いきものがかり『WE DO』感想&レビュー【理想的なJ-POP】 | とかげ日記

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●理想的なJ-POP

2019年12月25日発売、いきものがかりの5年ぶりのフルアルバム。勢いが全く衰えていなくて驚いた。

ボーカルの吉岡聖恵はしっかり丁寧に大きな声量で一音一音歌うけれども、聴き手の精神的消費カロリーは少ない。さらっと聴けてしまう。それでいて、メロディと歌詞が胸に残る。ここでは、理想のJ-POPが鳴っている。舞台ものやクラシックものではなく、ポップスの理想的な歌唱なのだ。

メロディも歌詞もアレンジも秀逸。90年代のJ-POPにも負けない強いメロディ。聴き手の心の温度をじわっと上げていく歌詞。カラフルだけどボーカルを決して邪魔しないアレンジ。これらの点も理想のJ-POPの構成要素だ。

一部の人がよく言うような、洋楽の方がJ-POPよりも優れているというのは誤った認識だ。今の世界の音楽のシステムを何十年もかけて作ってきたのが英米の音楽だから、洋楽の方が邦楽よりも優れていると刷り込まれてしまったんだろう。

複雑なコード進行、易しく深い歌詞、強いメロディ…。独自に進化したJ-POPの一つの到達点がいきものがかりと言えるのではないか。

「さよなら青春」、泣けるなぁ。こういう亡くなった人との別れの歌に僕は弱い。僕だけではなく、多くのリスナーもそうでしょう? 次の曲「口笛に変わるまで」を「さよなら青春」へのアンサーソングとして受け取ることもできて、そう思うとますます泣けてくる。

陽の光のような穏やかなコーラスが印象的な三拍子のワルツ「太陽」、歌謡ディスコナンバー「しゃりらりあ」など、直球だけではなく変化球を挟み込んでくる構成も良い。

最後の曲「季節」にはいきものがかりのこれまでの足跡を踏まえて作られた曲だと感じる。曲中の歌詞に出てくる「桜」はいきものがかりのデビュー曲「SAKURA」にかけているのかな。

そして、何といっても、「SING!」が出色の出来。

まず、歌詞が優しい。

「街頭ビジョンで流れるつらいニュース 誰か責める声
 でも信号待ちの親子は 笑っていたよ ちゃんと手をつないで」

「あなたの手は ひとりじゃないんだ
 この世界よ 優しいままでいて」

これらの歌詞に、社会への信頼感を感じ取ることができる。今大人気のバンドKing Gnuが「明日を信じてみませんか/なんて綺麗事を並べたって/無情に回り続ける社会/無駄なもんは切り捨てられるんだ」(「どろん」)と歌うのとは対照的だ。

大勢の人が社会への信頼感を手放し、自己責任で生きるのだとしたら、途端にこの社会は生きにくくなってしまうだろう。社会と他者への信頼感があって初めて温かな安心感を手に入れることができる。社会と人間関係にそのような信頼感を作るためにも、人間の営為は積み上げられているのでしょう?

いきものがかりが「SING!」を歌う時、その優しくキャッチーなメロディに乗せられる温かな言葉で、社会の毒は解毒されているんだ。綺麗事と言われても良い。僕はKing Gnuよりもいきものがかりの方向性を信じたい。

いきものがかりが太陽に照らされた昼の音楽だとするなら、King Gnuは孤独な夜の音楽だろう。太陽よ、2020年代の日本を照らしてくれ。

Score 8.0/10.0

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