今日は、日本にいた時からずっと疑問に思っていた徒手療法のメカニズムについて少し書きたいと思います。
このブログは二部作とし、第1部では前置き、そして第2部で と徒手療法のメカニズムについて書きたいと思います。


まずはじめに、セラピストが主に手 (肘でも、足でも)を使って、患者さんの体の部位を押したり、突いたり、撫でたり、するあらゆる治療のことを広く徒手療法と呼ばれていますが、今回は理学療法士が頻繁に用いるマニピュレーションやマッサージ、そしてモビライゼーションについて書きたいと思います。

理学療法士が痛みや機能障害を有する方に対して、これらの徒手療法を使って患者さんの症状の緩和を試みることは非常に一般的であると思います。
最近ではマリガンが提唱しているMobilisation with movement (についてMWM)が理学療法士にとって有名な徒手療法ですね。

これらの講習会に出て、資格を取り、レベルアップするためにコースをさらに受講することが流れですね。

実際これらの治療法による治療効果は有効であることを示すRandomised control trial (RCT)研究は多くあり、科学的に証明されています。

モビライゼーションやマニピュレーションは、評価により"関節の動きにくさ"を見つけ、それが痛みを引き起こしているという仮説のもとに施行され、症状の変化を図ります。
(ここで"関節の動きにくさ"と書きましたが、脊椎において関節の硬さの徒手的な評価は、妥当性・信頼性ともに乏しく、これらは単に tissure compliance test とされています (Landel et al (2008)))。

MWMでも、関節の位置の微妙なずれを感知し、それに対してMWMを行います。
外反捻挫をした患者さんは、受傷時に腓骨遠位が前下方に亜脱臼し、その後に起こる浮腫と癒着により脛腓関節にずれが生じると仮説付けされ、Hubbard (2006)はこの外反捻挫後の腓骨の前方へのずれをImagingを用いて確認しています。

【筋骨格系由来の痛みが多くはこの位置のずれから生じるため、MWMに各関節における微妙な位置のずれをMWMにより軽減することで痛みが軽減し、関節の動きが良くなる】
というのが、MWMによる生体力学的なメカニズムの説明です。

しかし、このメカニズムに対する科学的な証拠は乏しいのが現状です。
Hsiehら (2002)は、転落により右母指を受傷した79歳の女性に対して、MWMによる治療効果および関節ずれの修正をMRI imagingを用いてケーススタディ検証しています。受傷一ヶ月後、右第一基節骨が左に比べて4度回内していることを確認し、この関節のずれに対してMWMを3週間行いました。結果、三週間後、痛みはVASで6から0にまで軽減しましたが、MRIによる関節のずれには変化が見られませんでした。Hsieh らは、これらの結果から、MWMにより治療中に関節のずれは軽減されたかもしれないが、長期的な痛みの軽減に、関節のずれの修正は影響を与えていないと、結論付けています。


Vicenzinoら(2007)によるMWMによる文献レビューでは、MWMによる関節のずれの修正によって、痛みや機能障害を軽減するという証拠は現在ないと結論づけられています。

では、なぜ徒手療法により痛みが軽減するのでしょうか?

第二部で、少し知っている範囲で紹介したいと思います。