痛みの話(Making Sense of Pain) | Aussie Physio (オーストラリアの理学療法)

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日本で理学療法士として働いた後

オーストラリアでPhysiotherapist (理学療法士)になるために渡豪

そんな日々の中での気づき

今日は痛みについて(青い文字から文献のリンクに飛べます!)。

 

  1. 痛みとは?

 

僕ら理学療法士を含めた医療従事者が担当することが多い 痛み ですが、オーストラリアの筋骨格系外来クリニックで働かせてもらっていても、患者らがクリニックに来院される理由で最も多い主訴が痛みです。

 

痛みとは、IASP(国際疼痛学会)によって”An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage, or described in terms of such damage.” と定義されています。

 

ここで重要なのが、actual or potentail tissue damage(実際の、もしく潜在的な組織損傷に伴う、不快な感覚・感情的な体験)というところです。

 

これは、実際に組織損傷がなくても痛みを生じる可能性があるということです。

 

例えば、非常にストレスを感じている時に頭痛を生じることはよくあります。これは、組織損傷が起こっているわけではありませんが、ストレスにより神経系に域値の低下や感受性の上昇(感作)などの影響が及ぼされているとされています。

 

そして、感情的な体験というところ。僕らはもちろん人間を対象としています。そのため、機械や自動車を整備しているわけではありません。

 

 

2.医療従事者の発言による影響

 

 

その感情的な要因の一つと成りうる原因として、僕ら医療者の説明が挙げられます。The Enduring Impact of What Clinicans Say to People with Low Back Pain という文献に、僕ら医療者の発言がどれだけ患者らに影響を及ぼしていたかという報告があります。

 

ここでは、急性腰痛になった患者は、インターネット、友達・家族、そして医療従事者から自分の腰痛についての情報を調べており、当然のように思えますが、医療従事者からの情報が一番影響力があったと報告されています。

 

そのため、例えば僕らが ’ヘルニアなので腰をあまり曲げないで腹筋を使って下さい。’といったようなアドバイスを何気なく行なったとして、それを患者さんはずっとそうしなければいけないことだと思っていることは多く認められます。また、慢性腰痛を有した患者さんでは、運動恐怖と腰部屈曲方向への運動時に、脊柱起立筋の過活動による屈曲制限などが認められたとされています。

 

これらのアドバイスは多くの場合、僕ら医療従事者が、どのようにその患者さんの問題を捉えているのか?ということによると報告されています。

 

2009年にイギリスにて行われたアンケートでは、医療職種など、19の大学・学校を含めたカリキュラムに関して、1%以下の時間が痛みの教育に時間が割かれていたと報告されています。おそらく現行のカリキュラムでは少しずつ変化してきているとは考えられますが、それでも多くの現職者が痛みの理解を深めるための教育というよりは、運動、解剖、生理に基づいたバイオメディカルな視点での教育を受けてきたと考えられます。

 

 

3.生物心理社会的モデルへの流れ

 

 

そのため、クリニカルリーズニングにおいて、生物医学的な考えが主流であるのは当然の流れかもしれませんが、心理社会的要因を含めた、Biopsychosocial modelの認知や理解(こちらも)が広まってきていることは、僕ら医療従事者の幅を広げてくれる素晴らしい流れだと感じています。

 

そのような心理的要因に関して、アクティビティに伴う痛み体験がどのように患者らに認知されているのかという報告があります。こちらでは、痛みを伴うアクティビティがさらなるダメージを生じている、そして痛みによって苦悩やさらなる機能障害が増す、というような Beliefが認められたと報告されています。

 

僕ら医療従事者の発言によって与える影響は非常に大きく、オーストラリアのクリニックで働いていても頻繁に遭遇する問題です。特に慢性痛を有している患者さんにとって、’痛み=ダメージ’という考え方であったり、’痛み=関節がまたズレてしまった’というような表現をされることも多々あります。

 

脊柱のマニピュレーションに関しては、関節のアライメントを正すといった概念がこちらの患者さんにも多く伝わっています。特に関節マニピュレーションを主な治療法として使用するセラピストに治療を受けてきた方に、そのような説明を受けていることが多く認められます。

 

しかし、そのような科学的根拠は未だに結論づけされておらず、さらなる研究が必要とされています(仙腸関節の例)。また、徒手療法の効果に関しても、従来のバイオメカニクスだけではないことがわかってきています。(こちらにそのような徒手療法の効果やエビデンスの現状などについてよくまとめられていますので是非参考にしてください)。

 

 

4.患者さんの自立度をあげる

 

 

ただ、僕は徒手的な治療に対して反対なわけではありません。関節マニピュレーションやモビライゼーションも使いますし、評価としても患者さんに教育を行うという位置付けでは非常に有効だと感じています。また、説明としても徒手療法による効果は一時的なもので、徒手療法によって痛みが軽減することによって何が出来るのか?を考えること、そして実行することが重要だと伝えています。

 

そのことによって、徒手療法への依存心を作らないということが、本来であればシンプルである問題をより複雑にしないための一つの重要な方法であると体験しています。さらに、筋骨格系疼痛障害に関して、自己効力感 (Self Efficacy自分でなんとかしようということ)が低いということは、恐怖回避行動よりも障害へのリスクが高くなるとも報告されています。

 

 

5.非特異的慢性痛に関連し得る要因

 

 

非特異的慢性痛を有する患者を担当する上で重要なのは、先ほど述べた心理社会的要因を含めた多面的な視点での痛み・障害の理解であり、特に重要なのは ”なぜ痛いのか?”というところを Make Senseするというとこだと日々感じています。痛みのメカニズムが何なのか、それが現病歴や既往歴と一致しているのか、その痛みが続いていることによってどのような苦悩体験を生じているのか。

 

心理社会的要因であれば、それらがどのようにその個人の体験として影響しているのか。それらを包括的に確認していくこと、それが評価・治療の過程であり、患者さんの中で”なるほど、だから痛いのか”といった思考が生まれることが、Making Senseという過程であり、個人的に非常に重要と感じています。

 

 

6.まとめ

 

 

痛みということについて書かせていただきましたが、多面的な要因が関わる痛みについての現状などを紹介させて頂きました。痛みに関しては本当に学ぶことが多いですが、僕も日々の臨床の中で試行錯誤しながら、色々な方法を模索中です。時には患者さんの中で Make sense され、患者教育のみによって自分は動いても大丈夫なんだという自信を持ってもらえたことにより痛みが改善することもあれば、そのような話をしたために不快にさせてしまうこともあります(苦笑)。

 

重要なのは、その方が求めていることは何なのか、自分がこの人に必要なのは〇〇であるとわかっていても、すぐに結論に飛びつくのではなく、いかに患者さんに Reflective Questioning (自問・反映して頂く質問)を行いながら、患者さん自らがその結論にたどり着くお手伝いをすることだと思います。

 

治療者や痛みを経験している方も含め、一人でも多くの方が痛みと向き合い、前進し、改善していけるように僕も精進していければと思います!

 

 

最後に、このような考え方をもっと学んでみたいという方へ、6月に日本でお話しさせて頂く機会を得ましたのでご紹介させて頂きます。

 

大阪:6月2〜3日   (ここから

 

仙台:6月12〜13日  (ここから

 

東京:6月23〜24日  (ここから

 

 

本日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!!