タルト・タタンの講座にて | 塚本有紀のおいしいもの大好き!

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フランス料理とお菓子の教室を開いています。おいしいものにまつわる話し、教室での出来事など、たくさんお届けします。
 

1月8日(土曜)

りんごがまだおいしいうちに、と「タルト・タタン」の講座を行いました。

タルト・タタンはそもそもフランスのソローニュ地方ラモット・ブーヴロンの街にある、オテル・タタンが発祥です。パリから電車で1時間半くらいの、ラモット・ブーヴロン駅の目の前にあります。
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3年前の夏にようやく訪問が実現。これが発祥のタルト・タタンです。甘くてこくて、感動的! 使っているものはたぶんりんごと砂糖とバターだけと思われるとてもストレートな味わいです。レモン汁の酸味はまったく感じられません。
味は非常におおらかで、その素朴さは驚くばかり。日本でおいしいタタンと言うと、なんだかいっぱい決まり事やらうんちくがあってちょっと肩が凝るようなイメージを持っていましたが(かくいう私も、もちろんりんごはこれでないと!などといろいろあります)、「なんだ、これでいいのか!」と思いました。
りんごと砂糖をバターをぽんぽんと詰めてオーヴンに入れて焼き、「はい、どうぞ!」のような。
そんなことを思いながら、地元の甘い白ワインと一緒に頂きました。それはそれは感動的な体験でした(おすすめです)。

タルト・タタンは失敗から生まれたお菓子として有名ですが、ホテルでもらったパンフレットから、かいつまんでその伝説をご紹介しましょう。
CarolineとStephanieのタタン姉妹が、ラモット・ブーヴロン駅のすぐ目の前にとても繁盛しているホテルを営んでいました。とりわけ狩人(味にうるさい人たち)にタタン姉妹のおいしい料理は評判だったとか。
あるときお客と話し込んでいたstephanie(carolineとの説もあり)が、厨房にデザートが何もないことに気がつきます。そこで大慌てでりんごの皮を剥き、型にバターと砂糖を詰め、火にかけました。ところが彼女がははっと気が付きます。それはタルトでもないし、焼きりんごというわけでもありません・・。
どうしよう!? すでにりんごは煮え始め、キャラメルのにおいもし始めています。サービスの時間は刻々とせまり・・・。やり直すには遅すぎる! そこで彼女は生地を少し取って伸ばし、りんごにかぶせてそのまま焼き、ひっくり返して出したのです。ここにタルト・タタンの伝説が生まれました。
パリからたくさんの美食家たちがこぞって汽車に乗って、タタンを食べに行ったという記録が残っています。ホテルのダイニングには「ここでタタンを焼いたのかしら」と思わせる、クラシックな薪のオーブンが残されています。

タタンは十分な高さのある型、たとえばマンケのようなものを使い、上質なバターとグラニュー糖、ブリゼ生地を薄くのばしたものを使うこと。りんごは皮を剥いて、種を抜き、1/4切りに相当する大きな固まりにカットすること。さらには、クリームやジャムの禁止。サーヴィス段階でのアルコールによるフランベも禁止されています。
つねに敬意を払うべきは、「りんご、バター、砂糖、生地、これだけ!」などと、この部分だけ大文字で、思い入れたっぷりに表記されています。

毎年春にはタタンを守る騎士が任命されるようです。これはフランス人でも外国人でも可。昔の農民の格好をして、メダルとディプロームが授与され、聞くところによると日本人にも騎士がいらっしゃるのだとか! いつか参加してディプロームを貰ってみたいものです。

さてこんなことを心に留めながらのタタン作りがスタートです。
デモ用は大きなタルト・タタンの専用型moule a tarte Tatinを使います。直径が24cm! しかも銅なのでとても重たいのです。
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これはフランスで買ったものです。*日本でのマトファーの定価はなんと3万円なり!
「あのう、もう少し小さいのは?」「ノン。これが一番小さい」
と言われ、唖然としたことを覚えています。でもどうしても欲しい! と思って買った割には、これまであまり使ってきませんでした。もちろんおいしいのは分かっているのですが、あんまりにも大きいから。

ほとんど使わず長い間眠っていたタタンの型ですが、みなさんよりリクエストが多かったので、登場させてみました。使ったりんごは特大サイズ(350-400g)で7個。

まずは銅型の中でバターと砂糖でカラメルを作ります。ここにりんごを積み上げ、さらに砂糖とバターを散らし、直火で20分ほど火を入れます。ぶくぶくとキャラメルが沸き立ち、良い香りが立ちこめます。ただし焦げすぎると、見た目も味わいも違うものになってしまうので、充分な注意が必要です。

これをオーブンに入れ40分ほど。
取り出してブリゼ生地を乗せてもう一度オーヴンへ。さらに25分ほど焼いたらできあがりです。
取り出してすぐに裏返してはいけません。りんごからでてきたペクチンが自然に固まり、ぶるんとなるのを待ちます。びっくりすることに、銅の場合1時間大理石上に放置してもまだまだ充分にほかほか温かいのです。

大皿にひっくり返すのも、ちょっと大変な作業です。えいやっと気合いを入れて。
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これは午後のクラスで作ったものですが、午前のはもっとカラメル色が濃いものでした。色の濃い目のときは濃厚なカラメル勝ちのおいしさ、色が浅めのときはまっすぐなりんごのおいしさが味わえます。ともに捨てがたいのですが、見た目はもう少し色のほしいところ。なかなかに難しいものです。
でもそれでよいのだと今は思っています。なにしろタタンはおおらかなデザートであるべきなのですから。
使ったりんごは、私が一番好きな「サンフジ」です。甘みも香りも、強すぎない酸も、しっかりめの肉質も、私は一番りんごのお菓子に向くと思っています。