喧嘩をしても、しなくても ─『本所おけら長屋(十二)』(畠山健二) | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

「お糸ねえちゃんも、おっとうのことは好き?」

 お糸の頭には八五郎の顔が浮かんで、吹き出しそうになった。

「好きだよ。会うと喧嘩ばかりしてるけどね」

「どうして、好きなのに喧嘩するの?」

 お糸は返答に困った。

「うーん…。安心してるからかなあ」

「安心って?」

「喧嘩をしても大丈夫だから。すぐに仲直りできるからだよ」

 お糸は笑った。

「そうだね。お妙ちゃんの言う通りだね」

 (畠山健二、『本所おけら長屋(十二)』より)

 

お妙ちゃんは6歳の女の子。

お父さんを大好きな女の子。

 

お糸はもう大人。

江戸っ子の八五郎の娘。

 

それぞれの「おっとう」のイメージが浮かんできそうです。

そして、どちらの「おっとう」との関係もほほえましい。

家族の形はいろいろで、それぞれに幸せの形があるのですね。

 

 この『本所おけら長屋』第12巻は、今年の初め、発売されたばかりの時に読んでいました(よろしければコチラを)。でも、二回目を読むと、二回目ならではの粋な言葉と出会えます。

 第13巻はいつごろ刊行されるのでしょうか。

 それまでに、自分ももう少し粋な人になれるように、修行を積んでおきます。