プーさんのハニー・ハント】のオープンと公開タイミングが近かった事もあり、2000年代空前のプーさんブーム火付け役となり、異例の大ヒットを記録しました。
この「ティガー・ムービー」の大成功を皮切りにトゥーン・スタジオは「ピグレットムービー」→「はじめましてランピー」と立て続けに劇場用プーさんを製作。
90年代後半下火になっていたプーさん人気を見事に再燃させることに成功しました。
その後も口コミ等でその作品としてのクオリティーの高さは語り継がれ続け、現在でもディズニープー屈指の人気作・そしてトゥーン作品最大の傑作としてその名を轟かせ続けています。
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あらすじ
冬が近づく100エーカーの森。
ある日、虎のぬいぐるみティガーは自分が起こしたトラブルがきっかけで仲間達からの疎外感を感じてしまう。
そんなティガーを兄のように慕うルーは、彼を心配し声をかける。
ルーから家族についての話を聞いたティガーは「自分にも理解し寄り添ってくれる家族が居るはずだ」と思い立ち【自分の家族】を探し始めた。
オウルの助言をもとに家族探しを始めるティガーとルーだったが、一向に見つかる気配はなく、そうこうしているうちに厳しい冬の季節が100エーカーの森を覆いはじめる。
冬支度を急ぐよう皆を囃すラビットに促されるように冬の到来に備えていたプー達だったが、ティガーの様子を心配し、彼の為にとある行動を起こす。。
しかし、友達の為を思って起こしたこのプー達の行動は、かえってティガーをさらに追い詰める結果となってしまった。
果たしてティガーの家族は見つかるのか。
家族とはいったい何なのか。
彼らの家族探しは、思わぬ事件と結末を迎えようとしていた…。
あんまり言い切るような書き方はしたくないんですが、この作品に限っては言わせてください。
間違いなく ディズニーのプーさん映画史上最高傑作であり、トゥーンスタジオ史上最高傑作です。
くまのプーさんという既存の有名キャラクターと題材を扱いながら、その上で家族というものをここまで子供にも分かりやすく、尚且つ大人にも響く絶妙な塩梅でまとめきっている事にただただ頭が下がります。
最高のハートフルファミリーエンターテイメントです。
少なくとも自分がこれまで観てきた【家族】というものを題材とした映画の中でぶっちぎりのナンバーワンです。
いやこれは本当に。贔屓目抜きで。
「ミラベル〜」よりも上ですね。
というか、大抵の本家ディズニースタジオ作品と比べても全く引けをとらないくらいの作品だと個人的には思っています。
ストーリーだけではなくて、作画アニメーションも音楽も、平たく言うと完璧に神がかってるんですよ。
正直これ以降のプー作品やトゥーンスタジオ並びにディズニージャパン制作作品と比べるともう本当に……奇跡なんですよね。
奇跡の仕上がりなんですよ。
そしてここが本当にすごいと思うんですけど、いちプー作品として見ても間違いなく 圧倒的な作品になってるんですよね。
過去作や原作に対してのリスペクト、細かな設定の活かし方、各キャラクターの個性を生かした立ち回らせ方、どれをとっても完璧なんです。
やはりこれは第1作目から関わり続けディズニーのプーさんを誰よりも熟知しているシャーマン兄弟が製作にがっつり携わっていることが大きな要因の一つだと思います。
そしてここ大事なんですけど、他のどのプー作品よりも圧倒的に見やすいんですよね。
構成がしっかりしていて。
まぁ兎に角…重ねてになっちゃいますが本当に奇跡のような素晴らしい作品なんですよ。
「プーさんなんてどうせ子供向けでしょ…」とバカにしているような人にこそ是非とも一度は見てほしい…。
というかもうみんなに観て欲しいw
少なくともディズニー映画やプーさんが少しでも好きな方にはみんなに一度は見てほしい作品です。
練り上げられた構成とプロット
今作は原作にはまったく無いディズニー完全オリジナルストーリーなのですが、ティガーというキャラクターに注目し、彼の初期からの決まり文句「ティガーは俺1人。」という台詞と、原作の【プーやティガーはぬいぐるみであり空想の存在なのでそれぞれ1個体ずつしか存在しない】という設定を最大限に活かし『家族とは?』というとても大きく普遍的なテーマを子供にも大人にも届く形で見事に描ききっています。
プーはそもそも短編の詩集が原作という事もあり、ディズニーアニメーションにおいてもストーリー性より空気感や独特の間やキャラクターの個性等世界観を楽しむことに重点を置いた作品となっていました。
結果正直なところ1977年の完全保存版はかなり人を選ぶ作品と言えます。ストーリー性が薄く起伏も弱いので退屈に感じる人もいるでしょう。(それも魅力なのですが)
この「ティガー・ムービー」ではプーという世界にあえて強いストーリー性や明確な物語の起伏・起承転結を加えた事で作品への取っつきやすさが格段に上がっています。
冒頭の掴みから問題の発生とキャラクター達の言動が中盤を引っ張り最後のクライマックスへの流れと「家族からの手紙」という仕掛けを使った最後の落ちまで構成が完璧なんですよね。
ヴィラン(悪役)が居ない世界であるという問題点も、ラビットというプーワールド唯一の現実主義者であるキャラクターをうまく立ち回らせる事と、プーの1つの裏テーマでもある【純粋無垢であるが故の残酷さ】を効果的に強調する事でしっかりフォローしています。
観ている人は自然とティガーを不憫に想い、いつの間にか応援している流れに持っていくようにいくつも工夫がなされているという事です。
脚本が恐ろしく良くできています。
そしてこれが最も凄いとこなのですが、そんないくつもの構成面の工夫を加えているにも関わらず、プーさんという作品や世界の魅力やバックボーンを全く壊していないどころかしっかりとそれを効果的に表現しているということ。
例えば冒頭のティガーとプー達のいざこざ。
ここでは原作から表現され続けている「純粋が故の残酷さ」の表現がうまく効いているんですよね。
プーたちはティガーに「僕らはティガーじゃないから、ティガーと同じように跳び跳ねることはできないんだ。」といい放ちます。
冷たい言葉に響くかもしれませんが、プー達の世界には皮肉や嫌味といった概念はなく、ただただ言葉通りの意味であってそれ以上でもそれ以下でもないんです。
つまり悪気は全く1ミリもないのです。
この時のプー達の言動はそれぞれが実にプー達らしく、違和感が全くありません。
普通に考えたら嫌味なんですよね。
この世界が子供の純粋さが産んだ世界であるというバックボーンがあるからこそ、現実では引くくらいの言動でもプー達にさせられるんですよね。
それは原作から引き継がれた大きな特徴で、それをちゃんと活かしています。
それからプーさん達がティガーの為におこす行動もこれまた、ただ無条件に相手を思う気持ちという純粋さから来ている為に自然なんですよ。
相手を傷付けるのも、救うのも、純粋さ。
最高にプーさんらしい展開です。
そして、この映画のテーマである『家族』ですが、これもプーさんという作品のバックボーンを活かした絶妙な表現なんですよね。
ネタバレになってしまいますが、この映画でティガーの血縁的家族は見つかりません。
100エーカーの森にティガーの家族はいません。
ぬいぐるみだから。
でも、オウルの家には家族の肖像画があるし、ルーには母親のカンガがいます。
これはつまり、100エーカーの森はクリストファーロビンの想像の世界であり、カンガとルーは【親子ペアのぬいぐるみ】オウルは【リアルなフクロウ】として想像されているからなんです。
プーやティガーはあくまでロビンが親にもらった単体のぬいぐるみなんです。
これは原作から来ている公式の設定。
ここからヒントを得て家族をテーマにプーさんでこんな切ない物語を生み出すとは、、本当にこの点は感服します。
プー達がもう本当にただの家族にしか見えないんですよ。
【近すぎる存在が故に時折雑に扱っちゃうんだけど、無条件に愛し合っていて無条件に心配し合っていて、無条件に助け合う。】
まさに家族の形そのものなんです。
血縁とかではない’仲間’という関係でここまで明確に家族を表現できるのは本当に凄いし【それに気づかず血縁の家族を探し求めるティガー】というプロットは、ちょっと本当に天才的だと思いますね。
本当に家族というテーマの映画としては「ミラベルと魔法だらけの家」の間違いなく上をいってると思います。
これが、プーやピグレットではなく【ティガー】というのがまたミソなんですよね。
プー作品として
この作品は前述の通りプー作品の中で最もストーリー性を重視した作品といえます。
にもかかわらず、他のプー作品以上に過去作や原作を活かしたキャラクターの掘り下げ方が本当に抜群なんです。
ティガーとルーが今回の主役なんですが、そもそもこの二人の関係性というのもディズニープーさんではこの作品で初めてしっかり描かれたんですよね。
それまではほとんど原作のみの要素でした。
他のキャラクターもそれぞれのアイコンを十二分に発揮していて、ストーリー重視の構成であるにも関わらず、見事に誰一人個性が死んでないんです。
特に前述したラビットと、オウルの使い方は見事です。これまで過去作や原作で描かれていた【家族語り癖】や【文章書き】をうまーくストーリーに絡めてしっかり活かしています。
クリストファー・ロビンの使い方もとても上手かったですね。
ディズニーのプーさん作品って、実はクリストファー・ロビンの扱いが凄く難しいんですよね。
彼が居るとプー達の純粋さや個性が死ぬんです。
平たく言うとお話にならなくなっちゃうんですよね。
だけど間違いなくこの作品に絶対に無くてはならない存在。
だから難しいんです。
今作では最後の最後に登場して、たった一言で全てをまとめます。
ロビンの「探しに行かなくったっていいじゃないか。」というこの一言。
そしてティガーの「やっと気がついたよ。」という、この2つの台詞がこの物語の全てなんです。
この二言で終わってしまうお話しなんです。
ロビンが最初からこのストーリーに居たら、間違いなくお話しにならないんですよね。
この辺りは本当にプー達の特殊な世界観と、クリストファー・ロビンというキャラクターの立ち位置を本当に良くわかっている素晴らしい立ち回らせ方だったと思いますね。
作画と音楽の圧倒的な完成度
そしてやはりこの作品を名作たらしめている大きなポイントの一つは、その作画クオリティの高さです。
手描きの暖かみや独特な雰囲気をしっかり残しつつ完全保存版よりも数段グレードアップしていて雪などの背景描写も圧巻です。
吹雪のシーンでのキャラクターの毛羽立ちとか本当に細かいところまで丁寧に書き込まれています。
普通に本家スタジオレベルかそれ以上なんですよ。
正直【本当にトゥーン作品なのか】と疑ってしまうほどです。
アニメーターたちの情熱やこだわりがダイレクトに伝わってくる素晴らしい完成度になっています。
そして音楽。
これはもう言わずもがな。最高ですね。
ほとんど現役引退状態だったシャーマン兄弟が何曲も新曲を提供してくれています。
子供が一緒に歌えるようなキッズポップからミュージカル特化型、そして大人の心をガシッと掴む名曲まで…。
その振り幅も流石です。
特にティガーが自分の家族の想像をはしゃぎながら歌う「Round My Family Tree」はミュージカルの見事さも相まって見応え抜群の名シーンになっていますし、ケニー・ロギンスとの共作であり本作のメインテーマでもある「Your Heart Will Lead You Home」はもう本当に素晴らしすぎて名曲すぎて、、、。
エンディングはこの曲と共に原作の挿絵を描いたアーネストシェパード風に本作のシーンを描いた挿し絵が流れ、大人達の涙を誘います。
ちなみにこの曲はあのディズニーランド伝説のパレード「ジュビレーション!」のメインソングとしてもまさかの大抜擢を果たした事でも有名ですね。
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とまぁ語りたいことだらけの、本当に大好きなこの作品。
ストーリー性の薄さや展開の弱さといったプー作品の弱点を見事に補い、それでいてプーさんという作品ならではの魅力を最大限まで引き出しています。
この両方が出来てるのが本当に凄いんですよね。
プーさんってストーリー映画として成立させるのが本当に難しい素材だと思うんです。
だからこそウォルトは最初の映画の長編を中止して短編3本という方針に変えたわけで。
一本の長編映画として「プー」という題材をここまでハイクオリティな素晴らしい作品に仕上げたっていうのは、後にも先にもこの一本だけだと思います。
ディズニー映画としても、本当に間違いなく何処に出しても通用する、秀逸な仕上がりになっています。
プーさんという作品に馴染みがない大人も、退屈しちゃう子供も、ちゃんとした本家劇場作品にしか興味がないような偏屈なディズニーファンも、この作品は間違いなく楽しめると思います。
最高のプーさん入門編であり、ファン感涙の作品であり、ディズニーが誇る傑作映画です。
作り手の情熱が伝わってくるんですよね、ひしひしと。
今もファンが後をたたないトゥーン・スタジオ最大最高の遺産。
未見の方はぜひぜひ一度!
ご鑑賞を強くおすすめします。
家族とは何なのか。
ティガーと一緒にぜひ考えてみて下さい。
「ティガー・ムービー」は現在ディズニープラスで配信中です♪
はい。
というわけで今回はこの辺で!
今回も長文駄文にお付き合い頂きありがとうございました♪
また次回。
しーゆーねくすとたぁいむー。