野口武彦「文化記号としての文体」の佐藤春夫 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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スポーツ写真コンテスト:2012年ポスター

大賞1点賞金5万円、市民限定参加の激戦企画ですが毎年盛り上がります。使用写真は昨年の入選作品、Y君今年はどうです? さて、野口武彦「文化記号としての文体(昭62)ペリカン社」江戸文学&歴史を得意とする野口が、近代文学のテキストを俎上にあげて時代を読み解く。一編の幻想文学である佐藤春夫「西班牙犬の家(大5)」が発表された大正時代の文学は「白樺」と三田文学」、第二次の「新思潮」によって主導された。

理想主義と浪漫主義との対立構造としてとらえられる両者はメダルの表裏のごとくで、教養主義(当時の言葉では神経衰弱の時代)という大正の精神史をかたちづくる。「西班牙犬の家」の翌年に書かれた「病める薔薇→田園の憂鬱」の主人公は田園において息が詰まる。すでに自然に癒されることはなく、国木田独歩「武蔵野」の汎神論的な自然とは異質である。明治時代の自然主義文学が追い求めた“自我”は、大正時代には亀裂が生じ、その裂け目から白昼夢の世界が垣間見えはじめる。