一般開業医からみた慢性頭痛 その12 緊張型頭痛 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 私が昭和45年から頭痛診療に携わるようになった頃は、片頭痛はそれほど多くなく緊張型頭痛がほとんどだと思っていました。当時、セデスGという強力な鎮痛薬があったこともあり、大半の医師は患者さんが頭痛を訴えれば、詳細な問診を行うこともなく安易にセデスGを処方されることもあり、セデスGによる薬剤乱用頭痛が多かったように思います。皆さんは、ご存じないかもしれませんが、例えば、歯が痛いときに鎮痛薬を飲まれると思います。この歯が痛い時に”セデスG”を飲みますと、飲んで10分もしないうちに”あたかも、霧が晴れていく”ような感覚で痛みがスーっと消えていく様子が分かるほどの効き目があり、その後の何ともいえない爽快感がありました。まさに麻薬に等しい効き目がありました。これに加えて、オプタリドンという鎮痛薬もありました。
 このように強力な鎮痛薬が手軽に入手できる時代でしたので、薬剤乱用頭痛が極めて多かったことは頷けると思います。こうした薬剤乱用頭痛のもとの頭痛の大半は、緊張型頭痛であったように思っております。私の診断技術の未熟さはさることながら、片頭痛であれば、その特徴的な症状をお聞きすれば、間違うことはなかったように思います。


 そして平成2年以来、診療の場を和歌山県田辺市に移して、一般開業医として、頭痛患者さんを診せて頂くようになってからは、ますます「片頭痛はそれほど多くなく緊張型頭痛がほとんどだ」という実感を強めることになりました。確かに、坂井文彦先生の臨床統計をみても、近畿地区は、日本の他の地区に比べて片頭痛の頻度が少ないようです。
 この理由がどこから来るのかは、当時の疑問でもありました。当地区は梅の生産県です。こうしたことから、梅の栽培、加工に携わる方々が圧倒的に多い地区で診療していることも相俟って、前屈みの姿勢で作業を行う環境に置かれるため「緊張型頭痛」の方々が圧倒的に多いように思っております。これは、昨日の「頭痛とストレートネック」の検討を行った成績からみても明確に示されているように思います。
 そして、若い方々の転勤族の方々もおられることは確かですが、地域柄、こうした梅産業に従事される方々は土地の人が多く、先祖代々、2世代、3世代にわたって継続して診せて頂いている方が圧倒的に多いのも事実です。こうしたなかでの頭痛診療です。
 こうしたなかでの頭痛診療の場面では、片頭痛患者さんは歴然として”頭痛の訴え”には緊張型頭痛の方とは異なるため、それ程、神経を尖らせなくても分かるものです。
 そして、このような紀南地区の総人口もたかが知れたものであり(10万人にも満たない)、頭痛患者数も都市部とは異なっており、極めて少ないのが現実です。こうした診療環境にあることから、自ずと、都市部の頭痛専門医の方々がご覧になられるような患者層とは異なっていることが理解して頂けるかと思います。このため、片頭痛患者さんが来院されようものなら、根掘り葉掘りお聞きするのが慣わしとなっています。そして、電子カルテDynamics を導入していることもあり、過去に受診した当初の”頭痛診断”が、即座に分かるようになっています。このため、この患者さんは、以前は確か”緊張型頭痛”と診断したはずであるのに、今回は”まさしく、片頭痛そのもの”ということが直ちに分かるような診療スタイルになっております。
 こういったことから、子供の頭痛が、大人になってからどのようになっていくのかも、簡単に把握できるようになっています。
 そして、これまでも明らかにしておりますように、慢性頭痛の診断を下す場合は、「国際頭痛分類」に基づいて、神経学的検査法を行った上で、場合によっては頭部CTを追加することもありますが、必ず、頸椎X線検査を行うことを必須としています。

 このようにして作成された「頭痛とストレートネック」の臨床成績でした。


    http://taku1902.jp/sub105.pdf


 このため、年を経るにつれて、ストレートネックの状態がどのように変化してくるのかという様相は”つぶさに”確認してきました。


 繰り返される頭痛がある患者さんの中には,頭痛の性状・程度・随伴症状・増悪寛解因子などが毎回同じパターンで繰り返されると感じる方もおられますが,時期や状況により頭痛のパターンがいくつかあると感じる方も少なくありません.国際頭痛分類第3版β版では,片頭痛と緊張型頭痛はともに一次性頭痛に分類され,別々の疾患として定義されています。片頭痛を定義し,緊張型頭痛は結果として「片頭痛が否定された慢性頭痛」の形となっているため,頭痛発作が繰り返し起こる患者さんのうち、片頭痛の診断基準には当てはまらない頭痛発作があると,緊張型頭痛が併存していると診断されることが多いようです.現在は別々に定義されている片頭痛と緊張型頭痛ですが,中心となる病態生理が同一もしくは共通した部分が多く,程度の差はあれ連続したものと考えれば,「同じ疾患である」と考えるのが妥当と考えております。


 1962年に発表された米国神経学会の頭痛分類特別委員会の分類では,頭痛が15に大別され,「1.片頭痛型血管性頭痛」に現在の片頭痛と群発頭痛が含まれ,「2.筋収縮性頭痛」が現在の緊張型頭痛に相当し,片頭痛と緊張型頭痛の特徴を併せ持つ「3.混合性頭痛」というカテゴリーが並列に分類されていました.        


 その後,1988年に発表された国際頭痛分類では,現在のように片頭痛,緊張型頭痛が独立した項目となり,混合型頭痛の項目が削除され,もしそれぞれの特徴を持ちそれぞれの診断基準を満たす2種類の頭痛がある場合は,混合型頭痛とするのでなく片頭痛・緊張型頭痛と2つの診断名をつけることとなりました.これは,片頭痛と緊張型頭痛は別の病態を持つ疾患であるという考えに基づいています.しかし慢性頭痛患者の症候・因子を調査した複数の研究では,片頭痛と診断された患者と緊張型頭痛と診断された患者の頭痛は,性状・質的の差ではなく,頻度・程度の差であり,その病態は連続した「境界不明瞭な」「連続体」であると結論付けられています。
 片頭痛患者は,頭痛発作が始まったが,それほどひどくならずに済んだという経験をすることがあります.ひどくならない発作は,片頭痛の診断基準を満たさないことが多く,緊張型頭痛と診断せざるを得ませんが,これを上手に説明したのが一次性頭痛(機能性頭痛)一元論です.1回1回の片頭痛発作に注目し,スタートは同じでも、軽く済めば緊張型頭痛,エスカレートしてひどくなれば片頭痛発作になるという考え方です.
 片頭痛患者の多くは,10~20代という人生の早い時期に頭痛発作が起こるようになり,その後数年から数十年にわたり頭痛発作が繰り返されますが,この「頭痛持ち人生」の間に頭痛発作の頻度や程度は変化します.
 片頭痛患者では,若い時期は発作頻度が少ないが重篤な発作が起こり,年齢が上がるとともに頭痛発作の頻度は増えますが程度は軽くなるというパターンをとることが多いようです.加齢とともに片頭痛らしさが減り,緊張型頭痛のような頭痛発作が多くなってくる,いわば「頭痛持ち人生」の間に片頭痛と緊張型頭痛が連続しているような状態です.このような片頭痛は変容性片頭痛と呼ばれ,国際頭痛分類とは別の概念ですが,日常臨床では広く受け入れられています.


 これが、現実の”緊張型頭痛”と”片頭痛”の姿です。


 私の、これまでの慢性頭痛の方々の25年間に渡る観察からは、緊張型頭痛から片頭痛へと移行し、その共通する病態には、頸椎X線検査上のストレートネックが存在するものと考えております。そして、このストレートネックの見られる頻度には、緊張型頭痛では85%、片頭痛では95%と差が見られ、このことは、緊張型頭痛の延長線上に片頭痛があるということを裏付ける成績であると思っております。
 そして、片頭痛でみられる前兆が皮質拡延性抑制(cortical spreading depression ;CSD)により起こるという考えはコンセンサスが得られていると思われますが,ところが、閃輝暗点の前兆を有する片頭痛の方々は全例「体の歪み(ストレートネック)」を呈しており、ストレートネックを是正することによって、この前兆が消失することが確認されます。しかし、頭痛専門医は、ストレートネックそのものを否定されるために、どなたもこのような事実に気がつかれないようで、あくまでも頭蓋内病態の結果と思い込んでおられるようです。


   http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11944521981.html


 このように、一般開業医は緊張型頭痛は、慢性頭痛の起点(スタート)になるものと思っております。


   http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11950570629.html

そして、これに以下の3つの要因が加わることは再三にわたって述べました。

1.「ミトコンドリアを弱らせる環境因子」
2.「脳内セロトニンを低下させる環境因子」
3.「体の歪み(ストレートネック)を起こす環境因子」


 そして、緊張型頭痛の方々で、ストレートネックを示さない15%の場合は、2の「脳内セロトニンを低下させる環境因子」が深く関与しているものと思われます。
 緊張型頭痛の病態や発症機序はいまだ不明な点が多いとされ、末梢性要素と中枢性要素が考えられておりますが、この2.の「脳内セロトニンを低下させる環境因子」3.の「体の歪み(ストレートネック)を起こす環境因子」が関与しているものと考えるべきです。


 ところが、頭痛専門医の間では、このシリーズの「その1」でも明確にしましたように、片頭痛は明確に”定義され”緊張型頭痛は結果として「片頭痛が否定された慢性頭痛」の形となっています。このように、両者は明確に区別すべきものとされます。
 そして、緊張型頭痛は、まさに取るに足らない頭痛として無視されてきました。


 そして、「頭痛専門医がご覧になられる頭痛外来」には、より困っている患者が集まる傾向になるため,日常生活に支障を来しやすい片頭痛患者の割合が増えることも想像できます。おまけに、こうした”ややこしくなった”患者さんばかりが、このような施設に殺到するために、「国際頭痛分類第3版β版」に従った「問診表」を作成され、十分な問診がどの程度行われているかは定かではありません。しかし、こうでもしない限り、殺到する患者さんを効率よく捌けない現実が存在します。施設によっては1日に300人も診察をされるところもあり、このようなところでは、およそ見当がつくはずです。



 こういったことから、頭痛専門医が診ている患者群と一般開業医が診ている患者群には質的に差が存在することになり、ここに議論の噛み合わない根源が存在します。