http://www.asahi.com/science/update/0624/TKY201006230484.html
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肺がんの治療薬「イレッサ」を使った治療法が、特定のタイプの患者に対して、従来の抗がん剤治療に比べ大きく効果があることが、東北大など国内約50施設で行われた臨床試験でわかった。このタイプは日本人に多く、とくに女性患者に多い。遺伝子診断で対象者を事前に絞れるため、患者はより効果の高い治療を受けられるようになりそうだ。
イレッサは2002年に、世界に先駆けて日本で初めて承認された。アジア人、とくに喫煙との関連が低い女性の肺腺がん患者によく効くと指摘される一方で、承認直後は副作用の間質性肺炎による死亡者が相次ぎ、社会問題となっていた。
イレッサは、がんの増殖にかかわるEGFRと呼ばれる遺伝子に変異がある進行がん患者に効果があると考えられていた。研究班は、この遺伝子に変異がある進行性の肺がん患者230人を、最初からイレッサだけを使う患者と、従来の化学療法を受ける患者に分けた。腫瘍(しゅよう)が大きくならずに安定している期間を比べると、イレッサを使った患者は平均10.8カ月間、化学療法の患者は5.4カ月間で、大きく差が出た。生存期間はそれぞれ30.5カ月、23.6カ月だったが、患者数が少なく、統計的に有意な差は出なかった。
日本人の肺がん患者は、約3割にEGFR変異があり、50歳以下の女性に限ると半数以上にのぼる。ただ、日本肺癌(がん)学会が05年に作成した指針では、イレッサを治療の最初から使うことは推奨されておらず、現在改定を進めているところだ。研究班は「QOL(生活の質)の点からも、今後は進行性肺がんの第一選択薬となる」と指摘する。
イレッサは重い副作用で死亡することがあるため、その使い方が課題となってきた。今回の結果を受け、遺伝子診断を徹底して対象者を絞りこむことで、効率的に使えるようになる可能性がある。
24日付の米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン電子版で論文を発表する。(岡崎明子)