2021年9月30日

 

 横綱白鵬が引退届を日本相撲協会に提出したという。ここ数年、白鵬の土俵上の所作や土俵入りの醜さに不快感を覚え、相撲を見る意欲が減退していた。これで平穏な気持ちで相撲を見ることができるとほっとした。

 とはいえ、白鵬の業績については心より敬意を表したい。相撲協会の白鵬に対する弱腰について憤慨していたとはいうものの、白鵬が記録した数々の偉業は、今後破る力士が現れるとは思えないレベルの高みにある。朝青龍が引退した後、長く一人横綱として土俵を支えた白鵬の奮闘は賞賛に値する(朝青龍も一人横綱の時期が長かったが)。一方で、とことん力士を食い物にする協会のご都合主義にも辟易していた。さんざん白鵬を利用するだけ利用しておいて、引退直前になって、やれ休みが多いの、取り口が汚いの、横綱らしい品格がないのとけなしまくり(100%事実だけど)、親方資格の可否まで云々するとは手のひらを返すとはこのことだ。

 さてさて、白鵬引退はともかく、今場所の照ノ富士は立派であった。新横綱でいきなり一人横綱として土俵を支える立場となり、大関は全くあてにならず孤軍奮闘であったにも関わらず、泰然とした相撲で15日間を勤め、見事優勝を果たした。土俵入りも、妙な自己流のアレンジが目障りで品のない白鵬と違って、オーソドックスで堂々たる姿である。

 その照ノ富士が平幕の宇良と対戦した9日目の一番である。横綱と同じように、ケガと手術で休場を余儀なくされ、二段目まで陥落した後に這い上がってきた宇良との対戦には、照ノ富士自身も「そんな二人が結びで相撲をとることができてよかった」と感慨を語っていた。この一番、宇良が最後に粘って横綱にしがみつき、廻しから手を離さなかった。これには解説の北の富士さんが、「ここまでしつこく粘ると「素人相撲」のようだとひどく叱られるところだが、照ノ富士はさすがに大人だった。ダメを押すこともなく優しく押し倒した。この動作ひとつにしても照ノ富士は立派であった。誰とは言わないが、気の荒い力士ならもっと手荒い事態になっていたと思う。 宇良はしぶといのは結構だが、このような誰が見ても挽回不能なことになったら、手は離さなければ相手にけがをさせるかもしれない。力士はこんな相撲を素人相撲と言って一番に嫌うから今後は注意をした方がいい。それは宇良のためでもある。」とさすがのご指摘であった(9月22日東京中日スポーツ)。

 

 これで思い出したのが、2004年名古屋場所8日目の結び、朝青龍対琴ノ若(今の琴ノ若のお父さん)の一番であった。この時は逆に横綱の朝青龍が琴ノ若の左上手投げに裏返しにされたのに、琴ノ若の廻しにしがみついて離れず、そのまま倒れると相手を押しつぶすと慮った琴ノ若が左手をついて、横綱の身体をかばった。

 

 行司も当然「かばい手」と判断して琴ノ若に軍配を上げたが、物言いの結果取り直しとなり、朝青龍が星を拾った。

 さらに思い出したのが、1972年初場所8日目、横綱北の富士と関脇(当時)貴ノ花(あの平成の大横綱貴乃花のお父さん)の取り組み。これは貴ノ花に軍配が上がったが、物言いがついて協議の末「かばい手」と判断され、行司差し違えで北の富士の勝ちとなった。裁いた立行司木村庄之助は進退伺を出し、そのまま謹慎から引退となった、いわくつきの一番である。

 

照ノ富士-宇良戦は特に判定に問題はなかったが、他の2番はいずれも横綱に有利な判定となった。が、写真で見る限り朝青龍はいったん体が宙に浮いてしまい、完全な死に体だと判断できる。逆に貴ノ花は北の富士の外掛けをかわして打っちゃろうとして体をひねっている。足も土俵を噛んでいると見受けられる。北の富士が手をつくのはいささか早いという印象である。

写真が相撲をとっているわけではないので、判定は判定である。しかし、大鵬-戸田戦の世紀の誤審を受けて相撲協会は他のスポーツに先駆けてビデオ映像を参考にしている。ビデオを見たうえで、横綱有利という結果になったのはいささか釈然としませんね。ビデオの導入も早かったが、「忖度」を取り入れるのも早かったということか。