ラジオ!Yotsugi Busters!! -29ページ目

ウィリー、富士山に登る②

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七合目。絶景やね。

ウィリー、富士山に登る①

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がんばりまーす。

凱旋帰国

私、オハラは孤独、混沌とした人間の欲望、性あらゆる暗闇をくぐり抜け、なんとか31日に無事に帰国することが出来ました。これもファンのみなさんのおかげでございます。

現在、私は日本で世界一おいしい家庭料理を堪能し、温かい家族に囲まれ、ファンキーな仲間たちと飲み交わし両のえくぼが痛みを覚えるまで笑い、楽しみ、イギリスではいくら眠っても疲れが取れなかったのに日本では4時間の睡眠で事足りてしまっています。

毎日が楽しくて仕方ありません。あのHastingsの街をこれっぽちも恋しく思うことがありません。たぶんこれで就職をし忙しい日々にもまれればきっと「ああ、戻りたいな」と思うでしょう。現実逃避ですね。

でも、この日本にいるかぎり僕はこの国の国籍を持ってるから堂々と歩くことができるし、イギリスでは僕はあくまで外国人、街を歩くときイギリスのティーンらが3人ほど向こうから歩いてくるもんならすれ違いざまに「ニーハオマ」と声をかけられ「カンフー、やってみろよ、ホアチャ!!」とおちょくられからかわれる恐怖に怯えることもありません。

モンチョイさんにも同意を頂いていますが、イギリスのティーンは怖いです。何をしでかすかわからないし「ニーハオマ」と絡んできたりとむかつくことが多いです。

…やめよう、もう僕はあの国にはいないんだ。

とにかく、大いにこの国を楽しんでいます。あまりに楽しくて、ひとりじゃないからこのブログの更新が当たり前のように遅れていくことでしょう。

そこはご愛嬌。

ラジオはもうすぐで再開するから待っててね。

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愛のむきだし、欲のむきだし。

以前働いていたバイトの後輩、佛野ジョージと久闊を叙し、飲みに行った時の話。
そのバイトは足かけ3年ほど勤め、女性アイドルグループのメンバーがスキャンダルにより、卒業という形でそのグループを脱退するように、半ば強引に辞めた。
それが5年前、以来会ってなかったので、久しぶりの再会に自然と話は盛り上がる。

「でさぁー、ジョージさ、バイトの忘年会で、人妻とイイ感じになってたじゃん、俺送ってきます!なんか言って鼻息荒くしてさー。あれ笑ったなー。当時ショージ18歳でしょ?不倫するにはまだ早過ぎるっつーの、ぎゃははは」

「あー、あの後ヤったんすけどねー」

飲んでいた焼酎の水割りを吹き出しそうになった。

「ウィリーさんがクビ、じゃなくて卒業してから実は付き合うことになりまして、週に2回は錦糸町のラブホテルにぶっこんでいましたね、えぇ。自分金ないんでいつも人妻にホテル代払ってもらっていましたよー、子供いるのに最低っすよねー最近の人妻は、あははは。って、さっきから気になってんすけど、隣の席の女マジ可愛くないっすか、ぶっこみましょうか!あ、ちょっと腹減ったんで唐揚げ頼んでもいいっすか?」

佛野ジョージはそう言うと、一息にビールを飲み干し「ゲフッ」とげっぷをした。
ちびちびと焼酎なんか飲んでいる自分と違い、あくまで豪快、快男児の振る舞い。

「あ、そうなの。あ、唐揚げね。あ、グラス空いたみたいだけど何か飲みますか?」

精神と肉体のバランスは崩れ、後輩に対して逆に後輩のような口調で尋ねながら。

昔はよくつるんで野良犬のように夜の街を徘徊したものだった。
六本木に踊りに行ったこともある。横浜までドライブしたこともある。
俺たちには金が無いかわりに、面白いことを発見する嗅覚があった。

しかるに何ですか?そのむきだしの欲望は。
それ以降は何を話しても、心ここにあらず、そうそうに退散したのだった。

むきだしの欲望と言えば、竹馬の友であるM氏とT氏のことが思い浮かぶ。
M氏は自らどこかに遊び行こうと提案することはあまりなく、逆にこちらから誘うと快く了承してくれる、言わば「受け身の達人」のような人物なのだが、ことフィリピンパブに関しては自ら率先してリーダーシップを取り、肉食系男児へと逞しい変貌をとげる。

またM氏は一年に一度とてつもない性欲に襲われることがあって、その場合はたとえ友人が同行していても、迷うことなく傾城屋に飛び込み、並べられた女郎の写真をさっと見て、しゅっと決め、突入していく。ただ真っ直ぐに。
しばらく待っていると、濡れた髪の毛をかきながら、「あーよかった、よかった」
やっと人心地がついたのか、尋常のM氏に戻っていた。

T氏の場合、26歳を過ぎて、地元の友人である悪源太助平率いる香具師七人衆に仲間入りし、そこで悪い遊びを徹底的に仕込まれ、今や肉欲の人に成り果てた。
先日も道すがら、「ソクイクイクという店に興味がある」とぶつぶつ呟いていた。
まぁ、M氏とT氏は、ミラクルさんとタイガーさんのことなんだけれども。

人間には体面があり、欲があったとしてもそこはクールに抑えて生きていくもの。
しかし、一概に欲望をむきだして露にすることがカッコ悪いこと、恥ずべきことであると言えないのは、映画『愛のむきだし』を見てしまったからだ。



今まで会う人会う人に面白いと勧めてきたけど、殆どの人は見てくれませんでした。
そうするとこっちも意地になって、映画の素晴らしさを説くのだけれども、だんだんと宗教の勧誘じみてきて、最近では誰からも連絡が来なくなり、このままでは孤独の内に自分の人望の無さを呪いながら死んでいくことになりそうです。そんな映画です。

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卒業

月曜日についに卒業式を迎えた。

場所はBrighton、僕の住んでいる街Hastingsからは電車で一時間。だが、僕のクラスにいる日本人の40代の女性(仮にサチコと呼称)のスウェーデン人の旦那が車で送ってくれるという。これはありがたい。

フォーマルな格好を持っていないから白いYシャツに黒いジーンズで代用。それなりの格好になっている。
朝8時くらいに迎えに来てくれて、そのままBrightonまで1時間、いがいと早く着いた。

ロイヤルパビリオンのすぐ近くにあるドーム、それらしい格好に身を包んだ若者たちがぞろぞろと歩いていた。彼らについていき、レジスターを済ませた。

ドームと言ってもビクトリア式の大きな建物でセレモニーをやる部分がドーム状になってるからそういう名称だ。合同待合室へ通された。そこはまるでダンスホールでたぶん普段はここでパーティをやったり社交ダンスなどをたしなむ場所なのだろう。

僕はそこで念願のガウンを入手した。フクロウ博士のような黒いガウンと博士帽、鏡に映した自分の姿はまるでジェダイの騎士だ、いやダークサイドかな、黒色だし。

ああ、どれほどこの衣装に憧れたことか。僕が初めてこのイギリスにやってきたのは実は高校一年生の時。僕の行っていた私立の学校で夏にサマースクールと題してイギリスへ20日間の旅を開催していた。イギリスのとある大学に20日間だけ滞在し向こうの人達と英語の授業を受ける。これに参加したときにイギリスの大学の宣伝ビデオみたいなのを見せられた。その中で卒業式の様子が写っており、「ハーイ」とみんなで博士帽を宙へ放る。これに僕は憧れていたのだ。

まさか16歳の時に憧れたその姿になれるとは、想像もつかなかった。誰がなんと言おうと僕はイギリスで大学生活4年間を成し遂げ卒業したのだ。日本の大学は頭が悪かったから入試で落ちたが、これで晴れて僕も大卒である。

ホールは人でごった返していて、簡単にサチコさんとはぐれてしまった。僕は知ってる人を探そうとしたがこの群衆の中から探すのは容易ではない、みんな黒い服着てるし。

やることもないので僕は卒業式が執り行なわれるドームへ向かった。ドームはまるでオペラハウスのような観客席が二階まで用意してあってステージが目の前に堂々と構えてあり、そこにマイクと造花で装飾された壇上が用意してあった。

僕の席は前の方だった。そこにはすでにクラスメイトであるJen, Linton, Meihardの三人が待っていた。僕は軽く挨拶をして僕の席へと着く幸運なのかなんなのか僕はど真ん中の席で前から二列目だった。一つ後ろの列にはイラスト科やクラフト科の生徒たちが座っていてあとは知らない人たちばかり。この卒業式は合同卒業式でBrighton周辺の街の卒業者と合同で開催するのだった。

僕の右隣の席が空いていた、たぶんここにはMichaelが座る予定だったのだと思う。でも、結局彼は来なかった。後で知ったのだが来る前か途中で車が故障して立ち往生を食らったらしい。なんたる悲劇だ。隣が空席ってだけで間が持たない、何をしてればいいのだ?すると左隣の50ぐらいのおばちゃんが僕に話しかけてきた「あんたのHastings卒業者?」こんなところから会話がスタートした。彼女はどうやら僕とおなじだいがくのシニアアートのクラスで勉強していたという。

彼女は日本に来たことがあるらしく日本の話題で盛り上がった。日本は素晴らしいところだと彼女はしきりに強調していて、食べ物がおいしいと褒めていた。イギリス人は自分たちで認めてるほどイギリス料理がまずいと言っている。女王様に何を食べさせていたのか疑問に思うくらいだ。

「あなたの英語はとても上手ね」と褒めてくれた。いつだって英語を褒めてもらえるのは嬉しい。ほどなくして卒業式が始まった。僕たちとは違う色のガウンに身を包んだ教職員たちがぞろぞろと歩いて壇上にやってきた、中にはフック船長みたいな格好の人もいた。学校長が壇上に立ちマイクで祝辞を述べる、ハリウッド映画の地球侵略に来たエイリアンを撃退する前の大統領演説のようだ、外人のおじいさんは格好イイ。

次にこの学校を出て有名になったアーティストのスライドショーみたいなのが始まって、ちょっと眠気を催した、前日は余り眠ってないのだった。そしていよいよ生徒が一人ずつ呼ばれて壇上に上がって学校長と握手をして卒業証書をもらう時が来た。どうやら席の後ろの方から順々に舞台袖の方へ周り、舞台上手に入るおばあちゃんが名前を読み上げる仕組みのようだ。

名前が呼ばれて舞台に登場し、真ん中の壇上にいる学校長と固い握手を交わして下手のテーブルで卒業証書をもらう、これだけだ。しかしながら、外国の女のコはすごい。金髪美女たちが呼ばれるたびに舞台へ出てくるが生足ハイヒール、ガウンを着ているとは言えモデルのような歩き方と身のこなし、パリコレだ。学校長と握手をするが片手だけだして「あんがと」みたいな軽い感じで握手をする生徒たちがほとんどだった、さすが礼儀を重んじない国、いかにスマートにやるかがイギリス人の振る舞い。だが中にはちゃんと両手で固い握手をして「Thank you, sir」と言ってる男の子もいれば、まるで社交ダンスを求める貴婦人がするスカートの裾を持って軽くフワっと膝を曲げるなんとも女性らしい挨拶をする女のコもいたりと、そういう人たちには感心した、たいてい海外の生徒または年上の人達である。

さあ僕の番だ、日本人の名前に苦戦しながらもおばちゃんは僕の名を呼び、僕は壇上へと現れた。学校長と握手をし僕はアジア人を代表するようにしっかりと両手で握手をして「Thank you, sir」と言って頭を下げた。そして下手で卒業証書をもらい元の席へ戻った。

これで卒業式はおしまい、学校長の締めの言葉で僕たちは退場した。ホールにはまた人がごった返しており、クラスメイトをさがすのも一苦労。僕はこの日が最後のチャンスと思い、なるべくクラスの人達とツーショット写真を撮ろうと試みた、とくに女のコ。

まず最初に発見したのはイラスト科の若い女のコKirstyだ。彼女はファイヤーレッドの髪の毛が特徴的な女のコ、サバサバした男の子っぽい子だ。「やあ、一緒に写真を撮らない?」と僕が言うと快くOKしてくれた。Kirstyのお母さんにカメラを渡して僕とKirstyは肩を組んでポーズをとった。

ああ、僕は外人の女のコと写真を取るのが大好きだ。彼女たちはごく当たり前にぴったりと寄り添ってツーショットを取らせてくれる。日本の女のコはずいぶんとアグレッシブになったけど未だにそういったシャイな部分は発達してない。日本の女のコもこれぐらい積極的だったらなあ。

僕はKirstyと今後の話しをした。彼女はこのままHastingsに残り自分の服のブランドを小さいながらも立ち上げていこうと考えているらしい。スクリーンプリントでTシャツを刷ったりして少しずつやっていくという。イイ目標だ。

「じゃあ、また会おうね」と言って僕は彼女とわかれた。さあ、次は誰だろう?ちょうどすぐ近くでLintonを発見した。Lintonはクラス壱の伊達男。身長が190cm程ある。「やあ、一緒に写真を撮ろうよ」彼は快くOKしてくれた。Lintonとも同様に肩を組んで写真を取り今後の話しをした。彼はMichaelと一緒にデザインチームを結成する予定だが詳しい未来の予定はないという。まだ若いから大丈夫だろう、なにしろ彼には独特の才能がある。

「じゃあまた、Facebookで連絡を取り合おう」と言って握手を交わした。次に見つけたのは以前ブログでも書いた悲劇の男Meihardだ。

彼はクリスマスホリデーから帰ってくると去年結婚したばかりの奥さんが突然出ていってしまったという。現在、その女は友達と一緒に暮らしているらしいが同性愛の疑いが出てる。何にせよ、何の相談もせず自己完結で勝手に出て行ったことはMeihardの心に大きな傷を作っただろう、その罪は一生をもって償うべきだ。「やあ、一緒に写真をとろうよ」彼は快くOKしてくれた。彼の両親がわざわざフェロー諸島からやってきていた。ああ、この両親は彼の悲劇をどう思ったのだろう?

Meihardは今後サッカーチームのグラフィックデザインを担当する会社でやっていくという。ポーツマスのチームだ、イイ出世じゃないか。「じゃあまた、連絡を取り合おうね」と握手をしてわかれた。

群衆の中にJenを見つけた。彼女はニッコリとした笑みで僕に近づきそっと頬にキスをしてくれた。例え、挨拶でもキスをしてくれるのはいつでも嬉しい。Jenは旦那さんと家族を探しているという、「じゃあ後でね」と言ってわかれたが結局この日、Jenとは写真が撮れなかった。ずっと僕の面倒を見てくれたお姉ちゃん的存在の彼女だったからこれはとても残念だった。

次に見つけたのはイラスト科の高嶺の花、Emmaだ。彼女はウェーブのかかったブロンドの髪と小麦色の健康的な肌がとても魅力的な女のコだ。前回の卒業展示会でやっとまともに話すことが出来たのだが、いかんせんそれは卒業展示会、その時に仲良くなっても遅かった。それでも僕らの間に壁はもうないはず、僕は勇気を振り絞って彼女に声をかけた。

「やあ、一緒に写真をとらない?」彼女はにっこりと微笑んで「もちろんよ」と言ってくれた。彼女の両親が来ていてお父さんに僕のカメラを渡した。僕たちは当たり前のように肩を抱き合ってツーショットをとった。ああ、この瞬間をどれほど待ち望んだことか。彼女はまるでドルフィンが大海原で豪快に爽快にスプラッシュしながら宙返りをするような、そんな爽やかな香りがした。

Emmaとも今後の話をした。彼女はギャップイヤーと称してアジア方面を一人旅するという、僕もオーストラリアに行こうとしたがいろいろと障害が生まれてその計画は頓挫した、それでもやっぱりこっちの子は就職前にギャップイヤーをやるのだな、Benの言うとおりだ。ベトナム方面を中心に回るという。「日本には来ないの?」と僕が言うと「行きたいけど、日本はちょっと高いから難しいわ」と言っていた。

ボーイ、参ったね。

彼女のそのサファイアのように輝く美しい青色の瞳を見つめていると胸に焼きごてを当てられたようなそんな切ない気持ちになる。情熱の煉獄、僕はもうこの子に会えないのだな、もっと早くからこうしていろんな話ができたらどれほどよかったことか。その瞳、唇、若さ、すべてを閉じ込めて日本へともって帰りたいよ。

「あなた、両親は来てないの?」傍らにいたEmmaのお母さんが話しかけてきた。「ええ、日本にいるので」というとお母さんは「あら、かわいそうに今だけ私がお母さんになってあげるわよ」と僕に抱きついてきた。僕は目を疑った、このおばあちゃんに近い魔女みたいな背の小さいのがEmmaのお母さんなのか?いったいどうやって遺伝子を受け継いだのだろう?似ても似つかない。

しばらくこのとりとめのないやりとりの後に、Emmaは信じられないことを言った。
「よかったら、この後私の家族と一緒に食事でもいかない?」

ボーイ、参ったね。

最後の最後にこんなチャンスがやってくるなんて。こんな可愛い子と食事ができるなんて信じられないよ。僕は夢を見てるのかな、この卒業も留学も何もかも誰かが手を「パン」と叩けば一瞬で覚めてしまう夢なんじゃないか?

「ああ、もちろん行くとも…」そう言いかけて僕は言葉に詰まった。そうだ、僕はサチコさんと一緒に来ているのだ。送ってもらって帰りも一緒にという約束だ。「あの…ちょっと待っててね」僕はそう言ってサチコさんを探しに行った。

溢れ返る人の中、僕はやっとの思いでサチコさんを見つけた。サチコさんは「そろそろ行かないと、駐車場の時間がすぎちゃう」と言った。僕は正直迷った。最後のチャンス、今までまともに話もしなかった高嶺の花のEmmaちゃんと一緒に食事ができるチャンス、これを逃せばもう二度と、一生このチャンスは回ってこないだろう。

ああ、神様はなんていじわるなんだろう?もっと他の機会にこれを与えてくれても良かったはずだ。
僕は迷った末、礼儀を通すことを決めた。

女子全員にわかってもらいたい。男は情に熱く、礼儀を通す生き物だということを。

僕はホールに戻ってEmmaちゃんを探した。向こうの方でテーブルに座って家族と談笑しているEmmaちゃんを発見した。Emmaちゃんは僕を見るなり、にこっりと微笑んで手を振ってくれた。

ボーイ、参ったね。

こんなシチュエーションを今までどれほど夢見てきたことか。可愛い子が僕に視線を注いで微笑んでいる。僕はそれに引き寄せられるように近づいていって、座ってる彼女の元に跪いた。「ごめんよ、僕もう行かなきゃいけないんだ」と言うと彼女は残念そうに眉を八の字に曲げ「あら、残念ね。でも連絡を取り合いましょう」と僕と握手をしてくれた。

ボーイ、参ったね。

こんな可愛い子と握手ができるなんて夢にも思わなかったよ。彼女の香り、熱、柔らかさ。全てがこの細い手を伝って僕の中へ入ってくる。「またね」僕は笑ってみせて、その場をさった、本当は心のなかで泣きじゃくれているというのに。

僕はサチコさんと合流し車に乗った。ここ最近はいい天気がつづいていたのに、今日は憂鬱な灰色の空だった。まるで僕の心みたいだ。僕は大きなチャンスを逃した。

こうして僕の4年間の勉強は幕をとじた。
みんなありがとう。また会う日まで。

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愛なんていらねえよ、夏。

過日、惰眠を貪っているところに一通のメールが入った。

「今日、花火大会に行かないか?」

そのメールは古くからの友人であるN氏からのものであり、それに対し自分は即座に「行く。」とだけ返信をした。

夕方、待ち合わせ場所に車で向かうとN氏は、こざっぱりとした、夏、らしい爽やかな服装で、「いっやー、いっやー、暑っいなー」と言いながら車に乗り込んできた。
遅参してしまった非礼を詫びると、さっそく疑問であった、なぜ男ふたりで花火大会に行くのか?その真意は如何なるものか?と訪ねてみた。
ぼくはN氏の説明を聞いて、なるーと思った。

つまりはこういうことだった。
花火大会というものは、元来カップル、ファミリー、もしくは大人数の友人同士で行くものであり、少人数の女性グループは確実に“出会い”を求めにやって来ていると。

「行きの車内はふたりだけど、帰りは四人になってるぜ」
やたらと説得力のあるN氏の発言を受け、我々は「待ってろー浴衣女子!うひょー」と気勢を上げて、甲州街道を調布方面に向けて爆走したのだった。

火の玉は昇天し、上空で一瞬姿を消すと、大輪の花を咲かせた。
民衆は歓声を上げ、ときには拍手を送り、皆の心はひとつになった。
個々の分断が叫ばれる中、皆で感動を分かち合う。これって、めっちゃ素敵やん。
ぼくは焼き鳥を食べるのも忘れ、ノンアルコールビール片手に空を見上げていた。

って、ちがうちがう。
我々の目的は女子をコマすことであって、花火を見て感動に咽び泣くことではない。
ぼくたちは花火から帰る人々の流れに逆らって、目ぼしい浴衣ギャルを探し歩いた。

「コンビニの前が狩り場になっている」
というN氏の情報を頼りにコンビニに向かうと、確かにいた。
それはクヌギの樹液に群がる虫たちのように蝟集していた。

さあ、ハントしたろかいと、ショッキングピンクの浴衣を着た、いかにも夜の蝶といった感じのギャルに近づいて行ったら、短く刈り込んだ金色の頭髪に、ピチピチの黒いテーシャツを着て、そのシャツから出ている太い腕には刺青が描かれており、まさにスズメバチのように凶悪な風貌をした男が脇からにゅっと出てきた。

ギリギリのところだった。君子危うきに近寄らず、とはよく言ったものだ。
しかし、こんなことでめげていたら、夢のカルフォルニアは遠のいていく。
ここはガッツで次に行こうぜということで、人々がたむろしているコンビニのドア付近ではなく、路地に入ったところにある駐輪スペースに座り込んでいる、浴衣を肩までたくしあげたギャルの隣にさりげなく座り、あくまで自然な感じで声をかけた。

「いっやー花火きれいだったね、見た?そりゃ見たか。ところで駅ってどっち?はじめて来たからさ、ちょっと分かんなくなっちゃってさ、あ、そう、あっちね、おっけー、地元の人なの?あ、違うの。まったくもって凄い人の数だねー、ところで何してんの?」
「え…アンパン」

近くで見たらまだ10代だと思われるギャルは、虚ろな目をしてそう答えた。
ギャルの手にはビニール袋が握りしめられており、ときおり顔を袋の中に突っ込み、「あー効いてした、効いてした」、呂律の回らない口元を見たら、歯が溶けていた。

そうこうしていると、ドーンゴロゴロゴロって、これは花火じゃなくて雷の音。
「ヤベー雨降ってきたー」若者たちはいつの間にか散会し、小雨はやがて本降りに。
この世の不幸を背負い込んだような顔をしながら花火会場を後にしたのだった…。

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Sara

今日はLondonに赴いた。

僕が最初の年に一緒に勉強したSaraちゃんに会いに行くためだ。まだ右も左もわからなかったあの頃、クラスにはティーンのイギリス人ばかりがはびこり何語をしゃべってるのかもわからず苦戦していたとき、紅一点、金髪で上半身にタトゥーを施した一人の女のコがいた。それがSaraちゃん。

彼女はポーランド人、でもあまりに流暢なその英語から最初はイギリス人だったと思ったがある時、たまたまSaraちゃんと話す機会があってポーランド人だということが判明した。彼女とまともに話したことは一回くらいしかなかった。彼女はその年を終えるとLondonの学校へ転向しデザインの勉強を続けた。僕もLondonへ一緒に行けば良かったと後悔している。

前回彼女にあったのは去年の夏に日本に帰国する前にLondonのデザインショーに行った時だった。実に二年ぶりの再会で、あのときはおぼつかなかった僕の英語もその時にはましになっていた。僕は勇気を振り絞って彼女に話しかけてみた。学校のこと、デザインのこと。僕の言うことにちゃんと耳を傾けて一つ一つしっかりと応答してくれるSaraちゃんに僕は参ってしまった。「また会おうね」そう言ってハグをしてお別れがしたかったができなかった。

あの時以来実に一年ぶりの再会だ。僕は勇気を振り絞って「もうすぐで日本に永久帰国するからその前にコーヒーでもどう?」とメールをしたのだ。彼女は快くOKしてくれて文面にxを4つも付けてくれた。たまらなく嬉しかった。

彼女は現在デザイン会社でバイトをしながら勉強している。忙しい身なのだ。それでもなんとか予定をあけてくれて彼女の仕事が終わる4時過ぎにLiverpool Streetという駅で待ち合わせになった。4時まではミュージアムでも回っていようと考えていたが、残念なことに寝坊してしまった。

実は昨日は40代の日本人女性(その人も僕と同じ学校でアートを勉強していた)の家でギョーザパーティがあったから参加したのだった。そこで飲んだ激安の白ワインとサイダー(リンゴで作ったビールみたいな酒)しまいにはその女性が友達からもらったというホームメイドの謎のチェコスロバキアの酒をショットで飲んでとんでもないチャンポンをしてしまい、二日酔いに苛まれていたのだ。

驚くほど深く眠ったのだが、明け方5時くらいに一回目が覚めてしまった。この時に見た夢が奇妙奇天烈で帰国したら僕のお兄ちゃんが性転換して女としての人生をスタートしていたというとんでもないストーリーだった。どうりで昔からMALICE MIZERが好きだったりその前はAccessが好きだったりとちょっとそっちよりの趣味を持っていたことを怪しんでいたが、それがまさか本当になってしまったのか?僕は夢なのに、どうしてもその続きが知りたくなってもう一度眠ることにした。

結局その後の夢にお兄ちゃんは現れなかった、帰国したらちょっと本気で話しあってみようと思う。

そんなこんなで二日酔いの重たい頭を引きずったまま丁度4時くらいにLondonについて、そのままバスでLiverpool Streetまで行くことにした。LondonのDouble Deckerの二階に座りながら高い目線で街を悠々と眺める、一種の観光も兼ねていた。土曜日ということもあり馬にまたがった兵隊がいたり、観光客がごった返していたりとLondonのいつもの光景が展開されていた。

「ああ、もう僕は二度とこの国に来ることはないのだろうな」としみじみ思いながらLondonの街を眺めているとなにか熱いものがこみ上げてきそうになった。

ほどなくしてLiverpool Streetの駅についた。ここに来たのは初めてでこの駅は北の方へ続く長距離列車が出ていてとても大きな駅だった。Saraちゃんにメールを打って、しばし駅前でタバコを吹かした。行き交う人々を眺めながら紫煙をくゆらす。イギリスは自由な国だ、というか決まりきったしきたりとか日本人みたいにコソコソと路上を歩かなきゃいけないとかそういうことがない。誰もが好き勝手なファッションに身を包みどうどうと街を闊歩して人の目なんか気にもとめてない。

こういうスタイルが僕は好きだ。日本人は周りの目を気にしすぎて街を歩くのも息苦しく感じる。ここでは階段に腰を下ろそうとギターを弾こうとモニュメントに座ろうと誰も気にしない。

しばらくするとSaraちゃんが現れた。彼女はそのいつもと変わらない太陽のような笑顔で僕に近寄りそのままハグをしてくれた。

ボーイ、参ったね。

ああ、僕はどれほどこうして彼女と抱き合ってぬくもりを感じたかったことか。とても爽やかなそれでいてどこか妖艶なそんな香りが僕の鼻をくすぐった。「元気だった?」彼女は目を細めて僕にそう問いかけた。

僕たちはとりあえずコーヒーでも飲もうと近くのショッピングセンターのオープンカフェに入った。カプチーノを頼んで外のテーブルに座る。「久しぶりね、どうしてた?」僕は今年のコースがきつかったことやこれからのことなどを簡単に話した。ああ、僕は言葉に制限されてる。もっと気のきいたことでも言えればいいのに、彼女を楽しませたい、一秒たりとも退屈させたくないんだ。

彼女はそんな僕のシャイな性格をちゃんとわかってくれて率先していろんな話しをしてくれた。テーブルを挟んで向き合い、僕たちの距離がぐっと近くなる。彼女はその濁った緑色の目で僕をまっすぐに見つめながら話しをした。

ボーイ、参ったね。

ああ、目を合わせるととても不思議な気持ちになる。恥ずかしさからどこを見ていいかわからないよ。僕は女のコとの目の合わせ方も知らないんだ。眼の焦点が合わないよ、今僕はどんな顔をしているのだろうか?彼女の目をじっと見つめているがどうやってまっすぐに目を見ればいいのだ?右の瞳だけを見てるんじゃないか?見つめ合うってこんなに難しいことなのか?ああ、吸い込まれそうだ、骨抜きにされて溶けてしまいそうだ。

ボーイッシュなショートカットの金髪にサーモンピンクな目のラインとルージュ。今はジャケットを羽織ってるからわからないけど彼女の上半身はタトゥーだらけなんだ。両方の鎖骨の下部分にコンドルが互いに向き合ってる絵が施され、右の腕のほうには筋組織がむき出しになってるような怪しげなタトゥー、左腕は確かバラの絵だったか?裾から覗く彼女の白い手首の上の方にもなにやらうさぎの様な絵が施されているのが見えた。話しながらよく見ると彼女のベロの上に銀色の玉がみえた、舌ピアスだ。

彼女はタトゥーを見せるために年中黒のタンクトップを着ている。初めて会ったときはそのタトゥーから近寄りがたい印象をうけるかも知れない。でも彼女はいつもニコニコ笑っていてハキハキとよくしゃべるし誰にでも優しく接してくれるのだ。彼女のおかげで僕はタトゥーをしてる人に偏見を持たないようになったし、人を外見で判断するのは全くもって間違ってるということを知った。

Saraは日本の文化が好きで、とくにキャラクター物が好き。中でもリラックマが大のお気に入りで家にはたくさんのグッズがあるという。「日本のキャラクターってとても可愛いわ。いつか絶対に日本に行くと決めてるの」彼女は赤ちゃんのように微笑んだ。「youtubeで見たんだけど、日本の車のCMでリラックマがでてるやつあったでしょ?あれは最高だったわ、女性の目線にたって自分の車がリラックスできる、安心して運転できるっていうあのアイデアにあのかわいらしさ、言う事ないわね」と言っていた。

ボーイ、参ったね。

君は知ってるのかな?こうしてリラックマを語ってる君の方がずっと可愛いということを。
ああ、時間が本当にもう本当に止まればいいのになあ。

気がつくともう8時を廻っていた。さすがにそろそろ帰らないとまずい。僕とSaraちゃんは一緒に駅まで歩いていった。僕はバス、彼女は電車に乗って行くことに。バス停まで行くとSaraちゃんはもう一度僕にハグをした。

ボーイ、参ったね。

抱きしめ返したこの手を話したくないよ。やっと会えたんだ、二人きりになれたんだ。ずっとこうして僕のそばにいておくれよ、君のその笑顔で僕が誰だかを思い出させておくれ、僕の心を持って行かないで、ああ僕がどれだけその笑顔、瞳、唇、夢、若さ、情熱を必要としていることか。

「じゃあまたね」彼女は去っていった。しばし彼女の背中を見送った。彼女は一度も振り返らなかった。

Double Deckerのバスの二階に座りながら暮れなずむLondonの街を眺めた。

「さようなら」

いささか周りの風景と不釣り合いなLondon Eyeがゆっくりと動いて僕を見送った。


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モンチョイ的小説  第四話

「ただいま」玄関で堅い革靴を脱いでようやく足が開放され、堅いフローリングの床を踏むといつも「はぁ~」と気持よさから息を漏らしてしまう。居間に入ると洋子はテレビでくだらない深夜のお笑い番組を見ながら一人で缶ビールを飲んでいた。「ん、おかえり」柿ピーを頬張りながら僕に目線を向けた。

会社では化粧ばっちりで社内でも一位二位を争うほどの美人受付嬢として人気があるらしいが、家ではいつもスッピンでKissみたいに頭のてっぺんで前髪を結わいてその広いおでこを光らせている。女性社員の中では「洋子姉」なんて呼ばれて慕われてるみたいだけど、スッピンの洋子はまるで高校一年生みたいな童顔だ。

「先に寝てても良かったのに」僕がそう言いながらネクタイを外して着替を始めた。「飲んでるって聞いたらなんか私も飲みたくなっちゃったの」洋子は視線をテレビに向けたままそっけなく答えた。僕はとりあえず風呂場へ行き一日の疲れをシャワーで洗い流した、基本的に僕は酒を飲んだときは湯船には浸からない。2年前にそれで風呂場で倒れてしまったことがあったからだ、もう若くない。

スウェットパンツとTシャツに着替えて頭をタオルで拭きながら冷蔵庫を開けた。真っ先に目に飛び込んできたのはアサヒスーパードライのロング缶、僕はなんだかまだ呑み足りない気がしてスーパードライを選んで洋子の隣のクッションに腰をおろして栓を開けた。カラカラに乾いていた喉に注ぎ込まれるキンキンに冷えたスーパードライは格別だった。

洋子はこっちを振り向いて「飲んできたんじゃないの?」と聞いた。「呑み足りなくてさ」というと「ふーん」と言った感じで特に気にもせず洋子はまたテレビに向き直った。テレビではあまり名前の聞かないお笑いコンビが東京のおいしいお店を面白おかしく紹介する様が展開されていて、洋子は節々で「アハハ、うける」と言ってほくそ笑んでいた。

洋子とは入社してすぐに付き合い始めた。洋子は秋田の方の出身でなんでも実家の誰もが大酒飲みらしく洋子も見事にその遺伝子をついで生まれ育ったみたいで、会社の飲み会では誰よりも飲むし、いくら飲んでも酔っ払うことがない。入社して最初の忘年会で洋子は普段の2倍のペースで酒を飲んでさすがの洋子も初ダウンを喫した。その時みんなヘベレケになるまで飲んでしまい、結局僕が酔っ払い全員の面倒をみることになった。タクシーを手配したり、肩を担いで車に乗っけたり。僕は酒を呑むのは好きだけどみんなより飲むのが遅いから酔っ払う心配がない、自慢じゃないが飲んで一度も醜態を晒したことがない。

その時、洋子を介護してあげたのも僕だった。僕は洋子に惚れていたのでこのときに淡い期待をいだいていたのだ。洋子はなんとか歩ける意識を取り戻して二人で一緒に駅まで歩いていった。その道中で僕はなんであんなに酔っ払うまで飲んだのかと聞いたら、実はクリスマスに彼氏にふられたという愚痴を延々こぼして僕はそれにうんうん頷く役を演じていた。誰もいない夜の公園のベンチでしばらく彼女の話を聞いてやり、なんかいいムードになって…その後はだいたいわかるでしょ?

まあそんなこんなでもう8年もずっと関係が続いてる。もうあの最初の頃みたいな新鮮さは無く、来年には結婚をしようということになってる。僕はあまり結婚願望がなくてあまり将来のことを考える賢い頭もないものだから去年の冬に洋子が痺れを切らしてプロポーズをしてきた。僕は何も考えずに「うん」と言った。

僕はいつもこんな感じ、流されるままを受け入れて生きてきた。たぶんこれからもそうなのかもしれないけど、なんか最近そんな自分の生き方に疑問を感じてきた。僕はいったい何がしたいのだろうか?僕の人生ってなんなんだろう?

「辛っ、めっちゃ辛いやん?」テレビでは韓国料理を紹介していて激辛の料理をほおばってはわざとらしいリアクションで笑いをとってる芸人が映し出されていた。「あはは」洋子は抑揚のない笑いを浮かべてそれを見ていた。僕はなんとも思わなかった、最近テレビを見ても会社に行っても、正直新しい音楽を聞いてもなんとも思わないようになってしまった。別に今の生活に満足行ってないわけじゃない、こんな経済が不安定な時代で仕事もあってしかもそれなりに可愛い彼女がいて来年には結婚、蓄えもそれなりにあるしこんな状況で不満を言ったらハローワークで頑張ってる人たちに申し訳ないが、正直に言うと僕の生活は乾いてる。

「この人かわいいよね、32歳なのに信じられないよ」洋子はUVカットの化粧のCMに出ている水着のアイドルを見て遠い目をして呟いた。洋子はまだギリギリ29歳で来年晴れて30を迎える。洋子は自分が30になるのがとても嫌でいつもそのことを愚痴ってる。30前には絶対に結婚したいという願望から僕にプロポーズをしたのだった。彼女の今後のプランによると子供は二人、できればお姉ちゃんと弟というのが理想だそうな。将来的に一戸建てを買ってガーデニングを趣味に子供がある程度成長したらフラダンス教室にでも通うのが今後の自分の楽しみだという。

なんだか周りの人間みんなが羨ましく思える、洋子ですらも。みんなそれなりの考えやプランが人生にはあってそれを楽しみに生きてる。僕にはそれがない、というか考えられない。いったいどうやって自分の未来を想像するのか?来年の自分ですら想像できないのに。でも、たぶん例え来年自分はこうしたいと考えても僕は結局何もしないのが関の山のような気がする。

「よし、寝ようかな」洋子はテレビを消してビールを一気に飲み干した。「先に寝るね」洋子はさっさと空き缶とピーナッツだけが残った柿ピーの袋をまとめてキッチンに持って行くとあくびをしながら「おやすみ~」と言って部屋に入っていった。

「…」かすかにベランダからエアコンのファンの音が聞こえるだけで一気に静まりかえってしまった。僕は一人でまだ半分以上もあるアサヒスーパードライをぐいっと飲んだ。

「僕はいったい何がしたいのだろう?」誰もいない部屋で僕は静かに呟いた。

続く


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留学費用の計算

前回までのあらすじ

「お母さんがお金出してるんだもんね、そんな風に感じ無いか?」モミジの発言に怒り心頭のオハラ、語学学校の不当な金の請求を訴えるモミジと60歳の高齢女性(ここでは清子と呼称)の訴訟問題は続く、オハラは愛する母校を守るために留学に関する費用を独自に調べるのであった…


ということで、あの発言に怒り心頭の僕は釈然としないままの自分に見切りをつけ、重い腰をあげて自分なりにイギリスの留学費用は平均でどれくらいかかるのかを調べてみることに。

するとあるまとめサイトではイギリスへ6ヶ月の留学は平均して1,052,700円くらいかかるということが判明した。この料金に含まれるのは「授業料、ホストファミリー宿泊費(食事付き)、学校登録料、そして旅行ガイド」という要は全体のパックのこと。

一方で僕のいた語学学校は6ヶ月の留学は1,136,900円かかることが判明。ただし、これには上記のものプラス、空港から自分の通う学校の街までの送迎費(タクシーでロンドンの空港からHastingsの街まで)27,600円、留学手数料60,000円が含まれている。

つまりこの二つを差し引くと1,136,900-(27,600+60,000)=1,049,300円となる。そうすると平均の留学費用より若干安い計算になる。

このまとめサイトに書いてあったことは「ここに記されてるのはあくまで目安、留学斡旋業者に頼む場合はここから手数料やら諸経費が加算されます」と書いてある。

さらに留学斡旋業者は法律に基づく決まりや認可を必要としないため、ピンからキリまで存在し個人で営業してるダメダメなところもあれば、実績のある会社がちゃんと営業しているところも存在する。手数料等がすこぶる安いところにはそれなりの理由があり、高いところにはちゃんとした保証や安心できる実績がある。

まあ簡単にいうと日本国内の留学ビジネスにおいて僕のいた語学学校は手数料を入れなければ至って平均の値段であるということ。どこも同じぐらいの値段をとってるはずと言った僕の意見は正しい。

しかし、今回モミジや清子さんが訴えているのは「他の国籍の生徒に比べて、この学校は日本人から多くのお金を取っている」と主張している。

おそらく、彼女たちはこの語学学校(ECCとかNOVAとかの大手駅前英会話学校)は日本だけじゃなく世界中に存在し、みんながみんなその学校の同じ留学斡旋業者を通して留学に来ていて、その中でなぜか日本人だけがぼったくられてると主張していると僕は推測する。

そんなアホな…

この学校は日本に多く存在し、イギリスやアメリカ、はてはベトナムにまでコネクションがありその現地にその名前を掲げた語学学校(Hastings校、London校など)があるからそう勘違いするのも無理はない。

しかしながら、留学を申請するまでのプロセスはその国々によって違う。たとえば予め英語がある程度理解できるスウェーデンとかヨーロッパ圏内の国の生徒は中には留学斡旋業者など頼まず、自分でネットなどを利用して英語の文献を読み、その学校に直接申込む人もいる。そういう場合もちろん手数料などは一切かからないから安く上がって当然。スウェーデンなんて大学でいい成績を残せばタダで留学させてくれる制度まで整っているのだ。

そうでなくとも、韓国とかアジアの生徒だって中には格安の斡旋業者に頼んだ人もいれば、中には大学で勉強中でその大学を通して安く学校を手配してくれたという場合もあるだろう。

各国の留学斡旋業者は本当にピンからキリまで存在する。日本では高いお金を払わなければいい学校を紹介してくれない、保険とかのサポートが整ってないというデメリットもあるだろうがそれは仕方ない、彼らはこれから一年も半年も地球の裏側で言語の通じない場所で暮らすのだ、何が起こるかわからない。

まあつまり、その60歳の高齢の清子さんは高齢ということもあるし留学も初めてということで誰もがみんな同じ系列の留学斡旋業者を通じて留学に来ていると勘違いしているのが結論ではないかと。

留学斡旋業者もビジネスでやってるから、高いお金を請求するのは当たり前。それが嫌なら必死で英語辞書を片手にアプリケーションフォームを取り寄せ国際電話で片言の英語で自分で取り付けるがいい。

クレーマーってこういう勘違いから生まれるのだな。今回この勘違いから発生した騒動での非人道的な発言をしたモミジには是非とも反省していただきたい。


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君が僕を知ってる

今日はあいにくの雨、だがこうして室内でくすぶっていても始まらない。
僕はタウンへ出かけた。

いつものようにブラブラしたあと、いつものカフェに入る。僕はもうここでの常連さんだ。店員みんなが僕を「また来た」みたいな表情で見る。

カプチーノを持っていつもの席に座る。なんか今日は子供が多い、みんなティーンネイジャーだ。

最近は夏なのでフランスやスペインからティーンの子供たちが修学旅行みたいにしてやってきている。毎日タウンで意味不明な言語を大声で喋りながら歩くティーンネイジャーたちを目撃する。

僕の隣の席に二人組のブロンドの女のコが座った。二人ともミニスカのナマ足魅惑のマーメイドだった。すらっとした背丈で胸もある程度膨らんでいてやけに色っぽい。でも、年齢は12,3歳くらいだと思う。最近ヨーロッパの子供の年齢を判別できるようになってきた。みんなオトナっぽいからそれが難しい。

妙に色っぽくて目線を時々チラチラ彼女たちのナマ足へ注ぐ。するとどうやら他の団体の男の子が一人すすっとやってきてその子たちと会話をし始めた。その男の子は小さくてどうみても10歳か9歳そこらでまだ声変わりもして無かった。この女のコ二人に好意を抱いたのか、互いに多国籍同士、拙い英語でジェスチャーを付けて必死に男は話しをしていた。

なんか、末おそろしいやつだ。この年でもうナンパな外人根性がむき出しになってる。将来はプレイボーイになるだろう、もしこの子の身長があと50cm程伸びたのならばね。

10分ほど話し込むと男の子は「そろそろいかないと」と言って、ごくごく自然に片方の彼女に近づいて抱き合い両頬に「チュ、チュ」とキスをし、もう一人の女のコの方にも近寄っていき自然に「チュ、チュ」とやって「Bye」とスマートに行ってしまった。唖然だ、ヨーロッパのガキは進んでる、っていうかこれが自然なんだよなあいつらにとっては。もしかしたら日本人がスキンシップを重んじなさ過ぎなのかもしれない。

未だにヨーロッパの人に「日本ではキスやハグの習慣がない、恋人同士だけだ」と言って驚愕する人がたくさんいる。特に高齢の人。「でも親とはするでしょ?」と必ず聞いてくるが「いや、親ともしない」というと最高に不思議がる。「なんでしないの?」と聞かれるが答えに困る、逆に「なんでおまえらは誰かれ構わずそんなにキスやハグができるんだ?」と問いたい。

隣の女のコたちもいなくなりそろそろ閉店だった。イギリスでは店は5時30分までしかやってない。あとはパブやレストランがせいぜい10時くらいまで。日本って便利だな。

またもや空虚な一日を過ごしてしまった気がする。このあいだのこと以来、モミジとは絶交したし、もうコーヒーを飲む相手もいない。ああ、この街で、いやこの国でもっとも孤独なのは僕かも知れない。

どうして4年もいるのに街で知ってる人間に会わないのだろう?あと9日で僕は日本に帰国するが、僕の居場所はこの国にない。やはり自分は究極的に日本人なのだなということを再確認した。

家に帰ると、夕飯の支度を始めた。僕の家は僕以外全員が中国人の40代くらいのおばちゃんで全員ナース。彼女たちは遠く中国からポンドを稼ぐために出稼ぎしている。全員既婚者だが国に旦那と子供を残してきていて会えるのは年にほんの1ヶ月程度。酷な話だ。

今日も中国語を大声で発しながら何かしゃべっている。アラビア語と中国語はなぜかいつも喧嘩してるみたいに聞こえる。というか一階から3階にいる人間に話しかけようとする彼女たちがすごい。他の部屋にいる人達の迷惑を考えないのか?

日本人だけがヒソヒソと小さい声で話す人種だと思う。それを快く思わない人種もいるが、僕らにとっては普通なことだ。昔から日本の家屋は壁が薄いし障子なんて窓ガラスの代わりに紙をはめ込んでるものだからちょっとでも大声を出すとすぐ隣に聞こえてしまう。こういったところから互いを思いやる気持ちを培ったのだと思う。

キッチンに降りたら、幸い誰もおらず、今のうちに夕飯をすませようと僕はずっと使う機会の無かった炊き込みご飯の元を使ってご飯を炊き、余っていた野菜でお味噌汁と簡単な野菜炒めを作った。これで十分、僕は誰とも食事を共にしないのだ。

ちゃっちゃと作り上げテーブルに腰をおろしてがっついた。炊き込みご飯は上出来、当たり前か、インスタントみたいなものだし。しばらく、一人で食べてると誰かがキッチンに降りてきた。

禿げ上がったおっさんとその子供だった。実は5日ほど前からこの家に住むナースの一人が夫と子供をはるばる中国から呼び寄せ、7週間ほどの予定でこの家に滞在しているのだった。おっさんがご飯の用意を始めたが僕は気にもとめずご飯をほおばっていた。

一緒にいた子供が僕に近づいてきた。8歳くらいの小さな女のコで活発そうな浅黒の肌に男の子みたいなショートカットの髪型に白いフリルのついたワンピースを着て、いつもお気に入りのリスのぬいぐるみを抱いていた。

この子は最初は警戒してるように僕に一歩も近づかなかったが3日ほど前から急に気を許して僕に近寄ってきてくれるようになった。僕は積極的に子供と遊ぼうとは思わないけど、子供と戯れるのは好きだ。

彼女は僕に近づいてそのお気に入りのリスのぬいぐるみを「かわいいでしょ?」と言わんばかりに見せては笑っていた。僕もにっこりと微笑み返して彼女の遊戯に付き合った。

彼女はあたりまえだが英語がしゃべれない、僕が簡単な言葉を言ってもやはり理解してくれない。彼女は何か中国語で時々しゃべったりするが僕にはもちろんわからない。

彼女はリスのぬいぐるみのフワフワのしっぽを自分の頬にあてて目を細めてクスクスと笑った。子供は柔らかくてフワフワなものが好きだ。僕も小さい頃はキティちゃんのタオルが無いと眠れない子だった。今思えばあれは別にキティちゃんじゃなくても柔らかいタオル生地なら何でも良かった気がする。ただあの柔らかい生地に頬ずりしたり唇に当てたりするのがたまらなく快感だったのだ。今でも僕はその癖が抜けてなくて布団を深々と被って唇に当てる癖がある。

彼女は「すくうぃる」と言ってそのぬいぐるみを僕に差し出した。英語でリスは「squirrel」発音がすこぶる難しい。彼女はそのフサフサで気持ちのいいしっぽの部分を僕の頬に当てて微笑んだ。

若さ…

僕は胸の奥底から込み上げてくる温かさを感じた。彼女は英語がしゃべれない、でもこうして僕と何とかしてコミュニケーションをとろうと僕にぴったりとくっついていてくれる。


彼女はリスを僕の頭の上にポンと乗せて笑った。ああ、ずっと孤独にいた僕にこの微笑は涙すら誘った。これほどまでに近づいてくれた人は他にいただろうか?こんな小さな体から発せられる36.5度のぬくもりは僕の凍てついた心を溶かした。

人と触れ合うことがこれほどまでに温かいだなんて。ヨーロッパの人間はこれを知ってるからみんなでハグをし合い、キスをし合うのだろうか?

ふれあい、抱きしめあう、これほどまでに人を笑顔にし、優しさでいっぱいな気持ちにさせるものがあったなんて僕は知らなかった。よこしまな気持ち、非情な心など微塵も考えられない。こうしてふれあいを大切にすれば凶悪な犯罪なんてあっという間になくなるさ。

なんだか優しい気持ちで一杯だ。こんな時はこの曲を聞こう。
RCサクセションで「君が僕を知ってる」。

http://www.youtube.com/watch?v=BUzXOpGa0TA