菱山修三編集の續仏蘭西詩集 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

 レベッカのLPジャッケットから

 

 菱山修三編集:續仏蘭西詩集(1943)青磁社

 

月一回の定期古書店巡りで歌人菱山修三が編集した「續仏蘭西詩集」を見つけた。別に珍しい古書というわけではなく、しかも裸本ということで500円で手に入れた。中に高村光太郎が(大正末に)訳したエミイル・ヹルハラン(エミール・ヴェルハーレン)「午後の時」の後半が掲載されていたので読んでみたくなった。夫婦愛を詠ったもので「永遠の愛」あるいは「変わらぬ愛」「高めあう愛」を信じ実践しようとしていた時代の詩でもある。

 

 あなたの力は限りなく清純微妙のもの

 心を火にして、あらゆる陰翳の道を横切り

 黎明のあらゆる光をあなたの童心に

 濃霧やくらやみの中でもなくさずに来た

 

あたかも「智恵子抄」の一節のようだが、光太郎と智恵子はこうした「愛の理想」を実現すべく蹉跌し破滅していった(のではないか)と以前書いた。そして、推敲して(われらが赤字お荷物)情報紙今月号で「智恵子抄の変容」を掲載した。こうした読み解きの変容は1980年代に上野千鶴子らが行ったフェミニズムの〝脱構築〟によって、女性の目線での文化&文学評論が活発になったことの現時点での成果と見ていいだろう。

 

 

さて戦時中の出版で洋紙の輸入も途絶えたところから本文は和紙が使われているが、そのせいで変色もなく戦後80年を過ぎたというのにきれいなままである。愛書家・和紙研究家etc.の寿岳文章などは戦時中の(洋紙不足による)和紙使用は「戦争の唯一の功徳」などと語っていた。活字の選択やレイアウトもモダンで気にいっている。

 

上製本表紙はマーブル(墨流し)仕様でフランスの造本を模して凝っている。惜しむらくは(以前の持ち主が煙草吸いだったのか)背が茶変してしまっている。いたしかたなくオリジナルカバーを制作、表紙部分には蔵書票代わりに手彩色画を貼り込んだ。