踊ってばかりの国『Paradice review』感想&レビュー【 正しく邪なサイケデリア 】 | とかげ日記

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● 正しく邪なサイケデリア

男性5人組ロックバンド”踊ってばかりの国”が放つ7曲入りの待望の音源。

曲順は録った順であり、オープン・リールでアナログ・レコーディングしたという。不勉強なことに知らなかったのだが、オープン・リールとは録音できるレンジ(低域から高域)がレコードよりも広く、オーディオファンからも評価の高い磁気テープメディアのことを指すらしい。

その製作過程を聞いてからこの音源を聴くと、デジタルにはないアナログならではのスピリットを感じる。リバーブが増幅するポップでディープな妖しさは感覚的にアナログな感じがする。

彼らの音楽には、妖しさゆえの愉しさがある。躁病で妖怪の術を音楽にまとっているような妖しさだ。それでも音楽に妖しさゆえの粘着感を感じないのは、ソングライティングに人生への悟りめいた矜持を感じるためか。

アビスという言葉を知っているだろうか? 「メイドインアビス」というアニメを観ているから知っている方もいるだろう。アビスとは、ネット上の英和辞典(Weblio)によると、「深いふち,底の知れない深い穴,深い底,混沌(こんとん),地獄,奈落の」という意味だ。その意味でいえば、踊ってばかりの国の作品はメイドインアビスなのだと思う。このブログ(とかげ日記)読者にもおなじみの"うみのて"や"太平洋不知火楽団"など、笹口騒音さんのバンドの音楽もメイドインアビスと呼べるだろう。

踊ってばかりの国が作り出す魅惑の音空間。トリプルギターによる、とろけるような正しく邪なサイケデリアのギターサウンド。ベースは音で踊るように音程がぐいぐい動き、ドラムは目立ちすぎなく音で主張している。この5人が奏でる音楽は、まさにメイドインアビスだ。

#1「Your Song」の出だしからして衝撃的だ。この曲から始まるトリップ紀行。一気にあちら側の世界に引き込まれそうになる。生と死の彼岸の光景を歌うこの曲は、霊妙という言葉がふさわしく、アビス(≒深淵)から音楽をくみとったようだ。



ボーカルも魅力的だ。声も歌いぶりも独特で、歌唱に含まれるフィーリングは無二だ。#3「待ち人」の後半で披露される渇いた魂の叫びのようなフォルティシモの歌唱をぜひ聴いてほしい。

また、メロディも良いのだ。キャッチーなポップスみたいな即効性を感じるのは、メロディが親しみやすく素晴らしいからだろう。甘美な囁きのようなメロディに惚れるし、グッとくる。特に、#2「Ceremony」のメロディはさりげない輝きを終始放っていてずっと聴いていたくなる。

そして、彼らの音楽の音楽性や世界観が僕はとりわけ好きだ。

#4「Amor」は曲名が日本語で「愛」という意味であるとおり、心に平穏をもたらすような落ち着きも確かにある。だが、やはりこのバンドが鳴らす「愛」は奇形で奇妙な不協和の側面もあってキッチュな魅力がある。

#5「知る由もない」は終盤の凄みをぜひ聴いてほしい。魂の故郷を歌っているような、とても懐かしい感じがする。あふれだす感情に流されていく快感、この音楽は僕の鍵穴にマッチする形の鍵なのだ。

#6「海が鳴ってる」。歌にも音にも滋味があり、寄せては返す波のよう。演奏のダイナミクスの強弱や歌いぶりによってドラマを作る、歌ものとして一本の芯が通った曲だ。

#7「Paradice review」。ヘブンリー(天国的)な曲であり、彼らの持ち味の一つであるヘリッシュ(地獄的)さからは離れている。明るく聴き終えることができて、このEPのクローザーにふさわしい。しかし、歌詞をよく聴くと、戦争のことを歌っており、やはりこのバンドは一筋縄にはいかない。



売れ線などは気にせず、ただ鳴らしたい人が鳴らし、それをただ聴きたい人が聴く、幸福な循環がこのバンドにはある。これからも彼らの活動を追っていきたい。

Score 8.7/10.0

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