電気設備工事における、ケーブルころがし、配管配線(電線管)、ケーブルラックの使い分けについて解説します。また、それらによく使われるCVケーブルやVVFケーブル、PF管、ねじなし電線管(E管)、厚鋼電線管(G管)の特徴、耐候性、耐食性についてもあわせて解説したいと思います。


結論から書くと、基本的な使い分けは以下のようになります。



高圧幹線 
配管で保護

低圧幹線 
配管で保護が理想だが、ケーブルの量が多いときはコスト面考慮しケーブルラックとする

分岐配線 
幹線に比べると重要度が低いため、天井があるところは基本天井ころがしとする。
露出となる場所や密閉された空間など後から入れないところは配管を使用する。


※弱電も上記に準ずる




では、ここから、具体例を見て見ましょう。



高圧幹線

高圧幹線は、屋外でも屋内の天井裏でも、いずれにせよ配管での保護が基本となり、配管長が30mを超える場合は途中にプルボックスやジョイントボックスを設けることとなっています。また、プルボックスやジョイントボックスを設ける部分で、天井裏などの隠蔽場所の場合、点検口などを設け、ボックスにあとからアクセスできるようにしておく必要があります。
特に公共工事の場合、国土交通省の建築設備設計基準の電路の項に、「高圧幹線は原則として電線管で保護する」と記載があります。
高圧幹線は、何かあると全停電に繋がってしまうため、重要度はかなり高いです。そのため、配管で保護をして、電線を守るということが必要になります。
また、配管が保護が原則ですが、低圧幹線と共用してケーブルラック敷設とする例もあります。

高圧ケーブルのわかりやすい解説は下記の記事をご覧ください。(※EEタイプに限らず高圧ケーブル全般をわかりやすく解説しています)

低圧幹線

低圧幹線も高圧幹線同様、配管での保護が基本となり、配管長が30mを超える場合は途中にプルボックスやジョイントボックスを設けることとなっています。
しかし、ケーブルの量が多い場合、経済性を考慮し、ケーブルラックを使用します。
ケーブルの量が多い場合に配管を使用すると、配管が何本も必要となり、非常に高コストとなってしまいます。
ケーブルラックの注意点としては、配管と比べれば保護性は落ちることと、天井を貼った後のケーブルのやり替えは配管配線と比べるとやりづらいということです。配管と違いネズミにかじられる被害も発生してしまいます。
また、余談ですが、ケーブルラックを屋外で使用する際はできる限りカバーの設置が推奨されます。屋外でカバーを付けない場合、雨水や日射等の影響があるため、ケーブルの寿命が短くなってしまいます。
なお、ケーブルラックは耐震施工されてないばかりに、地震等で脱落してしまう事故が多発しています。
ケーブルラックの耐震施工における部材の選定においては日本建築センターの「建築設備耐震設計・施工指針」を熟読するか、ネグロス電工のHPに、上記指針にのっとった耐震架台選定ツールがあるので、それを利用するとよいかと思われす。
↑ケーブルラックの耐震架台
↑ネグロス電工HPより 選定ツール



続いて、天井ころがしについてですが、天井ころがしはダメではないのですが、支持材を使用して支持する場合、本数が多いと逆に大変ですし、幹線を数本まとめてしまうと、熱により許容電流が低下するため、ケーブルラックを採用し、ケーブル1本1本を重ならないように横に並べるのが良いでしょう。
また、ケーブルラックやころがしの場合は、建築工事の吹付の断熱材などがケーブルに付着してしまう事例が多く見られますが、その場合、許容電流が低下するので、養生をするか事前に建築と工程を調整しましょう。

弱電の幹線も低圧幹線と同様の考えとなりますが、強電と違い熱の面の考慮は必要なくなります。

↑ケーブルラック(左)と天井ころがし(右)


余談ですが、上記の写真を見ると分かる通り、天井ころがしといいつつも、実際には、天井に直接、ケーブルを転がしているわけではなく、スラブにインサートを打って、ハンガータイプの支持材でケーブルを支持をしているのが見えるかと思います。
天井に転がさないのは主に以下の理由があります。

(1)天井材に負荷をかけないため(改修ならともかく、新築の段階でやると建築から嫌がられます)
(2)新築だと、天井ボードを貼る前にケーブルを敷設するので、ケーブルが直接転がしてあるとボードを貼るときに邪魔

天井裏って人が入っても大丈夫なくらい頑丈なのでは?と思うかもしれませんが、どの部分でも頑丈なわけではありません。スラブから全ねじで吊ってる野縁受けは乗っても大丈夫ですが、クリップで止められてる野縁は耐荷重が引いため、乗ると落下してしまいます。
つまり、耐荷重の低い野縁とボードに負荷をあまりかけないためにケーブルはスラブよりボルト吊りを行います。

よって、天井ボードを貼ってしまった後ならやむを得ず直接転がしますが、貼る前なら、基本、スラブから支持をとるようにするのが通例です。
(天井を落とさない電気だけの改修の際は、直接天井材にころがすことになる場合が多いです。)

図面上で天井ころがしとなっていても、特に新築の場合や改修でも建築の天井を落とす場合には、基本的には本当の意味でのころがしではなく、単に配管を使用しなくていいよという意味の場合が多く、スラブから支持材でケーブルを支持して、直接天井材にはケーブルを転がさない場合が多いです。

ここで、注意ですが、内線規程における「ころがし」とはケーブルを支持せずに本当に天井にころがすことなので、支持材で支持して配線をすることは、内線規程第3165-2条「ケーブルの支持」に当たり、2m起きの支持が必要となります。
写真の例でも2m起きにハンガータイプの支持材を使用しています。

ちなみに、国交省の建築設備設計基準だと、電路の項に、「低圧幹線は原則として電線管、金属ダクトまたはケーブルラックで保護」との記載があります。



分岐配線

天井裏であれば、ころがし配線が基本です。
分岐回路まで配管で保護していたら、費用の面で大変ですし、もし配管で保護しないことによりダメージを受けたとしても、駄目になるのはその回路だけなので、影響も比較的少ないです。
幹線ほど熱の影響を心配する必要はありませんが、まとめることにより許容電流は低減するため、6-7本以内としたほうが良いでしょう。
よく分電盤への立ち下げなど、ケーブルが密集するところで、かなりの本数のケーブルをまとめて立ち下げている例がありますが、あれも、焼損まではいかないにしろ、熱の影響で絶縁体の劣化の原因になり、ケーブルの寿命を縮める可能性がありますので、避けたほうがいいでしょう。


点検口があれば後から天井裏に入ったり、点検口から顔を覗かして、ケーブルのやり替えができます。
(とはいえ実際に点検口から天井裏に入って作業することは安全面からも避けられるため、あまり行われません)

逆に言えば、点検口がほとんどない場合や、密閉されていて、あとから天井裏にアクセスすることが困難な場合は、配管配線とした方が望ましいでしょう。


ここで、配管のメリットを整理したいと思います。
先程、幹線について、配管を使用することで、ケーブルを保護できるということを述べましたが、配管にはもう一つ、ケーブルの更新がしやすいというメリットがあります。

配管を敷設しておけば、後からケーブルの更新が必要になったときでも、配管によりルートが確保されているので、ケーブルを抜いたり新規に入れたりする際に、他の建築材や設備にぶつかったりひっかかったりということがないので障害がなく容易に更新ができます。
逆にケーブルころがしやケーブルラックでは、場所によってはあとからの更新が困難です。

例えば点検口がほとんどない天井の天井裏にケーブルラックを使用して配線したところで、あとからそれらのケーブルを更新するのは、天井を外さない限りできなくなってしまいます。

また、壁内のケーブルの更新についても、天井裏から壁内を通ってうまくコンセントがある位置にケーブルを立ち下げるなんていうことは、壁が貼ってある状態では配管がない限り、かなり難しいでしょう。

↑壁内の配管(壁ボードの設置前)

そのため、壁内については、天井裏のように点検口からアクセスできるなどということもないため、少なくとも公共工事に関しては必ず配管を敷設します。
国交省の建築設備設計基準でも「保守点検が困難な隠蔽部分の配線は合成樹脂管、金属管等により保護する」となっています。

配管はコンクリートに打ち込んで使用される例も多いです。コンクリート内に直接ケーブルを打ち込んでしまったら、更新性は皆無になってしまいます。
注意点としては、建築設備設計基準より、コンクリート躯体の場合、埋設する配管の外形はコンクリート躯体の厚さの1/4以下として、ねじなし電線管についてはE31以下、PF管については22以下ということです。

屋上スラブについては結露防止や防水の関係上、配管の打ち込みは避けられる傾向にあります。




また、天井裏に関しては、点検口がほとんどなくても、ころがしとしてしまう場合も多いですが、下記の写真のような軽鉄にビス止めしてる石膏ボードなら、そこだけを外せば、ケーブルの更新ができるという考えもあります。

なお、露出場所については、美観の観点や、いたずらされるリスクやケーブルの損傷防止のため配管で保護が望ましいです。またケーブルが露出の場合、屋内であっても窓からの日光などにより、紫外線などの影響を受けることがあるため、ケーブルの寿命が短くなる可能性があります。

屋外に関しては、特にVVFケーブルは紫外線に弱く屋内での使用を前提としたケーブルなので、屋外で使用する場合は必ず配管に入れましょう。(もちろん配管に入れたからといって完全に屋内と同様の条件というわけではありません。CVケーブルは許容温度が90℃なのに対してVVFケーブルの許容温度が60℃であるため、夏場などに配管が長時間直射日光にさらされ、管内の温度が60℃近くになると、ケーブル外装の劣化が促進されることはありえます。 ※EM-EEFは75℃である点に注意)

通常、屋外での使用が想定されるケーブルは、シースに耐候性をもたせる薬品(カーボンブラック)が添加されているため黒色になっています。IV線やVVFは外被が黒色ではないため、屋外で使用すると黒色のCVケーブルと比べると早く寿命を迎えてしまう可能性があります。


CVケーブルは屋外でも使用可能ですが、それでもケーブルである以上、紫外線にあたると劣化しやすいと言われていますので、CVケーブルであっても配管で保護するのが基本です。
(CVケーブルとVVFケーブルを比較した際に、VVFケーブルは安かろう悪かろうというイメージを持たれる方も多いのですが、紫外線の影響がある場所ならその可能性はありますが、室内など紫外線の影響がない場所では、CVケーブルとVVFケーブルで寿命が異なるという技術的見解はございません。)

弱電用のケーブルだと屋内用と屋外用で分かれてるものもあります。以前、LANケーブルを敷設する際に、屋外であっても電線管の中なら、屋内用でも良いのではないかとLANケーブルのメーカーに確認したことがあるのですが、メーカーからは「屋外で使用の場合は場所を問わず屋外用を使用してください」との回答をもらいました。屋外用は紫外線と水、どちらにも耐性のある仕様となっているとのことでした。


ちなみに建築設備設計基準では、「露出場所に使用する配管は金属管、金属線ぴ配線にすること」となっています。

理由としては、金属管のほうが強度が強いことや、屋外使用の場合、PF管に比べ紫外線に強いことがあげられます。そのため、PF管を屋外で使用する場合、耐候性(紫外線)に強くした2層構造(PF-D)と呼ばれるタイプのものを採用することを推奨します。2層構造にしたとしても、やはり金属管と比べると耐候性は劣ると言われ、屋外使用を避ける業者もいますが、屋外での使用例も多いことや、金属管であっても合成樹脂管であってもある程度の年数でいづれ更新は必要になるため、どこまで気にするかという話にもなるかと思います。
(PF管は耐候性は劣るものの、耐食性の観点で見れば金属管に勝りますので塩害地域ではむしろ金属管より優位になることがあります。しかしPF管の強度は金属管に比べると圧倒的に劣ります。切断される可能性もあるので、監視カメラ用などセキュリティ性の高い配線を入れるのを避ける方もいます。)

また、金属管についても、屋外使用の場合、E管(ねじなし電線管)で問題ないのですが、できればG管(厚鋼電線管)を使用することが推奨されています。

JISにより、金属管は亜鉛めっきなどを施すこととなっており、耐食性も考慮されていますが、溶融亜鉛めっきには、亜鉛皮膜がはげて鉄が一部露出しても、周囲の亜鉛が露出部を保護する犠牲防食という作用があります。これにより耐食性を保つことができる仕組みなので、犠牲防食が続いている間は良いのですが、長年屋外で使用し、亜鉛層が犠牲防食によりなくなってしまった場合、急速に錆びつきます。
そのため、G管のほうが配管の厚みがあるので、亜鉛層がなくなり、腐食劣化が進行しても耐えられる年数は長いと言われています。それでも心配な場合は、亜鉛の付着量が多い製品を選定するか、SUS管にするかを検討することになります。鋼製の管に溶融亜鉛を施したG管と比べ、素材そのものに耐食性があるSUS管のほうが、耐食性は強くなります。
その他、防水の観点で見ると、E管はねじなしの構造なので、接続部から水が入りやすく、屋外での使用ではその点が懸念されています。



以上になります。








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