映画「1987、ある闘いの真実」と旧 南営洞対共分室 | あなたの知らない韓国 ー歴史、文化、旅ー

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韓国映画と民主主義

  昨年、 日本で公開された韓国映画、「タクシー運転手 約束は海を越えて」「1987、ある闘いの真実」は、ともに韓国民主化運動の原点というべき出来事を描いた映画ですが、皆さんご覧になられたでしょうか。素晴らしい映画で筆者などは両方とも3回以上は見ています。今でも名場面の数々が思い出されて、機会があればまた映画館で鑑賞したいと思っています。まだ見てない方には是非是非おすすめしたいです。


 
日本公開時のポスター
 
1987 韓国版ポスター
 
1987、ある闘いの真実 予告編

    さて、「タクシー運転手 約束は海を越えて」の舞台 光州については、すでにブログでお知らせしておりますが、参考になりましたでしょうか。今回は「1987、ある闘いの真実」の重要な舞台をご紹介したいとおもいます。ソウルにあるいわゆる南営洞 対共分室(当時)です。

 
旧 南営洞対共分室入口
 
 
 
映画と南営洞 対共分室
 
    映画では冒頭、ソウル大学生である朴鐘哲氏が取り調べ中拷問で死亡したとの衝撃的な場面からはじまります。当局はなんとか拷問死の事実を隠蔽しようとする一方、事実を明らかにしようと努力する検事や記者、そして民主化を求める人々の動きをスリリングに描いています。

    この学生が拷問死した現場が南営洞対共分室で、ソウル駅から歩いていけるくらいのところにあります。ソウル駅から地下鉄1号線の仁川や水原方面行きに乗ると次の駅、南営駅のすぐ東側にその忌まわしい場所があります。

  2005年から警察庁南営洞人権保護センターとして利用されていましたが、2018年12月に管轄が行政安全部に移管、将来は民主人権記念館に発展する予定とのことです。現在も権力による人権弾圧の悲劇を繰り返さない学習の場として一般に公開されています。映画でも重要なロケ地として登場しています。
 

独特の何とも言えない威圧的な雰囲気の建物ですね

  

 

 

対共分室の歴史と現在


  黒煉瓦造りで細長い窓がならぶ、非常に重苦しい外観の建物です。1979年に軍事独裁政権の象徴 朴正煕大統領が暗殺されると、民主化への期待が高まりますが、翌年、軍の司令官全斗煥がクーデターで実権を掌握し、民主化を求める学生や市民に対する弾圧、取り調べが一層強化されました。そこで民主化運動弾圧の拠点、治安本部 対共分室として利用されたのがこの建物でした。1976年に竣工したこの施設は、近代建築の巨匠で、風変わりな作品が多かった金壽根(1931〜1986)によるものですが、この建物についてはあまりにも評判が悪すぎて、本人は何も語らなかったそうです。

   この建物の内部で民主活動家に対する厳しい取り調べや拷問が行われ、身体的、精神的に異常をきたした方もあったようです。建物そのものが現代史の暗黒を象徴する存在でした。

 

 

「民主人権記念館予定地訪問を歓迎します」

 

 

現在の建物内部

1階
 1階は対共分室に関する資料室になっており、この施設が設立された経緯や取り調べの実態が明かされています。1985年には金槿泰氏(後、盧武鉉政権時代に保険副福祉部長:1947-2011)が拷問され、1987年には朴鐘哲氏が拷問で死亡するなどの、暗黒の歴史を紹介しています。金槿泰氏の拷問事件については、映画南営洞1985にも描かれており、象徴的な出来事になっています。

 

一階展示室

「誰もが拷問や残忍で非人道的な侮辱、刑罰を受けてはならない」

 

 

「国家暴力で点綴された南営洞対共分室が

 民主人権記念館に生まれ変わります」

 

「あらゆる人は誕生以来自由で、尊厳があり、平等だ」

 

 

 

1976年 対共分室竣工

 

1985 金槿泰氏拷問事件

 

1987年 朴鐘哲氏 拷問致死事件

 

 

4階
   さらに4階に行くと拷問死の犠牲者朴鐘哲記念展示室になっています。彼の人柄や生前の功績、事件の経緯のみならず、悲劇を生んだ事件当時の社会の様相などのも扱われておりもあり、事件に対する、理解を深めることができます。若くして権力に殺された彼の気持ちを思うといたたまれないものがあります。

朴鐘哲記念展示室

 

当時の社会相

 

展示室風景

 

 

 

5階
   5階に行くと廊下の両側に取り調べ室が並んでいますが、互いに廊下の向こうの部屋の様子が見えないように互い違いに入口が並んでいます。朴鐘哲氏が拷問で死んだ部屋は廊下の奥の方にあり、追悼の空間として、復元公開されています。数多くの人が追悼に来られるようで、希望すれば案内員による解説も受けられるようです。こんなところで有意な若者が殺されたことに慄然とするとともに、言い知れない悲しい気分になりました。

 

 また5階には金槿泰氏関連の資料室もあります。ここには彼が収監中、読んでいた詩集なども展示されています。拷問により身体の痛みや頭痛が激しく、本を読むこともつらい時でも、芸術の言語である詩を読むことで回復を願っていたそうです。

 

5階 両側に並ぶ取調室

 

拷問致死事件のあった取調室

 

金槿泰氏関連展示室入口

 

資料室の趣意書

 

 

壁には金槿泰氏が収監中読んだ詩集などが

 

資料室風景

 

 

一階から5階への螺旋階段
   取り調べの対象者は一階から目隠しをされて屋内の螺旋階段を登り、5階の取り調べ室に連行されたようです。私も目をつぶり、手すりをさぐりながら螺旋階段で5階まで登りましたが、どこにいるのか分からず不安な気持ちになりました。実際にここに連行された方々は、言い知れぬ不安に包まれたと思います。

 

感覚をマヒさせる螺旋階段
 
 
そして未来へ
 
   血塗られた歴史の建物ですが、今後事件の真相を伝え、韓国における民主主義を考える場としてもっと活用されればいいと思います。

    映画公開後、観覧者が増えていると聞きます。また日本から観光に行かれる方も是非ここに立ち寄って韓国民主化運動の原点に対する理解を深めていただくことを願っています。
   

朴鐘哲記念展示室
ソウル特別市龍山区漢江大路71ギル
(地下鉄1号線 南営駅東側)
 
 

 

 

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追記;ソウル関係の記事には以下のものもあります。ご覧いただければ幸いです。