浴室 -15ページ目

わたしがお金で買った幸せ。
わたしがお金で買った幸せで、わたしが満足することも、誰かを幸せにできることも好きだ。

わたしが消耗されていく、感覚が好きだ。
わたしがどんどん、わたしでなくなって、わたしは新たに作り替えられる。
わたしは、消耗されて、作り替えられるわたしを買われている。

わたしをお金で買うあの人たちを、わたしは幸せにできているのだろうか。



―――何でこんなことをしているのだろうと、ふと思う時がある。
平穏な時間に身を任せている時、穏やかな笑顔に囲まれている時。
なぜだかとても、悲しくなる。
ああ、わたしを一体何だと思っているのだろう。

疑われているのか、いないのか。
ただ目の前の光景が、とても悲しい。



わたし。
わたしは間違いなくわたし。
では、わたしは誰?







わたしはわたしである為にわたしを犠牲にして、わたしを得る。






わたしという人物を、わたしがカスタマイズするのだ。

何食わぬ顔をしてホテルに向かう。
隠しきれない好奇の眼差しが向けられている気がするけれども、いつものことだから別にどうも思わない。

わたし、この人のこと好きなのかな?
それとも、嫌いな人と肌を重ねることはとても辛いことだから、どうせなら楽しんだほうが良いというような自己防衛反応が働いているのかな?

バスローブを着たまま浴室から出て、ベッドに座る。満足気な顔をして近付いてくる男に、なすがままに覆いかぶさられれば、目の前が暗くなって唇を塞がれる。
呼吸を合わせている内に、あっという間に裸にされて絡み合うように抱きつけば、もうそこは、立派なモノ。

「ねぇ‥?」

甘ったれた声で腕を導かれたら、申し訳ない程度に触れて。
凄い、だか、熱い、だか、大きい、だか、そんなことをそっと恥ずかしげに囁けば、もう我慢出来ないとばかりにわたしを組み敷き、そのままインサート‥‥と思えば興奮我慢できずに、太股に一瞬擦れて敢えなく射精。





















なんてことは流石に無いのだけれども、もしそうなったらどうやって慰めようとか、この人こんなにしながらもよくわたしの体触ったり舐めたり頑張れるなあと感心してしまう。

けれど、わたし、この人のセックス嫌いじゃない。
なんていうのか、肌が合うのかな。

良い感じに酔いが回るように計算して飲んでいるから、飲むのは仕事だから。
大体どの位飲めばどの位酔うかも判る。
だから何も考えないように集中して。
「イイ」所を嬲られれば、勿論わたしもイイ声で鳴くだろうし、背中に爪を立てたりカワイイこともする。
わたしの体はとめどなく濡れて。




「‥大好‥きっ‥‥‥」




―――わたしの何が好き?体が好き?わたしのナカが好き?わたしの顔が好き?

何?何が大好き?

聞きたい気持ちを抑えながら、相手の頭を押さえ込んだ。

どこか冷静な頭の中。

絶頂を迎えた相手の体をそっと抱き締めた。
荒い息を整える相手。

黙って目をつぶっていると、なんだか泣きたくなった。










―――わたしの体は余すことなく埋められているはずなのに、なんでこんなに
















虚しいのかな?

「あちら立てればこちらが立たぬ」
とはよく言ったもので、そんな日々を過ごす今日この頃。

夜のお仕事が上手くまわるようになれば、もう一つの仕事、愛人の仕事が上手くまわらなくなってくる。


「――どうしたの?眠いの?」
ふいに出た欠伸を慌てて手で隠したその時を、運悪く見られて、何か当たり障りのない言葉でやんわりと謝罪をしたような気がする。

――あれ、今わたし何しているんだっけ?

急に自分の置かれた立場を認識し始める、目の前でゆらゆらと生まれては消える煙草の煙がわたしの視界を曇らせては、思考を鈍らせる。

――店だとこんなんじゃないんだよなあ。

1人心の中で呟いては見るが、声に出しては勿論言えず。
わたしのスポンサーさんは、わたしの夜の顔を知らない。
どちらのキャリアが長いかというと愛人職で、スポンサーさんと出会ったのは、まあ、色々なご縁で。
スポンサーさんは夜の社会にはあまり興味がないみたいで、店で会ったことは一度もない、今のところは‥だけれども。

店で学んだことは沢山ある、けれど、そのテクニックを全て使えばおかしいと思われるだろうし、そもそも愛人なんて「偽」恋人のようなものだろうから、あまりにも接客接客してはいけない気がする。

さじ加減が難しい。

仕事なのかプライベートなのかの境界線が曖昧になって、どのわたしを出せば良いのか判らなくなる。

つまり、テクニックの副作用。

最高のわたし―――シャンデリア、薄暗い部屋、煌びやかな衣装、絵画、、争うように競って美しさを見せびらかす女たち、その全てが出せる最高のわたしを誘う。
――そんな魅力が、あの場所にはある。


「――ねえ、どうしたの?」

目の前にはスポンサーさんの顔、怪訝そうにわたしを見つめている。

煙草も短くなっている、吸わずに、ただ燃えていった残骸の灰が、灰皿の中で蓄まっていた。




反省していたはずなのに―――




―――――悪循環。