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最近の読書の中でも、
特に夢中で読んだのがこちら。
「国境なき医師団を見に行く」
いとうせいこう
タイトル通り、せいこう氏が、世界中で活動する「国境なき医師団」を取材した本である。
氏がこういう活動をしていることを、私は、ふと聞いたNHKラジオをきっかけに知った。
わずか5分・10分の番組枠にも関わらず、昨今のパレスチナ問題について立て板に水で語るせいこう氏の声に、聞き手の私はずいぶんと引き込まれた。
凄みを感じたのだ。
直後、図書館でたまたま本書を見つけ、こりゃ運命とばかりに借りてみたわけである。
本書はルポではあるが、ある種小説のようでもある。
感情に訴えすぎず、事実描写のみにも偏りすぎず、ものすごいバランス感覚でもって丁寧に書かれた、すばらしい本だった。
国境なき医師団は、治安の良くない地域で活動することが多い。
取材中、万が一せいこう氏が誘拐された場合、「誘拐されたのは本当にせいこう氏本人かどうか」を確認するために使う暗号を決めるところから、話は始まる。
盗聴に備えてのコードネームがいちいち洒落ていたり、国境なき医師団担当者による、「弊団」という一人称がかっこ良くてシビれてみたり。
そんな、ちょっと浮わついた場面から、 団体の深部へと、読み手は一気にいざなわれる。
「もし自分がその立場だったら」
本書を読んでいるあいだ、自分の頭の中に、常にこの言葉が浮かんでいた。
もし私が、スラムに住む彼女だったら。
飲み残したこのお茶をそのままシンクに流しはしない。最後まで大事に飲み干すだろう。
もし私が、医師団に治療を受けた彼だったら。
目の前で撃たれた二人の息子の、仇を取りに行くかもしれない。耐えて生き続けることができるだろうか。
本書は、「医師団の活動や現地の実態を紹介する本」という括りの中には無い気がする。
読んでみるとわかる。
文字を追っているだけなのに、そこからゆらゆらっと対象が現実に立ち上がってくるような、ニオイや服の手触りまで感じられそうな、せいこう氏による描写がそれはそれは見事なのである。
本書の冒頭数ページは、Amazonで試し読みすることができる。
購入者の評価は高い。
もともとヤフーでオンライン連載していたものを、一冊にまとめたものらしい。
これを読みながら、思い出したことがあった。
小学3年生の息子との、ある日の会話だ。
今冬、彼の通う小学校では学級閉鎖が続出している。
クラスが閉鎖していない場合でも、各クラスの欠席者は10人に近く、学校自体が閉鎖寸前のような状況…
だったが、奇跡的に息子のクラスからは、 ほとんど欠席者が出ていない。
今日は何人休んでた?とある日息子に尋ねたら、「今日は一人だけ」だと。
一人か!少ないな!良かったね、
と感想を述べた私に、息子が苦言を呈した。
「いやいや、全然良くないよ。
休んだその一人にとっては最悪じゃん。
風邪で苦しい思いしてるんだから」
息子はクラスの欠席者を、数字ではなく友人一人一人として見ているんだと、あのとき思ったのだ。
私はどちらかというと、人ではなくて数字として見ている。
とっさの言葉選びに、そんな自分の腹の中が透けて見えた。
「もし自分がその立場だったら」
もし私が、病欠したクラスで唯一の生徒だったら。
早く治して、早く友だちと遊びたい。
「休みが一人で良かったね」なんて、とんでもない。
※続編も後日読む予定。
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