第7話 ①、 ②、 ③、 ④、 ⑤、 ⑥、 ⑦、 ⑧、 ⑨、
Q、ゲームの世界のラスボスは『魔王』ですが、
ではゲーム“的な”世界のラスボスは誰でしょう?
A、『神』。
『クイズ!答えは明後日』より
ゲームを始めるには、まずはゲームの“ルールを”理解する必要があるように、自分たちを
取り巻く世界を“ルールで”理解することは、すなわち世界に対するゲーム的な解釈と言える
だろう。そして多くの場合ルールに対する疑問には、怒りが付きまとう。
ルールという名の制約と制限によって生じる不都合…「何故“そう”なのか」という疑問と
怒りの矛先はどこへ向かうのか?ここまで考えれば、問題の答えは自ずと見えてくるだろう。
「ですからね、デスゲーム系はもちろん謎だらけの敵にグチャグチャ殺されるよーなハナシを
八方丸く収めようと思ったらですね、どのみち『神』を敵にするしかないんですよ。考察とか
深読み合戦とかいって謎を客引きなんかに利用してるのは特にね。自分から思わせぶりに引っ
張っておいて収拾がつかなくなった挙げ句に投げ捨てる作者の間抜けな自業自得が作品ごと袋
叩きにされるのを何度見てきたことか」
「袋叩きにされてるうちはまだマシだろ?そーやって決まりきったオチにありもしねーような
特別なモンなんか期待してたアホ野郎どもが裏切られたアホな自分から逃げ回ってカルト宗教
じみたコンテンツにカモられてる方がよっぽど多いくらいだろ」
「ええ、そしてプラントの『神(マスター)』であるところの我々が恨みを買うのもね」
毎度おなじみ宇宙船シルバーアロー号の仲間たちによる、再びの食糧生産プラント探索行…
自我に目覚めた食物人間と、それを収穫せんとする作業用ロボットたちとの抗争は、かつての
平和でのどかな田舎の風景を、地獄の戦場へと変えてしまった。
プラント制御中枢へのアクセスも、ナビコさんがいるから今度は楽にいく…はずだったが、
アクセスポイントの捜索も含めどれだけ楽になったところで結局は自分の足でそこまで向かわ
なければならないことに変わりは無く、しかも戦場の真っ只中を歩かされるリスクを考えれば、
決して「楽になった」とは言えない状況だった。
「収支はトントンってとこだな。ナビコさんを疑うわけじゃあないが、コッチの方角で本当に
合ってるんだよな?」
「手っ取り早く済ませたいなら反撃覚悟でそこら辺にいる絶賛稼働中の機械相手にハッキング
仕掛けても構いませんがね。安全で一番近いのがそこしか無いんだから仕方ないでしょう?」
「そうだよ。僕だって生き物相手なら絶対負けないけど、機械が相手じゃ勝手がわかんないし、
アルルさんは…」
「Zzzzz…」
「…分かってるよ船長」
頼みの綱だった超能力少女は、目つきの悪い男の背中でのん気に寝息を立てている。危険な
だけならまだしも、凄惨な破壊と殺戮の現場を歩かされることへの生理的嫌悪感から逃げ道を
探そうと悪あがきしてみるも、改めてこの不愉快な現状が最適解であるいうことが確認された
だけで、ビリーは暗澹(あんたん)たる思いを抱きつつも渋々と歩を進めた。
銃声、爆発、悲鳴、怒号…実話ベースの戦争映画あたりで一度は耳にしたことがあるような
音と衝撃…だが聞こえるたびに身構えてしまう、全身に響くような生々しい迫力は映画のソレ
とはまるっきり違う。それはまぎれもなく彼らの現実の中で起きている出来事であり、鬱蒼と
した森の中、そこにはおびただしい数の機械の残骸と、人間の死体がそこら中に山と積み上げ
られていた。
人間の首から上がなくなっていたり体の半分が吹っ飛ばされていたり、尖った何かで全身を
メッタ刺しにされた体中の穴という穴から色とりどりの血を噴き出していたり、全身の生皮を
はがされたままの姿で苦悶のうちに息絶えていようとも、わずかながらでも人間の形を留めて
いればまだいい方で、元が何であったのかさえ分からないほどバラバラのグチャグチャにされ
たり強力なマイクロ波を浴びたように全身が沸騰して膨れ上がっていたり、あるいは辛うじて
人間だと分かる形をした真っ黒な消し炭が無造作に転がされていたりと、これが映像メディア
なら対象年齢が確実に跳ね上がるどころかモザイク無しでは上映不可能な光景が、彼らの行く
先々に広がっていた。
「…殺しの見本市ってとこだな」
「向こうも狩られまいと必死ですからね。機械の側も制御中枢からの停止命令が出ない限りは
収穫という名の殺戮を止めることはありませんから、地球をドーナツにしたうえ99.何%も
人類やっちゃっておきながら“共存”とか甘っちょろいコト言ってるどこぞの日野晃博の脚本
あたりにでもいそうな敵方のお姫様じゃあるまいし、どちらかが殲滅されるまで続きますよ」
「ハッタリで盛りまくった数字とありきたりなキャラ設定を整合性も考えずにブチ込んでりゃ
当然の結果だよな、だから言ってんだあの社長にシナリオ書かせるなって。まぁそれはそれと
してだ、あそこに転がってる機械の残骸がハーベスタのデカいヤツに見えるのは気のせいか?
どう考えてもあのサイズだと人間巻き込むぞ」
「巻き込むんじゃなくて、最初から人間が標的なんですよ。食物とはいえ相手は一応人間です
からね、農業機械も対人用に進化したんでしょう」
「じゃあ、対人用コンバインとか、対人用田植え機とかあるのかな?」
「あるでしょうね船長。対人用精米機とか対人用マニアスプレッダとか」
「人間のどこを精米すんだよ」
「体のくぼんだところにあるんじゃないですか?米粒と同じでこうポコっと」
「胚がついてるのかよ」
「はい」
「………………………」
予想出来たはずだった。ビリーはこのとき、自身のツッコミを激しく後悔した。
その後も「人類(human-race)ならぬ米人類(human-rice)」とか、ニッチな上にしょーも
ない、なんとも頭の痛くなるよーなネタを道々(みちみち)聞かされたり食物人間たちの仕掛
けたトラップに引っ掛かったビリーの体が半分なくなったりはしたものの、その程度ならヒー
ラーがパーティーにいれば単なる行軍の一部であり、そこら中に死体が転がっているのも繰り
返されるといい加減慣れてくるどころかあの手この手のバラしの手口にむしろ感動すら覚える
ほどだが、それよりも何よりも深刻に、ビリーの頭を悩ませているものがあった。
「…なんであの死体からカレーライスの匂いがするんだ…?」
ホントにあともうちょっとだけ〈続く〉



