●全てのことをアハハと笑い飛ばせたら
過去作が良すぎると、新譜はどうしても過去作と比べてしまうが、ダニーバグの本作『何もない夏の肖像』は過去作に引けを取らず、あるいは過去作を超えたように思える素晴らしい仕上がりになっている。
アルバム名どおり、コロナ禍で満足の行く活動ができない中で何もないけど(よーよー個人の「何もない」の理由の解釈です)、退屈さに心を燃やす夏を鮮やかなタッチで描いている。ソリッドな一つ一つの音が曲中の最適の場所で輝いている。
それでは、一曲ずつ見ていこう。
#1「ヤング」
「ahaha」という掛け声が象徴する気軽なノリのライフソングの傑作。信じるものがまだあるから、僕らは生きていけるんだよ。白石ゆうきさんによるベースが歌っているようなメロディをつむぐ。オススメの曲です。
#2「わかってたまるか」
彼らの過去作に同名のepがあるが、そのepと同じく、初期衝動をポップにぶちまけている。一曲を貫くのは陽性のバイブス。こんなにまっすぐで勢いのあるロックンロールを聴くのはいつぶりだろう。途中でテンポダウンする構成も面白いし、その後のギターソロもエモーショナルにキめてくれる。
#3「candy honey」
疾走感も浮遊感もあるロックチューン。「さよならチェスナット・キャンディ」「かけがえのない金時計」「まじないペイズリーカーペット」といった素敵な小物たちを歌詞にすることで、曲に奥行きと彩りを与えている。
#4「キミのせいじゃない」
軽快な曲が多い本作の中で重たさを感じる曲。このヘヴィさでしか伝えられない想いをタメの効いたバンドサウンドとボーカル杉本拓真さんの熱唱で吐露している。
#5「今夜ステージで!」
原曲とはサウンドの質感が違うリミックスバージョンだが、『gun shy』のバージョンの方がスッキリ聴こえて好きだな。前曲「キミのせいじゃない」の味付けが濃かったため、このリミックスバージョン曲が最後にくることで、アルバム全体の後味が良くなっている。
5曲とも性格が違い、それぞれが魅力的だ。このバンドの音楽的引き出しは幅広い。毎曲違った風趣で楽しませてくれる。
本作では、歌ものの理想のような"うた"が鳴っている。前回の記事でレビューした、仄暗さの中を差す光明のような"夜に駆ける(バンド名)"の"うた"とは対極で、ダニーバグが奏でるそれは高気圧の中の上昇気流のような"うた"だ。音楽という言葉が"音を楽しむ"から来ていることを思い起こさせてくれる。
次作にも期待です! 太陽のようなロックと台風のようなロールを鳴らしてくれ。
Score 9.5/10.0
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