銀河漂流劇場ビリーとエド 第7話『食物新時代』・③ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第7話  ①、  ②、  ④、  

 

 シルバーアロー号の仲間たちが直面しているのは“食糧不足”であって“飢餓”ではない。

 不死身究極生物であるエドワード船長は体内の葉緑素を増やすことで光合成を行い、完全な
自給自足を実現させている。ポンコツロボットはもちろん、文字通りの意味で住む世界が違う
デジタル生命体のナビコさんにも人間の食事は必要無ければ関係も無い。寝てばっかり生活で
代謝の落ち込んでいるアルルにとっても今の状況は特に差し迫った問題というわけではなく、
結局本気で悩まされているのはビリー1人だけなのだが、それはある意味では幸運だった。

 全員が生命の危機に直結する問題として相対(あいたい)すれば、自己保身から疑心暗鬼を
生じ、最悪の場合同士討ちと仲間割れに発展する危険さえあるのだ。このように“多様性”の
啓蒙のために現実のレプリゼンテーションとやらに合致させる必要は無く、むしろ人間以外の
方がよっぽどやりやすいまであるのは、いわゆる“目覚めた”人たちにはあまりにも不都合で、
目を背けずにはいられない残酷な真実と言えるだろう。

「ハナシの役にも立たねーようなモンねじ込んでりゃあつまんなくもなるわな」
「黒人のゴリ押しとアジア系蔑視に商売の都合で付け替える“政治的”な“正しさ”の欺瞞が
バレた上に女を自称する男どもが方々(ほうぼう)で生物学的な女性たちにさんざん迷惑かけ
まくった結果本来の素晴らしい理念が踏みにじられただけでなく結局はエンタメを中心とした
様々な業界の“進歩”どころか衰退を招いただけの異様な時代でしかなかったアメリカさんの
3度目の正義病はこの際置いといてですね。見て下さいよ、プラントから届いたブツを」

コケーッ!コケーッ!!

「あぁコレな。…なんなんだこいつは?」

コケーッ!コケーッ!!

「見ての通りですよ。これが食糧生産プラントから届いたんです」
「それがわからねーつってんだよ。なんでニワトリにウナギのしっぽが生えてんだ?」

コケーッ!コケーッ!!
ガシャン!ガシャン!


 ウナギのしっぽを生やしたニワトリは、鉄カゴの中で飛び跳ねたり鳴き叫んだりして派手に
暴れまくり、ビリー、エド、アルル、ロボの4人は、果たしてコレを一体どうしたら良いもの
かと、互いの顔と食材を交互に見合わせた。

「…ウナギとニワトリが国際結婚したのかな?」
「素敵な話だがな、エド…赤塚不二夫ならもうちょい上手くフュージョンしてるだろうよ」
「それにギャグキャラとしてはデザインが安直過ぎて私が担当なら秒でボツにしてますね」
「ていうか何なのよ、この悪魔合体は」

 

コケーッ!コケーッ!!
 

 国際結婚どころか邪教の館から抜け出してきた悪魔合体“事故”の産物みたいな新生物は、
己(おのれ)の背後でウネウネ蠢(うごめ)くウナギのしっぽを追って、その場でグルグルと
回り始めた。かなり興奮しているようだ。

 

 

「ともかくこれでプラントの異常がハッキリしましたね、ビリーさん」
「あぁどう考えてもまともじゃねえ。…供給サボってこんなのばっか創ってたんだろうな」
「コレが直接の原因かどうかは分かりませんが、とりあえず運んできたコンテナ列車は部屋に
待機させてあります」
「そうか。じゃあいよいよだな」

「ええ。…かねてからの計画を実行に移すときが来たんです」

「?計画ってなに?」
「プラントを調べに行くんだよ船長。アルルと一緒に留守番してるか?」

 目つきの悪い男を真っすぐに見つめる愛くるしい男の子は、首を横に振った。

「あたしも一緒に行く。起きたばっかなのにまた寝に入るのもったいないし」
「じゃあ決まりだな。と、その前に…」

 ビリーは、鉄カゴの中で暴れるニワトリ…とウナギに視線を移した。

ポキッ!ブツッ!
ブチ、ブチ、ブチ、ブチ…
ダン!ダン、ダン!
トントントントントン…
ジュウウゥゥゥウ…!


 後年、ロボはこれを「マウント厨のビーガンあたりが肉食の野蛮さを再確認しながらクスリ
でもキメてるみたいにハッピーでヒッピーな優越感を味わうためのASMR」と評したという。

 ニワトリに、ウナギのしっぽが生えているだけなら切り離せばいい。食糧生産プラントから
送られてきたのだから、彼らにそれを躊躇(ためら)う理由は無かった。ネズミとゴキブリを
探して喰らう悪食(あくじき)からはすでに卒業していたが、それは摂取カロリーと、捕食に
要する消費カロリーとの収支の問題…要するに小さくて素早い生き物を相手にするのは“割に
合わない”からやらなくなっただけのことだ。 「いい加減食べ飽きた」というのもあるが。

 

 

 

 

「……うめぇ…」

 本物の感動に出会ったとき、人は言葉を失う。おそよ半年以上ぶりにありつくことの出来た
まともな食事に、ビリーはたったひと言つぶやいた。

「蒲焼に串焼きに半身焼きですか。バランスの取れた食事とは言えませんね」
「ご飯なしで食べるにはちょっときついメニューだよね」
「そもそも食べて大丈夫なの?…美味しいけどさ」
「砂肝串の塩にがっつきながら言うセリフではありませんねアルルさん。まぁ嫌がる気持ちは
分からないでもないですが、単純に2つの生物がくっついてるだけなんですから危険はありま
せんよ。それにどのみち半年以上も待たされたビリーさんは誰にも止められませんよ」

 

 そんなこんなで残った骨からも出汁を取ってスープを作り、ロボ以外の3人は、サボり気味
だったプラントからようやく届いた食材を、余すことなく味わい尽くした。

〈続く〉

 

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