銀河漂流劇場ビリーとエド 第1話『ビリー・クライテンの災難』・② | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第1話 ①、 ③、 ④(終) 

 

「…なんでこんなとこに突っ込んじゃったの?」
 宇宙漂流刑執行の直前で“何か”が突っ込んできた。それは間違い無い。しかし何故子供が
こんなところに?疑問は増すばかりだった。

「座標はちゃんとセットしたはずなんですけどねぇ…」
 カプセルとの距離と覗き窓からの角度では、それらしき“2つ”の人影を辛うじて見つける
のが精一杯だった。どちらも身長にそれほど大きな差は無く、片方は子供の声で、もう片方は
ロボットのものだと、すぐに分かった。ついさっきまで似たような調子で処刑宣告と安っぽい
説教を聞かされてきたのだから、間違えようが無い。

「なんか色々吹き飛ばしちゃったみたいだけど、大丈夫なの?」
「人がいたら今頃この辺は死体の山ですよ、現役の倉庫なら物資が大量に保管されているはず
です。いかにも犯罪方面で使われそうな空っぽの廃倉庫じゃないですか。私が持ち主だったら
むしろ解体の手間が省けたことを感謝したいところですね」
「じゃあ誰もいないってこと?」
「いいえ。どうやら全くの無人というわけではなさそうです」
 どうやらビリーの存在に気が付いたようだ。2つの気配と足音は徐々に大きくなっていった。
 コン、コン、
「すいません。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「…………」
 中を覗き込もうとする人影に、まずここから出せと言うように、ビリーは身動きの取れない
体で顔を動かして伝えた。それから間もなくしてカプセルのハッチが開くと、外からのチリが
一気に入り込み、ビリーは思わず咳き込んだ。“棺桶”のフタが開き、拘束服に詰め込まれた
まま芋虫のように這い出てみれば、やはり目の前にいたのは子供とロボットだった。
「…何か用か?」
 おそらく、自分と一緒に吹っ飛ばされてきたのだろう。安っぽいデザインで白々しい説教を
かましていたあのロボットは、まるで台風か大雨の後に道端で見かけるビニール傘みたいに、
カプセルのすぐ側でグッタリと折れ曲がり、火花を吹いていた。
 とりあえず当面の危機は脱したようだが、素直に「助かった」とは言えない気分だった。

 クレーンゲームみたいな手をカチカチと打ち鳴らし、胸のあたりにズラッと並んだボタンは
ネオンサインのように点滅を繰り返していた。透けて見える頭の中では懐中電灯を埋め込んだ
2つの目玉をボンヤリ光らせながら、アンテナ状の“何か”がクルクルと回っている。そして
おそらく人間でいうところの“口”にあたる部分に埋め込まれた小さなブラウン管モニターは、
ロボットの発語に合わせるようにして、謎の波形を描いていた。
 ついさっきまでのが“安っぽい”とするなら、コチラは“古臭い”といったところだろうか。
“未来的な”とか“洗練された”といった表現とは無縁どころかむしろ真逆のずんぐり体型は、
おそらく中に人が入っていてもこうはならないだろう。しかもそれが6,7歳ぐらいの可愛い
男の子とセットなのだから、余計にワケが分からなかった。

「見ての通りの怪しい者ですが、決してお時間は取らせません。なにぶん土地勘が無いもので、
道を聞きたいだけなんですよ。ここは一体どこなんでしょうか?」
「悪いが俺も知らねえ。すぐ外は宇宙だったからな、どっかのコロニーなのは確かだろうよ」
「そうですか。ということはあなたは囚人で、宇宙漂流刑の真っ最中だったわけですね」
「…俺は無実だ」
「じゃあどうしてこんなとこにいるの?」
「知らねーよ。自分チで寝てたのに気が付いたらこんな所にいたんだ。何の罪で捕まったのか
こっちが聞きたいね。さっきから何がどうなってるんだ?誰なんだお前ら?」
「ただの通りすがりの我々にしてみれば、あなたの方がよほど気になります。何か込み入った
事情を抱えていそうですが、心当たりはありませんか?自分でも気付かないうちに何か見ては
いけないものを見てしまったとか」
「そんなこと聞いてどうするんだ。無実の証明でもしてくれんのか?」
「あなたさえよければ構いませんよ。ねえ、船長」
「うん!」
 船長、と呼ばれた男の子は、元気よく答えた。
「…お前ら俺をからかってんのか?」
「初対面の人間をおちょくる趣味はありませんよ」
「僕たち本気だよ」

「……………」
 どうやら悪い連中ではなさそうだが、しかしノンビリ話し込んでいる余裕も無さそうだった。
外ではサイレンの音が、パトカーだか救急車だかは分からないが、かなり近くなっていたのだ。
「意外と早かったですね。ここは一旦逃げるとしましょうか。あなたも一緒にどうです?」
「…逃げ切れるのか?」
「もちろん。いいですよね、船長」
「うん、いいよ」
「…………………」
 ワケの分からない状況は相変わらずだが、選択の余地は残されていなかった。ビリーが頷く

のを合図にして、男の子の人差し指が眉間に押し当てられると、そこで突然意識が途切れた。

〈続く〉

 

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