最近のフランス菓子 古典の再登場 | 塚本有紀のおいしいもの大好き!

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フランス料理とお菓子の教室を開いています。おいしいものにまつわる話し、教室での出来事など、たくさんお届けします。
 


日本のお菓子の中にブームを巻き起こす大流行があるように、もちろんフランスのお菓子にもゆるやかな流れがあります。私が自分で見て知っているこの15年だけでも、いろいろな古くて新しい流れがでてきました。

まず地方菓子がパリにも当たり前に登場するようになりました。以前は地方のお菓子はその地方へ行かないとあまり見られないものでしたが、フォションでクイニャマンが売られているのを知った日には驚きました。ピエール・エルメがフォションのシェフ・パティシエだった時で、まさかパリでブルターニュのクイニャマンが食べられるなんて夢のよう!と思ったものです。ちなみにエルメはアルザス出身であって、ブルターニュ人ではないのです。ボルドーのカヌレ屋さんもパリにできました。いつの間にかパリのパティスリーでプロヴァンスのカリソンが普通に売られるようになりましたし、最近はタルト・トロペジエンヌも以前よりよく見かけます。

以前はとても甘くて重たいめなのが、フランス菓子全般の傾向でした。それでも私よりもっと前にフランスにいた世代の方々にはもっと甘かったことでしょう。10年間お菓子教室をしていますが、帰国当初に作ったレシピから少しずつ少しずつ砂糖を減らしてきています。今から思えば、昔の私のお菓子はきっとかなり甘かったのではないかと思うのです。もちろん当時は私自身は何とも思っていませんでしたが、このときにお教えした生徒さんにはちょっと悪いことをしました。ところが最近、先端のお菓子屋さんのお菓子を食べて思うことは、その甘さと軽さにおいて、日本と何ら変わりない、ということです。フランスも遠い過去に比べると肉体労働が減ったからでしょうか、徐々に徐々に甘さ控えめの傾向にあるようです。

そして古典菓子が復活してきました。洗練された形での再登場に脚光が集まります。日本人に大人気のモンブランは以前からアンジェリーナが有名でしたが、昔は他にはJPエヴァンくらいしかありませんでした。最近はあちこちでよく見かけます。復活だけでなく、再構築されたものも。

さて以前フランスには、私たち日本人が思い描くシュークリームはほとんど売られていませんでした。エクレアやレリジューズ(修道尼という名の2段重ねシュー)、サン・トノレやパリ・ブレストはどこのお菓子屋にもあるのにも関わらず、です。

そんななか、老舗サロン・ド・テのアンジェリーナにシューを見つけました。

Angelina
226 rue de Rivoli
http://www.groupe-bertrand.com/angelina.php

アンジェリーナと言えばずっとモンブランでしたが、2007年にパティシエが加わり、素敵なパティスリーに生まれ変わりました。写真は「パリ・ニューヨークParis-New York」6.3ユーロ。なんて、キュートなのでしょう!  味がしっかり濃くておいしいシュー皮に、軽いプラリネのクリームが絞られています。個人的にはもう少ししっかり重たいプラリネクリームのほうが好きですが、でもこれは「今」向きで、おいしいもの。

つづいて、ジャック・ジュナンJacques Geninのパリ・ブレスト(5.1ユーロ)をご紹介しましょう。パリ・ブレストはリング状のシューにプラリネを絞った古典菓子です。大型サイズではなく、個人向けのタイプにしてありますが、クリームの高さが5cmくらいありそう! しかし思い切って齧りつくと・・・。フレッシュなプラリネに重すぎないクリーム、「これはおいしい!」と思わず言ってしまいます。シューは存在感があり、クリアなまっすぐなおいしさです。上に散らされたヘーゼルナッツが口に入ったときの全体の組み合わせがとくに素晴らしいものでした。昔ながらのお菓子なのに、現代風にきれいに洗練させたパリ・ブレストです。しかし一人で食べるにはあまりに大きい存在です。

Jacques Genin
133 rue de Turrenne 3e



さてカール・マルレッティCarl Marlettiのスペシャリテはミルフィーユです。

51 rue Censier 5e
www.carlmarletti.com

ミルフィーユは折り込みパイ生地の間にカスタードクリームを挟んだもので、昔ながらのスタイルには上にフォンダンを塗り、ラインを引きます。 このお店のものは生地を完全に焼き切り、一番上の面のみキャラメリゼしてあります。フォークで切るのは難しく、相当にがっしり。しかしこれがなんともおいいしいのです。生地に味わいがあり塩味がしっかり。クリームは軽くしてありますが、しっかり甘いもの。オーソドックスにノーマルに、奇をてらわないおいしさ。新しいことばかり追い求めず、まっすぐにあるべきフランス菓子を追求していってよいのだと思わされます。
(初出:all about専門家コラム 12/27/2010)