ここでは、高圧CV(EM-CE)ケーブルのEEタイプについて、構造から仕組み、理論までわかりやすく解説していきます。

EEタイプのCV(EM-CE)ケーブルは、令和3年度に改訂された公共建築設備設計基準にて、構内線路に使用する高圧ケーブルはEM-CE(EEタイプ)にするよう記載されたことにより、近年、公共工事を中心に採用が増えています。

CVケーブルのEEタイプを簡潔に説明すると「内部半導電層、絶縁体、外部半導電層の3層を同時に押し出した構造のケーブルであり、同時押出なので水トリーに強い」
という感じになりますが、これでは全く意味がわからないと思います。


そもそも半導電層って何? ケーブルの押出ってなに? 3層同時に押し出すってどういうこと? 水トリーってなに? なんで3層同時に押し出すと水トリーに強いの? なんでEEタイプのCVケーブルは低圧にはなくて高圧だけなの? EEタイプは水トリーに強いから水没してるところで使用しても問題ない? 
など、EEタイプのCVケーブルについて様々な疑問点が湧いてくると思います。

本記事ではこれらの疑問について、わかりやすく解説したいと思います。



高圧のCVケーブルの構造

↑高圧ケーブルの断面図

EEタイプのCVケーブルは低圧には存在せず、高圧のCVケーブルのみとなります。なぜ高圧のみなのかは後ほど解説いたします。

まず、EEタイプについて理解する前に、そもそも高圧のCVケーブルがどんな構造をしているかを説明したいと思います。

上の高圧ケーブルの断面図をご覧ください。
これは高圧のCVケーブルの断面図になり、EEタイプに限らず、ETタイプなど他の高圧CVケーブルでも同じような構成となります。もちろんEM-CEケーブルであっても構成は同じです。

内側から順に「導体→内部半導電層→絶縁体→外部半導電層→遮蔽銅テープ、押さえテープ→シース」
という構成になっています。


低圧のケーブルなら、導体→絶縁体→シースで終わりなので、高圧のCVケーブルは低圧と比べだいぶ多くの層があることがわかるかと思います。



まず、高圧ケーブルのみに登場する内部半導電層、外部半導電層、銅テープについて説明します。


内部半導電層
内部半導電層を理解するには電磁気学の知識が必要となります。絶縁体があるのに、わざわざ内部半導電層って必要なのと思われる方も多いと思いますが、内部半導電層は、導体の凸部を平滑化したり、導体と絶縁体の間の隙間を緩和するために設けます。
導体に凸部があると、そこに電界が集中してしまいます。低圧なら問題になりませんが、高圧だと、電圧が高いので、そこから部分放電により絶縁破壊が生じてしまう可能性もあります。
内部半導電層を設けることにより導体の凸部を平滑化することが可能となります。


上記の写真は低圧のCVケーブルとなります。低圧のため、内部半導電層がありません。そのため、導体に多くの凸部があることがわかるかと思います。また、絶縁体との間の隙間もかなりあることがわかるかと思います。このように内部半導電層がないと、導体の凸部がそのままとなり、隙間も多い状態になります。

ちなみに、なぜ導体の凸部に電解が集中するかは、「避雷針の仕組み」を調べてみてください。避雷針も先が尖っていることにより、雷を誘導、つまり電界が集中していますよね。

また、導体の凸部だけでなく、導体と絶縁体の隙間についても電界が集中します。

内部半導電層は、導体と絶縁体の隙間を埋める役割も兼ねています。

隙間はただの空気であり、通称ボイドや気泡と呼ばれます。導体と違い空気は絶縁性が高いため、そこに電界が集中する理由は避雷針の原理とは異なります。ボイドに電界が集中するのを理解するには、コンデンサの原理を知っておく必要があります。



上記の絵は、気泡部分の静電容量をC1、絶縁体の静電容量をC2とした場合の例となります。

CVケーブルの場合、絶縁体は架橋ポリエチレンになるので、比誘電率は2.3、隙間部分に関しては、空気なので、比誘電率は1となります。つまり、隙間部分の誘電率が絶縁体に比べ小さくなっています。



上記の絵を参考に、ボイド部分の電圧V1を静電容量C1とC2の比で算出すると以下のようになります。

V1=V×C2/(C1+C2)

この計算式がわからない場合は、「コンデンサの分圧式」などと検索してみてください。


ボイドの性質からC1の誘電率がC2に比べて小さいと考えると、(少し無理がありますが) V1≒V となります。
つまり、電源電圧Vがボイド部分の電圧V1とほぼほぼ等しくなります。
(今回の場合はV1≒Vというのは少し無理がありますが、実際には絶縁体が下にも、並列にも接続されているので、よりV1≒Vに近くなります)

よって、極端に誘電率の低い部分があると、そこに電界が集中するということになります。


電界が集中する条件をまとめると以下のようになります。

(1)導体の先端が尖っていると電界が集中する(避雷針の原理)
(2)ボイド(気泡)があると電界が集中する。(コンデンサの原理)

どっちも電界が集中することには変わりありませんが、原理は異なるということになります。

つまり、内部半導電層を理解するには、導体の凸部に電界が集中する原理と、ボイドに電界が集中する原理のふたつの知識が必要となり、電磁気学を理解してない人にとってみれば、かなり高度な内容となっています。

なので、結論だけまとめると、半導電層により、導体の凸部を緩和し、また導体と絶縁体の間の隙間(ボイド)が生じるのを防止してくれるということになります。



外部半導電層
内部半導電層は導体の凸部対策でしたが、外部半導電層は銅テープの凸部対策となります。


遮蔽銅テープ
遮蔽銅テープの役割は様々ですが、一番のメインは感電防止となります。銅テープの端部を接地することにより、遮蔽銅テープが大地と同電位となり、感電防止となります。
受変電設備のZCTを介して接地します。


EEタイプでよく言われる3層同時押出の3層とは、内部半導電層、絶縁体、外部半導電層のこととなります。



ケーブルにおける押出とはなにか?

ケーブルでは押出という用語がよく使われます。
ケーブルにおける押出とは、銅線に絶縁体を被せる工程の一つです。
銅線に高温で柔らかくした絶縁体を押出機で注入して、最後に冷やして絶縁体を固めるという流れになります。

EEタイプのCVケーブルは3層同時押出となっています。この3層同時押出というのがイメージが沸かないという人が多いので、3層を同時に押し出す様子を下に絵で示したいと思います。

3層同時押出というのは、言葉の通り、3層を同時に押し出すということになります。

具体的に言うと、高温で柔らかくした内部半導電層、絶縁体、外部半導電層をそれぞれの押出機から3層クロスヘッドと呼ばれる機械を介して同時に注入して、最後に3層一緒に冷却して固めるという手法を取っています。

同時に押し出すとはいえ、クロスヘッドのおかげで3層の順番がぐちゃぐちゃに混ざることがないようになっています。


↑イメージ図



6600VのCVケーブルにはTTタイプ、ETタイプ、EEタイプの3種類がありますが、これらは、どこまで押出成形をしているかの違いとなります。

TTタイプだと、絶縁体だけ押し出しで、内部半導電層、外部半導電層はテープ巻き

ETタイプだと内部半導電層を押し出しして、絶縁体も押し出しして、外部半導電層はテープ巻き

EEタイプだと、3層全て押出となります。


押出成形のほうが、絶縁界面の平滑性と接着性が良くなっています。


これが電工さん泣かせで、端末処理のときにテープ巻きとは違い、なかなか外部半導電層が剥がれず、けっこう大変だったりします。
そのため専用の工具が発売されていたりもします。逆に言えば剥がれにくいからこそ水トリーに強いということになります。


ちなみにTはテープ、E は押出(Extrude)という意味になります。


また、今まではETタイプが主流でしたが、近年、水トリーが騒がれるようになったことと、公共工事においては国交省の建築設備設計基準にて、EM-CE(EEタイプ)が指定されていることもあり、EEタイプの採用が主流になっています。

(勘違いする人も多いのですが、EEタイプは最近登場したものではありません。昔から製品としてはあり、電力会社や鉄道会社など限られた場所での採用が一般的でした。)

なお、水トリーは内部半導電層側から発生しやすいため、内部半導電層のみを押出としたETタイプでも、水トリーの対策としてはかなり有効ではあります。





なぜ水トリーに強い? そもそも水トリーとは何か?

水トリー現象とは、高圧ケーブルの絶縁体などに水と電界の相互作用で小さな亀裂が発生し樹枝(tree)状に成長する現象で、最終的には絶縁破壊を起こす要因になります。

なぜ、相互作用などと曖昧で誤魔化したような説明になるのかというと実は水トリー現状は、様々な論文がでてますが、未だ研究中で原理は解明されていないためです。
ネットで検索してみるとわかりますが、はっきりとした説明が書かれてるものはないかと思われます。

そのため、原理の詳細な説明はできないのですが、
「(1)水分  (2)電界の集中 (3)半導電層の突起や絶縁体中のボイド の3要因すべてが重なった場合に発生することがある絶縁破壊の要因となる現象」と認識いただければオッケーです。

3要素のうち一つでも欠けていたら水トリーは発生しません。

水はシースの外傷がなくても、分子の隙間を水分子が通り抜けて内部に水が透過するため、シースに外傷がないからといってボイド部分に水が入りこまないということにはなりません。短期間の浸水なら問題ないですが、ケーブルが水に長い間浸かっていればそのような可能性も生じます。

また、(2)の電界の集中と(3)の半導電層の突起や絶縁体中のボイド についてですが、水トリーは半導電層のわずかな突起物が起点となり発生します。導体の凸部の緩和と導体と絶縁体の隙間を埋めるために設置している半導電層ですが、半導電層に導電性テープを用いた場合は、押出方式と比較した場合、テープの毛ば立ちなどが原因になり、電界が集中しやすくなります。

テープの毛羽立ち程度で発生する電界のみなら、絶縁破壊を起こすような大事故につながることはないのですが、これに水の要素が加わると3要素の全てが揃い水トリー現象が起こる可能性があるため、話は別となります。


内部半導電層が起点となる水トリーは内導水トリー、外部半導電層が起点となる水トリーは外導水トリーと呼ばれています。


これらは、3層同時押し出しにより、平滑化が図れるため、EEタイプのCVケーブルを採用することにより対策を図ることが可能となります。


一方でボウタイ状水トリーと呼ばれるものは、EEタイプのCVケーブルを使用しても対策はできません。

これは絶縁体中の気泡(ボイド)や異物を起点として発生します。

そのためボウタイ状水トリーを防ぐためには、絶縁体を成形する際に気泡や異物が混入しないようにすることが必要です。

これはEEタイプCVケーブルを採用したところで、製造中の絶縁体中の異物が原因なので、今まで通り起こることになります。




EEタイプなら、水に浸かっていても問題ない?


ハンドボール内に水が溜まり、ケーブルが水に浸かっているという状況はよくあると思います。
EEタイプのCVケーブルならこのような状況にも対応可能なのでしょうか?
これは、よくある間違いなのですが、水トリーに強いケーブルだからといって、水に浸かっていていいというわけではありません。絶縁劣化は水トリーだけではありません。
ケーブルは雨ざらしでも問題ないですが、継続的に水に浸すことを前提として作られていません。 
シースに損傷がなければ内部に水は入らないと思われるかもしれませんが、長期間継続的に水に浸かっているとケーブルの高分子材料の分子の隙間を水分子が通り抜けて内部に水が透過することが考えられます。
内部に水が入ると遮へい銅テープの腐食などが進行し劣化が早く進行するため、日本電線工業会より雨ざらしの場合の寿命が15-20年程度と公表されていますが、例え水トリー現象が生じなくても、それよりもだいぶ早く寿命を迎える可能性があります。



低圧では水トリーに強いCVケーブルはない?

低圧ケーブルでも水トリーの心配はないのか?低圧のCVケーブルでもEEタイプは発売されていないのかと思われる方もいるかもしれませんが、水トリー現象は、基本的に高圧以上で確認されています。
低圧で使用する100Vや200V程度の電圧では、水トリーを起こすほどの威力はないと言われています。
そもそも、水トリーに強いEEタイプのCVケーブルは内部半導電層と外部半導電層を押出にしたものですが、低圧のCVケーブルには、それらの層自体が存在しません。ただ、水トリーの心配がないから水に浸かっていていいわけではありません。例えばケーブルに外傷がなかったとしても、長期の間、水に浸かっていると、分子の隙間を水分子が通り抜け、導体の腐食や絶縁体の性能を低下することが考えられるため、抵抗増加による発熱や絶縁破壊による地絡が生じる可能性があります。


以上です。

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