腰痛に伴った下肢症状 | Aussie Physio (オーストラリアの理学療法)

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そんな日々の中での気づき

腰痛に伴った下肢症状は臨床上とても頻繁に遭遇する所見であると思います。今日はその下肢症状に対する病態の理解として、文献などの知見を踏まえて考えていきたいと思います 。

 

まず、腰痛に伴った下肢症状と聞くと、椎間板ヘルニアや狭窄症などによる神経根症状ではといった考えが頭の中に浮かぶ かと思います。

 

Schafer et al. (2009) 1らによって報告された分類分け(Classification)では、腰痛に関連する下肢痛は大きく分けて以下の4つに分類されています。

 

·      中枢感作 (Central Sensitization:CS) – 主に感覚的な感作症状

·      脱髄症状 (Denervation: D) – 中枢感作が認められず、脱髄症状が認められるもの

·      末梢感作 (Peripheral Sensitization: PS) –脱髄症状が認められず、神経幹(Nerve Trunk)の炎症によるもの

·      筋骨格系由来 (Musculoskeletal: M) – 神経組織に由来しないもの(椎間関節や椎間板など)の関連痛によるもの

 

これは、一見混同しがちな下肢症状を訴える患者さんの治療・マネジメント方針を決定する重要な要素となります。例えば、中枢感作の患者さんに対しては一般的に行われる関節モビライゼーション、筋・筋膜のリリース、マッサージなどを行うと、Wind up などと呼ばれる現象が起こり、刺激を加えれば加えるほど痛みが増加して行くという現象が見られます2

 

 そのため、従来の組織的なアプローチのみではなくCSに関与している要因に対してのアプローチが重要となってきます。以下の図 (FIGURE 1)は文献の中で紹介されているアルゴリズムです。

 

 

 

Schaferらの論文では、中枢感作 (Central Sensitization:CS)の決定要因としては Leeds Assessment of Neuropathic Syndromes and Signs (LANSS)と呼ばれるスクリーニングツールを使用することを勧めており、これで12ポイント以上の場合CSが存在するとしています。

 

ただし、LANSSはNeuropathic pain(神経障害性疼痛)をスクリーニングするためのものであり、CSは臨床上Neuropathic pain が存在しない患者さんにも認められます。

 

少し難しいのが、Neuropathic painとCSは何が違うのかというところですが、Neuropathic pain とは神経障害性の痛みであり、痛みの特性としては焼けるような痛み、電気が走るような痛み、かゆみなどとされており、神経の病変や外傷を伴うものとされています。そのため、CSがあるからといってNeuropathic painがあるとは限りません。逆に、Neuropathic painなどによる C繊維からの侵害受容刺激の断続的なインプットによりCSが引き起こされやすくなるともされています3

 

次に、脱髄症状の判断基準としては、上記のCSが認められず、神経学的検査(深部腱反射によって消失もしくは弱化、神経根領域の筋出力低下、デルマトーム領域の感覚異常)にて二つ以上陽性、AROMにて下肢痛再現、神経誘発テストにて陽性などがSchaferの分類では挙げられています。

 

ただ、2013年にNezariら 4によって発表されたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、椎間板ヘルニア患者の下肢症状に関して、感覚障害の神経学的検査では、Low Sensitivity (0.40; CI 0.38, 043) Moderate Specificity (0.59; CI 0.51, 0.67) 、筋出力低下ではLow Sensitivity (0.22; CI 0.21, 023)  High Specificity (0.79; CI 0.77, 0.80)、深部腱反射ではLow Sensitivity (0.25; CI 0.22, 028) High Specificity (0.75; CI 0.73, 0.78)と発表されています。

 

これがどういうことを示しているかというと、神経学的検査では陰性(Low Sensitivityということは、偽陰性になる可能性が高い)であっても椎間板ヘルニアによる神経根障害(この文献では手術やMRIなどによる構造的な確認と比較して)を持ち合わせている可能性があるが、もしこれらのテストで陽性であればその下肢症状が椎間板ヘルニアからのものである可能性が高い(High Specificityとはその症状が存在する場合にTrue Positiveである場合が高い)ということです。

 

他の文献では、頸部神経根症状に関連する上肢痛に対する評価として、同様に上肢のデルマトーム領域の感覚障害、マイオトーム領域の筋力低下・筋萎縮、一側における深部腱反射の消失の3つを持ち合わせることによって神経根症状由来によるものとしています5

 

これらの要素がない、もしくは脱髄症状というには上記の神経学的検査によって全ての条件を満たしていない場合には、Schaferらは末梢神経感作(Peripheral Nerve Sensitization)としており、これは機械的刺激に対する感受性が過敏になっている状態を示しています。

 

そのため、SLR(坐骨神経)やProne Knee Bend test(大腿神経)などのNeural Tissue Provocation Test(神経誘発テスト)によって痛みや症状が再現されたり、Nerve Trunk Palpation(神経幹の触診)による痛みの再現など、普段では痛みとして感じられない刺激で痛みを感じてしまう状態を示しています。

 

そのため、SLRが陽性の人が全てヘルニアを有しているわけではないということは、PNSを理解することによってその一因として説明することができます(もちろんこれが全てではありませんが)。

 

最後に、PNSも陰性である場合には、腰痛に伴った下肢痛は椎間関節、筋・筋膜性などの筋骨格系由来による関連痛によるものではないかという考えに至ります。もちろん、これら全ての症状が、常に患者さんの中で明確に分かれて存在しているわけではなく、これらのことが混在していることによって判断が難しい場合もあると思いますが、これらの考え方を知っていることによって適切なマネジメントが行いやすくなると思います。

 

これらの鑑別診断についてはオーストラリアの理学療法士も難渋することが多く、僕もまだまだ勉強していかなければならないと感じていますが、こういったことを少しでももっと勉強したい方は、7月に日本でお話をさせて頂く機会を得ましたので

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こういった情報が少しでもお役に立てれば幸いです。今日も読んでいただきありがとうございました。

 

 

文献

 

1.         Schafer A, Hall TM, Ludtke K, Mallwitz J, Briffa NK. Interrater reliability of a new classification system for patients with neural low back-related leg pain. J Man Manip Ther. 2009; 17(2):109-17.  DOI:10.1179/106698109790824730.

2.         Staud R, Vierck CJ, Cannon RL, Mauderli AP, Price DD. Abnormal sensitization and temporal summation of second pain (wind-up) in patients with fibromyalgia syndrome. Pain. 2001; 91(1-2):165-75. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11240089.

3.         Woolf CJ. Central sensitization: implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011; 152(3 Suppl):S2-15.  DOI:10.1016/j.pain.2010.09.030.

4.         Al Nezari NH, Schneiders AG, Hendrick PA. Neurological examination of the peripheral nervous system to diagnose lumbar spinal disc herniation with suspected radiculopathy: a systematic review and meta-analysis. Spine J. 2013; 13(6):657-74.  DOI:10.1016/j.spinee.2013.02.007.

5.         Tampin B, Briffa NK, Hall T, Lee G, Slater H. Inter-therapist agreement in classifying patients with cervical radiculopathy and patients with non-specific neck-arm pain. Man Ther. 2012; 17(5):445-50.  DOI:10.1016/j.math.2012.05.001.