グレイプバイン『Almost there』感想&レビュー【曇り空の魅惑】 | とかげ日記

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●曇り空の魅惑

日本のロックバンド「GRAPEVINE」、『新しい果実』から2年4ヶ月ぶりとなる通算18枚目のフルアルバム。

バンド名の由来は、マーヴィン・ゲイの曲「"I Heard It Through The Grapevine"(邦題「悲しいうわさ」)」から。Grapevineは直訳の「葡萄のツタ」から転じて「よくない噂」という意味を持つという。

そんなバンド名の由来どおり、彼らの作品には明るさと共にかそれ以上に 翳(かげ)りを感じさせる。 そして、彼らは愚直に良い歌を作り続け、それゆえに支持を得ているバンドなのだが、少しの翳りが彼らの歌をさらに魅力的なものにしている。自分の中でグレイプバインの印象は晴れでも雨でもなく曇り空なんだよな。

これからグレイプバインの本作『Almost there』を見ていくが、最初に断っていかなければいけないことがある。

それは、この文章はレビュー(客観的要素が強い)よりも感想(主観的要素が強い)寄りであるということである。実は、5年前に仲が決裂した親友もグレイプバインが好きだったのだ。誠実さゆえに、かたくなで少し潔癖な性格の親友だった。グレイプバインの音楽性にはそんな彼の気質と近いものを感じてしまう(グレイプバインの近作におけるタイトで緊張感あるリズムにはまさに)。

グレイプバインの音を聴くと、どうしてもその親友のことを思い出してしまう。だから、記事を書くには個人的(主観的)にならざるをえない。親友からはたくさんの音楽を教わったし(Sleep Party Peopleの「I'm Not Human At All」には特に感銘を受けた)、親友自身もバンドマンだったので、彼自身が作る音楽からも様々な大切なことを受け取った。そして、親友と別れてからは、人を信頼することが以前よりも怖くなった。欠席裁判になるので細かくは書かないが、その別れは僕にとって裏切りだったのだ。

さて、前口上を終えて、グレイプバインの音楽に迫ってみよう。

僕がグレイプバインを知ったきっかけは、JAPANESE DREAMという番組が出したコンピレーションアルバム(1999年リリース)だったと思う。このコンピに収録されていたバイン「君を待つ間」は僕のヘビーローテーションになった。歌うように鳴らされるスネアドラムが心地よい。

くるり、ナンバーガール、スーパーカー、中村一義のデビューした「98年世代」よりも言及されることは少ないが、GRAPEVINEもDragon Ash、TRICERATOPSと併せた「97年世代」の代表格だ。(ただし、97年世代と98年世代がどのバンドを指すかは資料やネットで齟齬がある。)グレイプバインは日本でオルタナティブロックが始動した1998年と1997年にデビューしたバンドたちの筆頭なのである。

また、ポスト・ミスチルと称されることも少なくなかった。たしかに、ミスチルと共通する歌ものの感性もあるし(たとえば、グレイプバイン「ふれてみたい」のイントロに込められたエモーションはミスチル「終わりなき旅」のようだし、サビの盛り上がりの光彩は「光の射す方へ」のようだ)、オルタナティブな音楽的要素を歌ものに盛り込む姿勢はミスチルのようだ。


もちろんミスチルと違うところもたくさんある(というよりもグレイプバインの近作の音楽性は全く違う)。その筆頭はその甘やかな粘りのある歌声だろう。好みの分かれる歌声だが、だからこそ刺さる人には刺さるのだ。また、先述した別れた親友は、バインは聴いてもミスチルは聴いていなかった。売れ線の音楽を避ける親友のことだから、ミスチルのことを過度に売れ線を狙っていると思っていたからかもしれない。

バインは音楽的な語彙の幅広いバンドだが、よーよー個人的には、ベスト盤に入っているような歌ものど真ん中の曲が好きだ。特に、「光について」「スロウ」「風待ち」の3曲は名曲でいつまでも聴いていられる。


👆光について


👆スロウ


👆風待ち

そして、前作『新しい果実』は、「歌もの」を楽しむというよりも、「音楽」を楽しむような、音のテキスチャーに焦点が当てられた極上の音体験ができるアルバムだった。最近僕がレビューしたアーティストでいうと、そのストイックな音作りやリズムへのタイトな美意識は、音楽性は違うがTESTSETを想起させた。

そう、より「歌」にスポットを当てているのか、より「音楽」にスポットを当てているのか、これが僕が今作『Almost there』を聴く上でのテーマだった。

幕開けの#1「Ub(You bet on it)」。絶妙に暗めの曲調、ミステリアスな装飾音、四分音符を律儀に刻むリズムギターにアンニュイさを感じさせる。しかし、エモーショナルなボーカルには前に進もうとする決意を感じる。彼らに賭けてみたくなる信頼できるサウンドだと思う。



#2「雀の子」。この珍妙でアクの強い音楽性は、新進のバンドでいうと、"カラコルムの山々"を僕に想起させる。でも、このような音楽性のアーティストでは、カラコルムの山々よりもKhakiを推したい。カラコルムの山々も濃厚なとんこつラーメンで美味しくいただけるのだが、Khakiも珍妙で不可思議な音楽でありつつ、 後味がさっぱりしたしょうゆラーメンの絶品なのだ。



#3「それは永遠」。いい歌! エバーグリーンなギターの音色と歌メロに舌鼓を打つ。

#4「Ready to get started?」。ゴキゲンなロックンロール。このアルバムにおいて良いアクセントになっている。

#5「実はもう熟れ」。甘い夢の中を泳ぐような甘美な曲。冒頭のワウギターからして興奮する。

#6「アマテラス」。こちらも#2「雀の子」のようなクセがある曲だ。アドレナリンの分泌の仕方が奇妙でエグい。

#7「停電の夜」。曲名とチルな曲調から、ceroの大名曲「大停電の夜に」を思い起こした方もいるだろう。この曲調に合うギターソロがまったりしていて素晴らしい。



#8「Goodbye, Annie」。デビュー同期のトライセラトップスのような、一筋縄でいかないファンク的要素を感じる。

#9「The Long Bright Dark」。眠らない大都会の中でギターが魅せる光と影。その表現力に感嘆する。

#10「Ophelia」。ミレーの名画(もしくはその元となったシェイクスピアの戯曲『ハムレット』の登場人物)である「オフィーリア」をオマージュした曲。「殺して」という歌詞に驚くが、穏やかで破滅的な長く浸っていたいバラードだ。

👆オフィーリア(絵画)

アルバム最後の曲#11「SEX」。サビのファルセットがまさにセックスの高揚感と快感。「LGBTQ」という言葉がメジャーシーンの歌詞に登場したのは、おそらく日本初では? この曲名には、性行為のセックスだけではなく、「性」という意味も込められているのだろう。


さて、ひと通り聴いてみたので、テーマの結論に移ろう。結論は、軸足は歌ものに置きつつ、音楽的にも素晴らしい佳作だったということだ。

ところで、Arctic Monkeysは最新作において音楽として高度な曲になったのと同時に初期のような即効性と訴求力を失った。バインはどうだろう? セルアウトとは程遠い、志ある音楽だが、訴求力は申し分ないし、一定の即効性もあるように思う。

久々に聴いたグレイプバインの音楽は、親友との別れのようにビターだった。でも、その音楽の甘やかさは、親友が時折見せた優しさの思い出のように、いつまでも僕の中で輝き続ける。

Score 8.0/10.0

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