せいぜいひまつぶしの小話

せいぜいひまつぶしの小話

5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第7話  ①、  ②、  ③、  ④、  ⑤、  

 

 SFの宇宙人や、ファンタジーの登場人物たちが日本語を、あるいは読者視聴者の母国語で
話しているのは多くの場合そう“見えている”だけで、実際にそれをしゃべっているわけでは
ない。方言使用においてもまた然り。それはあくまで物語的ご都合であり、表面的なイメージ
としてのものでしかないものに“正確さ”を問うのは、的外れで筋違いもいいところだ。

 言われてみればどころか今さら言われるまでも無く、少し考えれば誰でも分かりそうなこと
…ではあるはずなのだが、残念なことに剣と魔法と人型機動兵器の世界の関西弁エルフ相手に
文句言ってたプロの漫画家が実際にいたりもする。とっくの昔に文字化け起こした個人サイト
での話であるから名指しでの批難は勘弁しておいてやるが、自分の漫画の中で“方言指導”の
大義名分も無いままにズーズー弁のキャラを出したようなヤツが言えた義理ではない!という
ことだけは、声を大にして訴えておきたいところである。

 

「というわけだからインチキ方言はアリなのです(カメラ目線)!」
「完璧な理論武装だね、ロボ」
「ていうか20メートルも離れてるのにアンタら誰と話してんのよ2重の意味で」
「話を戻すぞ。なんで逃げるのかって話だったよな…大抵の人間はな、あんな勢いで後ろから
追っかけられたら逃げるモンなんだよ。ターミネーター2のジョンコナーとT-1000でも
あるまいし、俺たちを殺すつもりだったのか?」

 脇に目をやると、地面に深く刻まれた足跡が追跡の勢いを物語るように道の先からここまで
続いており、我ながらよくここまで逃げ切れたものだと、相手の方はもちろんだがそれ以上に
火事場の馬鹿力が発揮した自身の俊足に、ビリーは改めて驚かされた。

「アンタらの頭の上さ跳び越えて…目の前に着地するつもりで…助走つけてただけだぁよ」
「………………」

 どうやらただの天然らしい。危険は無いと判断したビリーは、少し離れた場所にいた超能力
少女と愛くるしい男の子に、こっちへ来いと言うように手を振った。全身から煙を吐き出して
ガクガク震える作業用ロボットを見ているうちに、なんだか死にかけの病人の最期を看取って
いるような気分になってきたビリーは、自分たちの頭の上を跳び越えるつもりでいただけなら
それはそれで見てみたかったかなと、そんなことを考え始めていた。

「私としてはそこで月面宙返(ムーンサルト)りをキメてほしかったところですね。まぁどの
みち未遂で終わってしまった今となってはたらればの話でしかありませんが、修理が必要でし
たら手伝いましょうか?」
「いや、自動修復が始まったから心配ねぇだ、そろそろ動けるようになるだよ」

 ガクン!ガクン!…ガ…ガ、ガ

 数回ほど激しいけいれんが続いたが、それが終わると、オンボロトラクターのような危なっ
かしいエンジン音は次第に収まっていった。どうやら出力が安定してきたようで、S(すこし)
F(ふしぎ)な芋掘りロボット風の作業用ロボットは静かに、そしてゆっくりと起き上がった。

「さて落ち着いたところで自己紹介といきましょうか、私はロボと言います」
「エドワード・ランディーです、エドって呼んでね」
「アルル・ランバート…アルルです」
「ビリー…ビリー・クライテンだ。あんたの名前は?」
「…名前…オラの名前か?」
「はい、他の仲間たちからどう呼ばれているか、ということです。なんでしたらあなた自身の
型名とかでも構いませんよ、RX-78とか」
「?ヒゲだかツノでもあんのかソイツ?オラはBMD-3000、ベンヅって呼ばれてるだよ」
「ベンズさんか、よろしくな」
「いんにゃ、ベンヅだ。減圧症(ベンズ)じゃねぇ」
「…よろしくな、ベンヅさん」

 ビリーは、握手を求めて右手を差し出した。目つきの悪い男からのハンドサインに応えよう
とベンヅも手を近付けたが、手の平に対し“甲”を向けていることに気がついて、咄嗟に手を
止めた。いわゆる人間のそれと同じ5本指の作業用ロボットは、手首を軸に自分の“左手”を
グルン!と180度ひっくり返し、あくまで左手のままでビリーの右手を握り返した。

 やはりただの天然らしい。

「それでは本題に入りましょうか。我々を追ってきたということは、何か用があった、という
ことですよね?」
「あぁそうだ、アンタら“向こう”から来たんだろ?」
「…まぁ、そうだな。ベンヅさんにとってどういう場所なのかは知らんがな」
「オラたちが作ったモン運んでるとこだよな?アンタら、コッコちゃん見てねぇか?」
「?コッコちゃん?」
「先週ぐらいからどこ探しても見つかンねぇだよ!あとはもう向こうに行ったとしか…!」
「そのコッコちゃんってのは、何かのロボットなのか?」
「昔やってたアニメにモブで登場してた原作者一家の娘さんがそんな風に呼ばれてましたね」
「やめろ」

 すでに“公開”された情報ではあるが、インターネットやSNSがまだまだ未発達の時代の
産物であり、決して“拡散”を想定したものではないので、プライバシー保護の観点から具体
的な作品名や作者名を挙げる行為はこの際、自主規制とさせてもらうことにしよう。

 要するにこれは「分かる人だけ分かればいい」というヤツだ。

「…なんでこういちいち話が脱線するんだ?それでそのコッコちゃんってのは?見た目の特徴
とか、なんかそういうのはあるのか?」
「ウナギのしっぽが生えてるだよ」



「……なんだって?」
「ウナギのしっぽが生えてるだよ」

〈続く〉

 

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