水遁の術見事なり水馬
 ( すいとんの じゅつみごとなり あめんぼう )
 
日曜日に行った植物園は、先週とさほど変わりなく、夏の代表的な花である向日葵(ひまわり)、蓮(はす)などは完全に終わっていた。その代り、秋の花とされる木槿(むくげ)、芙蓉(ふよう)などがかなり咲いていた。

新暦では、8月一杯が盛夏で、いよいよ夏本番といったところだが、俳句の世界では、立秋(8月8日)を境に秋となるので、今は夏の終わりを感じつつ、秋の到来を待つ微妙な心境である。
 
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本日の掲句は、そんな時期にあって、水の上を涼しげに泳いでいる水馬(あめんぼう、あめんぼ)を見て詠んだ句である。水馬は、生まれながらに水の上を泳ぐ術を会得しており、実にすばしこい。水馬は夏の季語。

水遁(すいとん)の術とは、「水を使って遁走(逃げる)する術全般」のこと。竹筒を使って水に潜ったり、水蜘蛛(輪状の履物)を履いて水上を歩くなどの術は、忍者漫画、映画などでよく見た。

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水馬(アメンボ)は、カメムシ目アメンボ科の昆虫。体長は5mm~30mmくらい。六本の長い脚を持ち、特に中脚と後脚が発達している。脚全体には細かい毛が密生しており、水の表面張力を利用して水上を自由に移動する。

幼虫・成虫とも肉食性で、水面に獲物や死骸が落ちると、すばやく接近して前脚で捕獲し、針のように尖った口器を突き刺して体液を吸う。成虫になると羽ができ、他の水域へも移動できるようになる。

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名前は、捕まえると飴のような匂いを発し、体が棒のように細いことから付けられた。正式名は「あめんぼ」だが、俳句では「あめんぼう」と呼ぶことが多い。
 
雨が降った後の水溜りでよくみかけるため「雨ん坊」と呼ばれるようになったという説もあるが、これは言語学的に根拠のない民間語源。

別名には、水蜘蛛(みずぐも)、川蜘蛛(かわぐも)、水馬(すいば)、水澄(みずすまし)などがある。但し、現代の標準和名では、水蜘蛛は水生のクモの1種、水澄は水生甲虫の一群をいう。
 
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水馬を詠んだ句は比較的多い。その中から分かりよいものをいくつか選定し以下に掲載した。

【水馬の参考句】
水あるを知らぬが如し水馬     (松瀬青々)
暮がての光りに増えし水馬     (阿部みどり女)
滝壷に生れ死すまで水馬      (鷹羽狩行)
水馬流され水輪流されし       (倉田紘文)

流れなきところをながれ水馬      (大木あまり)
 
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