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世の中に「美しくなりたいと」と願わない女性はいません。思春期外来を訪れたTちゃん中学3年生もそのひとりで、目的達成のために食事制限や過度な運動に走っている様子が見て取れます。
お父さんの好みはレオナルド・ダビンチの描いたモナリザやルノアールの絵に出てくるふくよかな女性ですし、誰もがスリムな女性を好むとは限らないのですが、娘さんにはそんなお父さんの思いが届くはずもありません。そんなTちゃんの診察が行われていたときに目についたニュースがこれです。米国を拠点として世界18カ国以上で発売されているファッション雑誌『ヴォーグ』が、痩せすぎ、若すぎるモデルとは契約しないとの編集方針を発表したという記事でした。「美と健康とは不可分のものであると確信する」というのがその理由で、若い女性たちが誤った美の観念に縛られ、過度のダイエットに走ることを戒めるために、「16歳未満のモデル」「摂食障害があるとみられるモデル」を挙げています。
同様なことが世界各国で起こっています。2006年のことですが、マドリード・ファッションショーでは、BMI(ボディーマス指数:体重を身長の2乗で割った比率)が18以上ないと失格としました。
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痩せすぎ女性比率の国際比較にも興味深いデータがあります。1人当たりのGDP(gross domestic product:国内総生産、PPPドル)とBMIが18.5未満の割合をみたものです。一般には、食料事情から1人当たりGDPの低い貧困国では痩せすぎ女性が多いという傾向がありますが、日本は貧困国ではありません。それにもかかわらず、日本の場合痩せすぎ女性の比率は11.1%で112カ国中30位となっています。高所得国としては、シンガポールやアラブ首長国連邦と並んで異例の高さとなっている点が目立っています。女性平均の体型が世界の中でスリムである点では日本と共通の韓国でも痩せすぎ女性の比率は6.5%とそれほど高くありません。
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なぜ痩せすぎをそれほど問題にするのでしょうか。(1)栄養の偏りによって貧血になる、(2)血糖値が下がって物事に集中できなくなる、(3)肌のみずみずしさが失われる、(4)髪の毛が抜ける、(5)口内炎になる、そして(6)月経が止まるなど健康が損なわれていくことなどが起こり得るからです。特に、無月経を来すこともある「痩せ」では、妊娠前や妊娠中の低栄養状態が胎児を高血圧、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、骨粗鬆症、認知能の低下など生活習慣病予備軍にしてしまう危険性があります。「出生児の体重が小さいほど、生活習慣病の発現率が高くなる」というBarker仮説というのもあります。単胎正期産児の出生体重への影響因子をみても、妊娠前の体格と生まれてくる子どもの低出生体重児の割合には有意な相関があることが指摘されています。
日本のバラエティ番組では依然として「痩せ」をもてはやす傾向がありますが、そのようなメディア情報に惑わされることがないように、「痩せ」にこだわる女の子を身近に持っている指導者、親御さんからの注意を喚起して欲しいものです。