金森敦子「旅の石工―丹波佐吉の生涯」 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
.-後姿
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前のことになるが地元神社に奉納された狛犬を撮り歩いた。もともと、石工など職人の仕事は無署名なものがほとんどで、立派な狛犬を見つけても誰が刻んだものかほとんど判らない。地方史家にとっても興味の対象なのか時おり記事が散見できるが、石工たちの全貌はとなるとはっきりしない。割とまとまった資料をあげると、戦前、福島で活躍した石工小林和平の作品を集めた鐸木能光「神の鑿:寅吉・和平の世界」には心躍る。また、金森敦子「旅の石工―丹波佐吉の生涯」は、作者の感情移入が強すぎるきらいがあるものの石工の生態をよくとらえている。

丹波佐吉は石を穿ち刻みだした尺八で見事に演奏ができたそうで、当時の斉明天皇の上覧を得たために記録(や記憶)に残っていた。ちょっと研究本のようで一般向きではないが、木村博ほかによる「信州石工 出羽路旅稼ぎ記」は届いたばかりだが、信州高遠石工たちが出羽路づたいに旅仕事をした様子が調査されている。長岡の隣市柏崎の神社に伊那石工の狛犬があったから、そうした職人が流れてきたものと思われる。職人の旅仕事は“西行”と呼ばれ、江戸時代後期以後、稼ぎと技術の向上をめざして盛になっていく。

$.-神の鑿
鐸木能光:神の鑿 寅吉・和平の世界(個人によるネット販売)