祇園精舍の鐘の声
諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらはす
奢れる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし
猛き者もつひにはほろびぬ
ひとへに風の前の塵に同じ
おそらく多くの人が、暗唱したことのある「平家物語」の冒頭の詞章。
古典を読む自信のない私は、吉川英治さんの書いた「新・平家物語」で読んでみました。
とは言っても、これも全16巻の超大作です。紹介したい言葉も山盛りでした。
そこで、今日からしばらくの間、私のブログは「新・平家物語」一色になります。軍記物は苦手という方にも、なるべく軍記物っぽくないように紹介して参りますので、どうぞお目通しください。
今日は第1巻から。
若かりし頃の清盛。貧乏な暮らしを余儀なくされていましたが、それでも、後に一世を風靡する人間のでかさをうかがわせていました。
ある時、神の名を借りて好き放題をする叡山に怒りを覚えた清盛は、叡山の象徴である日吉(ひえ)山王の神輿に弓矢を放ちます。「罰あたりめっ。」とわめく荒法師たちを尻目に、清盛は言い放ちます。
「およそ、神だろうが、仏だろうが、人を悩ませ、惑わせ、苦しませる神やある仏やある。」
また別の時、自らの鎧の材料として、狐の生き皮を求めんと、清盛は山中に入ります。
そこで幸運にも3匹もの狐を見つけた清盛は、弓を引き絞ります。
しかし、それは幼い子どもを必死で守ろうとする親子狐でした。
父狐は、死へ直面しながら、清盛のつがえた矢をにらみます。
母狐は、かなしげな本能に、ふところ深く、子狐をかい抱きます。
その姿を見た清盛は、つぶやきます。
「ああ、あわれ。…あわれや、立派だ。美しい家族だ。ヘタな人間よりは」
日吉山王の神輿を射た矢も、ふと、この親子狐には、放つ勇気が出なかった。
おれの鏃(やじり)は、いったい、何を求めようとして、この生き物を、追いつめているのだろう。
そして、矢を空に向かって放ったのでした。
人を苦しめる者は、神であっても、神ではない。
子を守る強さとやさしさを持った者は、狐であっても恐れるに値する。
教科書で習った「平家にあらずんば人にあらず」からイメージする横暴で非情な人物ではない、一人の人間としての清盛を見ました。