●日本のトップバンド、世界を駆ける
セカオワの海外名義である"End of the World"が全編英語詞の海外デビューアルバムをリリース。現代アートで著名な村上隆による可愛らしくポップなジャケットが目を引く今作。一枚通して楽しく聴けました。
セカオワとEnd of the Worldでは名前だけではなく音楽性も違っている。セカオワはJ-POPや邦楽ロックの理想を体現したものだとすると、End of the Worldは世界標準のポップスの理想を体現したものだと思う。
ところで、"洋楽"という言葉を用いる時に、その言葉が漠然とし過ぎているという批判がある。しかし、海外のメインストリームの音楽と邦楽の主流は、音楽性で線引きできる事が多い。
J-POPと洋楽の音楽性を比べる際、そこに優劣はない。ただ、目指すものが違う。例えば、シンプルなコード進行でリズムが曲を主導することが多い洋楽に対し、J-POPのコードワークは複雑で技巧を凝らしたものであることが多く、リズムよりもメロディが強いものが好まれる。以上のことは海外の人気バンドのフロントマンなのに、J-POPの魅力に取り憑かれて自分たちでもJ-POPを作ろうとしたスコット&リバースの取り組みをみれば分かるだろう。
日本人で同じく海外進出を目指したアーティストでは、Utada(宇多田ヒカル)やillion(RADWIMPS野田洋次郎)の音源がパッと思い浮かぶ。ただ、Utadaを聴くのなら日本人の耳に馴染みやすい宇多田ヒカル名義の曲を聴くし、同様にillionを聴くのならRADWIMPSを聴きたくなる。
だが、End of the Worldの曲はそれがない。セカオワ名義の音楽と並行して聴きたくなるのだ。それは、メンバー4人が自分たちで作る音楽が邦楽としても洋楽としても聴きどころが分かっているからだと思う。邦楽と洋楽を研究し尽くしたからこそ、それぞれのポップのスィートスポットを彼らは分かっている。
そう、『Chameleon』(カメレオン)というアルバムタイトルが象徴するものは、自身の音楽性を邦楽の色にも洋楽の色にも変えられるが、体となるポップミュージックへの愛の深さは変わらないということなのだ。インドネシアの女性シンガーであるNIKIをゲストボーカルに加えるなど、フィーチャーリングのゲストの選び方も、芸能的ではなく音楽的なものを感じる。
SEKAI NO OWARIがまだ"世界の終わり"名義だった頃のFukaseのボーカルの声質は少年的なイノセンスを感じさせた。しかし、本作に至っては、彼の声は美声と言うにふさわしい大人びた成熟のイノセンスを感じさせる。そして、過去でも現在でもイノセンスを感じさせるFukaseの声の特質も、邦楽的であっても洋楽的であっても変わらないカメレオンの"体"の形を成しているのだと思う。
曲単位でいうと、#7"Rollerskates"の歌詞が夜のロマンチシズムを優しく捉えていてお気に入りだ。
Rollerskating the night away
(一晩中ローラースケートで走る)
We don’t need the light of day
(僕たちに昼明かりはいらない)
Cause I’ve got the starlight & you
(だって僕には星の光と、そして君が居るから)
訳はハクさんのブログ記事(https://note.com/hakutube/n/n58cc2fbdb312)より。
英シンガーソングライターGabrielle Aplin(ガブリエル・アプリン)をゲストに迎えたアルバムラスト曲も良い。"I can’t get over that it’s over"(終わってしまったなんて乗り越えられない)という歌詞をラスト曲で歌う逆説が切実だ。
セカオワ名義の曲のリアレンジである#2"Dropout Boulevard"と#10"Stargazer(Reimagined)"はどちらもセカオワ名義のバージョンよりも素晴らしいかもしれない。#2"Dropout Boulevard"はよりシンプルで洗練されているし、#10"Stargazer(Reimagined)"では、より広大な宇宙をバックに泳ぎ回るようなスケールの大きさを感じることができる。
ガラパゴス的に日本に閉じこもる音楽シーンを尻目に、世界目線の普遍性でセカオワには羽ばたいてほしい。音楽への愛はきっと世界の人々に伝わるだろう。End of the Worldにハマった外国人がセカオワやJ-POPにハマることもあるかもしれない。その時、セカオワの4人は世界の音楽の架け橋になる。
Score 8.0/10.0
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