ワタリガニで、濃厚ビスクを 1月の料理基礎講座で | 塚本有紀のおいしいもの大好き!

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フランス料理とお菓子の教室を開いています。おいしいものにまつわる話し、教室での出来事など、たくさんお届けします。
 

1月20日(木)、21日(金)
1月の料理基礎講座を行いました。

今日の前菜はワタリガニのビスクBisque d'etrilleです。
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ワタリガニは非常に遊泳力が強いためその名があります。北海道から台湾まで分布。一年中取れるようですが、旬は秋。1月2月によく黒門に並ぶのでてっきり冬のものかと思っていました。

でもビスクとは「甲殻類の濃厚なポタージュ」をさします。やっぱり真冬の寒い時期にこそ食べたくなる味なのです。
これは泉州産のメス。お腹側の骨格で見分けます。黒門の魚屋さんによると、泉州、明石産が最上。岡山、九州産はその次で、外国産はその下に位置づけられるよう。

さて生きている泉州産メスという、最良の素材を使って料理をスタート。じつはビスクは風味や繊細さ、滑らかさのために、生きているものを使うのが望ましいとされるのです(怖い・・)。
ワタリガニは名前の割には弱いようで、買ってきて冷蔵庫に入れるとすぐに死んでしまうのです。だから私は毎朝「寒っ!」と言いながら黒門市場に買いに行きます。

そのまま潰すので、よくよく洗うところからスタートするのですが、2日目に大変なことが。「危ないからゴム手袋を」と、私が言い忘れてしまったのです。洗っていた方が指をはさまれてしまいました。
ぎゃーっという声に飛んで行き、私は両手の指で必死にはさみを開こうとするのですが、現状維持しかできません。つめがぎゅーっとその方の指に食い込んでいて、あせるばかり。かにも必死。
そのとき、冷静な生徒さんが料理ばさみで、バチーンとカニのはさみを切ってくださったのです。
本当にびっくりしました。血が流れることもなく、無事に解放です。

まずは「おいしく頂きますので成仏してください」と祈ってから、これを麺棒でよく潰し、強火で炒めます。コニャックとカイエンヌペッパーをふり、トマトや魚のだし、香味野菜と30分ほど煮込みます。
これを濃して濃厚な味になるまで煮詰めます。クルトンを浮かべたらできあがり。

フランスではレストランでスープが出されることが最近では減ってきているのだそうです。手間もお金もかかるのに、見栄えがせず、従ってお金も取れない・・・というわけ。
この料理をしていると、本当にそうだろうなあ、とつくづく思います。かなり原価がかかり、あんなに苦労して(指まで挟まれ・・)、できあがったのは「これだけかぁ」と言ってしまう少なさ。
コンソメは私の中の「報われない料理」ナンバー1ですが、2番は間違いなく「ビスク」。
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しかし苦労して作ったビスクは、濃厚にじつにじつにおいしいものです。身体に染み渡る冬の味です。

イタリアのリゾット米とインドのバスマティ米があったので、サラダにして。

主菜はオーヴェルニュ地方料理「シュー・ファルシーの蒸し煮Choux farcis braises」です。
ロールキャベツ・フランス版といったところ。でもじつはロールキャベツにあたるものは、中央アジアや中東、東ヨーロッパなど世界各地にあるのだそう。
オーヴェルニュ地方はフランスの中央山岳地帯で、ボルヴィックを産出する地域です。かつてクレルモン・フェランを旅したとき、街のレストランで食べたシュー・ファルシーにはお米が詰められていて、なんだか懐かしいような味だなあと思ったことを覚えています。
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フランスでキャベツと言えば、それは通常縮緬キャベツをさします。ちりちりとした葉で噛みごたえがあります。日本のように「千切りキャベツ」にして生で食べるという習慣はなく、かならず茹でてから料理に使います。
これは国産の縮緬キャベツ。国産が手に入るようになってから久しいのですが、フランスよりもかなり短い時間で茹であがる実感があります。種は向こうのものでも、違う風土の日本で育つと野菜は柔らかい傾向に変わるようです。茹でる水が軟水であることも関係しているのでしょう。

豚肉と牛肉でファルス(詰め物)を作り、キャベツの葉と交互に積み上げ、ぐるんと丸めます。ひっくり返してベーコンを巻き、もとのキャベツの形に戻したら、下ごしらえが完了です。愛らしい!
これを香味野菜とフォンを入れた平鍋に置き、オーブンで蒸し煮にします。
付け合わせは、にんじん、かぶ、じゃがいものココット(面取りをしてグラッセ、あるいは塩茹でにしたもの)です。

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おなじみ「ロマネスコ」。シューファルシーには関係はないのですが、付け合わせに足すことにしました(おもしろいから)。
分類上カリフラワーなのに、フランスでは「ブロッコリー・ア・ポムbrocoli a pomme」などとも言います。螺旋状の房の付き方が非常にユニークな野菜です。その円錐形は、フラクタル形状とかフィボナッチ数と か自己相似など、数学の難解な言葉で説明される、芸術的にヘンな野菜。中心に向かって螺旋状に小房が並ぶのですが、その小房もさらに中心にむかって螺 旋状の小 々房で構成され、その小々房も螺旋状の小々々房で・・と、頭がおかしくなりそう。茹でて食べるとブロッコリー寄りの味で、甘みがあって、単純においしい野菜です。ちなみに黄緑色のカリフラワーとは別物です。

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とても素朴ですが、私が大好きな地方料理の一つです。


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デザートは定番のチョコレートムースのオレンジ風味。