「桔梗(ききょう)」は「秋の七草」の一つである。七草の由来といわれる山上憶良の歌では、「朝顔」となっているものが「桔梗」のことだというのが定説となっている。名前は、漢名に由来し「きちこう」ともいう。花期は6月頃から9月頃までと比較的長い。

 

 

本日は、その「桔梗」を詠んだ句をいくつか選び、その解説と感想を記したい。自作句と概説については、昨年8月に投稿した「秋季:桔梗」という記事にまとめているので、合わせてご覧いただきたい。

 

*作者のプロフィールについては、Wikipediaなどネット上のデータを参考に記載している。但し、ネットで検索できなかった場合や内容が不確かな場合は、やむをえず「作者経歴不詳」と記している。

 

 

 

桔梗の花咲く時ぽんといひさうな

ききょうのはな さくときぽんと いいそうな

加賀千代女(かがのちよじょ)

 

桔梗の花びらは、開花直前まで互いにぴたりとくっつき、まるで紙風船のように膨らんだ姿をしている。掲句は、その姿を見て、その蕾がはじけて開く瞬間に「ポンと言いそうだ」と表現した。実際に音が鳴るわけではないが、少女のような無邪気さをもってユーモラスに詠まれている。また、「ポンと音が鳴る」というのでなく、「ポンと云ひそうな」と擬人法を使っているところに草花への深い愛着を感じる。

 

加賀千代女(1703年〜1775年)は、現在の石川県出身の俳人。表具師の娘として生まれる。12歳の頃、奉公先で俳諧を学ぶために弟子となり、16歳の頃には女流俳人として頭角をあらわす。17歳のころ蕉門十哲の一人、各務支考に才能を認められ指導を受ける。52歳には剃髪して尼となり、素園と号した。彼女の有名な句の一つに「朝顔につるべ取られてもらひ水」がある。

 

 

 

桔梗や男も汚れてはならず

きちこうや おとこも けがれてはならず

石田波郷(いしだ はきょう)

 

「桔梗」は、青紫色あるいは白色の星型の花を咲かせる。その姿は、きりりとして凛々しく、まことに清らかな感じがする。その姿をみて、作者は、「男たるもの、どんな苦境にあっても精神的な気高さを保ち、決して汚れてはならない」と強く決意する。下記の通り、作者は早くから結核を患い、凄惨な闘病生活を送るが、掲句は、自身を励まし奮い立たせるために詠まれたものを思う。

 

石田波郷(1913年- 1969年)は、愛媛県出身の俳人。水原秋桜子に師事、『馬酔木』に拠ったのち、『鶴』を創刊・主宰。初期の青春性のあふれる叙情句から始まり、自己の生活を見つめる、人間性に深く根ざした作風を追求。加藤楸邨、中村草田男らとともに「人間探求派」と呼ばれた。戦中に結核を発病し、戦後は病と対峙する自身の生活を題材とする境涯俳句を詠み続けた。(再掲)

 

 

 

おもかげや折目正しき白桔梗

おもかげや おりめただしき しろききょう

舩越美喜(ふなこし みき)

 

「桔梗」は端正な花で、殊に「白桔梗」は、青紫の「桔梗」よりも星型の輪郭や折り目(筋)がくっきりと際立って見える。その花姿を、かつてゆかりのあった人物の面影に重ね合わせて詠まれたのが掲句。尚、中七の「折目正しき」は、「白桔梗」の花姿の形容するものであると同時に、偲んでいる人物の佇まいや礼儀正しく誠実な人柄を象徴するもの。また、冒頭の上五に「おもかげや」と措辞しているところに、かの人物に対する作者の強い思いが感じられる。

 

*作者経歴不詳