土師清二:砂絵呪縛 前篇(1927)朝日新聞社
土師清二:砂絵呪縛 前篇 表紙 小田富彌
土師清二の出世作『砂絵呪縛しばり』は東西朝日新聞紙上において昭和2年6月10日から12月31日まで連載された。上掲の朝日新聞社版「前篇」を入手したのは15年ほども前で、当時「後篇」を探したが、どうやら後篇は出版されなかったようだ。その後篇は平凡社社長下中弥三郎の懇望によって、前後編併せて『現代大衆文学全集』に収録され、これは25万部も売れた。
マキノ(月形龍之介)、東亜(雲井龍之介)、日活(阿部五郎)、阪妻プロ(阪東妻三郎)の四社競映で上映され話題となり特に阪妻プロは、本来の主人公である勝浦孫之丞を主役にせず、虚無的脇役の森尾重四郎を中心につくり注目された(尾崎秀樹:大衆文学の歴史 講談社)。
砂絵呪縛 前篇 見開き 小田富彌 挿絵
というわけで、気になりつつも「前篇」を読んだきりで結末を知らない。連載当時の昭和2年は大正バブルが弾け、関東大震災の後遺症もあり景気が悪化、大学を卒業しても就職できないといった暗い世相にあって、ニヒルな森尾重四郎に注目が集まったようだ。丹下左膳も昭和2年の登場です。
勝浦孫之丞
口絵&扉:富田千秋 挿絵
舞台は五代将軍綱吉の後継をめぐる抗争を発端とした伝奇もので、先述の森尾重四郎や、妖艶な〝生面師〟黒阿弥の娘お酉の人物造形がすばらしい。白土三平『カムイ外伝』の一編に登場する(純情秘めた)女博打者お酉は、この『砂絵呪縛』をオマージュしているのではないか。
土師はじ清二は貧困家庭の出身で苦労して作家になった。戦前は主に伝奇ものを書いたが、どこか清冽な気を感じさせる作家で戦後は昭和30年代まで活躍した。彼の作品で『鏡屋おかく捕物帖 (1954)同光社』は軽い内容ながら楽しく読んだ記憶がある。
砂絵呪縛 前篇 小田富彌 装釘