谷崎潤一郎「春琴抄」漆塗り翻刻本 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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谷崎潤一郎:春琴抄(近代文学館)翻刻本
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谷崎潤一郎:春琴抄(近代文学館)翻刻本 扉

1933年発行の谷崎潤一郎「春琴抄」は漆塗り表紙で造本され、それも朱と黒色の2種類という凝った造りだった。これを再現すべく近代文学館では、ボール紙をカンナで面取りし、漆をかけ、トノコで下地塗りをし、サンドペーパーで研ぐ。この漆かけ以下の工程を三度も繰り返し、ようやく本塗りとなる。そうしないと、漆の艶がでないのだそうだ(紀田順一郎:古書街を歩く)。掲載の本がその翻刻本で、わずか200円で販売されていた。

凝った造りで当時は1円90銭で発売されたが、他の本と比べてもそれほど高額というわけではない。つまり、漆職人の手間賃がそれほど安かったということになる。実際、当時本を時おりネットで見かけるが、背クロスがお粗末で、紙帙も粗悪なボール紙が使ってある。急ぎの賃仕事らしく、漆のハゲが目立つのはいたしかたないところだろう。どちらかといえば朱の漆本の数が少ないようだが、黒漆はわりと見かけるので、古本屋などで気がついたらご覧になってください。