ダニーバグ『わかってたまるか』感想&レビュー【極上ギターポップで無敵のロックンロール】 | とかげ日記

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● 極上ギターポップで無敵のロックンロール

これが2020年代のロックの答えだ! ボーカロイドネイティブ以降の複雑怪奇となったロックミュージックを二本のギターの破壊力が打ちのめす。良い歌ものとしての側面を持ちつつ、音楽的にも練られている、心湧き立つアイデアが肝の単純明快なロックンロールが無敵の閃光を解き放つ。

ここに収められているのは、最強のロックンロールだ。そして、ギターポップの美意識も貫かれている。最後の曲「my list」は伴奏だけ聴くとシューゲイザー曲にも聴こえるが、歌メロも合わさることで感動的なロックソングになる。全5曲は全てシングルA面を張れるような華がある曲で、ギターロックバンドでここまで多様な曲ができることに驚かされる。ギターロックにここまでの可能性があったことに、聴いた人はぶちのめされるはずだ。

一音一音がリアルに迫ってくるのだ。僕はバンドのファンになることを「僕のバンドになった」と表現している。自分ごととして捉えられるバンドということね。しかし、ダニーバグのこのEPは一つ一つの音が「僕の音」になるのだ。どの音も言葉も自分ごとに考えられてしまう。音が圧倒的にリアルに響くのだ。もちろん、捨て曲もないし、それどころか、一つのパートとして無駄なところがない。ゴキゲンなロックンロールの一つ一つの音が僕の五指になり四肢になる。

このロックンロールは、生きる活力を僕に与えてくれる。心の内から力がみなぎってくる、この感じ。辛い世の中や日々を歌詞で逡巡しながらも、音楽は凄まじい上昇気流に包まれている。僕の中にもある辛い気持ちが音楽で前向きな気持ちに昇華していく! あるいは、辛い気持ちと共に音楽で踊らさせてくれる!

The Whoのピート・タウンゼントのよく使われる名言『ロックンロールは、別に俺たちを苦悩から解放してもくれないし、逃避させてもくれない。ただ、悩んだまま踊らせるのだ』は、英語の原文を直訳すると、「ロック・ミュージックは人々にとって大切だ、このクレージーな世の中から逃避させてくれるから。そこにある問題から逃げ出さないで直視させてくれるのと同時に、その(問題の)至る所で、ちょっと踊らせてくれる。そいつがロックンロールの何たるか、なのさ」だという。(http://thewho.mods.jp/index/?p=3614)

ダニーバグのロックンロールにまさにこの名言のことを思う。ネガティブなことを歌いつつ、ここまで生きる活力を賦活してくれる音楽を僕は知らない。一瞬の衝動を捉える歌唱、生き生きとしたメロディ、歌を邪魔しない楽器隊(ミキシングされたボーカルの音量は大きいがそれがいい!)、ノリにノっているグルーヴ、これは無敵のロックンロールだ。

「Time is over」と彼らは最後に歌ったが、これから彼らの快進撃が始まる予感がしてならない。クレージーな世の中に、挨拶代わりの一撃をこのEPで喰らわしたダニーバグの次の一手に心から期待している。

『わかってたまるか』というEPのタイトルに、今のロックバンドが失っている反抗精神を垣間見ることができる。彼らの運命がもし凡庸なバンドマンのそれだとしたら、その運命をはねのけるだけの勢いがある。彼らには売れてほしいと心から思う。

各種サブスク媒体で聴けるので、あなたもぜひ! 僕の音楽ブロガー生命をかけてもいい。次元の違う良質なロックンロールがあなたをトリコにするだろう。

Score 9.2/10.0



以下、上記のMV曲「雨の日の少年」の感想を再掲する。

歌として一本筋が通っているギターロックの良曲を聴きたいなら、ダニーバグというバンドをオススメします。

元は4人組バンドだったようですが、このPVを観る限り、今は3ピースバンドなのかな?
骨太の演奏を聴かせてくれます。ギターが感傷的に泣きの音を出すけど、女々しくなく、男らしい男泣きなんだよね。ルートを忠実になぞるベースも、オーソドックスなリズムのドラムも、ボーカルとギターを邪魔しない。曲の箇所によって、ボーカルだったり、ギターだったり、明確に主役があるサウンドだから、曲に浸れやすい。

何よりメロディと歌詞が良いんだよね。ソングライティングが巧みなのだ。「空はブルーな涙色を帯びた」という箇所で少し不安そうに歌うのが切なかったり、サビの箇所が力強かったり、歌唱に様々な気持ちをこめて歌うのがグッとくる。

歌詞の内容はバンドと自分の来し方とこれからについて歌っていると僕は解釈しました。

ネガティブな出来事もたくさんあったのだろう。「雨の日」というタイトルの言葉がそれを象徴している。でも、そんな時も視線は上(天気)を向いている。

今日も雨でも同じ主題のブルースを口ずさむだろうという歌詞に辛くても耐えようとする意思を感じる。なぜなら、ブルースは元はと言えば、黒人奴隷の労働歌であり、自分と他者への励ましのために歌われていたものだったのだから。ブルースのその出自と「さよならFreedom」という歌詞が呼応している。自由がなくなっても自分たちには音楽があるとでも言うかのように。

この歌はすべての孤独と虚しさを抱える人間へ向けられた歌だ。歌詞は暗いが、歌唱と演奏に暗さは感じられない。やるせない気持ちを昇華するかのような歌唱と演奏の熱さに、孤独でも虚しくても「I wanna be back」、必ずここ(ステージ)に帰ってくるよというバンドの意思を感じる。歌詞にある「雨上がりの路地裏でニヤける少年」のようなピュアなハートをこの曲から感じるのだ。雨が上がった時に心から喜ぶような純粋な心を持った少年には、孤独も虚しさもない。選んだ未来(彼らの場合はバンドをやるということ)へ向けて、雨上がりを待つ少年のような澄んだ心で進んでいきたいという彼らの意思を感じる。

まあ、そういう能書きを読むよりも、上のYouTube動画をとにかく観て欲しい。類稀な歌心を持ったギターロックが聴けますよ。サブスクにもあるのでぜひ!

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