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Aussie Physio (オーストラリアの理学療法)

日本で理学療法士として働いた後

オーストラリアでPhysiotherapist (理学療法士)になるために渡豪

そんな日々の中での気づき

今年も残り1日となりました。オーストラリアでは全くお正月前といった雰囲気もなく、いつもと変わらない1日を過ごしています。

 

今年は、カーティン大学での大学院の授業・実習も終わり、無事に修士課程を終了することができました。つい先日には、いつもお世話になっている岩田研二さんと第二回オーストラリアスタディーツアーを開催することができました。その内容についてはこちらからご覧ください。

 

 

 

この数年は、本当に多くのことを学び、実際の臨床での取り組みも変わりました。筋骨格系専門終始のコースを2年に分けて学んだのですが、やはり、自分の中で一番の収穫となったのは、クリニカルリーズニングの幅が広がったことではないかと思います。

 

もちろん、徒手療法では頸部、胸椎、肋骨、腰部などのマニュピュレーションや、モーターコントロール障害に対する治療戦略、そして慢性腰痛の分野で有名なピーター・オサリバン先生に直々に教わることができたことも、自分の人生の中で有益な時間となりました。

 

彼の治療で有名な認知行動療法 (Cognitive Functional Therapy)は、慢性腰患者に対して有効であるといった論文もいくつか出ており、注目が集まってきています。その中でも彼がズバ抜けてすごいなと思ったことはそのコミュニケーション能力の高さでした。

 

患者との対話の中で、本当に多くの要因を探り、それらから考えられる全体像を組み立てていく。

 

そして、彼のスタイルはセラピストとして上から物を言うのではなく、患者自らその答えにたどり着くように導いていくスタイル。これは臨床で挑戦しているのですが、本当に難しいです。

 

これらの慢性痛に有用な問診スタイルの一つとして、 Motivational Interviewing (動機づけ面接)というものがあります。

 

この中にはもちろん多くの要素が含まれているのですが、中でも Reflective Questioning という相手に自問してもらうようなスタイルは、行動変容が必要な認知行動療法において重要なポイントとなっています。

 

一例として、慢性腰痛を有する患者が痛みの原因が「腹筋が弱いせいだ 」と考えていたとします。その場合、「どうしてそのようにお考えですか?」といった質問を投げかけることによって、患者自身が思っている Belief (問題がどこにあるのか、何が原因なのかと患者自身が信じていること)を確認することができます。

 

他にも、ストレス、うつ、不安、睡眠障害といった要因(イエローフラッグスと呼ばれるもの)を理解した上で、

いつそれが問題になるのか、いつその話を患者に持ちかける必要があるのか

そういったことを学べたことが大きな収穫となりました。

 

患者さんの中には急性期・慢性期を問わず症状の改善(Symptom relief)を求めてくる人ももちろんいます。慢性痛の患者さんが全て根本治療を最初から求めているわけではないことも、多くの失敗の中から学びました。

 

これがどういうことかというと、急性痛の場合は症状の改善が優先的で、慢性痛を有する人は今まで様々な治療を受けてきて、ただ単に短期的な症状の改善だけではなく、根本治療を求めている人が多い、と自分の中で勝手に解釈してしまっていたことです。そのため、慢性痛を有する患者さんに対して症状の改善といったところを少しおろそかにしてしまったことも反省点の一つです。

 

僕らが何か新しいことを学んだ時、とりあえずやっては見るものの、失敗するたびに自分がやり慣れている方法へと戻りたくなるのが人間の心理だと思います。そこで、やめずに続けることができるか。

 

おそらく、新しいことに挑戦している間に多くの患者さんをがっかりさせてしまったことは事実ですが、それでも少しずつ新しいスタイルが確立しつつあるのは確かです(問診に関する、より詳しい内容については、現在書籍の一部を担当させて頂いています。来年中には出版されると思いますので、追って報告させて頂きます)。

 

このように、臨床に直結しやすいことを学べるというのは、カーティン大学で筋骨格系専門修士の特徴だと思いますが、ここで出会った全ての素晴らしい先生達が口を揃えていっていたことは、

 

ここで終わりではなく、ここからがスタートです。

 

といった言葉でした。本当にその通りで、僕らが学んだことは日々変化しています。常に新しい知識や研究が発表され、ここで終わりではなく、これら自分が学んだことをさらに深めていけるように日々精進していければと思います。

 

 

自分が学んだことをもっと知りたいという方に、6月に帰国した際にお話しさせていただける機会をいただきました。今のところ、仙台の日程は決定しました。仙台で整体院Rootsを経営されている櫻井さんのホームページでご確認下さい(こちらから)。

 

そして、山形済生病院の須賀さんが、「徒手的介入を輝かせる英語論文の読み方」という勉強会を予定しております。これは、世界の最新の知識というのは多くが英語論文で発表されているという事実をもとに、新しい知識を手に入れようとしても、「あぁ英語かぁ・・・」といって諦めてしまいそうな人たちには是非知ってもらいたい内容となっています(こちらから)。

 

 

きっと世間はお正月気分なのに、そのような時でも自分のブログを最後まで読んでくれて、本当に感謝しています。直接お会いできた方も、SNSやブログを通じて知り合った方も、2017年もお世話になりました。2018年も充実した年になるように心からお祈りしています。

 

それでは皆様良いお年をお過ごし下さい。

 

江戸英明

 

 

いつも文献などを使って、科学的なことばかり書いているのですが、今日は最近思うことについて自分の心境などを書かせてもらおうかと思います。

 

僕がオーストラリアに来て8年半が経ちました。こちらに来たのは2009年の2月、当時24歳。まだ日本以外の世界を知らず、日本の中で自分が経験してきた教育、政治、メディア、医療システム、考え方など、全てのことにおいて日本が基本で、それが当たり前だと思っていました。

 

オーストラリアに来た目的は一つ、こちらで理学療法士になりたいといった志から 。色々な人によく 「どうしてオーストラリアで理学療法士になろうと思ったんですか?」と聞かれます。

 

僕らが何かを答える時に、深層心理の中に本当はこうなりたい、あれが欲しいなどといった‘深い’理由と、表面上の‘浅い、だけどそれとなく納得する’理由があると思います。

 

僕の中で、オーストラリアに来たかった理由は、「理学療法、特に筋骨格系の最先端を学びたかったから。」とか、「前の職場の先輩に放送大学を勧められた時、自分の中でそれがやりたいことじゃないとはわかっていながら、それを断る“大きな”理由が欲しかった。」とか色々あったんだなぁと思います。

 

特に、自分の中で物事が上手くいってない時には、自分に最もらしい答えを出すことで、自分の中で合理化しようとしていることが多々ありました。目の前にある現状から逃げたかったというのも、思い返してみると心のどこかにあったのかもしれません。

 

それらしい理由を熱意を持って伝えると、周りのみんなは、そうかと納得してくれる。ただ、自分の中に100%満足しきっていない自分に気付きながらも、あえてそこには触れないようにする。

 

僕がオーストラリアに来たかった本当の理由は、「人と違ったことがしたかったから」。これに尽きると思います。人よりも前に進みたい、自分が価値のある人間なんだということを何らかの形で証明したい。僕らはみんな、何らかの劣等感というものがどこか自分の中にあるのかもしれません。

 

僕は、幼少期にいじめられていたわけでも、不登校になったわけでもありません。ただ、幼い頃、野球をやっていて、レギュラーになれないのが悔しかった。体も大きい方じゃなく、自分の中でどこか劣等感があった。中学校、高校と好きな人がいてもずっと片思いに終わった過去もあった。

 

そういった、今思えば大したことない理由でも、当時の自分には胸が裂けるほど辛かった。そういった意味でいつも‘自分は誰かに認められたい’という気持ちが何かを頑張り続ける原動力になっているのだと思います。

 

そして、オーストラリアに来たいと思った、「人と違ったことがしたかったから」というのは、自分が「誰かに認められたかったから」という気持ちが深層心理にあってのことだと思います 。

 

その後、こちらで資格を取って働き出して、セミナーなどでお話をさせてもらえるようになった。だけど、まだ自分の中で前に行かなきゃ、前に進まなきゃ、このままでは足りない、そう考えている自分がいることにも気付きました。

 

おそらく、自分がこの先いくら頑張っても、「自分が自分を認める」ことがなければ、この旅に終わりはないんだなって思った時、初めて自分のために何かを頑張ろう、もっと自分が価値のある人間なんだと思いたい、そう思っていた気持ちが和らいだのを覚えています。

 

僕がオーストラリアに来た理由は、表向きとして「理学療法を学びに来た」ということ。深層心理は、「人と違うことがやりたい、そして他者に認めてもらいたい」という理由から。

 

結果、その行動と経験を通じて、‘より大きな人生の意味’を、辛い、苦しい、けどやり遂げた時のその何倍もの喜びという経験を通じて学ばせてもらいました。

 

極論、何かを始めることの理由なんて何でもいいんだと思います。

 

ただ、その行為・経験を通じ、続けることによって「最初の目的」とは違ったまた別の道が見えてくる。その道が見えて来た時に、前よりも一歩進んでいたら、それだけでその行動をとった価値は十分あったのだと思います。

 

僕は、今まで自分のためにオーストラリアで理学療法士になるということが一番の理由でした。ただ、こういった経験と時間を過ごして来て、当時の自分と、現在の自分の中でやりたいことというのも変わって来ています。

 

僕は、オーストラリアの筋骨格系に関する理学療法は、本当に素晴らしいものだと感じています。ダイレクトアクセス・開業権がある国らしく、こちらで習っている教育は日本の理学療法士のみなさんにもぜひ知ってもらいたい知識・技術ばかりです。

 

現在、日本では海外から取り入れられている多くセミナーが開催されています。これらの知識・技術というものはどれも素晴らしいものだと思います。ただ、僕が客観的に見て海外から来られている講師の多くは、日本人が徒手療法好きなことを把握した上でのビジネスモデルとして行われているように思えます。

 

こういった講師たちが、本気で日本の医療制度などを考慮した上でああいった手技を教えているのか。それとも、日本はいいビジネスパートナーだと思って行っているのか。きっと答えは彼ら・彼女らしかわからないと思いますし、彼ら・彼女らにそれを求めるのもお門違いだと思います。

 

ただ、僕が心配するのは、日本でこういった治療手技が増えていくことによって、それらの治療手技が一人歩きしていくこと。そして、それらの治療手技を使って自費で開業しようというような人が増えていくこと。また、実際に増えているのが現状です。

 

もちろん綺麗事の理想を述べているのも理解しています。僕たちは自分が生きていく上で、今の現状を理解した上で行動を起こしてく必要があります。それが自費での開業だったり、セミナーを開いたり、海外に行ったり。

 

勘違いして欲しくないのは、僕は開業権に賛成です。オーストラリアで理学療法士が行っている、開業の素晴らしさや可能性を実際に体験しています。ただ、今のままではやはり教育システムの違いということでそこが追いついていないところです。

 

どうしたら、日本の理学療法士達に正規で開業権が与えられるのか。それは、もう「教育」しかないと思います。理学療法士が自ら、理学療法の適応か適応外なのかを判断することができるまでの知識、技術、そして医師や患者らからの信頼を勝ち取ること。

 

僕は、自分が死ぬまで、今32歳で長く生きたとしてあと50〜60年、僕が生きているうちに理学療法士に開業権が与えられるかどうかはわかりません。ただ、日本の理学療法士たちの未来と、ダイレクトアクセスが当たり前になって救われるであろう、多くの患者さんの未来に、何らかの形で関わることがこの人生の意味なのかなって最近思うようになりました。

 

以前は、人生一度っきり、何かバカでかい大きなことを成し遂げたいって常に思ってました。それこそ、僕がオーストラリアに来た理由の一つ、人と違うことをしたい、名誉もお金も欲しい、そしてみんなに認められたい。 そんな気持ちも、いくつかの本との出会いで徐々に和らいでいきました。先ほど述べた、「自分を認めること」という気持ちが芽生えたのも、読書を通じてです。

 

京セラ・KDDIの創始者である稲盛和夫氏の本に「生き方」という本があります。その中で、「何かの判断をする時に、それが人間として正しいかどうかを判断基準にしている」というようなことが書かれていました。

 

僕は今まで、何かをお願いされたりしたら、それが自分のためになるのかを考えた上で Yes・Noを出していました。もちろん自分の利益になるためにと考えるのは最もです。生きている以上、お金が必要で、かっこいい車に乗りたくて 、みんなにチヤホヤされたい。まさしく日本を発った時の自分が最も求めていたものです。

 

ただ、「生き方」を読んで、最近は自分の利益を一番に考えることをやめました。何か事を始めようとした時、自分の利益になるからやるというのが一番の理由であればやらないようにしています。ただ、それが誰かのためになり、その上で自分に利益も出るのであればそれは是非やるべきだと思っています。こんな偉そうなことを言っても、自分が常にそう考えられているかと言ったら、そんなことはなく、感情の起伏、考え方の移り変わりというのは正直あります。ただ、そういったことを意識するようにはなりました。

 

これからも、オーストラリアに出て来たいと思う人が多かれ少なかれ出てくるかと思います。僕は、オーストラリアに限らず、海外で理学療法士になりたいと思った理由は何でもいいと思います。僕の理由も胸を張って誇れるものではありませんでした(笑)。ただ、思いは変わっていきますし、日本から出てくることによって見えてくることも沢山あると思います。むしろ、そういった人生の経験ということの方が大きいのではないかなと思います。理学療法というものを通じて、人生の意味を学ぶ。

 

今、こちらで大学を卒業して言えることは、決して楽な道のりではありませんでした。人種差別などの理不尽さを感じることもあると思います。僕らがこちらで生活していく上で、避けては通れないのが現状かと思います。ただ、そういった経験は日本ではまずできない、人間として大きくなれるチャンスだと思います。

 

そして、そのような道を今、日本人として勇敢に辿っている人たちがいます。

 

僕は、どんなに辛くても、諦めなければいつかはたどり着ける夢なんじゃないかと思います。もちろん金銭的や家族など理由からその夢を断念せざるを得ない状況もあると思います。ただ、自分の中に、なんかずっとモヤモヤしてる、すっきりしない気持ち。このままでいいのかなと思ってることがあるのなら、それだけで行動を起こすには十分な理由だと思っています。

 

今更ですが、最近友人に勧められて「宇宙兄弟」を見ました。その中で、「本気の失敗には価値がある」という言葉が出て来ました。僕はこれを聞いた時に、自分の中で下手に計算して失敗するよりは、失敗してもいいから何かを本気で伝えた方が気持ちいいなと思いました(つい最近の実習地でそういった経験がバイザーとあったばかりです)。これも人間として正しいことは何なのかということに通ずることだと思っています。

 

僕は、日本からもっと多くの理学療法士さんが、オーストラリアを含めた海外に出て来てくれることを望んでいます。そして、僕一人では到底変えることのできないものを、みんなの力で一緒になって変えていければと思っています。日本の医療システムに関して、ここ5年〜10年で開業権などに関して大きな変化があるとは考えていません。

 

ただ、目の前に何か明らかなことが見えているのに誰かやってくれるだろうと待つのか、いやそれは無理だろうって諦めるのか、それとも「本気の失敗には価値がある」と思って行動するか、結果に限らずその方が人生楽しいんじゃないかなって思います。

 

もちろん、これが全てではなく、みんながそれぞれのフィールドでそれぞれの役割を全うしていることは重々承知です。僕の今世の役割は、日本の筋骨格系理学療法に関連する教育システムの発展に少しでも関わっていけるように努めることかなと思っています。そのためには、まず大学院の卒業を目指して後3ヶ月、精一杯頑張っていきたいと思います。

 

長くなりましたが、今日も読んでいただきありがとうございました。これを読んでいる方の中から、いつか日本の筋骨格系疾患に対する理学療法の教育に対して、一緒にお話しできる日が来るといいですね。それまで僕も今できる最善を尽くします。

今は大学院、二学期目の3週目が終わったところです。今学期は、Advanced Musculoskeletal Science Management (AMSM) と呼ばれる科目と、実習の二科目を履修していますが、実習ではより実践的でより実用的な知識・技術を沢山学ばせて頂いています。

 

実習地のスーパーバイザーは自分と同様にカーティンの大学院を卒業された方で、教科書やガイドブックなどだけでは学べないようなことを多く教えて下さっています。また、AMSMでも脊柱のマニピュレーションや、クリニカルリーズニングなど多くのことを学んでいます。

 

そんな中で、一見単純なように思えますが、実は非常に複雑で重要である問診について少しお話しさせて頂ければと思います。

 

少し古い文献になるのですが、1992年に行われた研究で、医師が診断名(筋骨格系疾患に限らず様々な病態が含まれる)を出す際に、80名中61名(76%)の患者は問診の時点で診断名を出すことができ、身体的評価によって診断目を出すことができた患者は10名(12%)、さらにラボの試験によって診断名が出たのは9名(11%)と報告されています1

 

これがどう重要なのかということですが、僕らが問診をじっくりと行うことによって多くの場合は、身体的評価を行う前にその内容から診断名が導き出せる可能性が高いということと、身体的評価はその予測される診断名を確認するための作業であるということです。

 

もちろん、全ての患者さんにそれが当てはまるわけではありませんが、多くの症例を担当すればするほどセラピストの中で Pattern Recognition (パターン認識)ができるようになり、おそらくこの整形外科的テストは陽性、このテストは陰性になるだろうという予測がつくようになります。

 

このような  Pattern recognitionと患者さんの状況に対してセラピストがどのように評価のスタイルを変化させているのかを、以前書かせて頂いた記事(クリニカルリーズニングを考える)にもう少し詳しく書いてあるので、興味がある方は読んでみてください。

 

そういった意味でも、問診の重要性は非常に高いのですが、実際に実習で自分が行なっている問診に対していくつかのヒント・気づきを共有させてもらえばと思います。

 

まず、問診を行う大まかな流れとしては、現病歴、既往歴、ボディーチャート(症状の詳細の確認)、社会的情報(ADL、職業、趣味、スポーツなど)、一般的なスクリーニング(服薬、画像所見、その他の疾患など)、レッドフラッグ、イエローフラッグなどの確認があります(もちろんこれが全てではありません)。

 

僕が実際に問診を行なっている際に、あまり聞き逃すことがないように大まかな流れに沿って問診を進めています。

 

きっと皆さんも経験があると思うのですが、患者さんの話を聞いている途中に、「あっ、今のところ重要な情報だから、もっと深く聞いてみたいな」と思うことがあると思います。または、お話が好きな方だと自分が聞いた内容にはあまり必要ない情報まで丁寧に説明してくださる方も中にはいるかと思います(苦笑)。

 

僕は、学部生の頃に基礎的な問診方法を教わる授業の中で、ある一つの文献が紹介されたことを覚えています。その文献2には、医師は診察の際に患者らの話を、‘平均して最初の12秒で遮っていたとされており、どうしてもそのことが頭から離れませんでした。そのため、自分が問診を行なっている際には、なるべく患者さんが話を終えるまで遮らないように努めていました。

 

そこで問題になってくるのが、先ほど述べたように、「あっ、今のところ重要な情報だから、もっと深く聞いてみたいな」と思っても、話を遮りたくない。話の流れが終わったら聞こうと考えているうちに話の内容が別の方向へ進んでいき、結局その内容に深入り出来ず、何度か同じようなことを聞いてしまうことになるということがありました(今でもその精度を上げるために必死なのですが…)。

 

そこで、バイザーの方が下記の図のようなフィードバックをして下さりました。

 

 

ここでは、先ほどのように左の青い四角のような大まかな流れがあり、もちろん現病歴から順を追って既往歴に必ずいくわけではなく、人によっては社会的情報に飛ぶこともあります。

 

僕が今までうまく対応できていなかったところとして、ある情報の詳細を探りたいとなった時に、問診の内容が次の情報へと移りそうになった場合には、「すいません、今腰痛が○年前に発症したというところをもう少し詳しく聞かせていただきたいのですが、どのようにして・・・・ 」などと言った工夫を行うことによって聞き漏れや、重複などを避けることが出来ると思います。

 

そして、そこで重要な詳細を十分に把握(右の赤の四角の作業)ができたらまた左の青い四角に戻っていくという流れになります。

 

中にはセッションの最後に聞き漏れしたところを一つずつ聞いていくことができる人もいるかもしれませんが、僕は問診中には「何が問題なのだろう、今患者さんはどんなことを考えているのだろう、次はこの情報がもっと知りたいな」など非常に多くのことを同時に考えながら進めていくので、今の自分のキャパシティでは対応できません(泣)。

 

一見単純に思えるこの作業ですが、患者さんの気分を害することなく、‘自分の話を聞いてもらえた’という感覚を持っていただくためにも、いつ深く入っていくための質問をするかというタイミングを見つけることは非常に難しいです。

 

やはり、平均して12秒で遮られた患者さんの中には、「もっと自分は話がしたかった」と思っている方もいたと研究の中で報告されていました。それが、問診であってもサイエンスとアートを兼ね合わせた技術の一つだと感じています。

 

他にも、Addressing patient beliefs and expectations in the consultation という2010年に出版された論文3では、診察に来た理由をまず初めに聞くことの重要性を述べています。

 

これはいわゆるオープンクエスチョンによって「How Can I help you ?」 もしくは「本日はどうされましたか?」などの質問により、患者さんに自分の持つ不安や症状を僕ら医療者に伝える機会を与えることにつながります。

 

この論文の中では、患者さんが医師を受診する理由には大きく分けて主に四つあると報告されていました。

 

·      症状の完治もしくは(痛みなどの)症状の軽快を求めて

·      診断名の確立を求めて

·      医師に大丈夫と言ってもらえる安堵を求めて

·      症状に対しての合法性を求めて

 

要は、これらのことを初診で患者さんに感じてもらい、理解してもらえるようにすることが、僕ら理学療法士を含めた医療者の役割であると考えられます。

 

さらに、2016 年に出版されたシステマティックレビューでは、 筋骨格系疾患の理学療法を行う際に、非特異的要因としてどのようなことがアウトカムに影響を及ぼすのかの詳細が記載されています。非常に面白い文献ですので、是非読んでみて下さい。

この中で重要視されていたことは、

·      Empathy (セラピストが患者に共感すること)

·      Friendliness (フレンドリーか否か)

·      Encouragement (モチベーションや安心させてあげること)

·      Confidence (セラピストの自信と、患者がセラピストを信じることができるか)

·      Nonverbal communication (適切な対応や、適切なフィジカルコンタクト)

 

などが挙げられていました。これらのことは、僕ら理学療法士が提供する治療やマネジメント以外でアウトカムを影響しうる重要な要因とされており、人と接する上で軽視できない要因であると思います。 

 

今回は問診について少しお話しさせて頂きましたが、僕もまだまだ学ぶことが多く、難しい反面、探偵作業のようで非常に楽しい過程でもあります。これらのことが少しでも誰かのお役に立てれば幸いです。

 

 

参考文献

 

1.         Peterson MC, Holbrook JH, Von Hales D, Smith NL, Staker LV. Contributions of the history, physical examination, and laboratory investigation in making medical diagnoses. West J Med. 1992; 156(2):163-5. Available from: 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1536065.

2.         Rhoades DR, McFarland KF, Finch WH, Johnson AO. Speaking and interruptions during primary care office visits. Fam Med. 2001; 33(7):528-32. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11456245.

3.         Main CJ, Buchbinder R, Porcheret M, Foster N. Addressing patient beliefs and expectations in the consultation. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2010; 24(2):219-25.  DOI:10.1016/j.berh.2009.12.013.

4.         O'Keeffe M, Cullinane P, Hurley J, Leahy I, Bunzli S, O'Sullivan PB, et al. What Influences Patient-Therapist Interactions in Musculoskeletal Physical Therapy? Qualitative Systematic Review and Meta-Synthesis. Phys Ther. 2016; 96(5):609-22.  DOI:10.2522/ptj.20150240.

みなさんお久しぶりです。

 

つい先日、大学院最終年の一学期目が終わりました。この半年で学ばせて頂いたことは沢山ありますが、やはり大きなところというのはクリニカルリーズニングやフレームワークに基づいて問診、評価、治療・マネジメントを行なっていく過程が自分の中で整理されたというところだと感じています。

 

僕が通っているカーティン大学筋骨格系専門修士では、整形外科的なテストを用いた評価方法を教わる事はもちろんですが、一体それらのテストの信憑性はどうなのか、エビデンスではここまでわかっているけど、どこがまだわかっていない部分なのかなど、全ての情報を鵜呑みにする危険性などを学びました。また、バイアスがかかった状態で選択的にそういった情報を選ぶということも避けなければいけないと同時に、それらの限られた情報をどのように解釈して実際に目の前にいる患者さんに応用してくのかというところを実習でも経験させてもらいました。

 

そういった貴重な経験をこちらの大学院でさせてもらっている時に感じたことなのですが、現在通っているコースにはイギリス、オランダ、ノルウェー、香港、シンガポールなど様々な国からのPTが集まり共に勉強しています。そのPT達との会話の中で非常に重要だなと感じたことは、世界から来ているPT達と‘共通のPT専門用語’をベースとした会話が可能だというところです。これがどういうことかというと、例えば僕がオーストラリアの学士過程で学んだ Passive Physiological Interval Movement Test (PPIVM)/ Motion Palpation Test や、Passive Accessory Interval Movement Test (PAIVM)/ Pain Provocation Testなどといった手技を、オーストラリア以外から来た他の学生はそれぞれ自分の国で学んでいるために、評価項目などに関しても共通の知識として会話が成り立つというところです。

 

残念ながら、僕が日本の養成校をでた頃にはこういった評価項目は全く知りませんでした。養成校の数が多く、教育水準の一定化が難しい現状の日本で、今後こういった海外でのPT達と対等にディズカッションを行なっていくには、そういった「共通知識の拡大」が日本には必要だと感じています。グローバル化が進む中で、もちろん英語の文献や教科書を読む能力は今後非常に重要な課題ではあると思いますが、それと並行して今できる範囲での知識の共有化をできればと日々感じています。そういった意味で今回、帰国した際にエバーウォークさんにご協力いただいてセミナーを開催させて頂く機会を得ました。

 

僕は大学院でリサーチをした程度で、何本も論文を書いているわけではありませんし、そういった者がセミナーをするということに疑問を感じる人もいるかもしれません。ただ、オーストラリアの大学で学んだことによって、今まで研究・エビデンスといった遠い存在であった物がより身近に感じるようになりました。また、研究家というよりは臨床家であるからこそそういった知識を日常の患者さんの評価・治療にどのように活かしていけばいいのかということをカーティン大学で学ばせていただいています。

 

今回のセミナーでは、そういった共通の知識を日本人のセラピストの皆さんにも知って頂きたいといった思いで、腰痛に対するオーストラリアでの評価・治療という題でお話をさせて頂きます。「日本にはダイレクトアクセスシステムがないから自分にはあまり関係ないかな」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、診断名を下す行為を行わないPTを含めたセラピストの中で考えられる問題点として、医師からの診断名を元に治療を行なっていく際の‘落とし穴’が考えられます。

 

近年の研究でより明らかになって来ていますが、器質的な変化・病変(例えば椎間板の退行性変化やヘルニアなど)は痛みや症状と関連性が低いというエビデンスがより共通の知識として認識され始めています。では一体、全てのそういった病態が本当に全く関係ないのか、どのような時にそれらの器質的な変化が患者らと関係があって、どのようにそれらの評価・治療を行えばいいのか。そういった部分を自分の中でしっかりと判断できるように、今回のセミナーを通じてお伝えできればと思っています。

 

あまり開催まで日時がありませんが、海外での共通知識などを知りたい方、腰痛に携わることがあるセラピストの方は会場まで足を運んで見て下さい。

当日より多くの人にお会いできるのを楽しみにしています。詳細はこちらよりご確認下さい。

 

江戸英明

 

 

 

腰痛に伴った下肢症状は臨床上とても頻繁に遭遇する所見であると思います。今日はその下肢症状に対する病態の理解として、文献などの知見を踏まえて考えていきたいと思います 。

 

まず、腰痛に伴った下肢症状と聞くと、椎間板ヘルニアや狭窄症などによる神経根症状ではといった考えが頭の中に浮かぶ かと思います。

 

Schafer et al. (2009) 1らによって報告された分類分け(Classification)では、腰痛に関連する下肢痛は大きく分けて以下の4つに分類されています。

 

·      中枢感作 (Central Sensitization:CS) – 主に感覚的な感作症状

·      脱髄症状 (Denervation: D) – 中枢感作が認められず、脱髄症状が認められるもの

·      末梢感作 (Peripheral Sensitization: PS) –脱髄症状が認められず、神経幹(Nerve Trunk)の炎症によるもの

·      筋骨格系由来 (Musculoskeletal: M) – 神経組織に由来しないもの(椎間関節や椎間板など)の関連痛によるもの

 

これは、一見混同しがちな下肢症状を訴える患者さんの治療・マネジメント方針を決定する重要な要素となります。例えば、中枢感作の患者さんに対しては一般的に行われる関節モビライゼーション、筋・筋膜のリリース、マッサージなどを行うと、Wind up などと呼ばれる現象が起こり、刺激を加えれば加えるほど痛みが増加して行くという現象が見られます2

 

 そのため、従来の組織的なアプローチのみではなくCSに関与している要因に対してのアプローチが重要となってきます。以下の図 (FIGURE 1)は文献の中で紹介されているアルゴリズムです。

 

 

 

Schaferらの論文では、中枢感作 (Central Sensitization:CS)の決定要因としては Leeds Assessment of Neuropathic Syndromes and Signs (LANSS)と呼ばれるスクリーニングツールを使用することを勧めており、これで12ポイント以上の場合CSが存在するとしています。

 

ただし、LANSSはNeuropathic pain(神経障害性疼痛)をスクリーニングするためのものであり、CSは臨床上Neuropathic pain が存在しない患者さんにも認められます。

 

少し難しいのが、Neuropathic painとCSは何が違うのかというところですが、Neuropathic pain とは神経障害性の痛みであり、痛みの特性としては焼けるような痛み、電気が走るような痛み、かゆみなどとされており、神経の病変や外傷を伴うものとされています。そのため、CSがあるからといってNeuropathic painがあるとは限りません。逆に、Neuropathic painなどによる C繊維からの侵害受容刺激の断続的なインプットによりCSが引き起こされやすくなるともされています3

 

次に、脱髄症状の判断基準としては、上記のCSが認められず、神経学的検査(深部腱反射によって消失もしくは弱化、神経根領域の筋出力低下、デルマトーム領域の感覚異常)にて二つ以上陽性、AROMにて下肢痛再現、神経誘発テストにて陽性などがSchaferの分類では挙げられています。

 

ただ、2013年にNezariら 4によって発表されたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、椎間板ヘルニア患者の下肢症状に関して、感覚障害の神経学的検査では、Low Sensitivity (0.40; CI 0.38, 043) Moderate Specificity (0.59; CI 0.51, 0.67) 、筋出力低下ではLow Sensitivity (0.22; CI 0.21, 023)  High Specificity (0.79; CI 0.77, 0.80)、深部腱反射ではLow Sensitivity (0.25; CI 0.22, 028) High Specificity (0.75; CI 0.73, 0.78)と発表されています。

 

これがどういうことを示しているかというと、神経学的検査では陰性(Low Sensitivityということは、偽陰性になる可能性が高い)であっても椎間板ヘルニアによる神経根障害(この文献では手術やMRIなどによる構造的な確認と比較して)を持ち合わせている可能性があるが、もしこれらのテストで陽性であればその下肢症状が椎間板ヘルニアからのものである可能性が高い(High Specificityとはその症状が存在する場合にTrue Positiveである場合が高い)ということです。

 

他の文献では、頸部神経根症状に関連する上肢痛に対する評価として、同様に上肢のデルマトーム領域の感覚障害、マイオトーム領域の筋力低下・筋萎縮、一側における深部腱反射の消失の3つを持ち合わせることによって神経根症状由来によるものとしています5

 

これらの要素がない、もしくは脱髄症状というには上記の神経学的検査によって全ての条件を満たしていない場合には、Schaferらは末梢神経感作(Peripheral Nerve Sensitization)としており、これは機械的刺激に対する感受性が過敏になっている状態を示しています。

 

そのため、SLR(坐骨神経)やProne Knee Bend test(大腿神経)などのNeural Tissue Provocation Test(神経誘発テスト)によって痛みや症状が再現されたり、Nerve Trunk Palpation(神経幹の触診)による痛みの再現など、普段では痛みとして感じられない刺激で痛みを感じてしまう状態を示しています。

 

そのため、SLRが陽性の人が全てヘルニアを有しているわけではないということは、PNSを理解することによってその一因として説明することができます(もちろんこれが全てではありませんが)。

 

最後に、PNSも陰性である場合には、腰痛に伴った下肢痛は椎間関節、筋・筋膜性などの筋骨格系由来による関連痛によるものではないかという考えに至ります。もちろん、これら全ての症状が、常に患者さんの中で明確に分かれて存在しているわけではなく、これらのことが混在していることによって判断が難しい場合もあると思いますが、これらの考え方を知っていることによって適切なマネジメントが行いやすくなると思います。

 

これらの鑑別診断についてはオーストラリアの理学療法士も難渋することが多く、僕もまだまだ勉強していかなければならないと感じていますが、こういったことを少しでももっと勉強したい方は、7月に日本でお話をさせて頂く機会を得ましたので

ここからお申し込み下さい。今まで僕が学んできたことをみなさんにシェアさせていただければと思います。

 

こういった情報が少しでもお役に立てれば幸いです。今日も読んでいただきありがとうございました。

 

 

文献

 

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