http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/17700533
より
リズミカルに繰り返される発声運動が、セロトニン神経を活性化して中枢セロトニンレベルと前頭前野の活動を増大させ、心理面では不安が少なく活気のある状態を形成する、との仮説をヒトを対象に検討した。本研究では、声明、子守唄、歌曲および賛美歌を対象とし、それぞれの曲の熟練者に20分以上歌わせた。歌の最中には、近赤外分光法(Near-infrared spectroscopy ; NIRS)を用いて前頭前野の酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)レベルを測定して局所脳血流変動の解析を行い、同時に腹筋の筋電図を記録した。歌の前後では脳波記録を行い、心理テスト(POMS)を実施して気分の変化を測定し、採血と採尿を行って血中及び尿中セロトニンレベルを測定した。その結果、歌っている最中には発声に伴って腹筋の筋電図が出現し、歌の後には脳波のhigh-frequency α波帯域(10~13Hz)のパワーが増加した。前頭前野のoxy-Hbレベルは歌の最中にゆっくりと増加した。この変化はこれまでの私の先行研究における坐禅の呼吸法や読経の最中のoxy-Hbレベルの変化と同様であった。さらに、oxy-Hbレベルは歌の内容に対して共感が深まる"さび"の部分でより急峻な増加となり、前頭前野腹内側部において他の領域より大きい傾向を示した。歌う前と比べて歌った後には緊張と不安が減少し活気が増大する傾向があった。尿と血液中セロトニンレベルは歌う前と比べて、歌った後に増加していた。以上の結果から、声明、子守唄、歌曲および讃美歌を歌うことによって前頭前野が活性化され、その活性化は、セロトニン神経の活性化を促し、セロトニン神経の活性化が脳波や心理状態の変化に影響したものと考えられた。