先日、押山清高監督によるアニメ映画『ルックバック』を観に行きました。原作者は『チェンソーマン』がブレイクした藤本タツキさん。
なんで観に行ったかというと…
まず、ネットでの評判が芳しい。
また、僕が文化的感度に関して信頼しているギタリストの高野京介さん(SuiseiNoboAz,ゲスバンド,元うみのて)も、小説家の文化人として最推しの高橋源一郎さんも好意的に取り上げていたし、観ておかなきゃと思って…
以下は感想です。「ネタバレなし」と銘打ちましたが、核心部分のネタバレはしませんが、少しばかりのネタバレは含まれます。少しのネタバレも嫌だという方はぜひ鑑賞後にお読みください。
感動もしたけど、それよりも、ひとつの美しい作品を観た思いになった。絵や漫画に向ける登場人物の二人の情熱とひたむきな心が表れ、世俗のチリが積もって汚れた自分の心が洗われた。作画も音楽も声優の演技もきめ細やかな描写で描く約1時間のストーリーには無駄もなく、必要なシーンだけで構成されている。その物語のタイトな構成美を感じてほしい。
漫画を描くとは孤独で孤高なことなのだと再認識した。小中高校あるいは学校を出た後、漫画に打ち込めば打ち込むほど、友人は離れて行くし、作れない。漫画に限らず、創作は孤独なものだ。孤独の中で突き抜けられた者だけが一流のプロになれる。この作品には突き抜けられた瞬間が刻印されている。
僕の友人が「（小学生のとき、）藤野が京本に打ちのめされて死ぬほど絵の練習をするところが好き」だと言っていたが、そのシーンも素晴らしい。他の創作者の実力にうちのめされるのは表現の高みに行こうとする者にとって、必ずといってよいほど通る道だ。（しかし実は、京本も藤野の漫画の才能に憧れを持っている。）
二人の中心人物のうちの一人である京本（CV：吉田美月喜）の東北なまりの方言が良い味だし、作品のリアリティのディテールに貢献している。この純朴さは、同じく東北なまりである『ハンター×ハンター』のコムギを思い出す。もちろん、主役の藤野（CV:河合優実）の声の表情も豊かで、こんな少しスレた性格の人いそうと思わせるディテールがある。
二人の人物がタッグを組んで漫画を志す作品といえば、藤子不二雄Aによる『まんが道』を思いおこす方もいるだろう。（前述した高橋源一郎さんが『サンデー毎日』の連載「これは、アレだな」で取り上げていたのも『まんが道』だ。） 僕は未読だが、藤子・F・不二雄と共に「まんが道」を驀進（ばくしん）する二人の姿が描かれているという。
僕が想起したのは『バクマン。』（原作・大場つぐみ、作画・小畑健）だ。サイコーとシュージンの二人による血のにじむような努力、夢は叶うんだというメッセージ、いちずな恋愛の描写。少年ジャンプがかかげる「努力・友情・勝利」を直に行く物語だ。では、この３つのテーマのうち、『ルックバック』において描かれなかったり、途切れたりしたものは…？ この映画の終盤、あなたはそれを知って泣いてしまうかもしれない。
しかし、映画の内容外になるが一つ難を挙げるとすれば、一律1,700円であり、シニア割引や障がい者割引がないのはいかがなものか。こんなことを言うと障がい者特権といって騒ぐ方もいるかもしれない。でも、障がい者はいろいろと大変なんだよ。（健常者も大変なのかもしれないが。）たとえば、精神障がい者はほぼほぼローンも組めないし、生命保険にも加入できない。もちろん、メンタル的にも就職は難しいし、働くのは大変だしね。
さてさて、総括すると、約1時間の上映時間だけど、1,700円以上のプライスレスな価値はあると思います。音楽を手がけたharuka nakamuraさんの曲もクラシカルな讃美歌のような作りで、魂を浄化するかのような美しさと切実さをたたえていて素晴らしかったです。（ほんの少しだけRADWIMPS野田洋次郎さんの曲作りと通じる要素を感じて、そこも魅力的に感じました。）未見の方はぜひ！
Score 8.0/10.0
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