菱山修三「定本 懸崖・荒地」 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
みずすまし亭通信-菱山修三
菱山修三:定本 懸崖・荒地:青磁社

菱山修三は明治42年新宿の生れ、堀口大學とも親交があり、やはりヴァレリーの翻訳なども遺している。昭和6年22歳の時に処女詩集「懸崖」を発表、当本は「荒地」など以後の作品も合わせ定本として昭和17年に発行されたもの。現在の目線で読むと重苦しいものが多く気軽に詠じがたいけど、詩人は若く病身だったせいか、ほんとに生真面目に訥々と自身を切りひらいていく。散文詩がほとんどで、ヴァレリーに私淑したせいでしょうかね。ヤフオクの安価本、本日のお届けです。

ひとは読書に草臥れる。暗い文字のなかに休む海。ひとよ、私のなかにも暮れかかる海が在る(物の本)、などとありますが、私のようにミステリ本の濫読でくたびれているわけではね、なさそうです。「私はさかんにひどい咳をする。この咳のなかで、またフラスコがしきりに割れる。硝子の破片を噛みながら、折れ釘のようになりながら、私は、ひたすら夜明けを待つ(霜)」20代でこうした文章は辛いけど、あるいは若いゆえ紡ぎえる暗さかもしれません。

 空青く澄みにけるかな川原の水白きより青く澄みきる

こうした清浄な心に触れると、汚れちまった(私の)哀しみなどものの数にははいりませぬ。さて、若いころ音楽会で聴いたアンドリュー・デイビス指揮ストヴィンスキー「春の祭典」をふと思いだし YouTube 検索をしてみましたありません。替わりに、パールマンやギル・シャハムによるヴァイオリン協奏曲など聞き流して過ごしました。演奏スタイルは暑苦しいかもしれませんが、若い頃のチョン・キョン=ファのなんとも瑞々しい映像がありましたので、お好きな人はご覧下さい。


Kyung Wha Chung plays Stravinsky violin concerto