たかが問診、されど問診 | Aussie Physio (オーストラリアの理学療法)

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日本で理学療法士として働いた後

オーストラリアでPhysiotherapist (理学療法士)になるために渡豪

そんな日々の中での気づき

今は大学院、二学期目の3週目が終わったところです。今学期は、Advanced Musculoskeletal Science Management (AMSM) と呼ばれる科目と、実習の二科目を履修していますが、実習ではより実践的でより実用的な知識・技術を沢山学ばせて頂いています。

 

実習地のスーパーバイザーは自分と同様にカーティンの大学院を卒業された方で、教科書やガイドブックなどだけでは学べないようなことを多く教えて下さっています。また、AMSMでも脊柱のマニピュレーションや、クリニカルリーズニングなど多くのことを学んでいます。

 

そんな中で、一見単純なように思えますが、実は非常に複雑で重要である問診について少しお話しさせて頂ければと思います。

 

少し古い文献になるのですが、1992年に行われた研究で、医師が診断名(筋骨格系疾患に限らず様々な病態が含まれる)を出す際に、80名中61名(76%)の患者は問診の時点で診断名を出すことができ、身体的評価によって診断目を出すことができた患者は10名(12%)、さらにラボの試験によって診断名が出たのは9名(11%)と報告されています1

 

これがどう重要なのかということですが、僕らが問診をじっくりと行うことによって多くの場合は、身体的評価を行う前にその内容から診断名が導き出せる可能性が高いということと、身体的評価はその予測される診断名を確認するための作業であるということです。

 

もちろん、全ての患者さんにそれが当てはまるわけではありませんが、多くの症例を担当すればするほどセラピストの中で Pattern Recognition (パターン認識)ができるようになり、おそらくこの整形外科的テストは陽性、このテストは陰性になるだろうという予測がつくようになります。

 

このような  Pattern recognitionと患者さんの状況に対してセラピストがどのように評価のスタイルを変化させているのかを、以前書かせて頂いた記事(クリニカルリーズニングを考える)にもう少し詳しく書いてあるので、興味がある方は読んでみてください。

 

そういった意味でも、問診の重要性は非常に高いのですが、実際に実習で自分が行なっている問診に対していくつかのヒント・気づきを共有させてもらえばと思います。

 

まず、問診を行う大まかな流れとしては、現病歴、既往歴、ボディーチャート(症状の詳細の確認)、社会的情報(ADL、職業、趣味、スポーツなど)、一般的なスクリーニング(服薬、画像所見、その他の疾患など)、レッドフラッグ、イエローフラッグなどの確認があります(もちろんこれが全てではありません)。

 

僕が実際に問診を行なっている際に、あまり聞き逃すことがないように大まかな流れに沿って問診を進めています。

 

きっと皆さんも経験があると思うのですが、患者さんの話を聞いている途中に、「あっ、今のところ重要な情報だから、もっと深く聞いてみたいな」と思うことがあると思います。または、お話が好きな方だと自分が聞いた内容にはあまり必要ない情報まで丁寧に説明してくださる方も中にはいるかと思います(苦笑)。

 

僕は、学部生の頃に基礎的な問診方法を教わる授業の中で、ある一つの文献が紹介されたことを覚えています。その文献2には、医師は診察の際に患者らの話を、‘平均して最初の12秒で遮っていたとされており、どうしてもそのことが頭から離れませんでした。そのため、自分が問診を行なっている際には、なるべく患者さんが話を終えるまで遮らないように努めていました。

 

そこで問題になってくるのが、先ほど述べたように、「あっ、今のところ重要な情報だから、もっと深く聞いてみたいな」と思っても、話を遮りたくない。話の流れが終わったら聞こうと考えているうちに話の内容が別の方向へ進んでいき、結局その内容に深入り出来ず、何度か同じようなことを聞いてしまうことになるということがありました(今でもその精度を上げるために必死なのですが…)。

 

そこで、バイザーの方が下記の図のようなフィードバックをして下さりました。

 

 

ここでは、先ほどのように左の青い四角のような大まかな流れがあり、もちろん現病歴から順を追って既往歴に必ずいくわけではなく、人によっては社会的情報に飛ぶこともあります。

 

僕が今までうまく対応できていなかったところとして、ある情報の詳細を探りたいとなった時に、問診の内容が次の情報へと移りそうになった場合には、「すいません、今腰痛が○年前に発症したというところをもう少し詳しく聞かせていただきたいのですが、どのようにして・・・・ 」などと言った工夫を行うことによって聞き漏れや、重複などを避けることが出来ると思います。

 

そして、そこで重要な詳細を十分に把握(右の赤の四角の作業)ができたらまた左の青い四角に戻っていくという流れになります。

 

中にはセッションの最後に聞き漏れしたところを一つずつ聞いていくことができる人もいるかもしれませんが、僕は問診中には「何が問題なのだろう、今患者さんはどんなことを考えているのだろう、次はこの情報がもっと知りたいな」など非常に多くのことを同時に考えながら進めていくので、今の自分のキャパシティでは対応できません(泣)。

 

一見単純に思えるこの作業ですが、患者さんの気分を害することなく、‘自分の話を聞いてもらえた’という感覚を持っていただくためにも、いつ深く入っていくための質問をするかというタイミングを見つけることは非常に難しいです。

 

やはり、平均して12秒で遮られた患者さんの中には、「もっと自分は話がしたかった」と思っている方もいたと研究の中で報告されていました。それが、問診であってもサイエンスとアートを兼ね合わせた技術の一つだと感じています。

 

他にも、Addressing patient beliefs and expectations in the consultation という2010年に出版された論文3では、診察に来た理由をまず初めに聞くことの重要性を述べています。

 

これはいわゆるオープンクエスチョンによって「How Can I help you ?」 もしくは「本日はどうされましたか?」などの質問により、患者さんに自分の持つ不安や症状を僕ら医療者に伝える機会を与えることにつながります。

 

この論文の中では、患者さんが医師を受診する理由には大きく分けて主に四つあると報告されていました。

 

·      症状の完治もしくは(痛みなどの)症状の軽快を求めて

·      診断名の確立を求めて

·      医師に大丈夫と言ってもらえる安堵を求めて

·      症状に対しての合法性を求めて

 

要は、これらのことを初診で患者さんに感じてもらい、理解してもらえるようにすることが、僕ら理学療法士を含めた医療者の役割であると考えられます。

 

さらに、2016 年に出版されたシステマティックレビューでは、 筋骨格系疾患の理学療法を行う際に、非特異的要因としてどのようなことがアウトカムに影響を及ぼすのかの詳細が記載されています。非常に面白い文献ですので、是非読んでみて下さい。

この中で重要視されていたことは、

·      Empathy (セラピストが患者に共感すること)

·      Friendliness (フレンドリーか否か)

·      Encouragement (モチベーションや安心させてあげること)

·      Confidence (セラピストの自信と、患者がセラピストを信じることができるか)

·      Nonverbal communication (適切な対応や、適切なフィジカルコンタクト)

 

などが挙げられていました。これらのことは、僕ら理学療法士が提供する治療やマネジメント以外でアウトカムを影響しうる重要な要因とされており、人と接する上で軽視できない要因であると思います。 

 

今回は問診について少しお話しさせて頂きましたが、僕もまだまだ学ぶことが多く、難しい反面、探偵作業のようで非常に楽しい過程でもあります。これらのことが少しでも誰かのお役に立てれば幸いです。

 

 

参考文献

 

1.         Peterson MC, Holbrook JH, Von Hales D, Smith NL, Staker LV. Contributions of the history, physical examination, and laboratory investigation in making medical diagnoses. West J Med. 1992; 156(2):163-5. Available from: 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1536065.

2.         Rhoades DR, McFarland KF, Finch WH, Johnson AO. Speaking and interruptions during primary care office visits. Fam Med. 2001; 33(7):528-32. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11456245.

3.         Main CJ, Buchbinder R, Porcheret M, Foster N. Addressing patient beliefs and expectations in the consultation. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2010; 24(2):219-25.  DOI:10.1016/j.berh.2009.12.013.

4.         O'Keeffe M, Cullinane P, Hurley J, Leahy I, Bunzli S, O'Sullivan PB, et al. What Influences Patient-Therapist Interactions in Musculoskeletal Physical Therapy? Qualitative Systematic Review and Meta-Synthesis. Phys Ther. 2016; 96(5):609-22.  DOI:10.2522/ptj.20150240.