本が無事出ました!書店にも置いてあります。ぜひお手に取ってみてください。
さて、今日は溶解度について。苦手な子が多いです。
一方保護者の方は
「読めば書いてあるのに何で出来ないの!?」という方も多いです。
溶解度の難しさを考えてみます。
①原理の理解が難しい
②文が読めない
③状況が把握できない
④計算値が複雑になるため、計算が合わない
⑤グラフが読めない
①原理が難しい
これはかなり個人差があります。
まず、溶解度とは水100gに溶ける物質の重さです。温度によって決まっています。
温度によって水にとける固体の量が変わるので、高温の水に溶けていたホウ酸が、水温を下げると溶けきれなくなって出てくるのですが、これがイメージできずに苦労する子がいます。
学力がそのまま反映するわけでもありません。同じくらいの成績の子でも
「当たり前じゃん」という子もいれば
「難しい…」という子もいます。
溶解度を説明するために中学の教科書では、イス取りゲームで説明されていました。
水温が高いと溶かすことのできる量が多い(イスが多い)のでたくさん座れますが、
水温が低いとイスが減るので座れない子が出てくる…これが溶けきれなくなって出てきた固体です。
…といった具合です。
分かりにくいことを例え話で説明するのは、授業の現場ではよくあることですが、教科書にも載るのか!
そのくらい、理解に苦戦する子が多いのでしょう。
原因は「見えない」ことが大きいかと思います。
水に何かが溶けていても見えません。見えないものを想像するのは大変です。
イメージがつくまで、イスの図を描いてもいいでしょう。
また、実体験も重要です。
紅茶などに砂糖を溶けきれなくなるまで入れるとか、味噌汁が煮詰まると濃くなってしょっぱいとか、出来れば受験勉強に入る前の低学年までに体験して、水の中に何かが溶けているイメージをつけておきたいところです。
共働きで忙しいご家庭も多いことと思いますが、夏休みの自由研究に水溶液の実験などもよいかと思います。
②文が読めない
問題文が長くなると読めなくなる子は多いです。また、読み飛ばしをしたり、思い込みをしながら読んだりするので、問題の条件や問いが把握できていなかったりします。
このタイプは保護者の方が読むと解けます。文が読める人が読むと正しいところで切ったり、正しい抑揚で読むので分かるのですが、一人では読めないので解けない、という状況です。
一緒に読みながら読み取る練習をしたり、一人で読み取る練習もしてみてください。
上下の文が混じる子も多いので、紙やノートの端などで隠して、1行ずつ読むのと有効な場合があります。
溶解度の問題を読む際に重要なところは後述します。
③状況が把握できない
溶解度の問題は実験操作が複雑で、何が起こっているのか、何g溶けていて何g溶け残っているのかゴチャゴチャしてしまうことがあります。
本来はこれが溶解度の難しさの本質です。これに関しては、整理のしかたを覚えればいいので簡単です。
整理のしかたは後述します。
④計算が合わない
溶解度単元で登場する濃度計算や、溶けきれずに出てきた固体の重さを求める計算は、数値が複雑で、割り切れないことが多いです。
計算処理が弱い子は、異常に時間がかかった上に答えの値が合わなかったりして、心が折れたりします。
対策としては、なるべくラクな計算法(解法知識)を覚えることと、出来るだけ広いところで計算することです。
⑤グラフが読めない
表で数値が示されれば解けるけれども、グラフになると苦戦…という子もいます。
この場合は読み方を覚えてもらい、練習するのがよいでしょう。
横軸の温度から上にたどり、グラフの線とぶつかったところで左にいき、値を読み取る、という基本の読み方とともに
一回グラフを自分で描いて、温度が上がると溶ける量が変化しているのを感じるとさらによいでしょう。
さて、難しさの要因と対策を確認しながら演習に入ります。
問題番号とのセリフの横に引っかかる要因を示してあります
問題9以外は下の表を使って計算します。
問題1
80℃100gの水にホウ酸をとけるだけ溶かした後、20℃に冷やしました。溶けきれずに出てくるホウ酸は何gですか。
この問題はほぼ全員解けます。
24ー5=19g
ただ、意味がよく分からないまま解いている子も多いのです。
次の問題で確認しましょう。
問題2(①②③)
80℃の水100gにホウ酸を20g溶かした後、20℃に冷やしました。溶けきれずに出てくるホウ酸は何gですか。
模範的な解答は
80℃ 水100g ホ20gとかした
20℃ 水100g ホ5gまでとける
20ー5=15g
です。
ただ、ここで
80℃のところの値を見て→24g
24ー20=4gという計算をする子がたくさんいます。
24gは80℃の水100gにホウ酸が24gまで溶ける、という意味なので
4gはあと4g溶かすことができる(イスが4g分余っている)という状況ですが、溶けているのは20gです。
24gは確認のために見てもいいですが、使わない値なのです。
①「でも、80℃って書いてあるから見たくなる」
そうですよね。
整理のしかたを知ってもらいます。
まず、水の温度と水の重さ、ホウ酸の重さをかきます。
80℃ 水100g ホ24gまでとける
20gとかした
20℃ 水100g ホ5gまでとける
「までとける」と「とかした」を書いたのがポイントです。
これを見比べると、実際に溶けているのは20gであることが分かりやすくなるのではないでしょうか?
※ここで「とける」をひらがなで書いているのは実際に書くときにラクにするためです。
問題3(①)
80℃の水200gにホウ酸を溶けるだけ溶かした後、40℃に冷やすと溶けきれなくなった固体が出てきました。固体の重さは何gですか。
80℃ 水200g ホ24×2=48gまでとける
40℃ 水200g ホ9×2=18gまでとける
48-8=30g これでOKです。
水が200gなので、表の値(水100g)の2倍溶けます。
溶ける量は水の重さに比例することは大丈夫ですね?
ただ、温度には比例しません。表を見ても、温度が2倍になったときに溶ける量が2倍になったりしていませんね。
温度が変わったら、表やグラフを見ましょう!
問題4(③)
100℃の水300gにホウ酸を溶けるだけ溶かした後、水を100g蒸発させ、20℃に冷やすと溶けきれずに固体が出てきました。出てきた固体は何gですか。
③「ややこしい…」
整理しましょう!
100℃ 水300g ホ38×3=114gまでとける
20℃ 水200g ホ5×2=10gまでとける
114-10=104g
です。
「え?これだけ?水を蒸発させたことは書かないの?」
書かなくてよいです。書くのははじめと最後だけでOK!途中のことは必要ないので書きません。
溶ける量は水の温度と水の重さで決まるので、それをしっかり確認するのがポイントです。
次に、水の重さがかくされるパターンに登場してもらいます。
問題5(②③④)
20%のホウ酸水溶液が100gあります。これを20℃に冷やすと溶けきれずに固体が出てきました。出てきた固体は何gですか。
③「はじめの温度が書いてない…」
そうですね。分からないので書かなくてよいです。
?℃ 水…何gでしょう?
②「100gじゃないの?」
引っかかりましたね。100gなのは水ではありません!
「ホウ酸水溶液って書いてあった!」
そうです。まずホウ酸を出してしまいましょう。
100×0.2=20gです。
そして水は
100-20=80gと出ます。このように水の重さがかくされます。
水の重さが出れば、あとは簡単!
?℃ 水80g ホ20gとけている
20℃ 水80g ホ5×0.8=4gまでとける
20ー4=16g
となります。
ここで、水が80gになったとき、0.8倍(4/5倍)がすぐには出ない子もいます。(要因④)
その場合は水100gの行を入れましょう。
問題6(②③)
60℃のホウ酸飽和水溶液が230gあります。これを40℃に冷やすと溶けきれずに固体が出てきました。出てきた固体は何gですか。
②「できるよ!! 60℃ 水230g ホ24×2.3=…」
カエルくん、230gの前が読めるかな?
「あ…水の重さじゃなかった」
そうです。問題文で重要なのは数値とその前後です。
230gが何の値なのかしっかり読み取りましょう。
ホウ酸飽和水溶液、水とホウ酸の合計の重さが230gなのです。
③「そうしたら、水の重さが分からない」
そうなんです。仕方ないので水が100gの場合を書いてみましょう。飽和水溶液なので溶けるだけ溶けています。
60℃ 水100g ホ15g 全体115g
60℃ 水?g ホ?g 全体230g
「2倍だ!」
そうなんです。ということは、水もホウ酸も2倍ですね。
60℃ 水200g ホ30g
40℃ 水200g ホ9×2=18gまでとける
30-18=12g
でした。こんな形で水の重さがかくされるパターンもあります。
問題7(①②④)
80℃の水200gにホウ酸を50g加えました。このときの水溶液の重さは何gですか。
また、この水溶液の濃度を求めなさい。
割り切れないときは小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めなさい。
②「50÷250じゃないの?」
違うんです。よく見て!ホウ酸を「溶かした」ではなく「加えた」って書いてあるんです。
整理してみましょう。
80℃ 水200g ホ24×2=48gまでとける
50g加えた
ということは、溶けたのは…48gですね。
よって、水溶液の重さは200+48=248g です。
そして濃度は
①「48÷200で24%?」
違います。濃度=溶けている物質の重さ÷水溶液の重さ です!
「48÷248=0.19…だから四捨五入して20%!」
あ、違います!小数第2位を四捨五入というのは%にしたときの小数第2位のこと、つまり割り算では小数第4位のことです。
「えー!そこまでするの!?」
48÷248=0.1935…=19.35%→19.4%
でした。
問題8(④)
80℃の水312gにホウ酸を溶けるだけ溶かして飽和水溶液を作りました。この水溶液の濃度を求めなさい。
割り切れないときは小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めなさい。
80℃ 水312g ホ24×3.12…
とやらなくていいです。
水の量が変わっても、水と溶ける量の比は変わらないので、水100gで計算すればよいのです。
80℃ 水100g ホ24g 水溶液124g
濃度は、24÷124=0.1935…→19.4%
「あ!問題7と同じ!」
そうです。問題7も80℃の飽和水溶液でしたから。
「さっきも水100gで解けばよかったのかー!早く言ってよー」
飽和水溶液の濃度を計算するときの解法知識でした。
ここで溶解度の問題を読むときに重要な場所をまとめます。
・温度
・水の重さ
・水溶液の重さ
温度は分かりやすいですが、重さは水の重さなのか水溶液全体の重さなのか確認しましょう!
・ホウ酸や食塩を「どうした」の部分
○gのホウ酸を「溶かした」→溶けたホウ酸は○g
○gのホウ酸を「加えた」→すべて溶けたか計算して確認する
ホウ酸を「溶けるだけ溶かした」→温度と水の重さから計算する
問題9(⑤)
60℃の水50gにホウ酸を2.5g溶かしました。この水溶液を冷やしていくと、ある温度で溶けきれなくなったホウ酸の結晶が出始めました。このときの温度は何℃ですか。
「40℃だと、9gまで…これは水100gのときだから、半分の4.5gまで溶ける
20℃だと、5÷2=2.5g…20℃!」
正解!ですがもう少し要領のよい解き方があります。
60℃ 水50g ホ2.5gとけている
このままだとグラフが使いにくいです。グラフは水100gに溶ける量を示しています。
「水100g ホウ酸5g溶けているのと同じだから、5gのところを読めばいいじゃん」
そうです。水100gに何g溶けているのと同じ、と考えるとグラフがそのまま使えるのです。
5gのところをたどって…
20℃ です。
問題10(②③④) 典型的な応用問題の解法知識
60℃のホウ酸飽和水溶液100gを20℃に冷やすと溶けきれずに固体が出てきました。出てきた固体は何gですか。
割り切れないときは小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めなさい。
「水が100gじゃないことには気づいてるよ!」
そうです!問題6に似ていますね。
60℃ 水100g ホ15g 全体115g
60℃ 水?g ホ?g 全体100g
100/115倍…20/23倍です。これを解くと…
こんな感じです。大変ですね。
また、このように解く場合は途中の値を四捨五入してはいけません。
途中で四捨五入をしてしまうと、最終的な答えの値がずれることがあるので、途中までは分数で計算し、最後に四捨五入しましょう。
ここで解法知識!!
水100gでいったん出てくる結晶の値を求めてしまいましょう。
そして飽和水溶液の値が何倍なのか?で求めます。
60℃ 水100g ホ15g 全体115g
20℃ 水100g ホ5g
15ー5=10g
これは60℃の飽和水溶液が115gのときの値です。
今回は60℃の飽和水溶液が100gなので
10×100/115=8.69…→8.7g となります。
「やっぱり計算大変じゃん」
そうなんです。大変な計算の回数が減る、という解法知識です。
「難しい…」
はい。サピックスのテストに毎年何回か出ますが、正答率は低めです。
考え方が難しい+計算も大変なため、ハードルが高い問題です。
ちなみにこの問題は高校の化学(「化学基礎」ではなく「化学」の範囲)でも登場し、その場合はこの考え方が公式化されています。
高校生が公式に当てはめる形で解いているものを小学生は理屈で解くのです。すごいですね。
問題11 典型的な応用問題の解法知識
60℃のホウ酸飽和水溶液200gを加熱して水を50g蒸発させ、60℃に戻しました。溶けきれずに出てきた固体は何gですか。
60℃ 水?g ホウ酸?g 全体200g…と整理する必要はありません。
水50gが蒸発したので、この50gの水が担当して溶かしていたホウ酸が溶けきれなくなって出てくるのです。
60℃ 水100g ホ15g
60℃ 水50g ホ□g
15÷2=7.5g です!
「え?200gは?」
使いません!
「だましたー!」
ひらめく子もいますが、知識として持っていた方がよいでしょう。
ただこれは、飽和水溶液で、温度が変わらないときの解法です。
飽和していない水溶液では水が少し蒸発しても固体は出てこないですし、温度が変わっても使えません。