うみのて『奇数たちよ!』感想&レビュー【奇数である"ひとりひとり"に刺さる歌】 | とかげ日記

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●奇数である"ひとりひとり"に刺さる歌

社会を風刺するソングライティングが冴え渡る、うみのての3rdアルバム。音がすごく良く、耳と脳が喜ぶ音だ。ミックスとマスタリングはフロントマンの笹口騒音さんによるものなので、笹口さんはDIYでなんでもできる音楽レオナルド・ダヴィンチだと本気で思う。

それでは、各曲を見ていこう。


#1「MUTEKIの歌 feat.呂布カルマ」はジョンレノン「LOVE」のように、曲始めは聴こえない音がせり上がってフェードインしてくる仕様。

これは歌詞カードを見ながらじっくり聴きたい、歌詞(リリック)が光っている曲ですぞ。

カシオトーンの懐かしさ、温かなビート、エレキギターの冷ややかな響き、そして演奏が止んだ後に始まる超ビターな歌と演奏、まさにMUTEKI。

社会問題を風刺する歌を作ってきたうみのて。この歌は社会問題から表現論、あるべき歌論に接続する。分別できない歌が1億曲聴き放題でも、僕らの心はちっとも揺さぶられないんだぜ。この歌は無敵の二組が歌う、特別でMUTEKIの歌。

👆のMVは最後まで観てください。最後には○が○○されますが、実は○と思っていたものが○だったという、とんでもない結末です。

#2「一般人」はサビで視界が開ける疾走感あふれるナンバー。社会とそこで生きる人々を鋭く風刺する。このアルバムの政治的なイデオロギーはニュートラル(≒中立)の立場であり、ただメタ的な視点で社会を俯瞰しているだけだ。しかし、社会や政治に対して意識的であることを感じさせる。


#3「レイシスト」。グリスしてリフレインするミニマルなベースリフが印象的な一曲だ。かなり難しいリフだから、正確に繰り返すサポートベーシストのあきもとさんの力量は凄いなと思います。

レイシスト(差別主義者)は言わずもがな、「普通」の人も、他者を差別主義者として糾弾する人も、差別意識を自身の内に抱えている。その猥雑としていて混沌とした心を、うみのての「レイシスト」は非難も肯定もしない。ただ、そういった差別意識を抱えていることを意識せよと言っています。曲の途中で観客にハンドクラップを促すのも、意識せよという呼びかけに僕は聴こえる。

差別する心は誰にでも持ちうる。ただ、それを意識しているのと意識していないのでは違う。そのように意識していれば、不用意な差別発言も防げるかもしれませんものね。そして、意識していても、僕らは知らずのうちに誰かを傷つけているのかもしれません。


#4「キミはレア」。この曲は、原爆や死刑制度も連想させる。うみのての曲には、曲に映し出される演者の実存だけではなく、社会の暗部や矛盾を描く社会性もある。そして、結論を歌わず、どんな立場や思想の人も聴ける作りにしている。どのような意見を持つにしても、意識しているのとしていないのでは違う。笹口さんは様々なことを意識せよ、考えろと歌っているのだ。

#5「STRANGE NUMBERZ」。時代を捉えて先駆ける笹口騒音名義の名曲"THE AMABIE"が、うみのてメンバーにより、ミニマルな演奏がカッコ良い"STRANGE NUMBERZ"として生まれ変わった…! 自分も奇数(≒ストレンジナンバー)の一人で、スッパリと割り切れない人間として、鮮やかにヒネくれる音のヒネくれ具合に共振してうなずくばかり。


#6「砂漠です」。シティポップの名曲だ。シティでもポップでもない他のバンドのシティポップと比べると、「砂漠です」には都市的な洗練された感性とポップネスがあり、真のシティポップと呼ぶのにふさわしい。

また、エロもある。「おしゃぶりが上手だね」に続くアダルトな歌詞。うみのての笹口さんにはタブーがない。エロとシティとポップと辛辣さの全てがこの曲には並存している。音楽性は異なるが、まさに字義通りのAOR(アダルトオリエンテッドロック)だ。精神的に成熟していなければ奏でられない音楽だ。


#7「NEW DAWN FADES」。冒頭から鳴るピアノのリフがカッコいい。リズム隊が入ってくる箇所に、突き抜けるような爽快感がある。笹口さんのブログによると、この歌はセカイ系批判の歌だという。セカイ系の曲を作る歌手は歌の主語は大きいけど、歌手でしかないのだから、地球を守るなんてムリだという考えに基づいて作られた曲だ。この曲「NEW DAWN FADES」の主人公も何かしているようで何もしていない、というね。

#8「RE:Designed Android」。ベースが曲を引っ張る序盤も好きだし、曲が醸し出すSF感と近未来感も好きだ。SF感といえば、同じくSFロックバンドとしてうみのてと対バンしたKoochewsen(クウチュウ戦)を思い出す。あのイベントは他にきのこ帝国も出演していて、俺得だったな。


#9「TOKYO NEW TOWER」。こういう抒情的で穏やかな曲は、笹口さんのソングライティングの持ち味の一つだ。

#10「力がほしい」。NEW OLYMPIXのバージョンも良かったけど、うみのて版も素晴らしい。鉄琴の音色が凛として美しい。歌詞に「東京は砂漠か海か」とあるのは、#6「砂漠です」とリンクする。「砂漠です」はだからこそシティポップなのだ。

#11「ビデオテープ(書き替え)」は曲の構想が面白い。2ndアルバム収録曲の「LOVE & PEACE &etc」を曲タイトル通り書き替えしたものだ。「LOVE & PEACE &etc」に比べ、「ビデオテープ」のアレンジには闇の中のほのかな灯りのような明るさが加わっている。

#12「NEW SONG(IN THE NEW WORLD)」。タイトルはうみのての過去の曲である「NEW WAR(IN THE NEW WORLD)」へのセルフオマージュだろう。シン・うみのてのシン曲としての新鮮さを感じ、自分の未知の世界へ連れて行く方舟の歌だった。


最後に、うみのての過去作を振り返り、本作『奇数たちよ!』のディスコグラフィー上の意味や価値を考えてみたい。

うみのて1stアルバム『IN RAINBOW TOKYO』(13')は、鬼才・笹口騒音のソングライティングが冴え渡る一枚だった。そして、バンドメンバーの想像力がそれを形にする。うみのては虹色の想像力で愛と狂気を描き、新しい戦争を始めた。オルタナティブな音像は、天国のように美しく、地獄のように温かい。

うみのて2ndアルバム『21st CENTURY SOUNDTRACK』(15')。冒頭の「恋に至る病」のギターの音響の連なりに、第1期うみのての最後の叫びがこだまする。現在、うみのては第2期として復活しているが、高野京介と笹口騒音の二人のギタリストが個性をぶつけ合う名演を聴けるのは本作で最後だ。

狂気と闇を描いた1stと2ndに比べ、今回のニューアルバムは明るいSF的な魅力に満ちている。しかし、1stと2ndと同じく、重みのある表現になっているのが特徴だ。2ndで描かれた闇夜のどん詰まりを突破し、この3rdでは夜明けの空のような開けた世界を見せてくれる。

NEW SONGをNEW WORLDで演奏するうみのて。第2期メンバーで初めてのアルバムなので、うみのての最新の作品でありつつ、第2期メンバーとしてのデビューアルバムでもある。新加入のギター村井さん&ワタナベさん、ベースあきもとさんが第1期メンバーでは描けなかった音世界を描く。(もちろん、第1期メンバーにしか描けない音世界もあるのだが。)

ソングライティングも演奏も、その音世界が抱えている世界観はオリジナリティと未来への希望に満ちている。コロナ禍により現実が想像を凌駕していく現在、想像によって現実を超えていこうとするSFロックバンドとしての価値は高まるばかりだ。オアシスは枯れ果てて(Oasis)、蜃気楼が遠く揺れるだけ(Blur)の現在の世界で、ホントの意味の新曲をこれからも作り続けてほしい。

Score 10.0/10.0
💫歴史に残すべき名盤です❣️💫

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