ART-SCHOOL「Just Kids.ep」感想&レビュー【相変わらず素晴らしい!】 | とかげ日記

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●相変わらず素晴らしい!

男性ボーカルの4人組(サポート含め)ロックバンド"ART-SCHOOL"、2019年春に休止してから3年余りが経つ今年夏に4年ぶりの音源「Just Kids.ep」をリリース。このepをよーよーの視点からレビューしたいと思います。

生きるレジェンドバンド"ナンバーガール"のベーシストである中尾憲太郎をサポートに迎えていることからも分かるとおり、オルタナティブロックの系譜にあるバンドである。 グランジでオルタナな演奏(特に初期)、歌詞と歌唱の切実なほの暗さ、ポップなメロディの明るさ(特に中期以降)が共存しているハイブリッドなバンドだ。

先週にとかげ日記上でレビューした”上白石萌音”さんの新譜とは、打って変わって音楽的にかけ離れた位置にある作品だと思う。しかし、王道ポップスもオルタナティブロックも良いものは良いのだ。ドラえもんの"のび太くん"が言う「女でも男でも面白いものは面白い」という名台詞は、音楽にも敷衍することができるだろう。


歌声もバックの演奏も豊かさを象徴する上白石さん。対照的にアートスクールの木下理樹さんの歌声には"貧しさ"を感じる。神聖かまってちゃんの"の子"と似た類の貧しさだ。倍音も乏しく、声量的な包容力も無く、だが貧しさゆえの戦場のリアリティを感じる歌声。このヒリヒリする歌声は奇形なナイフのような、心にするりと入り込む中毒性がある。

僕がART-SCHOOLの音楽に出会ったのは僕の大学生の頃、2004年リリースの『SCARLET』というミニアルバムだ(TSUTAYAに置いてあったので興味を持ってレンタルしたのだと思う)。特にその中のアルバムタイトル曲である「スカーレット」を繰り返し聴いていた。

前述したように、倍音に乏しく荒さと貧しさを感じるボーカル。しかし、それゆえに切実感があるという魅力が最大限に活きる「スカーレット」。くるりの1stアルバム『さよならストレンジャー』のレビューで書いた形容と同じように、突き抜けられないことを突き抜けたような名曲だ。

それからしばらくして、次にART-SCHOOLの音楽に触れたのは、2008年に発売されたアジカンのコンピレーションアルバムに収録されていた「あと10秒で」という曲だ。この曲ほど切迫した四つ打ちは音楽シーンで今まで聴いたことがなかった。(ちなみにこのコンピに収録されているアナログフィッシュの「Sayonara 90's」も大名曲なので聴いてほしい。)

そして、現在。ART-SCHOOLの新譜が発売されるというので、過去の彼らの作品を聴いてみた(サブスク万歳!)。上記した二つの曲の他にも佳作や粒ぞろいの良曲ばかりで驚いた。

今までの作品を聴いてみると音楽性は様々だ。ただ、僕のヤワなハートを切り刻む音楽の手触り(尖ったサウンドテクスチャ)は変わっていない。#1「Just Kids」の曲名のように子供らしいイノセンス、そしてイノセンスと裏表の関係にある攻撃性が両存するサウンドの指向性が痛切に僕の思考をかき乱す。

ここで各曲を見ていこう。

#1「Just Kids」。暗いけれども華があって聴きごたえがある。一週間の各曜日にやったことを並べた歌詞は、Weezerの"Tired Of Sex"を彷彿とさせた。



他のバンドだったら、最盛期から時が経つにつれてメロディの強さや演奏の輝きが失われていくものだが、この曲はバンドシーンの最前線で勝負できるメロディと演奏の強度がある。10年代以降、貧しいメロディの曲が多い中でここまでみずみずしく切実なメロディを奏でられるのは、"神聖かまってちゃん"や"うみのて"と並ぶほどだと思う。

#2「レディバード」。調べてみると、曲名の"レディバード"とは"てんとう虫"のことらしい。そして、レディとは聖母マリア様のことも意味するとのこと。確かに、ミドルテンポのリズムと歌詞の言葉や歌いぶりは、落ちることを繰り返しても健気に飛んで生きる虫みたいだし、背後のコーラスや楽器隊の演奏には、神聖な感触があると感じるリスナーもいるだろう。

#3「ミスターロンリー」。音色は違うが、BUMP OF CHICKENの「Stage of the ground」と似たようなイントロで始まる曲。同じくミスターロンリー(寂しがり屋)のリスナーとしては痛切に刺さる曲。

#4「柔らかい君の音」。この柔らかなフィーリングでepが終わっていくのも良い感じじゃないですか。適度な湿り具合も気持ち良い。


さて、短く総括に入ろう。

人の心を救おうとする音楽を目指す彼らの活動姿勢。その音楽性や姿勢はsyrup16gに近いかもしれない。しかし、僕はシロップよりもアートスクールの方が好きだ。アートスクールの音楽が醸す心地よい湿気がたまらない。

「スカーレット」や「あと10秒で」を聴いていた頃(子供)みたいに、鬱々としながらも輝きを放つ青春がこのepにはあった。甘やかで寂しげな彼らの音に新旧リスナーは今、落ちていくし満ちていく…。

Score 8.2/10.0

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